第四話:ティアナ
※ティアナ視点
この街の冒険者ギルドは、出来てから日が浅い。
ティアナの父親が新任ギルドマスターとして作ったのが、今からおよそ30年前。
街が小さいということもあるが、出来てから日が浅いギルドは大抵の場合規模が小さい。
それは、このギルドも同様であった。
「お父さーん、頼むたいことがあるんだけどー」
冒険者ギルドの建物は、冒険者との受付をする場所とは別にギルドマスターや職員の部屋が存在した。
ティアナはギルドマスター室をノックすることもなく開ける。
中に居たのは、壮年の男性。
ティアナの父で、ギルドマスターのランソール。
彼は、入ってきたティアナを見てため息をつく。
「……ティアナ、ギルドではマスターと呼べとあれほど言っておるじゃろう」
「そうは言っても、このギルドは私とお父さん、それと2人しか職員居ないじゃない。そんな威厳とか気にしてもしょうがなくない?」
規模が小さければ、雇っている人が少ないのも当然。
たった4人だが、それで充分すぎるほど手が足りていた。
「だとしても、じゃ。公私混同はするべきじゃない。……ッ痛つつ」
「大丈夫?」
立ち上がろうとしてうめき声をあげたランソールに、ティアナは心配そうに近づく。
だがランソールは右手を上げて大丈夫だと意思表示をした。
「なあに、腰が痛いのなんぞもう慣れたわい。そんな気にせんでも良い」
気丈に振る舞うランソールに対し、ティアナは心配した顔をする。
「取り返しが付かなくなっても知らないわよ? むしろ、この機会にギルドマスター引退したら? 私、もう充分お父さんの代わりが出来ると思うけど」
「…………いや、ワシはまだまだ現役じゃ。こんな腰痛ごとき、屁でもないわ」
ランソールが強く言い返さないのは、彼もまた自分の限界を感じてきているから。
年は50過ぎだが、身体のあちこちに無理が出てきている事実がある。
そして、ティアナはそれを誰よりも分かっていた。
「嘘は駄目よ。私には、嘘を見破るスキルがあるんだから」
「……そうじゃったな」
スキルは、この世界の誰しもが持っている。
ティアナが持っているのは、対象の相手が嘘を付いているかどうかを看過するスキル。
ギルドの受付としてはこれ以上無いほどのスキルであり、ヨハンの言うことを簡単に信じたのも、このスキルがあってこそだった。
ただし、あくまでも嘘かどうかを判定するだけであり、本心まで見通すことは出来ない。
「……もしかして、まだ夢に未練があるの?」
「当然じゃろう。そのギルド出身の高ランク冒険者を出すのは、ギルドマスター全員の夢じゃ」
「……ま、分からなくはないけど」
冒険者が高ランクを夢見て冒険をするのと同じように、ギルドマスターは高ランク冒険者を輩出するのを夢見る。
しかし残念なことに、ここは弱小ギルド。
大抵がDランク止まりの冒険者ばかりで、30年間のなかで一番高かった冒険者でBランク。
FからSまであるランクの中では、決して高ランクとは言えないものであった。
「そんなことより、頼みたいと言っておったが何の話じゃ?」
「お父さん、他のギルド職員に知り合いたくさんいるでしょ?」
そうだった、とティアナは要件を伝える。
「うむ。ワシも伊達に年は食っておらん。知り合いなら両手で数えられないほどおるわい」
誇らしげに胸を張るランソール。
「その人たちにも掛け合って、調べてほしいことがあるの」
「別に構わぬが、何を調べるんじゃ?」
「レベルって言葉とステータスって言葉。あと、経験値って言葉も調べてほしいわ」
ティアナは、ヨハンから聞いた言葉を伝える。
もちろん、ランソールもその言葉を知らないようで首を傾げた。
「……? なんじゃ、その言葉は。他のギルドに掛け合ってまで、調べることなのか?」
タダじゃないんじゃぞ、とランソールは顔をしかめる。
「ええ、もしかしたらうちのギルドから輩出できるかもよ? Aランク冒険者……、いや、Sランク冒険者が」
その言葉に、ぽかんと口を開けるランソール。
ティアナはそんな父親の姿を見て、ニヤリと笑った。