第二十話:教会
※ヨハン視点
昇格試験後、俺たちは都市での依頼を適度にこなしながら馬車を待った。
都会での暮らしというのは俺の想像の数倍金がかかるもので、気づけば一瞬で資金が尽たために働かねばいけなかったのだ。
リーゼロッテは同じパーティーなのだからと工面してくれそうになったが、年下の人間に生活費の世話をされるのは気後れするので断った。
3日ほど依頼をこなし続けるのは当然疲れたが、魔物討伐を積極的に行った結果、レベルが6から8に上昇した。
試験に受かるために消費したポイントを、全て回収できた計算だ。
そしてポイント的にも資産的にも黒字になった俺は、リーゼロッテと共にバナ街に戻ってきていた。
「久しぶりの地元だ……」
「まだ馬車は慣れないみたいだね」
グロッキー状態になっている俺を見て、リーゼロッテは笑う。
「正直、走ったほうが速いのもあって恩恵が感じづらくてな……」
もちろん荷物を運ぶことを考えれば走るのは非現実的な話なのだが。
ただ行きよりは幾分か楽になった……かもしれない。
そんな無駄話をしながら、俺たちはギルドへと向かう。
建物の扉を開けると、受付に居たティアナと真っ先に目があった。
「おかえり、ヨハンさん。Cランクになったって聞いたわよ」
「おかげさまでな」
どうしてそんな早く知っているのかは知らないが、きっとギルド同士の情報は独自の方法で共有されているんだろう。
「その調子で活躍してくれると、このギルドも助かるわ」
今までに見たことのないほどの笑顔のティアナ。
――と、ギルドの扉が大きな音を立てて開け放たれる。
「よーう。此処がバナ街の冒険者ギルドか?」
入ってきたのは、修道服に身を包んだ青髪の女性。
「……シスター?」
疑問形なのは、その外見があまりにも知っているシスターとは似ていなかったから。
口にはタバコを加えており、その両目は釣り上がっている。
そしてなにより、背中には等身大の大鎌を携えていたからだ。
「……教会の人間が何の用事かしら?」
ティアナも一瞬驚いたようだが、すぐに営業モードへと切り替わる。
「あ? ギルドってのはどんな人間にでも門戸を開いてるもんだろ?」
「お客様ならね」
教会とギルドは、あまり密接な関係にない。
冒険者でありながら協会に属する人間は居ないし、修道者でありながらギルドに属する人間も居ない。
仲が悪いというわけではないが、良いというわけでもなかった。
「あー、先に自己紹介をしておくか。アタシはイングリット。見たとおりシスターだ。……単刀直入に聞く。レベルとステータスって言葉を調べさせてる人間はどいつだ?」
「「!?」」
その言葉に、俺とティアナは目を丸くする。
……今、レベルとステータスと言ったか?
どうして、その言葉をイングリットという女性が知っている?
「……何の話かしら?」
「おーおー、しらばっくれんなや。調べは付いてるんだからな」
確信を持った表情のイングリット。
「……調べていたとして、なにか問題でも? 今すぐ調べるのを取り下げろってこと?」
「それは、もうお師匠……司教様が手回しして、調べられないようにしてるから心配すんな」
「なっ……!」
ティアナは声を上げて絶句する。
手回しして、とオブラートに包まれてはいるが、結局の所それは教会からの圧力がかかったということ。
つまりは、そこまでして調べられては困るということだった。
「その上で此処にわざわざ来たのは、誰がレベルって言葉を言い出したのかってのを調べるためだ」
「……知ってどうするの?」
「………どうしようかね。司教様からは『監視してろ』としか言われてねえからなあ。まあ、特に何かをするつもりはねえよ」
「なにそれ。そんなのを信用しろって言うの?」
当然の疑問だ。
そんな事言われてすぐに、はいそうですか、となるわけがない。
「てめえなら、アタシの言ってることが真実だって分かるだろ? そういうスキル持ってんだからさ」
「!」
イングリットの言葉に、ティアナは眉をひそめる。
「誤魔化しても無駄だぜ。アタシのスキルは、そういうのが分かるんだ。だからこそ、調査に駆り出されたんだけどな」
「ねえ、キミ。ボクには全く現状が理解できないんだけど、説明してくれないかな?」
会話の中で放置されていたリーゼロッテは、空気を読まずに会話に割って入ってくる。
「ん? よく見たら、なんでBランクの人間がこんな田舎にいやがるんだ?」
「質問に質問で返すのは感心しないね」
そりゃ失礼、とイングリットは肩をすくめる。
「さっき言ったとおり、アタシはレベルって言葉を調べようとしてる人間を探しに来たんだ。てめぇ、知ってるか?」
「残念だけど知らないね。それは重要な言葉なのかい?」
「上が言うには、教会が管理すべき大事な概念らしいが……、アタシは詳しく知らねえ。そこまで興味もないしな」
本当に興味のなさそうなイングリットの口調。
先程の言葉から類推するに、彼女は上から命令を受けて従っているだけの存在ということなのだろうか?
「……もし、知ってると言ったら?」
俺は、そう切り出す。
「そりゃ教えてほしいな。アタシの仕事が楽になる。勿論、タダで教えろとは言わねえ。それなりの礼をするさ」
「本心みたいね……」
ティアナは、そう呟いて俺に教えてくれる。
……さて、どうしたものか。
此処で隠したところで、なんとなくだがすぐにバレそうな気もする。
何より、彼女は俺が全ての原因だと知っても、監視をするだけと言った。
ならば確かに、ばらしたところで何も問題がない気はする。
「なら、交換だ。教える代わりに、お前が『レベル』と『ステータス』に関して知っている情報が欲しい」
「? それぐらいなら別に構わねえぞ」
「……こっちから切り出しておいてなんだが、良いのか?」
断られる前提だったゆえに、俺は拍子抜けしたように驚く。
てっきり、機密事項だからと袖にされると思っていた。
「アタシが知ってることなんてたかが知れてるからな。別に問題はねえよ」
俺がティアナの方を見ると、彼女はコクリとうなずく。
彼女がどういったスキルなのかは詳しく知らないが、いまイングリットが真実を言っているのは確かなようだった。
……ならば、もう隠しても意味はないか。
「分かった。俺が持ってる情報を提供する」
そう言って俺は、ここ数週間で得た情報と現在の状況の説明を始めた。




