第十八話:Cランク昇格試験③
最終試合に勝利した俺は、再び待機室に集められる。
周りには、おそらく俺と同じく勝ち進んだのであろう人間たちが合計6人。
3試合行ったので、人数は8分の1にまで減っていた。
「3試合全て勝利された受験生の皆様、お疲れさまです。これより、Cランク冒険者との試合に入らせていただきます」
ギルド職員は俺たち全員の顔を確認すると、説明に入る。
当初聞かされていた通りの進行だ。
「今回試験官を務めていただくのは、バルトロメウスCランク冒険者になります」
その言葉とともに、部屋に眼鏡をかけた茶髪の男が入ってくる。
糸目が印象的で、非常に紳士的な服装をしていた。
「初めまして皆さん。今回試験官をさせていただくバルトロメウスです」
バルトロメウスがそう言って挨拶をすると、部屋にいた他の受験者たちがざわつき出す。
「嘘……、バルトロメウスさんが試験官!?」
「今回、合格者出さない気かよ……」
「終わった……」
そんな意気消沈した声ばかりが聴こえてくる。
「おい、あの人は有名な誰かなのか?」
俺は近くに居た男に話しかけると、そいつは怪訝な顔をして答える。
「お前バルトロメウス冒険者を知らないのかよ」
「田舎から出たことがない人間だからな」
ああ、そういうことかと男はうなずく。
「この都市で活躍している、Cランク冒険者の中でも有名な冒険者だ」
「は? 普通こういうのって一番弱い冒険者を連れてくるもんじゃないのか?」
「だからみんな驚いてるんだよ」
男の説明に、俺は納得する。
そんな俺たちの反応を受けてか、バルトロメウスはにこやかに笑う。
「皆さん、心配なさらずとも大丈夫です。僕に勝たなくても、僕が認めればそれで合格ですので。ああ、勿論倒していただいても構いませんよ?」
そんなの出来るかよ、と隣の男はぼやく。
俺としても、Cランク冒険者に勝てるとは思っていない。
ただ、彼が俺たち7人全員と戦うのであろうことは相当我々の利点だろう。
体力に関してもそうだが、先に戦っている姿を見て、どんなスキルを持ってどんな戦い方をするのか分析ができる。
そんな事を考えていると、ギルド職員は書類のようなものを読み上げた。
「では、まず最初に戦っていただくのはヨハン冒険者になります」
……まじかよ。
俺は天を仰ぐようにして頭を抱えた。
試合場に上ると、先程よりも観客席が埋まっているのが確認できる。
Cランク冒険者との試合故に、注目度が上がってきたのだろうか。
辺りをチラチラと見ていた俺に、バルトロメウスは微笑みかけてくる。
「先程の戦い、勝手ながら見させて頂いてました。速さを活かした戦い方、実に見事でした」
「そりゃどうも……。片方だけ相手の手の内を知ってるのは不公平だから、そっちのも教えてくれないか?」
「すぐに分かりますよ」
バルトロメウスはそう言うだけで、懐からナイフのようなものを取り出す。
俺のナイフに比べても刃渡りは更に短い。
「Cランク昇格試験、開始して下さい」
いつもの審判員による掛け声。
俺は、まず様子見をしようと後ろへ下がる。
速さに自信のある俺にとって、それは最善のはず――だった。
「なっ……!?」
下がった俺を、バルトロメウスはなんなく追いかけてくる。
俺はすぐさま全力で逃げるが、バルトロメウスはそれすらも当然のように追いついてきた。
……これは不味い。
色々な相手と戦ってきたが、単純に“自分よりも速い”相手と戦うのは初めてだ。
もし相性があるのだとしたら、バルトロメウスは最も戦いづらい相手。
「速さを攻撃に乗せる戦い方、実に自分を見ているようでしたよ」
「なら、多少手加減をしてほしいな……!」
「そういうわけにも行きません」
仮に相手が強力な攻撃を持っているのであれば、当たらないように気をつければいい。
鉄のような硬さでも、工夫することは幾らでもある。
だが、こちらの唯一の武器である速さが自分よりも上だった場合、俺に対応する術はなかった。
それでも何かしらの弱点があるんじゃないかと、ナイフを操りながら必死に逃げる。
しかしバルトロメウスはそれを嘲笑うかのように、全てにおいて俺の上を行き続けた。
「降参して下さい。今回は運が悪かったですが、貴方なら次回受ければ合格できますよ」
いつの間にか背後を取られた俺は、肩越しに降伏勧告を受ける。
そうしたいのは山々なんだがな……。
俺は、振り返らずに質問をする。
「なあ、あんた50メートルは何秒ぐらいだ?」
「? 計測したことは有りませんが、2秒ぐらいかと」
「そりゃ良かった。なら、俺にもどうにかなりそうだ」
今の俺はだいたい3.5秒。
単純計算に意味はないかも知れないが、俺の2倍以上速いわけではなさそうだ。
――ならば、勝てる。
「移動速度に10振ってくれ」
『命令を確認。移動速度に10ポイントを振り分けます。移動速度が10から20に上昇しました』
瞬間、俺の身体を白い光が覆う。
「何です、この光は……?」
バルトロメウスはそれを警戒するように、俺から離れた。
危なかった。
もし負けがあるとすれば、今の状態から有無を言わさず攻撃されることだけ。
だが、もう俺と彼の間には2メートルほどの距離ができている。
俺はそれをつめるために全速力で飛びかかる。
バルトロメウスはすぐに回避に移るが、俺のナイフが彼の皮膚を切り裂いた。
「なっ……、この速さは……!」
「悪いな。もう、俺のほうが速い」
俺のステータスは、もう先程のちょうど2倍。
である以上、速さ出遅れを取ることは無かった。
「くっ……!」
さっきまでとは逆に、バルトロメウスが逃げて俺がそれを追う展開。
だが速度で勝っている俺が圧倒的な有利。
それは嫌というほど実感したから分かる。
「降参してくれるか?」
気づけば、今度は俺がバルトロメウスの背後を取っていた。
手に持ったナイフを首に押し付け、降伏勧告を行う。
すると、諦めたかのような声が聞こえた。
「……はい。私の負けです」
それは、紛れもなく降参の声。
「よ、ヨハン選手の勝利です!」
思いも寄らない展開だったのか、驚くような審判員の声。
そして、それを聞いた観客はしばしの沈黙の後に大きな喝采を上げたのだった。




