第十四話:都市ナチリフ
※ヨハン視点
シェフィを助けた翌日、俺たちは朝早く起きて準備をしていた。
リーゼロッテから聞くには、シェフィはすぐに目を覚まして体長は良好とのことらしい。
助けたのに後遺症があったとなったら後味が悪いので、幸運だった。
「……まったく、疲れたな」
「看病をボクに押し付けておいてよく言うよ」
ぼやく俺の隣で、リーゼロッテは口を尖らせる。
「それは悪かった。治癒魔法を使えるのはお前だけだったからな」
それについては本当に感謝していた。
正直言って、助けはしたがシェフィとは顔を合わせたくない。
その気持ちを彼女も理解してくれたのか、見送りにくるということも無かった。
かつてのパーティーメンバーに出会ったら『許す』か『復讐する』かの二択だと思っていたが、『許さないで継続』という第三の選択肢があったらしい。
そんなことを考えていると、馬の御者が準備を終えたようで、俺たちを呼びに来る。
「お二人さん、出発しますよ。今日中に峠を超えますんで、少しばかり大変な一日になるので覚悟しておいて下さい」
その翌日の昼。
俺たちは無事大都市ナチリフに到着していた。
非常に活気に溢れた街で、俺たち以外にも馬車が行き交っている。
誰も彼もが、陽気な顔で通りを歩いていた。
――俺を除いて。
「……もう、二度と馬車には乗りたくないな」
長時間馬車に揺られ続けたせいで、俺は全ての気力を失っていた。
御者の言っていた『覚悟しておいて下さい』が、本当に覚悟が必要だとは思わなかった。
そんな俺を見て、リーゼロッテは肩をすくめる。
「残念だけど帰りも乗るよ。体力が足りてないんじゃない?」
「何度か、体力にステータスを振ろうか悩んだ……」
結局、すんでのところで堪えた。
もしあと3時間ぐらい移動が長かったら、今頃ステータスポイントの何ポイントかが体力に振られていただろう。
「何の話?」
「こっちの話だ」
俺はそう言って、辺りをざっと見渡す。
「しかし、大都市だけあって本当に人が多いな。祭りでもやってるのか?」
目抜き通りは、歩いている人同士の肩がぶつかるレベル。
元いた街では祭りがあったとしても、ここまで混むことはあり得なかった。
「いつもどおりの街並みだよ。あんまりキョロキョロしていると田舎者丸出しだからやめてくれないかな?」
「実際田舎者なんだから仕方ないだろ」
こんな人のいる場所に来たのは初めてなのは事実だった。
リーゼロッテは、そんな俺を率いて歩き出す。
「とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」
「その前に軽く腹ごしらえをしたいんだが」
「うん、だから冒険者ギルドが丁度いいよ」
何を言ってるんだ?
そう思いながらも、俺は彼女の後ろを付いていった。
「驚いたな、都会のギルドは酒場も併設しているのか」
冒険者ギルドに入って、まずその喧騒に驚く。
多種多様な人間が、酒を片手に昼間から大騒ぎをしている。
社会落伍者の集まりか何かか……?
ちなみにだが、バナ街は当然酒場とギルドは併設されていない。
冒険者の絶対数が少なすぎるので、そんなことをしても絶対に採算が取れないからだ。
「先にCランク昇格試験の申込みだけしてしまおうか」
リーゼロッテは俺を引き連れ、まっすぐカウンターへ向かう。
流石は都会だけあってか、受付だけで5つもあった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の職員は、まさに職員と言った感じのキチッとした身なり。
ティアナには申し訳ないが、らしさで言えば天と地ほどの差がある。
「Cランク昇格試験を受けたい」
「では、ギルドカードをお預かりさせて頂けますでしょうか?」
おれがギルドカードを渡すと、彼女は慣れた手付きで魔法陣にかざす。
だが、すぐに表情が曇った。
「確かにDランクですが……、スキルが無し……?」
ギルドカードにはスキルの欄が存在し、職員はそれを把握することが出来る。
当然だが、俺はスキルを持っていないので、その欄は空白だ。
「え、ヨハン本当にスキル無かったの?」
「前に言っただろ。スキルは無くて脚がちょっと速いだけだって」
「……いや、スキルなしであの魔法防御力はあり得なくない?」
「あり得てるんだからしょうがない」
この長旅の間でステータスとレベルについて説明しようと思っていたのだが、それどころでは無かったのだ。
そんな俺たちの声は聞こえていないのか、受付の職員は呆れたような顔で俺のことを見る。
「……はあ、居るんですよね、こういう冒険者。地方ギルドが適当にランクを上げて、その結果勘違いしたCランク昇格試験を受けに来るっていう」
「聞こえてるぞ」
そういう嫌味は聞こえないように言ってほしい。
いや、そう言いたくなる気持ちは分かるんだけれど。
「聞こえるように言ったんです。本当に受けるんですか? 試験で怪我しても治療費は自己負担ですよ?」
「それ以上のヨハンへの侮辱は、同じパーティーであるボクへの侮辱と取るよ」
すると、黙っていた俺ではなくリーゼロッテが反論を行う。
職員はその返事が想定外だったのか、慌てたような表情で頭を下げた。
「こ、これは失礼しました。……リーゼロッテさんの推薦があるんでしたら、まあ……」
「お前有名なの?」
「当然だ。ボクは最もAランクに近い実力を持っていると言われているんだよ?」
へえ、とうなずく。
……きっと、実力は充分なのに他が駄目でAランクになれないんだというのを遠回しに言われてるのだろう。
駄目だ、最近はリーゼロッテが凄い健気で可哀相な人間に見えてきてしまっている。
「……で、昇格試験の方は申し込めたのか?」
「はい。完了しました。詳しい説明は、試験当日に発表させていただきますので、当日はどうぞよろしくおねがいします」
職員はすっかり営業モードに戻ったようで、深く頭を下げてくる。
試験は3日後。どんな試験内容かはわからないが、しっかり準備をするに越したことはないだろう。




