第十話:パーティー
デュラハンの討伐の翌日。
冒険者ギルドにて、俺とリーゼロッテはお茶を飲んでいた。
なお、お茶はティアナがリーゼロッテのために入れたもので、俺はついでである。
Bランク冒険者の待遇の良さを凄い地味な方法で実感している気がした。
「お前いつまでこの街に残るんだよ」
「デュラハン討伐が思いの外早く終わっちゃったからね。キミがパーティーを組んでくれるまで居ても良いよ」
「あら、パーティー組むの? 良いんじゃない?」
パーティーという単語に反応したのか、ティアナが会話に混じってくる。
「随分と軽いな」
「正直言って、ギルド側が口出すものでもないもの。私としては、ギルドに利益を出し続けてくれるなら構わないわ」
「……ティアナさんはぶれないな」
彼女からすれば、塩漬けクエストが消化されるのであればそれで良いのだろう。
パーティーを組めばBランク冒険者の力も借りれて、得しか無さそうだ。
「ボクと組めるなんて名誉なことなのに、なんで迷うかわからないよ……」
なにやら血迷ったことを言っているリーゼロッテ。
このお茶にアルコールは入ってないし、相変わらずの平常運転のようだ。
「そんなことよりリーゼロッテは、パーティーなんて組まず、ソロでAランクを目指したりしないのか?」
俺は、疑問をそのまま口にする。
冒険者は大抵がさらなる上のランクを目指す。
リーゼロッテは性格的にも実力的にも、こんなところで油を売っているような人間ではないはずであった。
「……キミ、中々意地悪なことを言うね」
「意地悪?」
ムスッとした顔のリーゼロッテに、俺は首を傾げた。
イマイチ理由がわからないのでティアナに視線を送って、説明を求める。
ティアナは、やれやれと言った感じで口を開いた。
「DランクとCランクの間を凡人では超えられない壁とするなら、BランクとAランクの間は、才能だけでは超えられない壁かしら」
「は? 何だそれ?」
才能で超えられないなら、努力が必要とか?
「そのままの意味よ。Aランクに上がるには、貴族や権力者の後ろ盾が必要なの。ただ強いだけじゃなれないのがAランク冒険者よ」
「変な仕組みだな……」
「そう? Aランクから上は、ギルド内部においても大きな権限を持つんだもの。どこぞの馬の骨ともわからない人間をAランクにするほど馬鹿じゃないわ」
「言われてみればそうだが……」
冒険者のランクは、ギルド内以外でも効力を発揮する。
一般人からしても、低ランク冒険者はそこらの山賊と同じ扱いだが、高ランク冒険者は王宮騎士と同等以上として扱われた。
そういう意味では、高ランクに一定の担保を求めるのは自然なこととも言えるだろう。
「そのせいで、ボクはもうBランクに留まり続けてから1年以上経つんだ。まったく、ギルドには呆れてしまうね」
「お前、14歳のときから既にBランクなのかよ」
さらっと明かされた事実に、俺は驚きを超えて笑ってしまう。
「加えて言えば、ソロの冒険者は余計Aランクになり辛いわね。パーティーを組んでいる方が、後見人は立ちやすいわ」
その言葉に、俺はようやく納得する。
「だから俺なんかに固執するのか……。リーゼロッテ、パーティー組む相手いないんだもんな」
「その同情するような目はやめてくれない!? 組む相手は居るけど、大体1週間保たないだけだよ!」
……結果としては同じじゃないか?
誰だって、背後の仲間から攻撃が飛んでくるのは嫌がるのだろう。
正直、魔法防御力の高い俺ですら厳しいものがある。
「だがDランクの俺と組んだところで事態は改善するのか?」
「じゃあ、ヨハンさんCランクなってよ! そして、Cランクになった暁にはボクとパーティーを組もう! で、Aランクパーティーを目指そう!」
勝手にパーティーを組む前提で話をすすめるな……。
俺は呆れた顔で返事をする。
「そんな簡単にCランクになれてたまるか。たしか、Cランクからは大都市で行われる試験に合格しなきゃいけないんだろ?」
冒険者のランクはSからFまであるが、地方のギルドが勝手に任命できるのはDランクまで。
そこから先は、ギルドが定期的に開く昇格試験を合格できたものだけが、上位のランクに進んでいくことが出来る。
DランクとCランクの間に、凡人では超えられない壁があるとされているのは、それが原因であった。
「なら、受けに行ってくれば?」
旅行と同じような軽い感じで提案をしてくるティアナ。
想定外の人間から飛んできた意見に、俺は驚く。
「……良いのか? その間塩漬けクエストが放置されることになりそうだが」
「ちょっとだけ困るけど、基本的には大歓迎よ。Cランクにしか出来ない依頼もたくさんあるし、あと、Cランクを輩出したギルドには本部から補助金が出るのよ」
それが目当てか……。
その補助金が幾らかは知らないが、こんな提案をする以上そこそこの額なのだろう。
「というか、俺がCランクになれる前提なのも変な話だろ」
「なれるんじゃない? キミより使えないCランクなんて山程いるよ」
「何度も言うが、デュラハンのときは噛み合いが良かっただけだ」
デュラハンがどういう存在か分かった上で、ティアナの提案があったからこその結果だ。
その結果だけを見て、自分を過大評価できるほど俺は馬鹿じゃない。
「なんにせよ、次のCランク昇格試験は5日後ね。都市までの移動を加味したら、すぐにでも出発したほうが良いんじゃない? 馬車の手配は必要かしら?」
……おい、だから俺を無視して話をすすめるんじゃない。
隣では、馬車と聞いたリーゼロッテが荷物の整理を始めていた。
ああくそ、もうなるようになれ。




