第1話 俺の二撃に全ては沈む その③
ちなみにですが、めっちゃ暗いです。夜目が利いてきて、少しずつ見えるようになってき始めているところです。正吾くんが仲間の到着を待たずして倒そうとしたのは、単純に手柄のためですが、立ち上がった瞬間からビビりまくりってかんじですね。実際、スピーチも壇上に上がってから急に緊張します。
「仕方ない!」
彼女が僕の前にバリアを張ってくれた。尻尾の動きはそれに引っかかって止まる。その違和感で、竜が目を覚ましてしまった。一生寝ていてくれよ。
「尻尾を殴れ!遠いほどバリアの持続は厳しくなる!」
バリアが解かれた。俺は我武者羅に右で一発入れたが、次いでもう一発加えようとしたところで尻尾が退いていき、空ぶってしまった。それを見て彼女は走り出し、こう叫ぶ。
「なんで左で殴らない!」
「あっ!」
また焦ってドジ踏んだ!そうだよ!なんでわざわざ一旦腕を引いて二打目を入れようとしたんだよ。左で済む話だっただろうが!つくづく自分が嫌になる。臨戦態勢に入った竜に一発加えるのは、俺がゴブリンにとったズタズタの構えとはわけが違う。竜が再び火を吐こうとする。怖じ気づき転びそうになった俺を彼女が支え、
「もう突っ切るしかない!火傷は覚悟しろよ!」
俺を押しながら走り出した。本当になんでこんな普通に動けるの?生まれ?育ち?それとも潜ってきた修羅場の数?何にせよ本当に生きてる世界が違う、二つの意味で。竜が火を吹く。彼女はバリアを上に展開した。
「出せる面積の都合で横は守ってられない!行け!」
「はいぃぃ!」
ここまでしてもらって、今さら無理ですなんて絶対に言えない。俺がスキルを言ったからこうなってる。めちゃくちゃ熱いのにパーカーは返り血で湿ってるし、最悪の心地で突っ走る。そして、やつの土手っ腹!
「うおおおおお!!」
今度は左で殴った。威力自体は蚊ほどもないだろうが、問題はそこじゃない。スキルが発動する!
「ガァァァア···ウゴェッ!」
ブレスが止み、竜は一瞬の内に爆散した。破裂音しかり、飛び散る臓物、血肉しかり、ゴブリンの時とは比にならない。真下にいた俺はその衝撃をモロに食らってぶっ倒れた。
目が覚めると、そこには魔女の帽子みたいなのを被った女の子が···近い!
「あっ!おーい、みんな~!目覚めたよ~!」
彼女はみんなを呼ぶ。その中には共闘した女もいた。
「大丈夫か?それにしてもすごいな!あの竜は私たちの団が総出で討伐する予定だったんだけど、それをまさか一人でやるとは。」
「えぇ···はい、まぁ···どうもです···」
滅茶苦茶キョドってしまう。端正な顔立ちの女性が二人、思春期の俺にはいかんせん刺激が強すぎる。
「半ば信じられないが、ラウトラのスキルで倒せるとも思えない。本当なんだろうね。二打で倒せる能力か···」
これまたクールな美青年が、僕に近づきながらそう言った。
「おいおいアル!軽くアタシんこと貶してねーか?」
「いえ、そんなつもりは全く。」
アル、と呼ばれている美少年はクスクスと笑う。ラウトラも少しムッとした顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。すると、奥で(多分)酒を飲んでいる大男が口を開いた。
「フー!で、団長への報告どーするよ?俺ら三人迷子になったラウトラ探してて、その間にそこのガキが竜倒してましたーってか?」
「あ~、確かにそうだね~。ど~しよっか?」
魔女の帽子を被った子が問う。他のみんなもその事について考え、意見を言い合っていた。とりあえず今のうちに現状把握しよう。ここはまだ洞窟の中だが、テントがちらほら張ってあるし、小屋まで一軒ある。ここを拠点にして洞窟を探検してたのか?体を見てみると、包帯が巻かれている。起き上がると、
「痛ッ!」
「あっ!動いちゃダメだよ~!君の体には竜の骨片がちょっと刺さってたり、とにかく結構怪我してるんだもん!」
「治療はあなたが?」
「うんうん!私回復術師だし~!」
回復術師がどんなもんか知らないし、何とも言えないが、とにかく礼をする。
「ありがとうございます。ところで、皆さんお名前は何て言うんですか?」
「私ハウメリー!ハウって読んで!」
「私はラウトラ。そういえば言ってなかったな。逆に聞くが、お前は何て言うんだ?」
「あ、そうっすね。二宮正吾って言います。」
「俺はバンガウ。俺も質問があんだが、お前何の団だ?」
「···団?さっきも皆さん言ってましたけど、その団っていうの、僕にはさっぱりなんですよ。」
「···まさかギルドを知らない?」
アルとやらのその一言で、この場の空気が変わった。俺に対する不信感、怖い!竜が肉体的な恐怖だとするなら、こっちは精神的恐怖!どちらも甲乙つけがたい辛さだ。胃がキリキリする。
「ギルドと言えば、誰しもが知っていて当然の常識。世界共通の機関だからな。それを知らないとは···竜を単身で倒したことといい、お前、何者だ。」
「何者って、ただの世間知らずですよ。それに一人じゃなくてラウトラさんの助けあってのことですし!」
アルさんの圧めっちゃ怖い!起きたとき最初に怖そうと思ったのはバンガウっていう人だったけど、尋問って点に於いては完全にこっちだ。
「出身は?一応依頼を横取りされているんでね。しつこく聞くぞ?」
「えっと、国···日本です···」
「ニホン···?聞いたことがないな。どこにある?北半球か?南か?緯度と経度は分かるか?地図を見せれば指で───」
「コラッ!一応、私の恩人でもある。そんな態度は失礼だろ!」
「色々と怪しすぎる。異質なんだよ。コイツが今後僕たちに支障を来したらどうする?」
「あー、それは有り得ません。そんな度胸ないですし···」
「プハー!マジかお前!竜倒してその卑屈っぷり!おいコイツは大丈夫だぜ!」
「もう四杯目だよ!飲み過ぎ~!」
誉められているのか貶されているのか分からないが、最初に一番怖がっていた人が一番状況を好転させてくれるという、なんかすみません···
「ゴメンな。アルは冷静なんだけど、ちょっと当たりが強くてね。慣れればどうってことないんだけど。」
「いえ、大丈夫です。···慣れてますんで!」
いや、慣れてないよ。次の台詞が出てこなくて、ラウトラの慣れるってのをマンマ使ってしまっただけなんだけど、アルを除く三人は僕に哀れみの目を向ける。
「でも不思議だな~。凄い強いスキルを持ってるのに、周りの当たりが強いの?」
痛いところをつく。しかし、それは仲間内で勝手に解決してくれた。
「い~やいやいや、性格だろ!どんな強いスキルでも、こんな卑屈じゃあ舐められちまうよ!」
うん。今度は確実に貶してる。助かってるからいいけど。空気はすっかり元に戻って、アルも
「···まぁ、今はいい。仲間もお前を警戒してないし、ひとまずこの事は置いておく。」
「ありがとうございます、アルさん。」
「アルバートだ!初対面にそう呼ばれる筋合いはない!」
「まぁまぁ。」
ラウトラが制す。ラウトラさん、慣れれば平気って本当ですか?
洞窟を難なく抜け、しばらく森を進んでいくと、整備されている道に出た。
その間に何体かモンスター的なのに出くわしたが、これも四人が倒してくれた。その様を見て、俺は彼らをバランスの良いチームだと思った。
バンガウが攻撃して、バリア持ちのラウトラが防御、回復をハウ、ブレインがアル、ゲームでよく推奨されるやつだ。まぁ、ゲームは慣れてくると、避けることに特化させたアタッカーで固めたりするんだけども。
町までの道のりで、俺は様々なことを聞いた。主に、ギルドとやらのことを。
ギルドというのは、名だたる冒険者たちによって作られた組織で、方々の依頼を受け、そこに冒険者を派遣する。その報酬金の一部を手数料として受けとることで運営している組織だ。だが、実際の収入源は当然これだけではないという。そのことについては深く聞かなかったけど···(運営のあれこれは特に興味ないし)。
そしてその冒険者というのは、団を結成して依頼に臨む。数は最高で10人まで。最低は3人だ。彼らの団は現在8名で、今回は洞窟の下見に来ただけのつもりだったらしい。残りの団員も今向かっている町、リーフエントにいるそうだ。マジでアルバートみたいな威圧感凄い人ばっかりじゃないことを祈る。
なぜかというと、俺はこの団に入れてもらおうとか考えている。一文無しだし、ある程度話せる人たちがいるところから、またフリダシに戻るのは辛すぎる。竜との経験から、俺は多分そこそこ強い敵でも動けずにやられることが分かったので、まずは彼らの下である程度力をつけてから無双をしたい。てか、しないと飢え死にするんじゃないか?
一通り話を聞き終えた俺は、
「いやぁ、全然知らないことばっかりでした。」
「お前義務教育受けたのか?」
アルさん、だからキツイって···
「そりゃあもちろん受けて···いや、いないのかこっちでは···」
「はぁ?」
多少は通じても、日本とここでの常識はおおよそ異なる。日本の義務教育による恩恵は、この世界ではあまりない!そして、同じく異世界転生するなろう系も、俺が主人公のポジションじゃ当てにならない···
「ねぇ~、そんなに知らないのに、お金とかは持ってるの?」
「え?」
え?
「おいその顔、まさか!」
「マジかよ嘘だろお前!」
「···」
ハウは興味津々な顔で、アルバートは呆れ、バンガウは笑う。ラウトラは苦笑いをしている。
「···ないです。」
まずは今夜の宿をなんとかしなければならない···
ようやく第2話に入ります。すいませんね。スッキリしない落ちで···もう1個の方で心理戦とかを精一杯しようとしているので、こっちは逆になるだけ単純なバトルをさせたいと思っているんですが、いかんせん単純すぎましたかね···反省。