第1話 俺の二撃に全ては沈む その②
読者は主人公に自己投影するので、一話の終わりに主人公が劣勢だと評価が下がると聞いて、正吾くんに凄い不安を覚えます。彼、今のところ凄い情けないですからね。
しかし、結局俺は死ななかった。落ちた先はクッションみたいになっており、跳ねはしないし衝撃も凄いが、奇跡的に俺はまだ生きていた。
「···うぇぇ···」
寿命がグッと縮まった気がする。その場に大の字で倒れ、今さっきまでいた上を見上げるも、そこはもう暗闇に包まれていた。少なくとも、ゴブリン達からは逃げきれたみたいで一安心だ。しかし、かなり下の方まで来てしまった。辺り一面真っ暗ということは、ここはまだ人が到達できていない可能性がある。そういうところには竜とかもいそうだ。下手に探索するよりかは、一か八かこの穴を登っていく方がいいか?
「クソォ~!全然テンプレ通りに行かねぇじゃねぇか!」
俺の不満は反響して、思った以上に大きく聞こえた。そのせいなのか知らないが、コウモリの羽音みたいなのが聞こえ、俺はまたビビった···情けない。しかし、そんなことにビビっている場合では断じてなかった。地面がゆっくりと動き出す。傾斜が大きくなっていく。
「え···?うお!うおおああ!」
滑り台を滑るように、俺はゴツゴツした固い地面に投げ出された。全て察する。俺が落下したのは地面なんかじゃない。暗くてよくは見えないが、確かな存在感や威圧感を感じる。すると上空から突如、火が出現した。その火は辺りを照らす。火は、そいつの口から出ていた。
「りゅ···竜···!!」
緑色の竜だ!とても鋭い眼をしている。逃げようにも体は全く動かない。さながら俺は蛇に睨まれた蛙だ。やつが溜めていた火を吐き出す。強烈なブレスだ。僅か30秒の間に二回も走馬灯を見るやついる?
「······!!」
もはや声も出なかった。俺は目を瞑り、ただ訪れる死を待つのみだった。
しかし、その死というのは、いつまで経ってもやってこなかった。恐る恐る目を開けると、そこには、一人の女性がいた。
「大丈夫か!?どうしてこんなところにいる!?」
俺は唖然とするばかりで、声が全然出やしない。それを見かねた女は、視線を竜の方に戻した。よく見てみると、俺とその女は何か膜のようなものに覆われている。竜は俺たちに追撃を加える。同じようにブレスを吐いたり、巨大な足で踏みつけたり、しかし、この膜は壊れない。徐々に冷静さを取り戻してきた俺は、その膜にそーっと触れてみた。固い。不思議がっている俺に対して女性は、
「これはバリアだ。私の力を供給している間は、何だろうと通さない!」
俺は神が言っていたことを思い出した。確かこの世界の人々は元々、俺のツーパンみたいなスキルを生まれつき持っている。このバリアは目の前にいる女のスキルというわけか。
「えっと···あ、ありがとうございます。」
「礼なら後だ。私のバリアも長くは持たんからな。せーのであそこの岩陰まで走るぞ!」
竜はこれまでで一番大きい火球をくり出す。バリアに当たりそれは正面を完全に覆う。熱が中まで伝わってくる。めっちゃ熱い!
「せーのっ!」
女性がバリアを解き俺たちは走り出した。。今、炎により竜も俺たちもお互いが見えていない状態にある。守るものがなくなった二人に火の手は迫るが、なんとか岩陰まで逃げきることが出来た。
「さて、どうしたものか···ところでもう一度聞くが、どうしてこんなところに?」
「えーと、いや、気が付いたらこの洞窟にいたというか···そしてゴブリンに追われてここに落ちたという訳でして···」
神の気まぐれなんて言っても絶対ふざけてると思われるからな。そこは濁しておく。
「ふーん···何にせよ、まずはここを切り抜けなきゃな。」
「あの、この竜を倒しに来たんですか?」
「···まぁ、そうなるな。」
「一人でですか?」
あのバカでっかい竜をバリアだけで倒せるとはとても思えない。仲間がいるはずだ。でも、なんでこの人だけここにいるんだ?
「実は私は方向音痴でな。仲間とはぐれてしまって···その時に走っていくゴブリンの群れを見て、追ってきたんだが、君が追われていたんだな。そしてここに着いた。そういえば、先頭にはゴブリンの頭みたいなやつもいたが、そいつもなぜかここに落ちてったんだ。見なかったか?」
「···いや、竜に踏み潰されたんじゃないっすかね?」
そのゴブリンの頭というのは十中八九俺だ。顔についたゴブリンの血が完全に拭えていなくて、遠くからはそう見えたのかもしれない。
「ん?ちょっと待ってください。ここへの道は一本だったから、絶対に群れと鉢合いますよね?」
「ああ、全員殺した。」
···すげえ。あの量を相手に出来る強さと、容赦なく殺せる怖さとで、畏怖と畏敬の気持ちが同時に沸いた。ちょこちょこ竜の様子を伺っていた彼女が、
「寝たな。我らを始末したと思ったらしい。」
と言った。俺は岩陰から身を出す勇気がなかった。チートスキルを持ちながら、今のところただの足手まといだ。何とか挽回したい···
「降りる時に使ったロープが竜の奥にある。それで登ろう。問題はこの暗さ···仲間が来るまでしばらく待機だな。」
「そうですか···」
待てよ?そんなに待つ必要ないんじゃないか?だって俺には···
「あの竜、倒せるかもしれません。」
「は?」
「俺のスキルはツーパンって言って、二回殴ったものが破壊されるんです。あんなデカイ竜だって二回殴れれば···」
「待て!そんな能力ならなんで洞窟を掘って出なかった?」
え?···あ!
「あーっ!!」
「静かに···!」
彼女は慌てて竜の様子を見る。竜は一瞬音に反応を示したが、特に気にするわけでもなく、睡眠を続けた。
「ふぅ···危ない。まぁ崩れる可能性もあるし、そういうリスクが嫌なら普通に行くかもな。私ならそれでも殴って出るが。崩れたところからまた殴ってやればいいわけだし。」
完全に盲点でした···そうすれば今頃、外でみんなからキャーキャー言われていただろうに···地の底でギャーギャー喚く羽目にならなかったのに···
「私が言うのもなんだが、悔いても仕方ない。それよりも能力のことが本当なら、あの竜も倒せるかもしれない。行けるか?」
「はい!」
こっそり近づいて、殴ればいいだけ···弟を後ろから脅かす時とは、比べ物にならない緊張感だ。命が懸かっていると、こうも違うものか···しかし、怯えてばかりはいられない。ここで挽回しなくちゃ、今後の異世界ライフにも関わる。いざってときに動けないやつに、誰も期待しちゃくれないからな。深呼吸をして、ゆっくりと立ち上がった。
「···行きます···」
「頑張れよ!」
そうして一歩、踏み出した。続いて二歩、三歩と進んでいく。距離は僅か30mほど。体力測定でやる50m走の方がずっと長いしキツいはず。なのに、なぜだ?全然近づいていっている気がしない!
「大丈夫かー?」
後ろから微かに彼女の声がする。確かに進んでいるはずなんだ。しかし、足が震えて縮こまってしまうし、オマケに恐怖で距離が長く感じてしまうという二重苦···今すぐ駆け出してしまいたいが、上手く走れるビジョン的なやつがどうしても沸かない。
さっき思わず出てしまった声で竜は少しは反応したが、起きるには至らなかった。もっと大胆に行っても問題ないのに、そう言い聞かせても足は直らない。
今すぐ誰かと変わりたい!大いなる力には大いなる責任が伴うって言うけど、今それを猛烈に実感している。きっと、マーベルに出てくるようなヒーローならもう、颯爽と竜を倒してるはず···それを俺なんかがこんな力を手にしてしまったがために···神への逆恨みが募る。その時、
「危ない!」
彼女が叫んだ!やめてくれ頼むから大声は!必死の形相で振り返る俺に、
「前見ろ!」
再び彼女は声をかける。向き直ると、みぎてから尻尾が迫ってきた!この巨体でこの寝相の悪さはもはや一種の災害だ。
「うっそおお!!」
一秒後、激突する。
分からないところがあったら、どんどん言ってください。周りから言葉足らずと言われているので、それが文にも表れているかもしれません···