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第1話 俺の二撃に全ては沈む その①

最初は1話10000文字にしようと思っていたのですが、なろう読者の方は3000くらいが丁度いいとのことで、三分割させて頂いた次第です。

 俺が光に包まれてしばらくした後、もう大丈夫だと思って目を開けると、そこは確かに洞窟だった。


松明が設置されており、やや明るい。すでにこっちの世界の人が探検した後かな?何にせよ、人の介入があるというだけで、不安は幾分か和らいだ。


俺は今後の計画について考える。まぁ、計画って言うにはあまりにお粗末だけども。とりあえず洞窟を出て、人を見つける。その人の前でそこそこ強そうな敵をチートスキルでブッ倒し、称賛を得る。ついでに倒したモンスターに高額の討伐依頼が出ていて、ギルド的な機関から多額の報酬金でも貰えればなお良い。言うなれば、よくあるなろうテンプレートであった。


「まずは外に出なきゃだな。行き先ルーレットだけが余計だった。」


一人で心細い、特に何か出そうな時は、怖さを紛らわすために独り言を呟く。塾帰り、雨で歩きの時とかはよくやる。そうしながら、俺は洞窟を闇雲に歩いていく。


「困るな本当にこんなところでスタートとか。パーカー着てんのに肌寒いし···ん?待てよ?」


ここがもし異世界だと言うのならば、なろう小説によく出てくる世界だと言うのであれば、アレが出来るのではないだろうか。俺はポーズを取り、こう叫ぶ。


「ステータスオープンッ!!」


···瞬間、洞窟内に静寂が走った。いや、元々静かだったけどさ。より静かというか···この感覚はとっておきのギャグがおおスベりかましたことのある人にしか分からないだろう。とにかく、俺の頭上には何も現れなかった。


 しかし、俺の目の前から、正確には目の前の岩陰から、ひょっこりと緑の頭が現れた。緑竜···?


「な、なんだお、おお、お前は!?」


敵対生物である可能性もあるので、俺は軽くビビりまくる。さっき、子供を助けようとした時の勇気はここじゃ出ない。ひょっこりとそいつは顔を出す。


「ご···ゴブリン···!」


その緑色のやつは、よくマンガとかに出てくるゴブリンにそっくりだった。そして、ゴブリンは基本的に人間を襲うんだ···まずい!


「···」


「···」


両者の間に沈黙が流れる。ゴブリンは岩陰から体を半分だけ出したまま、様子をうかがっている。もしかして、こいつも俺と同じでビビっているのかもしれない。突然、大声で何か叫びながら変なポーズ取られたら、俺だってきっと硬直する。俺はゆっくりと後ずさりして、そして···


「おああああああ!!」


逃走した。思いっきり背中を向けて。それを見たゴブリンも、


「キエエエエエ!!」


と奇声を上げて追いかけてくる。クマに背中を見せたらいけないとかって聞いたことがあるが、同じかんじか?だとすれば、この行動はかなり悪手だったと逃げながら反省。ゴブリンは意外と足が速く、対する俺は運動不足が祟って、その差はドンドンと縮まっていく。どうする?その時、俺は実に単純なことを思い出す。


「そうだ!俺にはチートスキルがあった!」


後ろへ向き直り、臨戦体勢を整える。まぁ、生まれてこの方戦ったことないから、デタラメな構えなんだけどね。鬼気迫る表情で襲いかかってくるゴブリンに、一瞬怯んだが、


「来いッ!」


顔面に一発、先手を打ったのは僕の方だった。近づいてみると、ゴブリンは意外と小さい。こいつは特に武器を持っていなかったし、リーチの差でやや僕が勝ったわけだ。しかし、


「キィィ!!」


浅い!そりゃ本気で殴ったことないもん!ゴブリンは俺の右腕を爪で引き裂く。


「痛ッたああッ!」


俺の腕の肉は、5000円のパーカーもろともかなりエグいことになった。そこまで深くはないんだろうが、このレベルの傷を未だに負ったことがなかった俺にとっては、十分過ぎるダメージであった。再び怯む俺に追撃を加えんとするゴブリン。俺はもう無我夢中で、傷を押さえていた左手、その甲でゴブリンを殴った。瞬間、ゴブリンの体は爆発したかのようにはじけ飛び、その肉やら血やらが、俺の方にもモロに飛んできた。


「うっ!うえぇー···」


咄嗟に目を閉じた。鳥肌が凄い。顔中にベッタリとこびりついた生暖かい何かは、恐らくやつの血だろう。ゆっくりと目を開けると、赤かったはずのパーカーは緑色になっていた。ゴブリンって血まで緑なのか···いや、血が緑だから体が緑なのか?鶏と卵のどっちが先かみたいな問題だな。ふと気付いた。多分もう着れないであろうパーカーのさらに下に落ちているのは、


「めめめめめ、目だ!目玉だ!めんたまだ!」


 ここでようやく、俺は事の重大さに気付いた。


「···やべえ···殺しちまった···」


別に、蟻とかなら知らず知らずの内に踏み殺すこともあるだろうし、そりゃ牛とか豚殺すのをあーだこーだ言うのは、育てている人に失礼だろう。しかし、俺が今殺してしまったのは、ある程度の知能を持つであろうヒト型の生命体なのだ。他の動物たちとは訳が違う。


「どうしようどうしよ···くさっ!なんだこれ血生臭いな!」


血の匂いをここまで濃く嗅いだのも生まれて初めてである。ついさっきまでただの高校生であった俺には中々厳しいものがある。


 すると、前方から足音が聞こえる。だが、この足音を俺は知っている。


「キエ?」


やっぱりゴブリンだった。しかも、さっきのよりもさらにさらに小さい。子供か?そいつは俺の足下に散らばったバラバラの死骸を見る。そして、


「キィ、キィ、キエエエエ!!」


逃げていった。緑色ではあるけども、確かに全身血塗れの男には近づかないわな。これに匹敵する恐怖と言えば、学校で問題を起こした日の電話くらいだろう。電話が鳴る度に、それが学校からではないか、その恐怖は現代に勝るものなしと個人的に思っている。


それにしても、外に出るつもりが随分と奥の方へ進んでいってしまった気がする。若干だけど、俺が逃げていった方向に向かって傾斜が下がっていってる。緑竜の洞窟って言うからには、十中八九ドラゴンがいて、恐らくそいつは火を吹いてくるはず。俺はツーパンぶちこむ前に多分焼かれるからな。絶対に会いたくない。


 そうして上へ向かって歩いていくと、後ろから凄まじい数の足音がした。振り返ると、やはりだ。やっぱりお前なのか、ゴブリン。それも何匹いる?考えている暇はない。俺も当然走り出す。もうさっきまでのヒタヒタって音じゃなくて、ドタドタバタバタだもん。一瞬、地震かとも思ったほどだった。


「悪かったって!!でもそっちから襲って来たんだよ!悪気はないんだってぇぇぇ!!」


「キエエエエエエエエエエエ!!!!」


全く聞く耳を持たないっていうより、うるさすぎて俺の声が聞こえない。聞こえたとして、言葉が通じるかも分からない。体力も限界が近い。これはもしかしてかなり絶望的なんじゃないか?


「ハァ···ハァ···ヤバい···ヤバいって!」


奴らの先頭との距離は5mを切った。しかも、今度はしっかりと武器を持ってやがる。棍棒だの、槍だの。左側のやつの斧が殺傷力高すぎるって!


そんな時、俺は一つこの先の道に違和感を覚えた。これまで、洞窟を照らしてくれていた松明がないのだ。もう戻れないとはいえ、暗闇を今と同じペースで駆けるのはほぼ不可能だぞ。相手が洞窟に住んでいる癖して夜目がきかないとか、そういったラッキーを願うしかない。


そうして、俺は暗黒の中に足を踏み入れ···ることは叶わなかった。ゴブリンに捕まったからじゃない。なかったんだ、この先に道が。ただ深い穴になっていて、俺はそこに落ちていった。確実に死を覚悟した。     

 時間がゆっくりに感じて、これまでの人生の走馬灯を見たりもした。


俺は、弟の誕生日のことが一番記憶に残っている。ネズミの国とかは行かずに、お菓子工場とか、色んな工場見学に行った。今思うと、なんで?という疑問しか浮かばない。いや、悪いわけじゃないんだけどね。俺の時は普通に遊園地とかが多かったし···


せっかくもらったチャンスを、俺は活かすことが出来なかった。というか、せっかく異世界に来たのに、まだ日の目を浴びることも出来てないんですけど。だいたい、ルーレット式が全部悪い!150%これが悪い!


そして最後に思うのは、やはり両親の事だ。本当に、先立つ不幸をお許しくださいとしか言えない。二つも命もらっておいてこんなに早く浪費するとは、我ながら情けなさ過ぎて涙すら出ない。もし寿命を全うしてこっち側に来たら、たっぷり俺を叱ってほしいと思う。


 ゴブリンたちに見下ろされながら、俺の姿は闇へと消えた。

ステータスオープンって叫んだことはありませんが、ステータスみたいなのを書いたことならあります。というか、男なら誰しも一度は書くものだと思っています。

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