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君は永遠の片思い  作者: はなざんまい
6/6

マイノリティ・ネイティブ

4年後


英と峰希は小学6年生になろうとしていた

低学年までは背が低かった英も、背の順で後ろの方に並ぶようになっていた

メガネをかけ、理知的な印象がより増した

学童は3年生でやめ、4年生からバスケットボールを始めた、今年はスタメンとして試合に出場する予定だ

峰希はますますかわいく活発になった

勉強も運動もそつなくこなす一方で、5年生の夏休みに街で声をかけられ、ティーン向け雑誌の読者モデルをしている


いつの頃からか、週末には南出の姉、雪を交えて5人で食卓を囲むようになっていた

しかしその日は違った

「どういうことだよ?」

「だから、パパたちは適当に外食してきてって言ってるの!」

長い髪をお団子にまとめた峰希がリップクリームを塗りながら言った

「で、英くんと二人きりでお前らは何をするんだ?!そんな色のついたリップクリーム塗る必要あるのか?!」

「だから二人きりじゃないって!雪ちゃんも一緒って言ってるじゃん!」

「雪がいいならパパたちだっていいだろ?いつも一緒に食べてるじゃないか」

南出家から、焦った樹とあしらう峰希の声が聞こえてきた

「お邪魔します」

「あ、おじさん。さっさとパパ連れてってくれる?」

「数人さん…」

樹はなぜか涙目だった

「それ、俺も英から聞いたんだけど、何かあったの?」

「英くんに折り入って話があります」

峰希は真面目な顔をして言った

「英と話すのになんで雪さんが来るの?」

「私からじゃうまく話せる気がしないので、雪ちゃんに助けてもらおうと思ってます」

北野は峰希の口調に強い意思を感じた

「わかったよ。おじさんはパパを連れて出てくるね。帰りは9時頃になるけどいいかい?」

「はい。お願いします」

峰希は深々と頭を下げた

樹は、雪が到着するまでは家を出ない!と言い張り、少し遅れてきた雪にバトンタッチしてから、やっとスプリングコートを羽織った


「さあ、どこ行く?」

「近くでお願いします!峰希に何かあったとき、すぐに帰れる距離がいいです!もちろんお酒はなしで!」

必死の樹の様子に数人は笑いながら

「ほんと、溺愛だな」

樹は真顔で

「峰希はかわいいですからね」

と言った

数人はそっと樹の手に自分の手を絡ませた

「あなたがご近所でこんなことするなんて珍しいですね」

樹は冷静さを取り戻したのか、平然と言った

「かわいげないなあ。嬉しくないの?」

「…嬉しいですけど…」

樹は指を絡ませたまま数人の腕をぎゅっと抱き寄せた

「あのさあ…」

数人がいいにくそうに切り出した

「飯のあと、ちょっと付き合ってほしいんだけど」

「どこですか?」

「いま言わなきゃダメ?」

「数人さんまで!峰希と示し会わせてるんですか?!何かサプライズですか?!」

「こっちは別件」

樹は怒っているようだったがやがて

「いいですよ」

と微笑んだ

その笑顔は驚くほどかわいかった



雪が買ってきたピザを食べながらジュースで乾杯した

特に祝うこともないが、ティーンのノリというやつである

「峰希、ご飯食べてからだとだらけるからさっさと話しちゃえば?」

早々に雪が促した

「わかった」

ピザを1ピース食べ終えた峰希はウエットティッシュで指先をふいた

「英も、気づいてると思うんだけど、うちらの父親たちのこと」

英は首をかしげた

峰希はどう切り出そうか迷って、結局雪に助けを求めた

「英くん、ゲイって知ってるよね?」

雪が聞いた

「男が男を好きなことですか?」

「気づいてなかったらごめんね。でも私は英くんにも知っておいてほしいの」

峰希が引き継いだ

出始めは難しかったけど、話の糸口さえつかめれば、話したいことは湯水のようなか溢れてくる

「私のパパがそれなの」

「え?」

「私にはママがいなくて、お父さんが二人いるの。一人は死んじゃったけど」

雪の前で当然のように言ってのけた

「母親がいないって…どうやって産まれたの?」

「伊織さん、死んじゃったもう一人のお父さんなんだけど、うちのパパと結婚して、私は雪ちゃんが産んでくれたんだって」

雪は峰希を見つめて誇らしそうな表情を浮かべた

「じゃあ雪さんがお母さんじゃないの?あれ?でも雪さんとおじさんは兄弟だし…兄弟は結婚できないはずだし…」

「私は確かに峰希の母親でもあるけど、書類上は違うの」

雪が峰希の後を続けた

「そんなことが可能なんですか?」

雪は缶ビールの水滴を拭った

「多くの同性カップルはね、そうやって子供を育ててるのよ」

「少なくとも私はパパから、私はパパと伊織さんの子供だと聞いて育ったんだよ」

峰希の自信に満ちた口調に、これは峰希の存在に関わる話なんだと英は直感した

雪が言う

「伊織さんと数人が言ったの『多くは望まない。でもたったひとつだけ願いが叶うなら、自分たちの子供を育てたかったねって』だから私答えたの。『それなら簡単だよ!できるよって』」

「…俺、書類上のこととか難しいことはよくわからないけど」

英が口を開いた

こんな短時間に、こんな膨大な量の知識を理解しなくてはならないのは骨が折れたし、まだまだわからないことだらけだ

しかし、これだけは言えた

「峰ちゃんは愛されて産まれてきたんだね!」


峰希の瞳から涙がみるみるこぼれてきた

雪は峰希の肩をそっと抱いた

「英くん、ありがとう」

震える声でやっと絞り出した言葉だった

「英くんの理解力にはびっくりだわ」

峰希の肩をさすりながら雪が言う

「そうですか?正直わからないことだらけなんですけど…」

「いわば性的マイノリティ・ネイティブね」

「何ですか、それ」

「性的マイノリティは知ってるわよね?」

「うっすら。それこそゲイ…のような人たちのことですか?」

雪はうなずいて、空いた片手でビールをあおった

「さっき話したゲイのひとたちだったり、女性同士だったり、体が女性なのに心は男性だったり、その逆もあるわね。そういう少数派の人たちのことなんだけど、そういう人たちが身近にいて、当たり前のように受け入れて育ってきたあなたたちのような子供たちのことを、あえて表すならこんな言葉かなって。いま、私が作ったんだけどね」

雪がハハハと笑う

「いまはもう、そういう価値観が当たり前のものとして存在する時代になったのね。樹の姉として、峰希の叔母として、本当に嬉しいわ」

そう言って峰希の涙をティッシュで優しく拭った



駅前のイタリアンレストランで食事を終え、樹は数人に促されるまま駅の反対側の繁華街を歩いていた

宣言したとおり、酒は一滴も飲んでいない

ちらちらスマホの画面を見るが、着信もラインもない

「落ち着かないなあ…」

あまりにスマホの画面を確認するので、数人があきれて言った

「数人さんは心配じゃないんですか?!それよりもうすぐ8時ですよ?これから行くとこなんて…」

樹の手を引いて歩いていた数人が急に立ち止まった

「もう着いたよ」

「…ここって…」

数人が満面の笑みを浮かべて言った

「ホテル」

顔から全身に熱が広がっていくのを感じた



「英は気づいてない?」

峰希が落ち着いたのを待って食事を再会した

「パパと英のとこのおじさん」

英は体から血の気が一斉に引くのを感じた

「え?!まさか、うちの父さんと峰ちゃんちのおじさんも…アリってこと?!」

「多分ね。一生懸命隠してるみたいだけどバレバレだっつーの」

「え、え、でも、うちの父さんは母さんが好きで、え?!」

動揺が隠せない

一般論は理解できても、身内のこととなると話は別である

「頭が固いわねえ」

峰希に呆れ顔で言われると、心底ムッとする

「俺はいま初めて知ったんだ!」

「じゃあこれからね。覚悟しといた方がいいわよ。認めたらあの人たち、うちらの前でもイチャイチャするわよ、絶対」

父親が、峰希のパパと…?

「うーん、考えたくないな」

「考えなくてもいいのよ」

雪が英の頭を撫でた

手首から懐かしい匂いがして、英は顔を上げた

「これからこれから!あなた達はまだ若いんだから、きっとこれから色んな人たちと出会うわ。だからたくさん耐性つけて、食わず嫌いはしないで、たくさんコミュニケーションをとりなさい。その方が世界は無限に広がるわ」

「さすが雪ちゃん!エッセイスト!」

峰希が囃し立てた

それは、雪の中にある理科子的なものから発せられたエールだと感じた




目が覚めると傍らに父親の姿があった

いつの間に帰ってきたのだろう

英は手探りでメガネを探した

お酒は飲んでないようだ

昨晩、約束した9時には帰ってこず、英は一人で家に戻ったのだ

雪は帰りが遅い樹に対して文句を言いながらも、峰希一人じゃ心配だからと泊まっていった

「父さん」

英に肩を揺さぶられて数人が目を覚ました

「英、おはよう」

「なんで俺の部屋にいるの」

「昨日帰りが遅かったから心配で見に来たらそのまま寝ちゃったみたいだな」

「寝ちゃったみたいって…子供じゃないんだから」

「うん、ごめんな。そうだ、父さん、恋人ができたんだ」

父親があまりに自然に言うので、気恥ずかしさがこみ上がってくるのに数秒かかった

でも、英にも伝えなきゃならないことがある

「少し前からいただろ?」

「本当は2年前にはくっついてる予定だったんだけどなあ。ずいぶん待たせちゃった」

数人が頭を掻いて照れ臭そうに言った

「謝ったの?」

「無事」

「よかったね。ねえ、俺お腹空いちゃった」

「飯にするか」

二人は連れだって部屋を出た

春の風がすぐそこまで来ていた



おわり

未熟で読みにくい文章を最後までお読みいただきましてありがとうございます

わたしの処女作になります

色々はしょりすぎたので、ただいまR18の番外編その他を執筆中です

また機会がありましたらお目に止めていただけると嬉しいです

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