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あまのじゃくの恋  作者: 立川マナ
第二章
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第十話 丸裸にしちゃうぞ

「そんなのございません!」


 即答していた。

 魅力? 俺の魅力? そんなアトランティスのような壮大な幻を求めて、相葉さんを彷徨わせるわけにはいかない。

 相葉さんは何か勘違いしているのだろう。きっと人違いだ。俺によく似た奴なんて五万といるし。

 ごくごく普通の黒髪短髪に、太っているわけでもなく、筋肉質でもない、いたって一般的な健康体。いい意味でも悪い意味でも、顔つきに特徴があるわけでもなし。際立たず、悪目立ちもせず、背景によくなじむ――エキストラとしては優秀だが、相葉さんがエキストラを探しているとも思えない。


「そんなのございませんって……」しばらくぽかんとしてから、相葉さんはふふっと笑い出した。「謙虚〜。すごーい」

「けんきょっ!? いやっ……なにか、大きな勘違いを……」

「がぜん、やる気になったぞ」と、相葉さんは両手をぐっと握りしめ、ガッツポーズ。「必ず、君の魅力を暴くんだ。丸裸にしちゃうぞ」


 丸裸にされちゃう!?

 きらりん、と効果音でも出しそうな無邪気な笑顔でそんな脅しをかけられては、俺含め、クラスの男子の心はすでに丸裸だ。

 もう降参するしかないわけで、


「まずは、番号教えて」


 そう言われては、断れるわけもない。

 

「いや、断われよ」


 まるで凍りつくような冷たい声が隣からした。

 相葉さんが去って、まだざわつく教室で、一人だけ仏頂面で俺を睨みつけているーー万里だ。


「なーに、デレデレしてんだか」

「デレデレ!? 俺がいつデレデレしてた!?」


 もっぱら、あたふたしてただろう。


「ほいほい連絡先教えてたじゃん」

「隣のクラスの人に連絡先教えて何が悪いんだ?」


 なぜ、責められているのか、さっぱり分からん。何も悪いことはしていないはず。連絡先を人に教えただけで……。しかし……なんだろう、この後ろめたさは?


「隣のクラス、ねぇ」と万里は頬杖ついて、刺すような視線で俺を睨みつけてきた。美少年のようなクールな顔立ちのせいか、無言ながらもぞっとするほどの凄みがある。


「な、なんだよ?」

「印貴ちゃんも隣のクラスよね?」

「は?」


 なんで、いきなり瀬良さん?

 たしかに、うちのクラスは相葉さんと瀬良さんのクラスに挟まれている。二人とも、『隣のクラス』だが。


「それがなんだよ?」

「印貴ちゃんには連絡先教えたの?」

「えええ? せ、瀬良さんに!? いや、そんな、めっそうもない! 俺の連絡先なんて……!」

「相葉さんには教えたのに? 印貴ちゃんには教えないわけ? なんで? 同じ『隣のクラス』なのに?」

「『隣のクラス』だから、教えたわけじゃないぞ!? てか、なんで、瀬良さんが出てくるんだ!?」

「だって、相談のる、て言っちゃったし」急にしゅんとしおらしい態度になって、万里は唇を尖がらせ、ぶつくさ言った。「なんか……見てて不憫っていうか……あんたのアホさ加減がいい加減、イラつく」

「よく分からんが……イラつかれているんだな」

「ああ、もう!」と万里は覇気を取り戻し、びしっと俺を指差した。「面倒臭い! あんた、印貴ちゃんに連絡先、教えてきなさい!」

「はあ? なんだ、急にその無茶振りは!?」

「かわいそうでしょうが! さっきの相葉さんとの一件、すぐに学校中で噂になるんだから。印貴ちゃんの耳にだってはいるのよ! あの子、絶対、心配する」

「心配……瀬良さんが!?」


 なぜだ!? なぜ、瀬良さんが心配する!? さっぱり、分からん。

 でも、きっと、何かあるんだろうな。女子にしか分からない事情的な?


「そうか。分かった。いや、よく分からないんだけど……とにかく、瀬良さんを心配させるわけにはいかない」


 決意を胸に、俺はぐっと拳を握りしめた。


「俺は……瀬良さんにこっそり連絡先を教えるぞ!」

「堂々と教えてきなさいよ。なんで、いちいち面倒臭いのよ、あんたは」

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