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あまのじゃくの恋  作者: 立川マナ
第二章
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第九話 君の魅力が知りたいの

「永作君、番号交換しよーよ」


 それは一時間目が終わってすぐのことだった。突然の来訪者の思わぬ一言に、ざわっと教室に動揺の波が広がった。そして、その中心にいて、一番動揺していたのは、他ならぬ俺だった。


「私、隣のクラスの相葉花音あいばかのんね」


 当然、知ってるよね――そう言わんばかりのさらっとした自己紹介だった。

 胸まである茶色まじりの髪はウェーブがかって、ふわふわと揺れるたび、綿あめのような甘い香りを漂わせる。人形のように長い睫毛に、幼げなふっくらとした頬。愛くるしいあどけない顔立ちに、まっすぐに揃えた前髪がよく似合っている。

 しかし、だ。胸元の膨らみは幼さとかけ離れ、キュッと引き締まったくびれといい、反則級の短いスカートから伸びる長く白い足といい、そのスタイルは見ていて背徳感すら覚えてしまうほど悩ましい。

 相葉花音。この学校で、その名を知らない者はいない。入学してからずっと、ノンノンという愛称で親しまれてきた、学校のアイドルだった。瀬良さんが編入してくるまでは……。


「おお、ノンノンだ」とざわつく周りの声が聞こえて来る。「なんで、ノンノンが永作のとこに?」

「今朝もセラちゃんが永作に会いに来たしなぁ」

「えー、うそ! セラちゃん、来たの!? 見逃したー。つーか、あの噂、やっぱマジなわけ。セラちゃんが永作のこと好きだ、てやつ」

「なんなんだよ、あいつ、急に。羨ましいっつーか、納得いかねぇー」

「永作、怪しい美容液でも売ってんのか?」

「それだ!」


 それじゃない!

 待て待て。落ち着け、クラスメイトAとB。おかしいだろう。なんだよ、その憶測は。勝手に納得しちゃってるけども。てか、丸聞こえだよ。内緒話してる自覚あるのだろうか。

 とにかく。このままじゃ、闇の売人にされてしまう。俺がつくった得体の知れない美容液を使ってるなんて噂がたったら、瀬良さんのお肌にケチがついてしまう。瀬良さんの信用に関わる。早々に、相葉さんの要件を聞き出して、この場を納めなくては。


「あの……相葉さん」

「なあに、永作君。あ、圭、て呼んでいい?」

「ど、どうぞ」


 すごいグイグイくるな。控えめな瀬良さんとの会話に慣れすぎたのか、調子が狂う。


「番号……とは……」

「電話番号。連絡先ならなんでもいいよ。チャットやってる?」

「な、なぜですか」

「『なぜですか』?」相葉さんはくりんとした大きな目をぱちくりとさせた。「なぜって、そうだなぁ……」


 くねらせた腰に手をあてがい、相葉さんはひまわりのごとく燦燦と輝くような笑みで言った。


「君が気になるから」


 おお、とすっかり野次馬が板についてきたクラスメイトたちがどよめいた。


「直接対決、きたー!?」

「いや……でも、なんで、永作?」

「ほら、あれじゃね? セラちゃんが好きな永作を奪って学校のアイドルの座を取り戻す、みたいな?」

「そっか、なるほど! ノンノン、大胆!」

「どう来る、永作!?」


 どこも行かないよ、永作は。バトル漫画の解説か。

 皆、冷静になれって。盛り上がりすぎだって。『気になる』っていろいろあるだろ。例えば、ほら……ええと……。

 あれ。ちょっと待て。何もなくない? 俺なんか際立って目立つようなこともないし、関心を引くようなところも何もない。言うなれば、背が高いくらいで……ただ突っ立ってるだけのどこぞの木のほうが、ずっと存在感あって、気になる木だ。


「あの……気になる、て何がですか?」


 どストレートに聞いてみる。皆の注目を浴びているうちに、はっきりさせるんだ。余計な誤解を招いて、また邪推の極みのような噂をみすみす流させるわけにはいかない。


「そんなの決まってるよ〜」相葉さんはふわりと髪を揺らし、小首を傾げた。「君の魅力が知りたいの」

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