プロローグ
玄関を出るなり、「あ」と彼女に出くわした。
朝日を受けて輝く白いセーラー服のなんと眩いこと。短い紺色のスカートがひらりと可憐に揺れて、なんとも悩ましい。
遠慮がちにこちらを見上げる、ぱっちりとした大きな瞳。少し太めの眉が素朴で愛らしく、ぽかんと開けた桃色の唇はみずみずしく色っぽい。清楚の象徴のような長い艶やかな黒髪が風に揺れ、ふわりと甘い香りが漂ってくる。
今朝も相変わらず、お美しい。
ぱんと両手を合わせて、お天道様を拝みたくなってくる。そして、十四年前、俺がまだ三歳だったころ、この家を買った両親に心から感謝したい。新築が良かったなんて思ってごめん。隣にこんな可愛い子が越してくるなんて知らなかったから。
「おはよう」と遠慮がちな、そして、小鳥の囀りのように耳に心地よい声がして、俺はハッと我に返った。
「おはようございます!」と頭を下げる。
「あ、あの……待ってたわけじゃないんです!」
思い出したように慌ててそう付け加えた彼女に、俺は手をぴしっと立てて自信を持って答える。
「知ってます!」
そう、大丈夫。こんな奇跡に俺は惑わされたりしない。勘違いなんてしないから。
心配しないで、瀬良さん。俺のことが好きだなんていう馬鹿げた噂、俺は絶対本気にしない。