聖騎士も胸から剣が生えると死ぬ
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次の日学校から帰ってきたアサギはパーティメンバーがまだ揃わない時間なので土の教会でダンチョーに稽古をつけてもらっていた
「未知との遭遇」の話もあったがまだ人が揃っていないのはわかっていたのでダンチョーはそれを聞こうともせず「この前来た時は居なくてすまなかったな、仕事で出ていたんだ」とだけ言って稽古場へアサギを促した
「アサギ、そろそろレベルも上がってきたんだろう?パラディンロードでレベル上限突破できるスキルがそろそろ取れそうなんじゃないか?」
「あ、はい、そうですね、欲しいのは2つあるんですけどどっちからにしようか迷ってまして」
「ふむ、何と何で迷ってるんだ?」
「反射を取るか、直接殴るかですね、結局両方とも上限突破させようとは思ってるのでどっちからでもいいとは思うんですけど」
「ヘイト値で考えれば反射の方が上がりやすいから反射でいいんじゃないか?前にうちのパラディンロード様のを見た事があるが俺らパラディンが使う時とダメージが全然違っていたしな、アサギはしっかり攻撃を盾に当てれる上手さがあるんだからそれを取っても腐る事はないだろ、オートガードにばかり頼ってるような奴じゃああのスキルの本当の威力は実感できないと思うけどな」
「なるほど、じゃあそっちにします、ありがとうございます」
「よし、じゃあもっかい行くぞ!」
「はい!お願いします!」
土の神様ドロニコフのお陰で真剣を使った稽古でも怪我の心配がなくなった稽古場で2人は何度も何度も向かい合う
結界が張られていると知らない人間がこの状況を見たらどう思うだろうか
小さな女の子が大きな男に何度も何度も斬られ殴られ吹き飛ばされている、2人とも真剣な表情ではあるが少しだけ嬉しそうな表情をしながら
2人が稽古をしているとそこに1人の男が現れる、副団長のフクフだ
「団長、そろそろお仕事を減らす為に自分の部屋に戻ってください」
「ん、もうそんな時間か、すまんな、アサギ、俺はここまでだ」
「はい、わざわざ時間を空けてもらってありがとうございました、あとで皆がそろったら「トークノ盆地」の事報告に行きます」
「ああ、そういやそんな仕事もあったっけか、やれやれ・・・あ!そうだ、アサギ、そろそろ大規模模擬戦始まるからな、もしお前と戦う事になっても容赦しないぞ」
「っ!!はいっ!その時はよろしくおねがいします!!」
アサギは去り行くダンチョーの背中に深くお辞儀をする
「では、ここからは私がアサギ君の相手をしましょう、準備はいいですか?」
「はい!お願いします!」
今度は小さな女の子と一見ひょろりとしているがしっかりと鍛えこまれている身体をした高身長の男との戦いである
先ほどよりは多少犯罪臭は薄くなっただろうか
「おや、アサギ君大分腕をあげましたね、ではこちらも少し気合を入れましょうか」
「はい!よろしくおねがいします!」
即答したアサギを見てフクフはニヤリと笑う
「団長の本気を見たらしいですね、団長を相手にするより楽と思われても癪なので私も見せておきましょうか」
アサギの緊張が高まる
目の前に居る男から放たれる殺気は一瞬でも気を抜いたら殺されると思えるほどのものだった
気を抜かなければどうにかなるというものではないのだが
アサギは殺気を当てられてもなんとか耐えていた
それはダンチョーとの稽古の賜物か、はたまた「ダクパラ」や「悪竜エドラ」のような高度なAIを持つ敵に本気で戦いを挑まれていたからか
フクフがまたニヤリと笑う
「では行きますよ」
アサギは盾を構えフクフをよく見た・・・はずだった
目の前に居たはずのフクフが一瞬で消えたのだ、上に移動したのかそれとも横に移動したのか、それすらもわからないほどの速さで
アサギはとっさに振り向いた、前に居ないのなら後ろだろう、そう思ったからだ
だがそこにもフクフは居ない
「こちらですよ」
背中から声が聞こえアサギはまた振り返る
だが先ほど声がしたはずなのにそこには誰も居なかった
そして背後からゾクリと寒気を感じるほどの殺気を感じまた振り返ったのだが今度もそこには誰もいない
キョロキョロと見渡すが相手が全然見えない、ならばとアサギは壁の方に走った
壁を背にすれば見えるはずだ、そう思っての行動ではあるのだが
アサギは壁に辿り着き振り返ろうとした瞬間に自分の胸をフクフの持つ剣が貫くのを見た
「さてこんなもんでしょうか、驚いていただけました?」
「は、はい・・・えっと、ずっとここに居たんですよね?」
「ええ、もちろん、最初から最後までアサギ君を殺せる位置にいましたよ」
「うー・・・まだまだ先は長いなぁ・・・」
アサギは思わず空を見上げる
「はっはっは、そりゃあまだまだアサギ君とのレベル差がありますからね、でもこれじゃあ稽古にならないからちゃんとした戦いをしましょうか」
「はい!お願いします!」
ダンチョー、そしてフクフとの稽古が終わったアサギは夕飯の時間なのでログアウトをした
そしてご飯、お風呂が終わり再度ログインするとどうやらパーティ全員が揃っているようだ
「オネさんお仕事お疲れさまー」
「ありがと、いつも私が最後でごめんね」
「私達は学生だから仕方ないですよ、それに遅いっていっても皆がご飯とか終わる時間にはこうやって集まれるんだし」
「そうそう、オネさん気にしないでいいっすよ!」
マーリンの発言に学生たちが頷く
「ありがと、そう言ってもらえると嬉しいわ、今日はダンチョーさんの所に行くんだっけ?」
「はい、今日稽古に行ったら「そんな仕事もあったな~」とか言ってたけどね」
「あの人らしいな」
6人は土の教会の団長室へと向かった
「ダンチョー団長、アサギです、はいっていいですかー?」
「おう、仕事が来たな、いいぞー」
「失礼しまーす」
団長室にはダンチョーとフクフが居た、フクフはダンチョーが終わらせた仕事の書類を取りに来たようだ
「おう、座れ座れ、これで仕事から解放されたぜ、さてじゃあ聞かせてもらおうか、「トークノ盆地」での話を」
「はい」
アサギはイベントでの事を話した、出てきたスライムが何かの力を吸い取っていた事、そして本当はその何かを召喚しようと邪教徒が儀式をしようとしてた事、召喚をしようとしてた邪教徒が地下から湧き出たスライムに遠くへ飛ばされていた事、スライムがどんな形状に変形していたのかという事、あとついでにアーサーの事、とにかく色々と話した
「はっはっは!召喚しようとしたものがスライムに食われてしかもそのスライムに吹っ飛ばされるなんて馬鹿みてーな邪教徒もいたもんだな、あー、笑いがとまらねぇ!ハーッハッハッハ!!!」
「ほんとに・・・ちょっと可哀想だな、とは思いますけど・・・でも・・・プッ!」
「ハーッハッハ!!!今度そいつの顔でも見て見たいもんだな!」
「しかし団長、そうなるとそのスライムがその何かを全て吸い取ったんでしょうか?」
フクフの言にダンチョーは笑うのをやめ真剣な顔になった
「いや・・・それは無理だろう、というか仮に全ての力を吸い取っていたら多分今の外遊人達だけじゃあ相手にならん、死なないから時間稼ぎにはなるだろう、その程度だ」
アサギ達に緊張が走る
「ダンチョー団長はあのスライムが何を吸い取ったか知っているんですか?」
「ん、ああ、この前お前たちが来た時いなかっただろ?あん時俺らは国の要請で「トークノ盆地」の調査に行ってたんだ、古い文献とか見て気になるもんを発見しちまったからな」
「まるで発見したのが嫌だったみたいな言い方ですね、何を見つけたんですか?」
「ああ、実際気が滅入っちまったからな、お前らあそこにある、えーっとインスタンスダンジョンだっけか?外遊人の言葉で言うと、それに入った時なんか思わなかったか?」
「えーっと・・・栽培地って名前だったんですけどただの森にしか見えなかったなー、ってくらいですかね」
「そう、それだ、名前からわかる通りにあそこには昔人が住んでいたらしい、文献ではそこに災厄が降り注ぎ人が住めるような所じゃあなくなったとある、しかもその災厄のせいで「トークノ森」の木がかなり増えて「トークノ盆地」に辿り着ける奴がいなくなっちまったみたいなんだ、で、これは予想なんだが邪教徒がその災厄を目覚めさせようとしたから「トークノ盆地」に行ける道が現れたんだと思うんだが・・・じゃあ邪教徒はどうやって「トークノ森」を抜けて「トークノ盆地」に行けたのかとなるとそこはまだ調査中だ」
「その災厄が邪教徒の信じる神だった・・・だから「トークノ森」で増えた木々は邪教徒を「トークノ盆地」まで通した・・・って事ですかね?」
「んー・・・まあ、予想の一つとしては合ってるな、確定ではない、そもそも文献には災厄としか書いてなかった、しかしその災厄一つで「トークノ盆地」の周りの山はさらに高くなったそうだ」
「え?どういう事ですか?」
「ん、元々盆地だった所に災厄が文字通り降ってきたんだと、ちょうど「トークノ森」からの入り口の方向からな、その災厄は地面をえぐりその土が山に降り注ぎ今の標高になったらしい、まあ、文献だから眉唾物ではあるがな、まあ、そのくらいの威力があってもそこに存在しているくらいだ、相当なもんが降ってきたんだろ、だからそれの力を全て吸収できたとしたらお前らだけじゃあ・・・いや、俺らがいても勝てなかったかもしれないな」
「なるほど・・・それは確かに・・・強そうですね・・・」
「おう!だからお前たちにもっと強くなってもらいたくてな!!大規模模擬戦の開始を早めたって訳だ!!お前らアサギから話は聞いたか?お、そうか、聞いたか、よしよし、お前らと戦う事になっても容赦しないからな、むしろ本気を出してやるぞ、ハッハッハ!!!」
「模擬戦をやるってのと教会の人と戦うって話は聞いたんですけど実際どんな感じでやるんですか?」
「ん?アサギん所の神様からは連絡行ってないのか?外遊人だからか?単純に言えばだな、1000人くらいを2チーム、つまり1チーム500人だな、に分けてフィールドの奥に居る俺らを先に倒せば勝ちって感じだ、ざっくり言うとな、でも2つにチームを分けてもフィールドは1つだけだ、狙う相手は別だから相手チームを妨害するのか、それとも500人全員で俺らを倒しにくるのか、倒してる時に相手チームが後ろから来たらどれだけ戦力を回すのか、とか色々考える事はあるだろうな」
「なるほど・・・PvEとPvPを一緒にやろうって事か・・・」
「それをだな、お前らの時間で言えば1週間に1度やる、頑張れば国の御用達の職人の武器防具と交換できるポイントがもらえるぞ」
「それってやっぱり強いんですか!?」
「ああ、そりゃそうだ、アサギが持ってるもんと比べても遜色ねぇのもある、正直敵を倒して武器が出るのを待つよりは頑張れば絶対に貰えるもんだし参加しねぇ手はねぇな」
「パラディンロードの剣と同レベル・・・凄い!!」
「ああ、その分ポイントは多めだろうけどな、まあ、頑張ればいつか手が届くだろ」
「はい!頑張ります!!」
「よし、とりあえずこっちの話はそんなもんだ、始まるまでに精々強くなってる事だな」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「だがまあ、今は茶でも飲んでゆっくりしていけ、お前らがいれば俺が仕事しないで済むんだ、な!もうちょっと居ろ!!」
団長室の中からはその後しばらく人の声が漏れていたのだった




