聖騎士と一冊の本と神官の物欲センサー
時間がないなら通勤時間と昼休みを生贄にすればいいんだ・・・
夜の更新はできなくてもこの時間なら・・・この時間なら・・・
昔、王都で流行病があったらしい
その病は当時の王都の住人の4分の1もの死者をだした
この流行病には回復魔法が何故か少しも効かなかった
当時の神官達は苦しんだ、今まで守れていた命を守る事ができないから
ならばせめてその死者達が魔王に操られないように、永遠の安らぎを邪魔されないように、守れなかった人々をこの手でまた殺めなくてもいいように、教会は全ての者に祝福をかけ安らかに眠れるよう願った
流行病が形を潜めてどのくらいの時が経っただろうか
かなりの人数を失った王都は疲弊していた
このような時に神は何故何も言ってくれないのか、そう憤る声も聞こえたが返事が返ってくる事はなかった
その後変化が訪れる、人々がそうならないで欲しいと願った変化が
1番最初にそれに気付いたのは1人の男
誰もが尊敬し、誰からも愛された若き英雄の墓参りに訪れたその男が墓地に入ろうとした時違和感に気付いた
(この感じは・・・アンデット!?しかも半端ない量だ!!しかし教会が祝福をかけていたのをこの目で見た、いや、そんな事を言っている場合では!!)
男は駆け出した、アンデットは足が遅いと経験でわかっていたので振り返る事もせず近くの教会に駆け込んだ
「おい!墓地にアンデットがいる!急いで聖騎士団を向かわせてくれ!アンデットの相手は俺達よりお前らの方が得意だろう!?急いでくれ!住人が心配だ!」
何を言っているんだこいつは、祝福をかけた死者が起き上がる事はない、教会に対する嫌がらせか、そのような姿勢が彼に刺さる
「いいからはやくしろ!間違いなら間違いでもいい!後で俺が責任をとる!今ならまだ止められるかも知れないんだ!!」
男のあまりの剣幕に教会内部は騒ぎだす
もしやこいつが言っている事は本当なのか?だとしたら、何故?
「はやく!!!」
その男は聖騎士団と共に墓地に急ぐ
「チッ、あーあ、最悪だ・・・ダンジョン化しないように力を抑えたってのに、数が多すぎたのか?しかも外に出てこない形のダンジョンとか・・・まあ、王都内部に穢れを残せる、って事は最悪の二歩手前くらいか?」
「き、貴様!何者だ!!?」
「あー?ああ、生き残りか、おめでとう、よく生き残れました!!お祝いにお前らにアンデットの大群をプレゼントします!!」
聖騎士団達の緊張が一気に高まった
「・・・ってする予定だったんだけどなー・・・はー、よかったな、お前ら、呪いにもかからない、アンデットはこの様・・・はー、まあ、いい土産にはなるか?」
「まて、今なんと言った!?呪いだと?この流行病は呪いなのか!?」
聖騎士団の1人が叫んだ
「えー?あれー?6つの神様を信仰なさるお方がそんな事もわからなかったんですかー?やっぱそんな教会なくなった方がいいんじゃないですかー?」
「っ!まさかお前!邪教徒か!?」
「あーん?邪教徒はお前らの事だろ?まあ、いいか、そーでーす、邪教徒でーす、王都を滅ぼす為に仲間を生贄にして呪いをかけてみましたー、でもご安心ください、アンデットはダンジョン化してしまったのでもう少し生き残れると思いまーす」
「貴様が!貴様がナイットン様を殺した元凶なのか!!」
男が叫ぶ
「あーん?誰それ?しらねーな、あー、強い個体がいたからダンジョン化しちまったのか?なるほどなるほど、じゃあお前らはそいつに感謝しねーとなぁ?そいつのお陰で最悪の二歩手前で済んだみたいだぜ?」
「き、きさまぁぁぁぁ!!!」
「おっと、俺はこれでも忙しいんでな、遊び相手にはなってやらねーんだ、じゃあなー」
そう言い残し邪教徒は消えた
「くそっ!!くそぉぉぉ!!」
その後このダンジョンはその存在をあまり公にしない為に教会が管理する事になった
何故ここがダンジョンになったのか、その事実は語り継がれる事はなかったが
「と言う、バックストーリーがあるらしいわ」
宝箱の前でセッキーが語る
「へー、ナイットンのお陰で王都は平気だったんだ、なんか倒して悪い事したね」
「そうか?あんま気にならないだろ、こっちは襲われてんだから」
それもそうかとアサギは考えた
聖騎士は割り切るのがはやいのだ
「てか貴女達も箱から本を取ったでしょ?なんで読まないの!?」
あの箱の中にあった本はクエストアイテムらしく1人1冊取得する事ができた
「「あ、装備が気になりまして・・・」」
「ダンチョーの所に報告にいったらもう一周、いや、私の装備が出るまで周るわよ!!」
「「おおーー!!!」」
「ダンチョー団長、1週目終わりましたー」
「おう、早かったな、相手は強かったか?ドロップはどうだ?」
「ダンチョー団長が槍と大剣相手の稽古をつけてくれてたのでそこまで強くはなかったですかね、後ガオーンにやられたのも大きいかと、ドロップは私の鎧とマーリンの服、あとは本がでました」
「ん?本?初めて聞いたな、中身はどんななんだ?」
「いつもはどんな物がでるんですか?」
バッグから本を出そうとしたアサギを遮るかのようにセッキーは問いかけた
本を見せていいか少し考える時間が欲しかったのだ
・・・ドロップ品の中に自分の装備が存在しているかどうかが気になった部分も少しだけある
「ん?ああ、いつもは防具が1つか2つ、これは全部で4種類、鉄板、鎖、皮、布だな、で、あとはお前らのレベルで手に入れたらなかなか使える武器がでる、まあ、こっちは確率が悪い、でも確実にでる、ってわかる時もある」
「ラスボスが変わる、って事ですか?」
「おお、わかるか、お前らが倒したのは「呪いに侵されたナイトマスター、ナイットン」だろ?あれがたまに「呪いに阻まれた未来ロイヤルナイト、ナイットン」になる、ロイヤルナイト知ってるか?ナイト版のパラディンロードの事だ」
「それは強いんですか!?」
アサギが食い気味に聞く
「そりゃナイトマスターよりロイヤルナイトの方が強いに決まってるだろうが、しかも武器も確定だ、ナイトマスターが相手で強くなかった、って言えるなら戦えるんじゃないか?色々変わるがこれ以上は自分で確かめろ、狙って会える訳じゃないしな」
「ありがとうございます!楽しみです!」
「で、本はどんななんだ?」
これは誤魔化せそうにないな、そう考えたセッキーは本をダンチョー団長に差し出した
「ん?なんだこの真っ白な本、メモ用か?こんなもんでるのか、アサギもでたんだろ?そっちのは・・・同じか、変な物がでたな、外遊人だからでたのか?」
「え?ダンチョー団長は書かれてる文字が見えないんですか?」
「ん?なにか書かれてるのか?」
ダンチョーが嘘をついている様には見えなかった
つまりこれはNPCが知ってはいけない情報なのだろうか?セッキーは考え
「ええ、ここにはナイットンが書いたと思われる恨み言がずらずらと書かれています」
アサギとマーリンは一瞬何故嘘をついたのかと考えた、しかし嘘をついたのはセッキーだ、何か考えがあるのだろう、2人とも尊敬しているダンチョーに嘘はつきたくなかったがそれ以上にセッキーを信頼しているのでそれを口にはださなかった
だがそんなものはダンチョーからしたらお見通しな訳で、しかしそれを口にする程野暮な男ではなかった
ダンチョーもアサギ達を信頼している、なにか隠し事はあるのだろうとは思っていても無理矢理聞き出そうとはしなかった
「そうか、外遊人だけにしか言ってはいけない事でもあるんだろうな、で、お前らもちろんこの後も周回するんだろ?回数をこなすと慣れてきて注意力が落ちるからな、そこだけ気をつけていけよ」
「「「はーい!」」」
「ねぇ、セッキー、なんでダンチョーに嘘ついたの?」
セッキーがそうしようと思ったのだ、不満はない、だが理由がわからなかった
「貴女達、一度でもいいから邪教徒の話聞いた事ある?」
アサギとマーリンは顔を見合わせ2人同時に首を振った
「でしょ、ここに書いてあるのは昔とだけ、今はいないかもしれない、でもゲーム的な事を考えると確実に居るわ、ただでさえ今は「王都襲来」でNPCはピリピリしてるんだからわざわざ敵をそこまで増やす必要ないでしょ、もしかしたらまだ実装されてないかも知れないんだから探そうとしても見つかりっこないんだかは余計な事よ」
そう言うとアサギは微笑んだ
やはりセッキーには考えがあった、しかも人を思いやる考えが、アサギはそれが嬉しかった
「なにニヤついてるのよ、そんな事に費やす時間と人員が無駄だ、ってだけよ!」
「まーったく、素直じゃねぇなぁ、アサギもそう思うだろ?」
「くふふ、それがセッキーだからね!」
「ほっといて!アサギが人前で持てる武器と私の防具出すんだから!迷宮が入れる様になり次第はいるわよ!」
わいわい騒ぎながら一行は墓地の奥にある通行止めの検問を通り抜け墓地の迷宮を目指す
その検問の通り方を知りたがり誰が通るものならその人に話を聞いてみようと張り込みをしているプレイヤーに少しも気付く事もなく




