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聖騎士の涙は人には見せない

 狩りが順調に進んでいた3人はもう少し進んでみようかといい「チトトーイ荒野」に向かっていた

 最悪死んでもデスペナルティーは経験値が減る事とこの世界での3時間だけステータスが下がるだけなのでまだ心配はしてなかった

 充分経験値は稼いだし時間的にもそろそろログアウトをしなければいけない

 明日も学校である


「チトトーイ荒野」についた3人はある違和感を覚えた


「あれー?このマップってモブいないのか?全然見えないぞ」


「え?そんな所あるの?でもほんと何もいない、まさか擬態するモブとかがいるって事?そうなるとハンター系のスキルがないと奇襲を受けちゃうのかな?アサギと少し離れて歩いた方がいいのかしら?」


「あー、そういう考えもできるんだね、なるほど、私なんかさっさと奥に行こうとしちゃってた」


「んー、じゃあセッキーの案採用って事で、アサギ、ちょっと先行してくれ、ちゃんと魔法が届く範囲でな」


「うん、わかった、じゃあ行くよ」



 それから5分は歩いただろうか

 モブが全然いないから帰ろうかと思った時急に空気が変わったのがアサギ達には感じられた


「なにか・・・いるよね、見えないけど」


「うん、なんとなくだけどわかるわ、今まで会った事がない感覚、ちょっと怖い」


 アサギは似たような感覚は何度もダンチョーから受けていたので怖いという事はなかった

 聖騎士が敵を前にしてびびってはいけないと散々ダンチョーにびびらされた経験が役に立っていた


「・・・どうする?逃げるか?多分勝てないぞ」


 その通りだろう、姿が見えていないのに居るとわかるほどの存在感、今は全然会わなかったが他のモブが生息している場所で隠そうともしないのはこの圧を放っているモブが強いからだ


「・・・ああ、なるほど、だから敵がいなかったのね」


 アサギは理解した

 この荒野にはモブがいないのではない

 こいつから隠れているだけなのだ






 この「まおクエ」ではなによりバランスが重視されている

 それはモブの配置においてもそうだ

 しかし同じような配置にばかりする訳にも行かない

 バランスは大事だがなにも美味しいモブだけがバランスではない

「チトトーイ荒野」のマップコンセプトはあまり美味しくないモブと倒せるならば美味しい時間沸きのモブの配置

 経験値を時給換算すると美味しいとは言わないが時間沸きのモブだけを狩りに来るのならけして不味いとは言えないものがあった

 楽に倒せるレベルならの話ではあるのだが



「んー、どうせデスペナ食らってもすぐ取り返せるでしょ、どんなのがいるか見てみたいな」


 ダンチョーのお陰であまり恐怖を感じていないアサギは前進を提案した


「そう?まあ、とりあえず見てみるだけでもしようか、最悪逃げればいいしね」


「そうだな、もしかしたらまだ誰も見つけてないモブかも知れないぞ」


 3人はプレッシャーの発生源へと近づいていく



 見つけた、小高くなっている場所にそれはいた

 2メートルほどはあろうかという体躯、頭から生える二本の角、発達した筋肉をした右手で持つ金属製の棒、明らかに普通のモブとは違う


(あれは無理だ)


 アサギは引き返そうとした、しかし身体が動かなかった

 ただ目があってしまっただけなのに・・・


(やばい!?くる!?)


 咄嗟に身構えるアサギ、だが目の前にいるそれはにやりと笑ったままこちらに身体を向けただけだった


「あれはオーガ・・・なのか?サイトで見た事があるのとは色と武器が違うんだけど、頭の上に文字があるって事はネームド?めっちゃ強そうじゃねーか」



 モブには個体名をつけられた者が存在する

 それは大体が強さの証である

 名前をつけて注意を喚起するのだ


 あれは強いぞ、と



 このオーガの名前はガオーン、この「チトトーイ荒野」最強の個体である

 倒されてから数時間は復活しないのと倒さなくても時間が経てばどこかへ行ってしまうのでなかなか倒したくても会えない、そんな設定である

 だが出現したのはすぐわかる、荒野にモブがいなくなるからだ

 ガオーン以外のモブはガオーンを恐れて消えるのだ、将来的には出現がわかりやすく狩られやすくなるからますます会いにくくなるだろう


 ガオーンは笑っていた

 一応アクティブモンスターに該当するのだがガオーンの設定に強敵を望むと言うものがあり、準備もできていない奴に全力の攻撃を叩きつけるなんて事は彼の中ではあり得ない事なのだ


 ニヤニヤと笑いながらガオーンはアサギ達と同じ高さに飛び降りる


 たったそれだけの行為にアサギ達はもう逃げられないと悟った


(ならやる事はなんだ、この敵には出し惜しみはだめだ、あり得ない)


 アサギはすぐに武器を交換した

 パラディンロードの剣を装備したアサギを見てますます嬉しそうにするガオーンが少しずつ近づいてきて・・・止まった


 緩やかにこちらに見せつけるかのように右手の金棒を肩に担ぎ上げ


「グオオオオオオオォォォォォッッ!!!」


 叫んだ

 叫び終わった後辺りは静寂に包まれた


 ヒュー・・・ヒュー・・・


 なんだろうこの音・・・


 ヒュー・・・ヒュー・・・


 音の出所がわからない


 ヒュー・・・ヒュー・・・


 案外近くから聞こえる、ああ、そうか、これは私の呼吸の音だ


(あれ、呼吸っていつもどうやってたっけ?わからない、わからない・・・)


 アサギがパニックを起こしている時後ろにいる2人も同じような状況だった、セッキーに至っては腰を抜かし座り込んでいた


 その3人を見て強者を望むガオーンが抱いた感情は失望だった

 ちょっといい盾とかなりいい剣を持つ女、これは期待できそうか?と思っていたのに本気を出してすらいないただの雄叫びで相手の戦意は霧散している

 殺す価値もない、さっさと帰るか、と興味を無くしかけた時ガオーンは見た


 アサギは膝を震わせながら笑っていた

 いや、無理矢理口角を吊り上げさせていた







「アサギ、俺たちパラディンは戦いにおいて何をする職業かわかるか?」


「えーと、敵の攻撃を受け持つ、でしょうか?」


 稽古中にいきなりダンチョーが聞いて来たのでアサギは思った事を口にした


「あー、まあ、それはそれであってるんだがよ、じゃあこれが出来たらいいパラディンだ!って条件はなんだと思うよ?」


「えー・・・これができたらいいパラディンの条件・・・なんだろう・・・」


「まあ、実戦をした事がないアサギにはわからねーか、それはな・・・」


 そう言った瞬間にダンチョーはアサギに向けて圧を放った


 ビクッ!!


「こいつが前にいりゃあ安心だ、そう思わせる事だ、今見たいにびびってちゃあ後ろは安心できないぜ?それほど強くやってねぇしな」


「な、なるほど・・・わかりました」


「まあ、心構えだけはしておけ、それでも予想外の敵と出逢っちまってびびっちまったらなぁ」



 まず笑え、無理矢理口角をあげろ

 それでまず自分を落ち着かせろ


 そして自分の後ろに守る人がいるのなら


「うおおおおおおお!!!!」


 叫べ!!!

 目の前にいるパラディンはどんな敵にもけして引き下がらないと教えてやるんだ!!


「セッキー、マーリンごめん、ちょっとびびってた、でももう動ける」


 アサギはガオーンから視線を外さずそう言った

 今までの態度から不意打ちはないだろうとある意味で信用は出来ているのだが視線を外した瞬間にガオーンに何もできずに負ける気がしたのだ


 だからアサギは視線を外さない

 絶対に何もできずに負けてやるもんか、視線に力を込める


「アサギ!支援魔法かけ直すね!」


「よし!火力は任せろ!」


 2人の心にも火が灯る


 一度興味を失いかけたガオーンが再度笑った


(まずはその笑いをできなくさせてやる!)


 アサギは盾を前に押し出すようにガオーンの元へ走り出す

 その動きに呼応するかのようにガオーンは肩に担いだ金棒を持ち上げアサギ目掛けて振り下ろしてきた


 完璧なタイミングでアサギに襲いかかる金棒を目にしたアサギはこの一撃を受け止める事も受け流す事も出来ないと悟った


(なら!前!)


 瞬間アサギは加速する、その速さのままガオーンの身体にぶつかった

 試すつもりで金棒を振るっていたガオーンはそこまで力を込めていなかった為か、アサギの急激な加速をかけたぶちかましに体勢を少し崩す

 前に出なければ多分一撃で終わっていた、前に出る事で作れた一瞬の隙をつきアサギは右手に持つ剣でガオーンに攻撃を加えようとする


 だが当たったのは切っ先

 右手を振り下ろすかのように放った剣戟はガオーンの命には届かない、だがそれでもいい、それでいい、アサギは自分がダメージを与えないといけないとは考えていない


 そこに詠唱を終えたマーリンの火の魔法が降り注いだ


「喰らえ!ファイヤーボルトだ!」


 これはどうだ、命を散らす事ができる攻撃なのか?どれくらいの効果があるのかを見極めようとするアサギの前には余裕の笑みを浮かべ避けようともしないガオーンがいた


 その笑みに再度恐怖が浮かびかけたアサギは自分を誤魔化すかのように剣を前に出す

 キンッ!金属と金属がぶつかる音がする

 止められた、違う、ガオーンの金棒は止まらない

 アサギは相手の攻撃を止める事が出来ないと知ると流すように力を抜き相手の姿勢を崩そうとした

 しかしガオーンはまだ本気で攻撃をしてきた訳ではない

 身体を前のめりにする事もなくその金棒は振り上げられ

 アサギのHPは1発で無くなった



 気が付いたらアサギは道具屋の裏の自分の教会のベッドに転がっていた


「1発かー・・・最後の攻撃、あれでも本気じゃあないよね、強いなー」


 起き上がる気持ちになれなかった

 悔しさがどんどんと溢れてくる


『アサギー、私達もやられたー、今日はもう遅いしまた明日遊ぼー』


『おう、アサギか、あいつ強かったなー、でもいつかリベンジしような!今日は解散だって言ってるからまた明日学校でな!』


 2人から話しかけられたが曖昧な返事を返す事しか出来なかった

 その後すぐにログアウトした私は自宅のベッドの上で少しだけ泣いてしまった

やっと戦闘シーンがきた

・・・戦闘か、これ?

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