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俺達は自己紹介一つするのも大変だ

自己紹介一つするのにもすんなりいかないのが恭達です

 爺さんに別れを八階まで上がって来たものの、大人しく部屋に戻る気にはなれないでいた俺はゲームコーナーに来ていた


『お前、ゴールデンウィークになったら一度実家に帰れ』


 昨日爺さんから言われた事が頭から離れない。傍から聞くと祖父が孫に帰省を促している言葉に聞こえるが、俺にはどうにも引っかかる。聞いても無駄だと思って何も聞かなかった俺も俺だ


「何で爺さんはゴールデンウィークに実家帰れって言ったんだ?別に夏休みでも問題ないはずなのに」


 爺さん曰く親父から俺に話があるらしい。しかし、それなら親父から直接帰って来いと言われるはず……何で爺さんからなんだ?


「考えても無駄か。爺さんも親父も何考えてるか分からないし」


 爺さんも親父も何かを始める時はいきなりで俺はそれによく付き合わされた。今更爺さんと親父が何を考えてるか知ろうとは思わない


「ゴールデンウィークか……」


 親父の話が何なのかはゴールデンウィークになってみないと分からない。もしかしたら俺が高校卒業するまでは面倒を見てやるけど、その後は知らん的な話かもしれないしな


「勘当されない事だけを祈るか」


 親父の話がどんなものか想像も出来ない。今の俺には勘当されない事だけを祈る他なかった


「恭! ここにこんなところにいたのね!」

「零か……どうした?爺さん達はもう行ったのか?」


 零がここに来た時点で答えは決まっている。爺さん達が行ったからここに来ているのだと


「とっくの昔に行ったわよ! それで気が付いたら恭がいなくなってて部屋に戻ってもいなかったからみんなで探してたってわけ!」

「悪い。ちょっと疲れたから先に戻ったんだがあまりに暇すぎてここに来たんだ」


 爺さんと話すのがめんどくさいから逃げてきたとは言えず咄嗟に嘘を吐く事にした。俺が嘘を吐いたところで零達は傷つかない


「ふーん……」

「それより、とっとと部屋に戻るぞ。待たせたら闇華や藍ちゃんがうるさいからな」

「そうね。闇華と藍さん、琴音や飛鳥、双子ちゃん達だって待ってるわ」

「だな」


 昨日爺さんから飛鳥と中学三年生の双子が新しく入居すると言われた。むしろそれしか言われなかった。


「だな。じゃないわよ! みんな待ってるんだから! ほら! さっさと行くわよ!」

「お、おい!」


 俺は半ば零に引きずられる形で住まいに連行される事となった。こりゃ家の中とか関係なく常に誰かと行動させられそうだな



 ゲームコーナーから住まいに戻った俺を待っていたのは同居人の暖かな出迎え……ではなく


「恭君!! いきなりいなくなってビックリするじゃないですか!!」

「そうだよ!! 私達本気で心配したんだからね!! その辺解ってる!? 恭クン!!」

「恭くん!! 前に言ったよね!! どこか行くなら誰かに伝えてからにしてって!!」

「恭ちゃん、部屋に戻るって言ってたのに何でいなかったの?もしかして私に嘘吐いたの?」


 という闇華達からのお叱りだった


「「あ、あはは……」」


 見覚えのない双子が闇華達の怒り様を目の当たりにして苦笑いを浮かべているのだが、俺としては自業自得だったとしても笑えない


「わ、悪かったよ。部屋に戻ってきたは戻って来たけど、暇になったからゲームコーナーに行ってたんだよ」


 闇華達が単純な思考の持ち主なら零と同じように誤魔化されるはずだ


「恭君、そんな言い訳で誤魔化しきれると思ってるんですか?零ちゃんは優しいから誤魔化されたフリをしてくれたと思いますけど私達も同じように誤魔化されると思ったら大間違いですよ?」

「そうだよ。恭ちゃん。私達は誤魔化されない」


 そこから俺は闇華達に正座を言いつけられ、一時間たっぷり説教される羽目になった




「恭君のお説教はこれくらいにして自己紹介の時間にしましょうか」

「そうだね。恭ちゃんもこれに懲りたら勝手にいなくなるだなんてバカな事しないだろうしお説教はこれくらいにしておこうか」


 説教された方の身としては一時間も正座させんな!って文句と説教するのに一時間も必要ですか?って疑問があるのだが、それを言うと闇華と東城先生がキレるから黙っておこう


「そうね。恭が余程のバカじゃない限りは同じ事を繰り返したりしないでしょ」


 零さん?それは遠回しに俺がバカだと言っているんですか?そうなんですか?


「ま、まぁまぁ、恭くんだって反省してるようだからこれくらいにしておこうよ」

「そ、そうだよ、恭クンだって私達が心配したって十分に理解したと思うよ?」


 琴音……飛鳥……お前達は俺を信じてくれるんだな?そうなんだな?


「そ、そうだぞ! 俺だってみんなに心配掛けるような真似二度もしないぞ?」


 琴音と飛鳥の意見に便乗するも心配を掛けるような真似を絶対にしないという保証は出来ない


「「「「ふ~ん、どうだか?」」」」


 ダメだ……完全に信用を失ってる。つか、零や闇華、東城先生だけじゃなく、琴音と飛鳥も信用してないのね


「つ、次に同じ事をしたら何でも言う事を聞いてやる! 俺が叶えられない事以外でな!」

「「「「ほお~、何でもねぇ……」」」」


 ヤバ……もしかしなくても俺は自分で自分の身を滅ぼそうとしてる?


「お、俺に叶えられる範囲でな!」


 今までなら何でも言う事聞くと言って目の色を変えたのは闇華と東城先生だけだった。今回は意外な事に零、琴音まで目の色を変えてきたので釘を刺しておいた。いや、闇華と東城先生だけの時も釘は刺すよ?


「分かってるわよ。安心しなさい、恭。アタシ達のお願いはもう決まっているから」


 いつもなら零に安心しろと言われれば心が軽くなるのだが、今回に限って言えば全く! これっぽちも! 安心出来ない


「多少思うところはあるが、決まっているのならいい。それより、そろそろマジで自己紹介を始めないか?それと、俺はもう正座を止めていいか?足が痺れた」


 いい加減自己紹介を始めないと日が暮れる。それと、さっきから蚊帳の外にいる双子がいい加減可哀そうになってきた。ついでにずっと正座してたから俺の足が限界だ


「恭くんの言う通りだね。双子ちゃん達をこれ以上放置するのは可哀そうだから自己紹介といこっか。恭くんは足崩していいよ」

「そうさせてもらうわ」


 さっきからずっと放置されていた双子は自分達が忘れられてない事に対してなのか安堵の笑みを浮かべ、俺はようやく足を延ばせるようになった


「自己紹介するのはいいけど、誰からにする?家主である恭クンから?それとも私達女性陣から?」


 自己紹介するという事で満場一致したのはいい。しかし、いざ自己紹介するとなった時に出てくる問題が順番だ。学校だったら出席番号順とか、席順とかで自己紹介の順番なんて割と早く決まるが、ここは学校じゃない。自己紹介をする順番をどうしたものか……


「そうだな……最初は家主である俺からでその次はここに来た順でいいだろ。んで、双子は最後な」


 我ながら適当なアイデアだ。考えるのが面倒だからといって家主の後はここに来た順。別名俺が拾った順だ


「何か釈然としないけどそれが妥当ね。アタシはそれでいいわ」

「私もです。皆さんもそれでいいですよね?」

「「「「「もちろん!」」」」」


 賛成してもらえて何よりだ


「んじゃ、俺から。名前は灰賀恭。一応ここの家主をやらせてもらっている。歳は十五歳。趣味はゲーム。以上」


 はい、俺の自己紹介は学校でしたのと同じかそれ以上に酷くなりました


「恭……アンタ、もっと他にないわけ?」

「零ちゃんの言う通りですよ、恭君。さすがに少なすぎます」


 零さん?闇華さん?貴女達二人は俺とそこそこ長い付き合いだから知ってるでしょ?灰賀恭という人間は語れる事が少ないって事


「うるさい。自己紹介と校長の話は短い方がいいんだよ」


 校長の話も自己紹介も長いとダレる。特に自己紹介はしてる方も聞いてる方もダレてくるから不思議だ


「そう言ってただめんどくさいだけでしょ?恭の場合は」


 さすが一番最初に拾った女だけあって零は俺の事をある程度は理解しているようだ


「よく分ったな! その通りだ! それより、次は零だぞ」

「分かってるわよ!」

「俺の自己紹介にイチャモン付けたんだ。さぞ素晴らしい自己紹介をしてくれんだろうなぁ……零は」


 さっきの仕返しと嫌がらせの為に零に対するハードルを上げる俺。自分で言うのもなんだが……性格悪いな


「恭……覚えてなさい」

「はいはい」


 零、いい機会だから覚えておくといい。そういう台詞は三流の悪役が吐く台詞だとな


「おほん! 気を取り直して! アタシの名前は津野田零!歳は恭と同じ十五歳! 趣味はショッピングとお料理。順番的に分かると思うけど恭に一番最初に拾われたわ! 恭の秘密を知りたかったらアタシのところに来なさい! 何だって教えてあげるから! 以上!」


 名前と年齢とここに来た時期は合っている。趣味に関しては俺も始めて知った。だけどな、零。俺は! お前に! 秘密にしてほしい事を! ただの! 一度たりとも話した事もなければ弱みを握られる事をした覚えもない!


「名前と年齢、ここに来た時期、趣味はいいとして、零が俺の秘密を握っている事もなければ零の前で弱みを握られるような事をした覚えもない! デタラメ言うな!」

「さっきハードルを無駄に上げてくれた仕返しよ!」


 元はと言えば人の自己紹介に難癖をつけたお前が悪いんだろ


「零なら俺よりもいい自己紹介してくれると思ったんだよ! 何せ俺は零以上に信頼できる奴はいないからな!」


 自分で言ってて思う。前半はともかく、後半は意味不明だと


「ほ、褒めても何も出ないわよ!」


 うん。いきなり信頼してるとか言われて顔真っ赤にして照れる零。俺は嫌いじゃないぞ! 特にそのチョロさが


「別に見返りが欲しくて褒めたわけじゃねーから」


 見返りは求めてない。ハードルを上げた事を忘れてさえくれればそれでいい


「そ、そう! それより! 次は闇華の番よ!」


 顔が赤いのを誤魔化すようにして次の闇華へバトンタッチ。零、素直じゃない性格というのは時として俺を助けるんだな


「分かってますよ。それより、恭君」

「何だよ?」

「自己紹介が終わったら私も褒めてくれるよね?」


 闇華がタメ口になる時=病み始めだ。その証拠に目に光はなく、逆らったら殺される勢いだ


「自己紹介が終わったらな」

「約束……だよ?」

「ああ、自己紹介が終わったら好きなだけ褒めてやるからハイライトの消えた目で俺を見ないでくれ」


 別にね?闇華が病んでもね?怖くはないんだよ?だって、俺と出会う前の事を考えると依存できる人って必要だと思うから。でもね?いきなりヤンデレにシフトするのは勘弁してください!! マジで対応に困るから!!








今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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