東城先生が怖い
飛鳥のギャップと鬼の東城先生!
俺は疑り深い人間だ。それが今日友達になったばかりの人間だと尚更な
「男として振る舞っている理由を話してくれんのはいい。その前に飛鳥が本当に女かどうか確かめさせてくれないか?」
本題に入る前に俺はもう一度飛鳥が本当に女かどうか確かめるようと思う。だってそうだろ?さっきの柔らかい感触だって詰め物をしているかもしれない。そう思われても不思議じゃない
「あれれ~?もしかして恭クン俺が女じゃないって疑ってるぅ~?」
「当たり前だ。明るいとこならいざ知らず、こんな暗がりで女ですって言われて抱き着かれたとしても素直に信用なんて出来ねぇよ」
闇華に抱き着かれた時は駅でアイツが女だって事を知ってたからすんなり信用出来た。が、今回は状況が状況だ。飛鳥が女子トイレから出てきたのだって俺を待ち伏せてって可能性も捨てきれない
「恭クンって昨日も思ったけど、警戒心強くね?俺ってそんなに信用ない感じ?」
信用してないわけじゃない。単に男だと思っていた奴からいきなり女ですだなんて言われて思考が追い付かないだけで
「信用ないって言うよりも男だと思っていた奴にいきなり女ですって言われて思考が追い付かないだけだ。それに、口調の事を言いたかないが、女だって言った後も飛鳥の一人称は『俺』のまま。別に悪いとは言わねーけどいまいち信用性には欠ける」
人の一人称なんて正直どうでもいい。場合によっては男でも『私』って言うしな。それよりも暗がりで抱き着かれ、柔らかい感触があったとしても信用性に欠ける方が問題だ
「俺としては恭クンに信用してもらわねーと話が前に進まないからスッゲー困る」
「それはお互い様だ。俺も早く話を終わらせて教室に戻りたい」
先生に追及されんのは面倒ではある。それに今日は東城先生の友達だっていう警察官が俺に話を聞きに来るからより一層面倒だ
「お、俺が本当に女だって分かったら……は、話を聞いてくれんだよな……?」
「ああ。飛鳥が本当に女だって分かったらな」
「や、約束だぞ?」
「ああ、約束だ」
「じゃ、じゃあ、ちょっと目を閉じててくんね?」
「分かった」
俺は飛鳥に言われた通り目を閉じる。何をする気かは分からないけど話を前に進めるためだ。それも致し方ない
「ほ、本当に目閉じたか?」
「閉じたよ。じゃないと話が前に進まないからな」
「お、俺がいいって言うまで開けんなよ?」
「開けないって。それよりも何をする気だよ?」
「それは秘密!」
視覚が使えない今、俺には聴覚と嗅覚しか頼れるものがない。聴覚と嗅覚しかないとは言ったものの、嗅覚はこの用具入れにある雑巾やらバケツやらから臭ってくる悪臭に支配されているため使い物にならない。マジで何してんだ?聞こえたのは布の音とチャックを開けるような音だけだ
「なぁ、布の音とチャックを開けるような音したんだが……」
「うるさい! あと少しだから黙って待って!」
あと少しって……女だって証拠見せるのに長ったらしい準備が必要なのか?
「へいへい」
女の準備に時間が掛かる。それに例外はないようだ
「恭クン、今から電気点けるけど、目は開けないでね」
「分かってるよ。飛鳥がいいって言うまで開けちゃダメなんだろ?」
「うん」
パチッという音がした後、薄っすらと光が差し込む。
「も、もう目を開けてい、いいよ……」
「おう」
目を開けて俺が見たものは思春期真っ盛りの男子高校生にはかなり刺激が強いものだった
「ど、どうかな……こ、これで、お、俺が女だって信じてくれるっしょ?」
俺の目に飛び込んできたのは恥ずかしそうに服をたくし上げ、ズボンは半脱ぎ状態の飛鳥の姿だった
「…………」
恥ずかしそうにしている飛鳥を目の前に俺は言葉が出なかった
「きょ、恭クン、は、恥ずかしいから何か言ってくれね?」
何か言えと言われましてもねぇ……とりあえずそうだな……
「男口調なのにブラとパンツはピンクで統一してるんだな」
「なっ!?」
下着の感想を言う事にした
「まぁ、何だ?とりあえず飛鳥が女だってのは信じた。だから早く服を直してくれ。このままだと俺は社会的に死ぬ。んで、その後が怖いから」
俺だって男だ。今の飛鳥の姿には興奮を覚える。それ以上に闇華と東城先生への恐怖心が勝ってしまっただけだ
「恭クン、俺がこんなに恥ずかしい思いしてるっつーのに何も思わんわけ?」
胸倉をガシッと掴んだ飛鳥は青筋を立ていた。オマケにドスの利いた声だった
「何も思わないわけないだろ。ただ、ここは学校で今は授業中。さっきも言ったと思うけど大声を上げられないだけだ。だがまぁ、強いて言うなら一時間目の授業でも言ったが、飛鳥ってやっぱ可愛いな」
「あ、ありがとう……」
「おう。飛鳥は十分に可愛い女の子だからさっさと服を元に戻してくれ。あとこの事については先生方……特に東城先生にだけは絶対に言わないでくれ」
俺からすると飛鳥は魅力的な女の子だ。昨日は関わりたくない奴としか思ってなかったけど
「わ、分かった……そ、それよりさ、恭クン」
「何だ?」
「お、俺が魅力的な女の子だって言うの……あの言葉に嘘はねーか?」
「あ?あるわけないだろ。ありゃ本心だ」
「そ、そうか……」
服を直す飛鳥の頬は赤い。でもどこか嬉しそうに見えた
飛鳥が服を直し終えた後─────
「さて、本題に入るか」
「お、おう」
俺は飛鳥が何故男装しているかを聞く事に
「何で男装なんてしてんだ?」
飛鳥の下着は俺個人としては大変魅力的だった。それはそれとして、男装している理由は聞かなきゃならない
「お、俺だって好きで男装してるわけじゃない! 本当は女の子っぽく振る舞いたいし、女の子の友達も欲しい!」
好きで男装しているわけじゃないという事は余程の事情があるんだな……
「それなら普通に女の子として振る舞えばいいんじゃ……」
「それはダメなんだ……俺って昔からショートカットがデフォで女の子の遊びよりも男の子がするような遊びの方が好きだった。そんなんだったから気が付いたら……」
「周囲には男子が集まり、女の友達はいなかった。で、この歳になって女の友達が出来たのはいいけどみんな飛鳥を男だと思っているってか?」
俺は飛鳥の事を何も知らない。だからラブコメ的な展開に当てはめて考えるしかなく、今のだってラブコメにありそうな展開を適当に言ってみただけだったりする
「あ、当たり……恭クンってもしかして俺の事だったら何でも知ってる感じ?」
「そんなんじゃねーよ。ただラブコメ展開なら男装している理由なんて金持ちだったら幼い頃から男として育てられたとかだろうし、そうじゃなかったら男っぽく振る舞っていたら周囲に勘違いされて自分でも止められなくなったんだろうって思っただけだ」
女子が男装していてそれが趣味じゃないなら理由なんて簡単に分かる
「そ、そっか……恭クンなら分かってくれると思ったんだけどな」
悲しそうに目を伏せる飛鳥。俺のどこを見て分かってくれそうだと思ったのか。それは本人にしか分からない事だ
「俺のどこを見てそう判断したのかは知らんけどよ、飛鳥が女の子の友達が欲しいとかなら俺が紹介する。で、男とデートがしたいと思うなら悪いけどそれは諦めてくれ。何しろ俺には男の知り合いなんていないからな」
零達なら飛鳥の話を聞いたらすぐに女として受け入れるだろう。ま、男とデートしたいって言われたら紹介可能なのが親父か爺さん。どちらもセクハラ魔人だから無理だけど
「そ、そっか……わ、私に女の子の友達を紹介してくれるんだ……」
「ああ、軽く見積もっても俺には八十人以上当てがあるからな」
友達になりたいとかなら闇華も怒るまい。これが彼女になりたいとかならヤベーけど
「恭クンってもしかしてプレイボーイ?」
「違う。妙な勘違いすんな」
俺は断じてプレイボーイなんかじゃない! ただ、拾ったり引き取ったりしただけだ!
「だよな! 恭クンが何人もの女の子を侍らすだなんて器用な真似出来るわけないもんな!」
飛鳥の信用の仕方が俺の心に大きな傷を付けているような気が……それは置いといてだ
「俺が複数の女を侍らす事が可能かどうかはいいとして、教室に戻ろうぜ?俺らトイレに行くって言って抜けてきたわけだしよ」
「だな! さっさと戻らなきゃセンセーに怒られる」
俺が掃除用具入れから出ようとしたその時だった
「─────!?」
突如飛鳥に腕を引っ張られた
「恭クン。今度私とデートしてね?」
驚く俺を余所に飛鳥は耳元で囁いた。その後すぐに湿った何かが俺の頬に当たった
「飛鳥が女の子の格好をするって言うなら考える」
気恥ずかしさからなのか、俺は素直に承諾する事が出来なかった
「うん。その時は思いっきりオシャレしていくね?」
「ああ」
と、ここで終われば甘酸っぱいラブストーリーだったんだろう。ここで終わればな
「恭。それに飛鳥も授業を抜け出してこんなところでデートの約束?随分と良い身分だね」
突然聞こえた第三者の声。その声の主は……
「と、東城先生……」
「ち、チワッす……」
東城藍先生その人だった
「もう授業終わってるんだけど、恭と飛鳥はこんな臭い場所で何してたの?」
仁王立ちする東城先生の背後から鬼が見えるのは気のせいか?
「な、何って、飛鳥と男同士の友情を確かめてたに決まってるじゃないですか」
「そ、そうっすよ! 決して疚しい事なんてしてないっす!」
「ふーん。男同士の友情ね。なるほど。でもさ、恭」
嫌な予感……
「な、何でしょうか?」
「飛鳥って女の子だよ?男同士の友情なんて成立するわけないでしょ」
「「…………」」
と、東城先生、飛鳥が女だって知ってたんですね……。飛鳥は飛鳥で何故バレた?って顔してるし
「何?もしかして恭は知らなかった?そんなわけないよね?さっきデートの約束してたし」
「…………」
「まぁいいや。怪文書の解読してほしいって警察の人来てるから恭と飛鳥はその人達の前でお説教だよ」
こうして鬼を纏った東城先生の手によって俺と飛鳥は職員室にある奥の部屋まで連行された。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




