調べようとして分からなかったら直接聞くしかないと思う
前回の続きです
メガネをかけたらイケメン、ヘアースタイルを変えたら美人。この二つはラノベや二次小説だとよく使われる描写だ。メガネかけたらイケメン? ヘアスタイルを変えたら美人? んなワケねーだろ。根本的な顔立ちが何も変わっちゃいねーんだからよ
「変われば変わるモンなんですね」
なんて思っていた時期が俺にもありました
「あ、あんまり見ないでください……」
目の前で顔を赤らめている人物はもっさり女だった岬さん。髪を切った彼女はこんなにも美人だったとは……驚きだ。ザ・陰キャ女子から美人系にチェンジするとは思いもよらない
「見るなと言われても……こんなに美人だったら嫌でも見ちゃいますよ」
行き交う人達は男女問わず彼女に釘付け。女ですら魅了してしまうほど岬さんは魅力的だった
「は、恥ずかしいです……」
「慣れてください。美容室を出てから結構経つんですから」
俺達が最初に向かった先は美容院。特に行き先を決めていたわけじゃなかったが、いつまでも前髪が目にかかったままじゃうっとおしいだろうと思って俺が提案、岬さんが二つ返事で了承。カットが終わり、店を出て今に至る
「む、無理なものは無理なんです~!」
「さいですか……」
手をバタバタさせる岬さんに闇華の面影を重ねてしまう。つか、散髪前のオドオドしたキャラはどこへやら……
「灰賀さんの意地悪……」
「すみませんね。俺は元からこうなんで」
頬を膨らませる岬さんを軽く躱しつつ、俺達は次の目的地へ歩を進める。次は……
「灰賀さんのバカ……ところで次は図書館でしたっけ?」
「ええ、岬さん達が入ったと言われる建物が廃墟に至った経緯を調べます」
人に歴史あり。建物にも歴史ありだ。過去を知らなくても解決はできる。ただ、根本的な解決にはならない。面倒でも問題に直面した時、調べものは避けて通れないのだ
そんなこんなで俺達は図書館にやって来たのだが……
「何から調べたものか……」
無計画で動くとロクな事がない。俺は何から調べていいのか分からなくなっていた。分からないのは次の四点。『あの廃墟がいつ建ったのか』『何に使われていたのか』『使われていた時に何が起こったのか』『どうして廃墟になったのか』だ。何に使われていたのかに関しては実際に廃墟へ足を運んで看板を探した方が早い気もしなくはないが、写真で見た限りそれらしきものを探すとなると骨が折れる。加えて昨日見た謎の人影や今朝突如テーブルに置いてあったピエロの人形が岬さんに危害を加えないとは言い切れない。今の俺は岬さんの元を離れられない上に早織と想花と離れてしまっていて手詰まり。さて、どうしたものか……
「と、とりあえず建物がいつ建ったのかから調べませんか?」
「そう言われても……あの建物が何だったのか分からないんじゃ調べようが……」
「あの建物が何だったのか……ですか?」
「はい。正確には元々何をするために建てられたものなのかなんですけど……岬さんご存じだったりします?」
俺はダメ元で岬さんに聞いてみた。トラウマを抉るようで気が引けるんだが、侵入した彼女なら何か知ってるはずだ
「と、友達から聞いた話で申し訳ないんですけど……あの建物は元々ホテルだったらしいです」
「ホテル……ですか」
「はい。私も最初は疑ったんですけど、実際に入って探索してみたらフロントや客室があるのを確認したんで間違いないです」
その後、岬さんは『あまり思い出したくないですけど』と続けた。ホテルか……写真を見る限りじゃ金持ちの別荘とも取れる。真偽はさておき、建物の正体が分かっただけでもよしとしよう。フロントや客室が本当にあるかどうかは行けば分かるしな
「岬さんが言うなら間違いないですね。さて、建物の正体が分かったところでホテルがいつ建てられたものか調べましょうか。とは言っても何を見たらいいか分からないんですけどね」
直近で使われなくなった建物なら店限定ではあるが、調べなくても分かる。看板がそのまま残ってる場合があるからな。だが、長いこと放置されてたものは別だ。看板は白く塗りつぶされてたり、場所によっては崩れてしまって見ただけじゃ判別がつかない。今回の場合は後者。図書館にある資料を読んで分かれば儲けモンだ
「いつ建てられたかですか……」
「ええ。資料があるといいんですけど……」
ぶっちゃけた話、古地図を見るなら国土交通省などのウェブサイトを見た方が早い。ただ、郷土資料館や博物館、図書館などに収蔵されてる場合もあり、閲覧可能なら見たいところではある。ないならないで廃墟に乗り込んで自分で探る
「どうでしょう……そういうのって収蔵してないところもあるらしいですし……」
「聞くだけ聞いてみますか……」
俺達は司書の元へ向かい、古地図や過去の新聞記事が読めないか聞いてみたが、結果はNO。曰く古地図や古い新聞記事は保管してはあるけど、一般公開はしてないとの事らしい。前に古地図や過去の新聞記事にイタズラされてから一般公開はしなくなったと聞いた
資料がないんじゃ長居する意味はない。俺達は図書館を出た。結局分かったのは廃墟がかつてホテルだった事だけでいつ建てられたかは分からず終い。何に使われていたかは調べるまでもない。さてっと、これからどうしますかねぇ
「何も分かりませんでしたね……」
「俺としては建物の正体しか分かりませんでしたが、そうですね。詳しい事は何も分かりませんでしたね」
「これからどうします?」
「どうしましょうか?」
スマホを見ると『14:00』と表示されていた。昼飯食べるには若干遅い時間で晩飯にはかなり早い。おやつって時間じゃないしなぁ……岬さんを山本さんに引き渡して単身廃墟に乗り込むのもアリだな。警察署なら不審者に襲われる心配はないし、早織と想花もいる。昨日の人影に遭遇する事もない。岬さんが納得したらだけどな
「わ、私は帰りたいです……あのピエロの人形が何かしてないか心配ですし」
「確かに……ん? 何か?」
普通ならどうなったかを気にするのにどうして岬さんは何かしてないかって言ったんだ?
「え、えっと……き、昨日は怖くて言えなかったんですけど、わ、私達はあの人形に追いかけまわされたんです……」
「追いかけまわされた? あの小さな人形に?」
「あの時はあんなに小さくなかったんです……そ、そもそも、私達が見た時は着ぐるみでしたから……」
「着ぐるみ? あの小さな人形が?」
「はい……」
謎が深まったんだが……俺が見た時は小さな人形だった。しかし、岬さんが言うには追いかけまわされた時は着ぐるみだった。どういう事だ? あのピエロがマスコットキャラでお土産専用に人形があると言われれば納得はする。しかし、マスコットキャラの感じは全くしない
「辛いでしょうけど、詳しいお話聞かせてもらっていいでしょうか?」
「はい。私達が配信で廃墟に入った時の事です────」
岬さんが語った当時の状況はホラゲの王道と言えば王道だった。ゲームだから王道と笑い飛ばせるが、現実に起きた事としては笑えない。俺達は急いで家に帰った
「な、なんだこれは……」
「は、灰賀さん……」
帰宅した俺達の目に飛び込んできたのは荒らされた部屋の光景と壁に赤く書かれた『サキ オマエハ ゼッタイ ユルサナイ ハイガ キョウモロトモ ツブス』の怪文書。俺までターゲットになってるのか……
「岬さんは山本さんに連絡して警察の保護を受けてください。ここからは俺一人で何とかします」
「で、でも……」
「でももストもありません。こうなってしまった以上、俺が単身廃墟に乗り込んでケリをつけます」
本当は色々調べてから乗り込むつもりだったが、こうなったら仕方ないよな……早織と想花からヒントを貰ってるとか関係あるか。遊んでやるよ
「わ、分かりました……」
岬さんは何か言いたげだったが、俺の目を見て何かを察したのか口を噤んだ。さて、謎しかないが、最終決戦といきますか
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




