変な事は立て続けに起こるらしい
前回の続きです
「落ち着きましたか?」
「はい……」
あの人影を追い払い、無事────とは言えないが、帰宅した。隣に座る彼女は人影を見てからというもの、落ち着きはしたみたいだが、今もこうして俺にしがみ付いている
「自己紹介も含めて何か話でもしましょう」
夜の闇が相まって輪郭がぼやけてしまうのは仕方ない。しかし、霊圧を飛ばした時、あの人影はその場に倒れず、跡形もなく消え去った。普通の人間じゃないのは明らかだ
「私の名前は新田岬といいます」
「俺の名前は灰賀恭です。早速ですが、さっきの人影は一体……」
「わ、分かりません……毎日来る事しか分からないんです……」
「だからまた来るって言ってたんですか……」
「はい……」
単なるストーカーですら毎日遭遇したら精神的に病む。得体の知れない人影なら猶更だ。この部屋がゴミ屋敷と化してたのはきっとアイツのせいだろう。帰宅時に出くわしたら溜まったもんじゃない
「あの人影が毎日来る以外に何かありませんでしたか?」
「分かりません……私の身に起きているのは廃墟から帰った次の日から毎日のようにインターホンをあの人影に鳴らされるだけですから……」
「そうですか……」
インターホンを鳴らされるだけ……当事者からすると十分怖い体験だ。しかし、客観的に見ると物足りない。他人が怖がっているのを楽しむ趣味はないが、恐怖を与えるには些かインパクトに欠けるような気がしてならない。本気で相手を恐怖のどん底に突き落としたいならもっと大きな動きを見せてもいいはずだ。ストーカーでも毎日玄関なりポストなりに物を入れ続けて恐怖を与えるケースがないわけじゃないから一概にこうとは言えんがな
物足りなさを感じつつも必要以上の話は聞かず、当たり障りのない話をして今日は早めの就寝となった
「寝れねぇ……」
就寝から何時間経過しただろう……眠れる気がしない。長旅と移動と部屋掃除で身体は疲れているはずなのに眠気が来ない。枕や環境が変わったら眠れないわけじゃないのだが、なぜか眠れない俺はぼんやりと天井を眺めていた
「灰賀さんも眠れませんか。私もです」
隣にいる岬さんも眠れなかったのか、俺と同じくぼんやり天井を眺めていた
「長旅と部屋掃除で身体は疲れているはずなんですけどね……」
身体は疲れているのに眠れないのはよくある。だから目を閉じていれば自然と眠れるようになると思って目を閉じた時だった。不意に俺のスマホが鳴った
「誰だ……こんな夜中に……」
時間帯を考えろと内心毒づきながらスマホを見ると零の名前が表示されていた。婆さんから言われたからとはいえ、零達に黙って来たのは事実。文句を言われても仕方ないと覚悟を決めるか
「もしもし」
『……………………ヨクモジャマシタナ』
文句の一つでも言われると思って電話を取ったが、電話口の相手は零ではなかった。零の声とは似ても似つかず、男か女かすら分からない。ボイスチェンジャーを使っている様子もない
「邪魔? 何の話だ?」
『ワタシノジャマヲスルヤツハユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!』
話が通じねぇ……こういう相手には同じ事を聞くしかないって偉い人も言ってたな
「もう一度聞くぞ。何の話をしている?」
『ケケッ……ケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!』
今度は狂ったように笑いだした。コイツは一体……。電話口の相手にを考察しているとインターホンが鳴り、岬さんが小さく悲鳴をあげた
「誰か来たみたいだから切るぞ」
『ケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!』
切ると宣言してなお狂ったように笑い続ける電話口の相手。俺は返事を待たずして電話を切った
「灰賀さん……」
「今度は外か……」
岬さんを一人にしておくのは危険だ。かといって一緒に連れて行くわけにもいかない。さて、どうしたものか……
「ど、どうしましょう……」
「俺が確認してきますよ。もしかしたら山本さんかもしれないですし」
訪問者を確認するために布団を出ようとして岬さんに腕を掴まれた
「一人にしないでください……」
腕を掴む彼女の手は小刻みに震えてて声も涙声。そんな彼女を突っぱねるだなんてできるはずもなく────
「一緒に行きましょう。俺の腕を掴んでたら安全ですから」
「はい……」
彼女を連れて行く事にした。帰って来た時と同じく霊圧ぶつけて追っ払うだけだ
「鳴り止んだ……」
「みたいですね……」
俺達が玄関へ到着すると鳴り続けていたインターホンが突如鳴り止んだ。誰だか知らんが、はた迷惑な奴もいたもんだ
念のため外に誰かいないかと施錠を確認した俺達はリビングに戻り、そのまま布団に潜った
「これで安心して眠れるね」
「そうですね。今日は疲れました……」
ちょっとした騒動はあったものの、これでようやく眠れる。起きたら岬さんの身だしなみを整えてあの廃墟が元はなんだったのか調べる面倒事が待っている。かかって来た妙な電話は隙を見て零に確認しておこう。もしかしたらアイツのイタズラかもしれないしな。俺は頭の中で今後の行動を軽くまとめながら目を閉じた
「なんだアレ……」
何となく目が覚めた俺は起き上がり、テーブルの方へ目を向けた。そこにあったのは昨日はなかったピエロの人形だった。岬さんの趣味……じゃないよな?
「んぅ……おはようございます。灰賀さん」
「おはようございます。ところでアレは岬さんのものでしょうか?」
「ち、違います……あんな人形見たこともないです……灰賀さんのものじゃないんですか?」
「俺に人形を持ち歩く趣味も集める趣味もありません」
「じゃ、じゃあ、一体誰が……」
俺のでも岬さんのでもない謎の人形。昨日はトイレ以外ずっと岬さんと行動を共にしてきた。片方が隙を見て置くのは十分可能ではあるが、俺はそんな事した覚えはないし、岬さんもそんな事をしてる様子はなかった。寝てる時は分からんが、見た事もないと言っている以上、彼女が置いたという可能性は限りなくゼロに近い
「わ、分かりません……」
互いに見た事もない人形。ただでさえ分からない事が多いってのに更に分からない事が増えた
着替えを済ませた俺達は置いてあった人形をそのままにして外へ出た。いきなり現れた人形に疑問と不安はあったが、色々調べてるうちに分かるだろ。探偵なら小さな謎にも目を向けなきゃないんだろうけど、生憎俺は探偵じゃない。面倒事は少ない方がいいだろ?
「あのままでよかったのかな……」
隣を歩く岬さんがポツリと呟いた。きっとあの人形の事だろう。得体の知れない人形をそのまま放置して家を出たのは間違っているとは思う。不安になる気持ちは分からんでもないが、今は放置するしかない
「下手に触って爆発でもしたら大惨事です。不安なのは分かりますが今は放置が最適だと思います」
「ですが……」
「大丈夫ですよ。いざという時は出来る範囲でではありますが何とかしますから」
「絶対とは言わないんですね……」
「ただの高校生ですからね。できる事は限られてるんですよ」
「高い霊圧を持ってる高校生は普通じゃありませんよ」
「バレてたんですか……」
「山本さんが教えてくれました」
そう言って岬さんは小さく笑った。彼女が詮索してこなかったのは事前に山本さんから聞いてたからだったのか……
「それならそうと言ってくれればよかったのに……」
「す、すみません……守ってくれる人が来たから安心しちゃって……」
最初は単なるダメが理解できないバカだと思ってたんだが……違うらしい。意外と乙女らしいところもあるようだ
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます




