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山本さんと一緒に訪問した女性の部屋が汚すぎた

前回の続きです

 警察署を出て山本さんに連れてこられたのは一棟のアパートの二階に位地する部屋の前。異様な光景は見慣れたもので今更嫌悪感は感じないし、驚きもしない。ただ、ご近所付き合いは心配になる程度にはこの部屋は異様だった


「マジか……」

「は、ははは……」


 隣の山本さんが力なく笑う。これから自分がこの部屋に入るのかと思うと憂鬱でしかない。というのも床や壁、ドアを見るとここは自分の陣地だと主張せんばかりお札が貼られている。アニメよりも酷い。外側がこうなんだ、中はもっとスゲー事になってるんだろうなぁ……


「よくここまでやりましたね……」

「私もそう思うよ……」


 目の前の光景にこれ以上言葉が出ない。何かを盲目的に信じて行動した結果なのだから何も言うまい


「とりあえず家主に会いましょう」

「そうだね」


 山本さんがインターホンを押す。すると中からドタドタと慌ただしくこちらへ向かってきてるだろう足音がし…………


「はい!!」


 ドアが勢いよく開けられ、中から女性が出てきた。Tシャツにスエット、髪はボサボサ。ドアの隙間から見えるのは大量のゴミ。室内から漂ってくる異臭に顔をしかめたくなるのを堪える。換気はおろか、何か月も外に出てないだろう事は容易に想像がついた


「こんにちわ。さっき電話で連絡した通り灰賀君を連れてきたよ」

「はい! お待ちしておりました! 立ち話も何なので中へどうぞ!」

「お邪魔します」


 山本さんは躊躇する事なく中へ入る。単に物が散乱してるだけなら気にしないが、この部屋に散乱してるのはゴミ。オマケに異臭もする。どれだけ怠け者の俺でも入るのは躊躇われるぞ……


「ん? どうしたんだ? 灰賀君。早く入っておいで」

「遠慮しないでどうぞお入りください」


 山本さんと女性は不思議そうな顔でこちらを見てきた。いやいや、遠慮するだろ。人が生活できるとは到底思えない部屋だぞ? 百歩譲ってお札はいいとしてだ、さすがにゴミと異臭は嫌すぎる


「そ、それでは、し、失礼します……」


 本音を言えば嫌なのだが、断るわけにもいかず中へ入った





 中へ入ると案の定ゴミだらけ。そこら中のゴミには虫が集っていた。この劣悪な環境でよく生活できるな……


「遠慮なくお好きなところへ座ってください」

「そうさせてもらうよ」


 ゴミしかない部屋のどこに座れと? 女性に促され、空いてるスペースに座る山本さんと彼の向かい側に座る女性。彼らが座った時点で俺の座るスペースはない。汚すぎる……


「お、俺は立っていた方が楽なんでこのままでいいですか?」

「私は構わんが、いいのかね?」

「ええ。お話聞いた後ですぐ外へ出ると思うんで」

「それなら私は構わんが……もっとゆっくりしてもいいのではないかね? 来たばかりな上に長旅で疲れているだろうし……」


 そう言いながら山本さんは女性の方へ目線を移す。俺も彼に倣って目線を移すと────


「…………」


 先程とは打って変わって無言で女性は震えていた。一体彼女の身に何があったってんだ……


「あー……外へ出るって言ってもここのゴミを出しに行くだけで買い物へ行くとかではないんですが……」

「え? 私を見捨てて出ていく……とかじゃなくて?」

「はい、ゴミを出しに行くだけです。どう対策したらいいかは話を聞かないと分かりませんが、外の様子を察するに俺は貴女と行動を共にした方がいいと思うんですが、ゴミだらけの部屋で生活するのはちょっと……落ち着けないんで」

「助けて……くれるんですか……?」

「俺にできる範囲でですけどね」


 俺に何ができるかは分からない。今回ばかりは早織と想花の解説が期待できず、自分で答えを探すしかない。今までも最終的に答えを出すのは自分だったから今回と大差はないように思えるが、実は違う。今までは早織や想花がヒントをくれた結果、答えに辿り着いた部分が少なからずあった。今回はノーヒントで答えを出さなければならないのだ


「それでもいいです……この地獄のような生活から抜け出せればそれで……」


 涙声で訴える彼女にほんの僅かに同情心が芽生えてしまった……山本さんの話を聞く限りじゃ自業自得で同情の余地無しなはずなんだが


「抜け出したいのなら貴女が何したか話してくれませんか……」

「はい────」

「ちょっと待った。私は署に戻るよ。後は若いお二人でごゆっくり」


 そう言って山本さんは早足で出て行ってしまった。初対面の若い男女を同じ室内に二人きりにするのはマズイんじゃないのか? 俺だって男だ。いつ過ちを犯すか分からんのだぞ? 


「「…………」」


 山本さんが退室し、残された俺達の間に何とも言えない空気が流れる


「え、えっと……とりあえず座ってください」

「は、はい……」


 女性に促され、俺は仕方なく山本さんが座っていた場所へ座った。座ったのを確認すると女性は咳払いをし、おずおずと口を開いた


「そ、それで、さっきの続きですけど、私と友達二人はあの廃墟に入りました……今思うと私達は本当にバカな事をしたと思ってます」

「あの廃墟というのは洋風の建物で間違いないですか?」

「はい、その建物で間違いないです……」

「誰が最初に言い出したかはどうでもいいですが、差支えなければ入った理由を聞いてもいいですか?」

「人気を集める……ため……です……」

「人気……ですか……」

「はい……私と友達二人は配信者なんです」

「は、はぁ、配信者……ですか。という事は廃墟に侵入したのはリスナーを増やすためにって事ですか?」

「そ、そうです……私は止めようって言ったんですけど、友達の一人が絶対に伸びるからやろうって聞かなくて……それで……」

「押し負けてダメだって言われている場所に入ってしまったと」

「そ、その通りです……」

「人気が欲しかったなら大勢の人を楽しませようって努力する選択肢もあったと思うんですけど……」


 人気欲しさや面白そうだからという理由で迷惑行為を行った様子の動画をSNSやサイトにアップするバカが増えているのはニュースで見て知っていた。見るたびにバカなやつもいたもんだと軽く流していた俺だが、まさか自分が自己承認欲求を満たしたが故にバカな行動をとった人間の尻拭いをさせられる日が来ようよは夢にも思わなかった


「私と友達の一人も彼女説得しようとました! 地道に努力してファンを増やそうって! でも……」

「言い出しっぺの人は聞き入れなかったと」

「はい……」


 言い出しっぺの女は助ける価値ないと思うが婆さんには何かと世話になってるしなぁ……仕方ねぇか


「助けるのはいいんですけど……まずはこの部屋どうにかしません? 汚いし臭すぎます」

「…………はい」


 本当は彼女の身に何が起きたかも聞きたかったのだが、この部屋が放つ悪臭を何とかしたい欲が勝ってしまい、話どころじゃなかった。彼女が何をしたか聞き出せただけでも十分な収穫だ。話の途中で逃げなかった俺を褒めてもいいんだぞ?




 部屋の掃除開始してからどれくらい時が過ぎただろう……ここへ来たときはまだ太陽が出てたから昼頃だとしてだ、四~五時間程度か? とりあえず床が見えるようにはした。玄関の札は剝がしてない。剥がそうとしたら彼女が頑なに拒否したからな。ゴミ? 明日回収の分はゴミステーションへ持ってったさ。それ以外はとりあえずキッチンの隅っこへ置いてある


「やっと終わりましたね……」

「そうですね……」

「明日は身なりを整えに行きましょうね?」

「はい……」

「それが終わったら貴女の身に起きた事を聞かせてください」

「もちろんです……」


 マジで疲れた。文化祭サボってたら婆さんの指令で北海道へ飛び、車で移動すること約一時間。取調室で煮え切らない態度の警察官から事の経緯を聞いて見知らぬ女性の部屋へ来たと思ったら話を聞いて部屋掃除。どう転んだら一日が濃密になるんだ? 俺は平穏な怠け者ライフを過ごしたかったんだが……



 一休みしてから俺と彼女は晩飯を食いに外へ出た。リビングの片づけが手一杯でキッチンまで手が回らかったんだ……急ピッチで片付けたから仕方ないよな! ゴメンナサイ、嘘です。本当はキッチンも掃除しようとしたんですけど、汚れたまま放置され続けたシンクや食器って素手で触りたくないんですよ! ここまで言えば分かるでしょ? ね? 分かってくれますよね? 


「ん? 部屋の前にいるのってもしかして友達ですか?」


 アパートへ戻ると部屋の前に人影があった。あれは女性の友達か? 彼女の方へ目を向けると……


「そ、そんな……バリケード張ったから最近は平気だと思ったのに……」


 俺の腕にしがみ付いて小刻みに震えていた。あの人影がゴミ屋敷誕生の元凶で彼女を引き籠らせた原因のようだ


「大丈夫ですよ。すぐに追い払えますから」


 彼女の頭を優しくなでると人影へトラック一台分相当の霊圧を飛ばす。霊圧に当てられた人影は一瞬で消滅した。これで一安心────


「ま、また来る……怖い……」


 ではないようだ。こりゃ早いとこ何が起きてるか聞いた方がよさそうだな……





























今回も最後まで読んで頂きありがとうございます

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