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思わぬところで婆さんから打診が来た

これは恭に言う問題じゃないでしょ

 藍に手を引かれ俺と飛鳥が連れて来られたのは職員室。その角にある応接場。念のために言っておくが、俺達は何も悪い事はしてないぞ


「何なんだよ……」

「私達何も悪い事してませんけど?」


 職員室に連れて来られた意味はもちろん解からん。緊急会議と何か関係がありそうなのだが、今のところ騒ぎらしい騒ぎは起こっていない。幽霊騒動が起きたわけじゃなし、予算が足らなくなったという話も聞いてない。ただ、嫌な予感はする


「え、えっとぉ~……い、いろいろお世話になってる灰賀君に言いづらいんだけど~……」


 そう言って頬を掻きながら目を逸らすセンター長。俺の嫌な予感は先程よりも更に強いものになった。俺に言いづらいというキーワードから予想されるのは三つ。一つ目は建物に関する事。二つ目に物資に関する事。三つ目に資金面。どれも俺にはどうしようもない事だから相談されても困る。とはいえ、高校入学して初めての文化祭。どうにか成功させたいという気持ちもある。聞くだけ聞いてみるか


「言ってください。俺にできる限りの事はしますから」

「い、いいの?」

「いいですよ。どうせ余所の建物を借りてくれとか、資金が足りないから金を貸せとか、物資が足りないからどうにかしてくれとかでしょ?」


 自分で言っといてなんだが、どれもこれも一生徒である俺に言われても困るものだ。金銭面は十円とか二十円の話じゃないだろうし、余所の建物と言われても簡単に用意できるものじゃないから無理。そうなると物資面だが、これはものによる。食い物要求されても困る


「うぐっ!」


 三つの中に正解があったらしい。センター長は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。金か? 物か? それとも……場所か?


「図星ですか……」

「う、うん……じ、実は────」





 俺の予想は見事に的中した。感じていた嫌な予感はこれだったか……と呆れる反面、彼女の要求が大した事なくて安心する自分がいる。爺さんに頼むまでもないが……面倒事がまた増えた……


「マジですか……」


 センター長から聞かされた壮大な悩みに俺は思わず眉間を抑える。どうしたものか……


「マジだよ……どうにかならないかな?」


 涙目で懇願されてもなぁ……爺さんに頼むとしたらちょっとした資材を用意してもらうくらいだが、ハッキリ言おう。ちょっと頼りになる高校生だったら無理ですで一蹴されてたぞ。俺はちょっと頼りになる高校生じゃなくて単なるダメ人間だけどな


「ならない事はないですけど……」

「え? 何とかなるの!?」

「ええ。当てがありますから。というか、それって焦る事ですか?」

「あ、焦る事ではないんだけど……今からだと難しいんだ」

「はぁ……」


 高校生の俺にはよく分らん。センター長含め教師陣が何で大事な事を忘れていたのか、何で今になって思い出して慌てるのか。全く理解できん。生徒が変わり者なら教師も変わり者って事なんだろうか? 頭のネジが何本か抜けてるとも言うが……どっちでもいいか。と、心の中で星野川高校をディスっていた時だった。ポケットに入ってるスマホが振動した


「恭クン……」

「分かってる。ちょっと席外すわ」

「うん、行ってらっしゃい」


 俺は飛鳥達を残し、職員室から出た






 職員室を出てすぐのところで邪魔にならない場所へ移動し、スマホを取り出した


『婆さん』


 着信画面を確認すると婆さんだったのだが、俺は電話されるような事をした覚えは全くない。零と闇華を泣かせた覚えはもちろん、灰賀女学院に迷惑を掛けた覚えもない。当然ながら誰かを拾った覚えもない。あり得るとするなら婆さんが人を拾った事くらいだが、今度はどこの誰を拾ったのやら……


「とりあえず出るか……」


 面倒事は嫌だが、このまま放置して文句を言われたら敵わん。俺は意を決して通話をタップした


『遅い! 大切な女を一体何分待たせるんだい!』

「いきなりだな。んで? 何の用だよ?」


 人に聞かれたら誤解される怒号はスルーだ。爺さんもだが、婆さんの悪ノリに付き合ったら倍疲れる


『我が孫ながら素っ気ないねぇ……』

「うっせ。こちとら唐突な呼び出しとやりたくもない労働で疲れてんだ。婆さんの悪ノリに付き合ってられる余裕がないんだよ」

『何だい、学校で悪さでもしたのかい?』

「ちげーよ。色々あったんだよ。それより早く要件を言ってくれ」


 教師から呼び出された=悪さしたと疑われるのは非常に心外だ。俺ほど善良な生徒はいないというのに


『色々ねぇ……そんな事より、星野川高校って確かステージがなかったね?』

「ああ。何しろ校舎自体が元・スーパーの店舗だからな。あろうハズがない」

『ならちょうどよかった。まだ用意できてないならでいいんだけど、灰賀女学院のステージ使わないかい?』


 婆さんの提案は俺にとって渡りに船だった。何しろセンター長の話は今になってステージの手配を忘れていて困ってるというものだったからだ。最初は家の一階────元・食品売り場だった場所を提供する方向で考えていたのだが、交通の便とか考えると二つ返事で打診しづらかった。にしてもどうして女学院のステージを貸してくれるんだ?


「ちょうどステージに困ってるって話だったから星野川高校側としては願ったり叶ったりだが……どうしてまた……?」

『何、うちの学校は恭も知っての通り生徒が一年生しかいないだろ?』

「そうだな。創立したばっかだからそうなるな。それとステージと何の関係があるんだよ?」

『一学年しかいない上にクラスも二つしかない。ステージも出店も寂しいものになると思ってね』

「なるほどな。せめてステージだけは盛り上げたくて星野川高校に提供しようって思ったわけか」

『まぁね。そっちの学校が望むなら出店もうちの学校でやっていい。ただし、後片付けはキッチリやってもらうけどね。どうだい?』

「どうだい? って言われてもなぁ……俺の一存じゃ決められねぇよ。つか、そういう話はセンター長を通せよ。どうして俺なんだよ?」

『そりゃ、孫の声を聞きたいからに決まってるじゃないか』

「あのなぁ……」


 今回に限り婆さんは救世主とも呼べる存在だから何も言わないが、私情を挟むなよな……学校同士の話なんだからトップを通せよ。俺は呆れて溜息すら出なかった


『そう邪険にするんじゃないよ。あたしゃ孫の声が聞けただけで満足だよ。この話はセンター長に打診してみるから。じゃあね』


 そう言って電話を切られた。嬉しいやら恥ずかしいやら複雑だ


「これが俗に言う孫バカか……」


 スマホをポケットに戻すと複雑な気持ちを抱えながらセンター長達のところへ戻った





 その後の話をしよう。俺が戻ると同時にセンター長へ電話があった。もちろん、相手は婆さん。で、婆さんの話を聞いたセンター長は大泣き。詳しい事は分からんけど、話が纏まったようで何より。そして、現在────


「一時はどうなるかと思ったね」

「だな……」


 夕暮れに染まる空の元、俺達は駅へ向かって歩いていた。なんでも文化祭そのものを灰賀女学院と合同で開催する事になったらしい。教室の装飾しちまったよ……なんて不満もあるが……なるようになるだろ


「まさかステージの手配がまだだったとは思わなかったね……」

「ああ。世の中には抜けてる大人もいるって初めて知った」

「そ、そうだね……」


 苦笑を浮かべてはいるが、センター長達のフォローがないところを見ると飛鳥も思っている事は同じのようだ


「強制労働の後に教師の尻拭い……俺は何でも屋じゃねぇっつーの」

「そ、そうは思ってないけど……恭クンなら言えばどうにかしてくれるってみんな信じてるんじゃない?」

「ダメ人間に過度な期待すんな。俺にはできない事しかない!」

「そんな事誇らしげに言わないでよ……」


 呆れたように溜息を吐く飛鳥だが、本当の事を言って何が悪い? ダメ人間なのは事実でできない事が多いのも事実。俺は何も間違った事は言ってないぞ?


「全部事実だ」

「恭クンが何もできないなら私達はどうなるの?」

「俺と同じダメ人間だ。俺もそうだが、結局一人じゃ何もできないんだからな」

「そっか……そっかぁ……恭クンと同じかぁ……」


 飛鳥に視線をやると彼女はどこか嬉しそうだった。ダメ人間と言われたら怒るところなのだが、本人が嬉しいならそれでいいか


「ああ、俺と同類だ」


 人間は一人じゃ生きていけない。互いに助け合わなきゃダメな生き物だ。一人で何でもできる人間は探せばいるだろう。しかし、あくまで何でもできるように見せかけているだけで実際は何もできないと思う。自分は孤独だと言う奴がいるけど、俺からしてみれば洋服着て生活してる時点で孤独じゃない。少なからず誰かに助けてもらっている。俺はそう感じてならないのだ



























今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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