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親父の女装は気色悪い

恭よ、強く生きろ

『えへへぇ~、きょう~』


 お袋に抱き着かれてから何分が経過しただろうか?そんなのは考えるだけ無駄であり、締まりのない顔で未だ甘え続ける彼女の頭を撫で続ける。幽霊じゃなかったら腱鞘炎(けんしょうえん)になっているとろだ


『自分の母親を撫でる日が来るとは……』


 自分より誕生日が遅くとも親というのはずっと年上だ。なぜか?それは自分より何年、何十年も前に生まれているからに他ならなず、当たり前だけど子は親に甘やかされ、時には厳しくされて育つ。これに当てはまらない奴も中にはいるだろうけど、俺の場合は甘さ五割、厳しさ五割とバランスだけなら整っていた。その俺を育ててくれた片割れである母を抱擁し、頭を撫でる日が来ると誰が予想できただろうか?


『いいじゃん、お母さんだって甘えたい時があるんだよ?』


 確かに誰だって甘えたい時はあるだろうよ。でも甘えるなら親父に甘えてほしいものだ


『だったら今すぐにでも親父に会いに行って甘えてくればいいだろ?何で俺なんだよ』


 甘えるなとは言わないけど、甘える相手間違えてないかとは思う


『恭弥は一方的に甘えてくるだけでお母さんを甘えさせてはくれないもん!』


 自分の両親がどんな夫婦生活を送っているか、送っていたかなんて毛ほども興味はないが、親父、よく浮気されずに済んだよな……。俺だったら浮気しててもおかしくないぞ?


『さいですか……』


 お袋の話を聞くと現在俺不在の灰賀家に対し、不安しかないぞ……。そもそもが何で夏希さんは親父と結婚したんだってところなんだけどな


『さいですよ~』


 親父が妻の扱いが絶望的に下手だというのは……何となく分かった。出来る事なら灰賀夫婦の闇は黙ったままの方がよかったんじゃないか?


『お袋も夏希さんも何で親父と結婚したんだか……』


 妻の扱いが絶望的に下手という事はだ、恋人の扱い方も下手という事に発展しかねない。そんな奴が結婚できるんだから世の中分からないものだ。お袋も夏希さんも親父のどこに惹かれたのか皆目見当も付かない


『なっちゃんは分からないけど、お母さんは恭弥に頼みこまれて仕方なくだよ~』


 だから! 聞きたくねーよ! ンな大人の黒い部分なんて!


『お袋、それ言う相手が俺みたいに性格がひん曲がった奴だからよかったものの、純粋な奴だったら号泣モンだぞ?』


 高校生ともなれば多少は大人の黒い部分を知ってる年代に差し掛かってるだろうから号泣はないにしろ両親を見る目は変わる。純粋というか、純真無垢な奴だったら……うわ、想像したくねぇ……


『きょうだから言ったんだよ?きょうなら恭弥みたいにはならないでしょ?』

『分からん。もしかしたらなるかもしれないし、ならないかもしれない。今の俺に言えるのは自分の大切な人に寂しい思いをさせたり泣かせたりしねぇって事だけだ』


 絶対に親父みたいにならないという保証はなく、かと言ってなると決まったわけでもない。俺と親父は違う人間なんだから


『そっかそっか、お母さん的にはきょうの口から恭弥とは違うってニュアンスの答えが聞けただけでも満足だよ~』


 抱き着いたままで顔は見えないものの、声だけで分かる。今のお袋は俺の出した答えに何の不満も持ってないって事がな


『ならよかった。ところでお袋よ』

『ん~?』

『幽霊だから腱鞘炎にならないとはいえ、そろそろ撫でるの飽きてきた』


 幽霊だから痛みや空腹といった生者なら感じるものを感じない。だから何時間撫でてても腱鞘炎になるという事はないにしろ同じ事ばかりというのはどうしても飽きがくる


『それもそうだね~、きょうにだったら何時間でも抱き着いていたいし撫でてほしいけど、同じ事ばかりじゃつまらないよね~』

『ああ。いくら痛みを感じないからと言って同じ事を繰り返し、同じ動作を続けるというのはちょっとな……』

『お母さんは十分満足したからとりあえず撫でるのは止めていいよ~』


 撫でるのはって……、抱き着くのも止めろよ……


『撫でるの止めても抱き着いたまま過ごすのかよ……』

『うん! 移動する分には何の問題もないんだからいいでしょ~?』


 お袋の言う通り移動する分には何の問題もない。立って歩くわけじゃなく、浮いて移動だから抱き着かれたままでも十分でお袋はそれを見越していたようだ


『まぁ、移動つっても浮いて移動だから問題はないわな』


 付け加えるとこの状態で外に出たとしても零達と由香、夏希さん、親父、爺さんくらいしか俺達の姿が見える人間はいない。盃屋さんや彼女が所属している事務所の人間、ホテルの従業員には俺達の姿は見えないわけだが、この事を悪用しようと思えばいくらでも出来る。例えば、盃屋さんの部屋に忍び込んだり、盃屋さんの入浴や生着替え、トイレを除くといった事がな


『でしょ~?だからさ~、ちょっと外に出ようよ~』


 外に出ようと言われてもこの状態で何するんだ?


『別にいいけどこの状態で何するんだよ?』


 お袋の事だから変質者的な事はしないと思うが、それでも万が一って事もある


『ちょっと恭弥達を脅かしに行くだけだよ~』


 俺のお袋は変質者じゃなくてイタズラ坊主だったか……


『脅かしにって居場所知ってるのかよ?』


 今日一日のストレス解消に親父達を脅かしに行くってのは賛成だ。しかし、当の親父達がどこにいるか分からなきゃ話にならない


『知ってるも何もモニターに映ってるよ~?』


 お袋に言われ、モニターを確認すると確かに親父の姿が映し出されていた。ついでに言うなら俺を探してゾンビの如くホテル内を徘徊している零達の姿もバッチリあった。それはそれとして……


『こんな場所に今から突撃すんのかよ……』


 モニターに映っていた親父の姿だが、結論から言うと気色悪い。何が映ってたかって?その話をする前に親父の容姿について少し話をしよう。俺の親父はイケメンでも何でもなく、それでいて不細工か?と聞かれるとそうでもなく、特徴のない顔をしている。でだ、普通の親父が何をしているのかと言うと……


『いいじゃ~ん、女装した恭弥の前に出てお母さんと一緒に目の前で大爆笑しようぜ~』


 お袋が言ってくれたように親父は女装していた。何でそんな事を女装する羽目になったのかは知らんけど、息子の俺からすると父親の女装を見るというのはキツイものがあり、爆笑するだなんて無理だ。キモくて吐く事は出来るけどな


『無理だ。爆笑するよりも先に別の何かが出てきそうだ』


 これが親父の顔に落書きされてました~とかなら俺だって素直に爆笑していたけど、女装姿はなぁ……。悪いとは言わないけど、オッサンの女装姿はキツイなぁ……


『え~、あっ、もしかして恭弥の女装姿に引いてるの?』

『もしかしなくても引いてるよ……』


 女装姿が似合ってるのなら引いたりしない。引くって事は……なぁ?口には出さずとも似合ってないって言ってるのと同義だと思わないか?


『引く必要なんてないのにぃ~』


 お袋からするとそうなのかもしれないが、俺からすると気色悪い事この上ない


『お袋はそうかもしれないけどな、俺からすると純粋に気色悪いだけなんだよ』

『まぁ、きょうは初めてだから仕方ないよね~』


 はい?お袋は今なんつった?俺は初めてって言わなかったか?


『その言い方だとまるで親父が定期的に女装しているような言い方だな』

『うん。病院の新年会、忘年会、新人歓迎会でしてるよ~』


 聞きたくなかった……、親父が病院の飲み会で女装しているだなんてしょうもない事実なんて……


『うわぁ……、聞きたくなかったぁ……』


 俺は眉間を押さえ、溜息を吐いた


『もしかしてきょうは恭弥を父として尊敬してたの?』

『それはない』


 あれを父として尊敬する?あり得ないだろ


『だよね~、あんなのを父親として尊敬するだなんてお母さんのきょうはそこまでバカじゃないよね~』


 父親として尊敬に(あたい)しないのは全面的に認める。しかし、言い方にトゲがあると思うのは何でだろう?


『なんかトゲのある言い方だな。もしかしてお袋って俺の事嫌いなのか?』


 普段は俺を全面的に肯定してくれるお袋。一歩間違えれば別の意味で毒親なのだが、そんな彼女が喧嘩を売っていると思われても仕方ない言い方をしたのは何でだ?


『お母さんはきょうを愛してるよ?もちろん、一人の男性としてね♡言い方にトゲがあったのは恭弥の話だからだよ~』


 それもそれでどうかと思うぞ?


『はぁ、お袋って本当に親父への当たり強いよな……』


 お袋が親父へ強く当たるのは今に始まった事じゃないから口出しするつもりはない。そうなった原因は親父がお袋にしてきた事にあり、自業自得だからな


『まぁね~』


 特に気にした様子もなく平然と言うお袋を見て思う。本当にいい神経してるなと


『とりあえず憂さ晴らしに親父のトコ行くか』

『うん!』


 俺達は部屋を出て親父の下へ向かった




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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