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千才さんってマジで外道だ

千才外道回!中編!

『うっ、うううっ、い、痛いよぉ……』


 右頬と右腕を切りつけられた麻衣子さんは手で顔を覆い痛い、痛いと言って泣いている。果たしてその痛みが頬と腕から来る痛みなのか、それとも、友達だと思っていた千才さんの裏切りから来る痛みなのか俺には分からない。それが分かるのは麻衣子さん本人だけだ


『痛い?友達だった私から与えられる痛みなんだからご褒美でしょ?』


 この千才さんは何を言っているんだ?目に涙を貯めながら必死に止めてと訴えていた麻衣子さんが痛みを与えてくれて嬉しい、ありがとうと言うとでも思っているのか?俺は最初にこの光景を見た時は心底そう思った。だが、改めて見直しても千才さんはバカじゃないのとしか言えないし、そうとしか思えない


『ご褒美なわけないよ! 友達だと思っていた人に裏切られ、挙句の果てに身体を切られる……友達だったらこんな事しないよ!!』


 麻衣子さんの言っている事は正しい。自分の意図してない形で裏切ってしまうというのは人間生きていれば誰にだってあると思う。それが良い場合もあれば悪い場合もあるから一概にこうだというのは言えない。それが千才さんはどうだ?故意に麻衣子さんを裏切った上に身体に傷まで付けた。前者はともかく、後者は完全に犯罪だろ……被害届出したら千才さんが捕まるレベルの


『そうね、だって私は貴女を友達だと思ってないもの』


 千才さんの言葉を聞いた麻衣子さんは涙を流しながら彼女を見つめる。この時の麻衣子さんは多分、死のうだなんて考えてなかったように見える。何が麻衣子さんを追い詰めたのか、それは本人に聞かなきゃ分からない。もっとも当の本人はすでに死んでおり、発する言葉は『ウガァァァァァァ!!!! コロス、チトセ、コロス!!』のみ。聞いたところで時間の無駄なのは明確だ


『千才……』

『気安く呼ばないで。それから、被害届を出したり学校に報告したところで無駄よ?お父様が全てもみ消してくれるもの』


 そう、これが高校時代の千才さんの強みだった。彼女が虐め行為を行い学校側にバレたとしても父親がもみ消していたから逮捕もされず、処分も受けなかった。それ以前に指導教諭に呼ばれる事もなかった。どうでも良い話だが、千才さんは成績と授業態度、立ち振る舞いだけは上手で外面の印象だけ見れば清楚を絵に描いたようなお嬢様。裏の顔は単なる外道女なんだけどな


『そんな……』

『当たり前でしょ?お父様とお母様には私しかいないんですもの。不幸な目に遭わせるだなんてするわけがないでしょ?それに私は妃神(ひがみ)家の長女よ?短い期間だったとはいえ将来を約束されたエリート家の長女とお友達気分を味わえただけでも光栄に思いなさい』


 恩着せがましい捨て台詞を残し、千才さんは『その子にもう用はないわ。行くわよ』と言って去って行った。当然ながらその後、麻衣子さんがどうしたのかは知らない。これは千才さんの記憶だからな。さて、場面は代わり、今度は俺に銃を突き付けてきた男が映し出される。コイツは俺に銃を突き付けてきた男だ。この光景を見るのも二回目となるが、あんなのでも高校時代があったのかと思わされる


『ふざけんな!! 千才! 俺が何をしたって言うんだ!!』


 夕暮れに照らされる校舎内のとある廊下。そこで一枚の写真を突きつけ怒鳴り散らす男。彼の持つ写真には『この男は幼女に手を出す最低な人間です』と書かれていた


『何って何もしてないわ。ただ貴方が気に入らなかっただけよ』


 例にも漏れず顔色一つ変えずに答える千才さんだが、結論から言うと彼女のしている事はただの名誉棄損に他ならない。その理由はこの後に男が言う一言で明らかとなる


『気に入らなかったって……、俺はただ幼稚園へ迎えに行った妹と一緒に帰っただけだ!! なのに何で俺が女児に手を出したかのように書いてあるんだよ!!』


 彼の言い分では幼稚園に迎えに行った妹と一緒に帰ってるだけで疚しい事はしていない。千才さんの記憶だからそれが本当か否かは確かめようがなく、事実かどうかすら危うい。表情から察するに多分本当のことだろう


『仮にそうだとしても貴方が幼女と手を繋いで歩いてたのは事実でしょ?私には何の落ち度もないわ』


 自分は悪くないと主張する千才さんだが、写真の角度からして盗撮。立派な犯罪だ


『盗撮している時点で悪いだろ!! 訴えるぞ!!』


 彼の言い分は正しい。盗撮は犯罪だ


『どうぞ?まぁ、訴える前に貴方も麻衣子と同じ道を辿る事になると思うけれど』


 麻衣子さんと同じ道というのが最初は何の事だか分からなかった。いや、現時点で幽霊だから何となくは察せたけどね?


『数日前に麻衣子が自殺したのってまさか……』


 何かを察した男は顔が見る見るうちに青くなる。俺も同じ状況だったとしたらと考えると恐ろしい


『そう。私がそうなるように仕向けたの』


 人一人を自殺に追い込んどいてこの言い草だ。犯人達が復讐したくなる気持ちも幽霊達が怨念で言語能力を失うのも頷ける


『お前ッ!! 解ってるのか!? 人一人の命を奪ったんだぞ!! それがどういう事か解っているのかッ!!』


 男の言う通り自分が直接手を下してなくても殺人は殺人だ。千才さんには麻衣子さんの腕を切りつけたから殺人の前に傷害で逮捕されるのが先なんだけどな


『解ってるわよ?人一人が死んだんでしょ?でも、彼女は私にとっては邪魔でしかない存在だったの。死んだところでどうって事ないわ』

『………………』


 この言い分にはさすがに激怒していた男も呆れかえったのか黙ってしまう。人を人とも思わないだなんて千才さんは本当に人間なのか?と疑ってしまうところなのだが、こうも清々しいと怒りを通り越して言葉を失う。反論のしようがない


『あら?私が論破したせいで反論出来なくなってしまったのかしら?ごめんなさいね』


 俺の基準から言わせてもらうとあまりの暴論に言葉を失っただけなのに千才さんは論破したと勘違いする始末。自意識過剰なのでは?


『お前、本当に人としての心があるのか?俺の事にしても麻衣子の事にしても』


 黙っていた男から出てきたのは千才さんに人心があるか否かを確認する言葉。この問に彼女は何て答える?


『あるに決まっているでしょ?ただ私と貴方じゃ考え方が違うだけよ。私にとってアレはただの人形でしかない。貴方にとっては人なのかもしてなけれど』


 人の心はある。ただ麻衣子さんの扱いに関して言うと男と千才さんじゃ考え方が違う。千才さんに同意するとしたら考え方が違うという一点だけだ。世の中様々な人間がいる。当然、考え方が違うのも理解出来るけど麻衣子さんを人形と言ってのける部分だけは同意しかねる


『そうかよ! お前にとって麻衣子は遊び道具の一つで俺のデタラメな噂を流したのも遊びだった。そう言う事でいいんだな?』

『ええ、そう捉えてもらって結構よ。貴方もアレも私にとっては遊び道具の一つですもの』

『チッ!!』


 男は壁を力強く一蹴りするとその場を去って行った。


『ふぅ、下品な男ね。だけど、もう少し苦しめるのも面白そうだわ』


 夕暮れの廊下。窓から外を眺める彼女は姿だけなら画になる。しかし、その表情は俺の目線から見ても邪悪そのもの。果たして千才さんに人としての良心があるのだろうか?



 そこから再び場面は変わり、映し出されたのは口論していた男ではなく、別の女子。麻衣子さんと違って小柄だが、顔つきは可愛らしい。幽霊達の中にいた一人に似たような女がいた。彼女は狂ったように千才さんの名前を呼び『コロス』とこれまた狂ったように笑っていたから幽霊状態の時とはまるで別人だ


『ちーちゃん?』


 映し出されたのは麻衣子さんの時とは違い、体育館倉庫。そこに千才さんと二人きりという状態だ。千才さんをちーちゃんと呼んでるところを見ると仲がよさそうにも見えなくはない。まぁ、他人を渾名で呼ぶのが彼女のクセなだけなんだけど


紗李(さり)、私をちーちゃんと呼ばないでくれないかしら?貴女とはそんな仲じゃないでしょ?』


 相も変わらず唐突な出だし。最初は何のこっちゃと思った。麻衣子さん然り、男然り、この紗李さん然り、千才さんが何かを仕出かすか仕出かした後の場面になるんだから戸惑うなって方が無理だ。


『え?でも、わたしとちーちゃんは親友でしょ?だったら渾名で呼ぶのが普通じゃない?』


 親友の定義や呼び方に関する考え方は人によって違うからこれまた何とも言えない部分はある。紗李さんが親友を呼ぶ時は渾名で呼ぶのは理解出来たけど


『普通じゃないわね。だって私は貴女を親友と思ってないもの』


 麻衣子さんの時にも聞いた言葉が千才さんの口から飛び出した。この人は自分を慕ってくれている人を裏切るのが趣味なのか?


『え?え?で、でも、私に貴女とはいい関係になれそうね。って入学式の日に言ってくれたよね?』

『ええ、言ったわよ?いい主人と下僕の主従関係になれそうねって。もしかして友人関係だと勘違いしたのかしら?』


 (おおよ)そ普通の人間の言葉とは思えない。何でこんな奴が警察官をやっているのかと理解に苦しむ程だ


『しゅ、主従関係って……わたしそんなの聞いてないよ!! ずっと親友だと思ってたのに!!』

『言ってないですもの。それに、さっきも言ったでしょ?私は貴女を親友だとは思っていないって』

『う、嘘だッ!!』


 うん、どっかで聞いたようなフレーズの言葉。こんな緊迫した場面じゃなかったら突っ込みを入れてたところだ


『嘘じゃないわ。私は貴女を体のいい下僕程度にしか思ってなかったもの』


 千才さんの記憶だから紗李さんに関する細かい記憶まではない。彼女が紗李さんとどんな風に過ごしていたかってのを始め、麻衣子さんが自殺した原因、盗撮された写真がバラまかれた後、男がどうなったか、他の犯人達や幽霊達に何をしたかすらその記憶に残ってないのだ。


『うら……ぎったの……?』


 不安気に千才さんを見る紗李さんの目には宿るのは僅かながらの希望。紗李さんは千才さんに下僕と言ったのは嘘で本当は親友だと言ってほしい。そう願っているようにも見て取れる


『裏切るも何も貴女が妃神千才という人間を誤認していただけでしょ?何回も言っているように私は貴女を親友だとは思ってないのよ。最初からね』


 この言葉に紗李さんの希望は完全に打ち砕かれたのか、膝から崩れ落ちた



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

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