アリシアとの出会い
「…ハグッ…ングッ」
かき込むようにシチューを食べる少女。
余程お腹が空いてたんだろうなぁと尻目に俺もシチューを啜る。
うん、美味い。 俺好みの具沢山だ。
「…おかわり!」
空になった食器を掲げる女の子。 直ぐに宿の女将さんが食事をよそりに来て、彼女はすぐに食事を続ける。
「…どのくらい食べてなかったんだ?」
俺は彼女に疑問をぶつける。
「…んくっ、三日くらい…」
飲み込み、答える彼女。
「マジかそんなに食べてなかったのか。そりゃ倒れるわな」
「悪かったわね。 さぞ迷惑だったでしょう」
ジロリと少女はジト目になる。
「そんなこと思ってないよ。 困った時はお互い様…だろ?」
「…変な人。 あなた変わってるって言われない?」
「んー、変とは言われたことはないけどなあ」
「…そう。 んっ」
少女は水を飲む。どうやら食事は終わったようだ。
「ご馳走さま。 ご飯ありがとう。 お金は必ず返すわ」
「いいってそんなの。 見過ごせなかっただけだから」
「…ほんと変わった人。 ねえ? 貴方の部屋はどこ? 少し話さない?」
「あれ? さっきまでは嫌がってたのに」
「…気が変わっただけよ。 それに変なことをするつもりなら…」
ボウッと彼女の手のひらから小さな火がつく。 魔法か。
「ね?」
「なるほど、容赦なく焼くと。 ははっ分かってるって、そんな事しないよ。 …部屋は二階だ、行こうか 」
「ええ」
彼女と階段を上がり部屋に到着する。 俺はベッドに腰掛け、彼女は椅子に座る。
「ふぅ…」
彼女がフードを取る。 薄く長い金髪を2つに結んだツインテールよりも目についたのは、彼女の耳がピンと尖っていた事だ。
「…何見てるの?」
「え? いや」
俺の視線に気づいた彼女。
「そんなにエルフが珍しい?」
「え? エルフ?」
「…その顔は初めて見るって顔ね」
「ああ俺、東の大陸出身なんだ。 だから珍しいっていうか」
「ふーん、東の大陸のほうにもエルフはいると思うけど。 貴方、東の大陸のどこ出身なの?」
「それは…ははっ」
笑って誤魔化す。
「…まあ、いいわ。 そんなこと話すために来たわけじゃないし」
「…貴方も働き口を探すためにここに来たのよね?」
「え?」
「寄宿舎ではなく宿泊まりだし、ギルドや王国関係の人間でもなさそうだしね。 私も仕官先を探しているのよ。 …結果はさっき見られたから分かると思うけど」
「働き口かぁ」
確かにこのままではマズイとは思うが、先ずはカーズの言った通り情報集めが先決だ。
使命についても気になるしな。
「えっと、君は働く場所を見つけるためにここに来たの?」
「ええそうよ。 …でも、徒労だったわ。 ギルドも王立魔法学校も図書館も城も、全部私がエルフってだけで断られたわ」
彼女の顔には憤りの色が見える。 大分ご立腹のようだ。
「ほんと、嫌になっちゃわよ! そんなに人族が偉いの? 私の国と同じくらい魔法が発達してる国だから私の魔法の力を活かせると思ったのに…」
「まあ落ち着けって」
「貴方はどうなの? いいとこ見つかったの?」
…その返しは困るな。 もともと職探しでここに来たわけではないからな。 そもそも仕事を探すなら隣国に行っている。脱獄犯の身だしな。
「ああー、見つかってないかな?」
「…そう。 お互い恵まれないわね」
「君は? どうしてここに来たんだ?」
「それは…」
「私の故郷では生きてる意義を見出せなかったからよ」
「意義?」
「私の話なんて、そんなのどうでもいいじゃない」
それ以上は詮索されたくないようで強引に話を打ち切られる。
「それはそうだけど。 一文無しなんだろ? この先大丈夫なのか?」
「うっ…それは」
「いつからお金ないんだ」
「三日前からよ…」
「そうか。 …じゃあこれ」
スッと彼女に小袋を差し出す。
「なによこれ」
「お金だよ。 20ゴールド。 少ないけど使ってくれ」
「っ! なによ!同情なんていらないわよ! 屈辱的だわ」
「同情してるわけじゃないよ。 俺も君と同じような身だからな。 心配しているだけだ」
「私は誇り高いエルフ族よ。 ただでは受け取れないわ」
「…ああ、じゃあこうしよう。 このお金は貸すよ。 次返してくれればいいから」
「返す…本当にいいの?」
「いいもなにも最初からそのつもりだよ」
「じゃあ… ありがとう。 食事のお金もそのお金も必ず返すわ」
おずおずと少女は小袋を受け取る。 とりあえず受け取ってくれようで安心した。
「あ、えっと名前…」
「隼輔。 伊東隼輔だ」
「…ありがとう隼輔。 この恩は忘れないわ」
「君の名前は?」
「アリシアよ。 アリシア・ハーデンルーネ」
「そっかアリシアか。 よろしくな」
「ええ、よろしく」
「と、今日はもう遅いからここで寝たほうがいい。 それと風呂にも」
「そ、そこまでの礼はいらないわ。 それに…」
ベッドに視線を向けるアリシア。
「…ああ、なるほど。 心配しなくて大丈夫だ。 俺は床で寝るからさ」
「それはダメよ!」
「いいから。 慣れてるし、俺はどこでも寝れるんだ。 だからベットは使っていいよ」
「…それじゃお言葉に甘えるわ。 ありがとう隼輔」
「ああ、それじゃ俺は寝るから。 そっちも好きにしていいよ」
「ええ、分かったわ。 …おやすみ隼輔」
「ああ、おやすみ」
あ、魔法障壁は張らせてもらうわねと、アリシアがなにかバリアーのようなものをベッドの前に張る。 触ったら跳ね返るようなモノか?
…信用されてねえなあ。まあ、そりゃそうか見ず知らずの他人だもんな。俺。
夜が明け朝になる。 アリシアと朝食を済ませ外に出る。
「それじゃ、ありがと隼輔。 この恩は忘れないわ」
「困った時はお互い様だ。 気にすんな。 それよりこれからどうするんだ?」
「中層のほうに個人でやってる魔法スクールが何軒かあるからそこを当たってみるわ」
「そっか。 じゃあ元気でな」
「隼輔こそ。 元気でね。また必ず会いに来るわ」
「おお、そんじゃなー」
アリシアが去っていく。
(良かったのか? 金銭をあの小娘に渡してしまって)
(いいだろ別に。 これも人助けだ)
残金あと30ゴールドほどしかないけどな。
節約すればもう少しはいけるだろう。
(ていうか何してたんだよ。 今の今まで)
(寝てた)
(寝てたって…)
(ここから先はお前の力を目一杯行使するだろうからな。 魔力を極限までに貯蔵しておいた)
(イマジンを使うって、どういうことだ?)
ここにはモンスターはいないぞ? それともギルドに登録してモンスター討伐でもしろってか?
(最初にこれだけは聞かせてほしい)
(この先、お前はきっと苦難の道を進むことになる。 死が常につきまとう。 それでもお前にこの世界を変える意思はあるか?)
(…ああ、あるよ。 俺は彼女に誓ったんだ。 平和な世を作るって。その為ならなんだってする)
(そうか聞けて良かった。では、話すぞ…)
(ーー王を倒せ。 この国の国王、グスタフ4世を)




