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これから

「今日はそろそろここらで休もうか」


かれこれ目的地に向かって早4日経つ。 乗り物ではなく徒歩での旅だから長い旅路だ。


空を見上げると日も傾いてきたし、今日はもう切り上げてここで野宿の算段を立てた方がいいだろう。


街道沿いを歩いてもこのくらいかかるのだから、道行く商人のキャラバンに乗せてもらおうと思ったがアリシアに却下された。


曰く、路銀は大切に節約するべしとのこと。


一応、ユリーカにお金は結構貰ったんだけどな。


旅立つ時に中身を見てびっくりしたけど、少ないなんてもんじゃない。 なんだったら馬車も買えるだろう。 本当に女王様、様様である。


「そうね、だいぶ歩いたしね。 もう足がヘロヘロよ」


アリシアも疲れたようで適当な木陰で休む。


俺もつられて側で腰を落とす。


「お腹空いたわね…今日も大ヒト喰いドリなの?」


「ああ、昨日で三匹も狩ったからな。 肉は傷みやすいし早めに処理したほうがいいよ」


大ヒト食い鳥はアリシアが仕留めた獲物だ。


彼女は弓の扱いも一級で正確に狙った獲物を射止める。弓自体は旅立つ前に王都で買った物らしい。


手馴れたものではなく購入したばかりの弓をすぐにモノにできるのは、彼女の才能なのだろう。


正直、イマジンを使わなくて楽ではあるので俺は助かる。


「もう、お肉は飽きたわ! ああ、お菓子が食べたい…」


「贅沢言うなよ…ほら、調味料もあるんだし」


「岩塩しかないでしょう! シンプルすぎるわよ!?」


「なんだよ、美味しいじゃん岩塩」


「最初だけね…素材の味を楽しめてよかったけど…はぁ、まあ香辛料を持ってきてない私にも落ち度はあるし、仕方ないかぁ」


「俺は困らないけどな」


「貴方は食に関心がなさ過ぎるのよ! …はぁ、さっきの商人に香辛料の有無だけでも聞いとけばよかった…あったら即座に買うのに」


実は保存食は何個か所持はしているがこれは非常用のため、お互い食べない事にしている。 贅沢はできない旅だしな。


そのためその日限りの食事は、モンスターを仕留めてはそれを解体してありがたく命を頂戴している訳だ。


因みに俺はヘタクソだからアリシアがその辺うまく解体してくれている。


なんでも、エルフは狩猟民族だから得意とのこと。


そんなこんなで愚痴をこぼすアリシアと食事を終えて、焚き火にあたる。


食事自体には不満を言う彼女だが、他に関しては特に不満は言わない。


以前、ウッドランドからザルツラント王都の旅の際に一人旅を経験したからだろう。


こうして野宿も嫌がらない訳だし。



俺たちは特にすることもないのでパチパチと燃えている火を音楽に、これからの動向について話していた。


「ねえ、隼輔。 目的の場所の用事を終えたらカメリアに行くのよね?その後はどうするの?」


「なんだよ突然」


「ちょっと、ね…ウッドランドにも行くのよね?」


「ウッドランドってアリシアの故郷がある国だよな?」


「うん…」


「…最終的には行くよ。 目的の達成のためには全ての国に行かないといけないな」


「そっか…」


なんだか気落ちした様子だ。 何か事情があるんだろうか。


「ええと、やっぱり何か気まずいことでもあるのか?」


「……時が来たら言うよ。 ウッドランドに立ち寄るなら私も覚悟を決めなくちゃね。 それに、王都の戦いを何度も繰り返すようになるのなら、いつ死んでも可笑しくないから、ここでウジウジしてもしょうがないわよね」


「アリシア……大丈夫だ。 絶対に俺が死なせはしない。 必ず守るから」


もう、仲間が死ぬのは沢山だ。 二度とは経験したくはない。


だから、何が何でも俺は守り抜く。 そう奮い立たせるように今一度決意する。


「隼輔… うん、ありがとう」


「俺の見立てだと目的地には恐らく明日の正午には着いてるはずだよ。 …だから今日はもう早いうちに寝よう」


「分かったわ。 じゃあ、先に失礼するわね。 おやすみ、隼輔」


「ああ、おやすみ」


言葉を返しアリシアが簡易的な寝具で睡眠をとりに行く。 程なくして寝息が聞こえた。


(寝つき、結構いいんだな。 羨ましい…)


お互い代わり番こでこうして寝張りの番をしている。 いつ誰に襲われるか分からないからな。


故にこうして、先にアリシアに睡眠をとらせて後に俺が、と言う形を取っている。


(暇だ…)


する事もなく退屈なのでつい考え事をしてしまう。 寝落ち防止にもなるしな。


(アリシアは、本当に俺についてきてくれてよかったのだろうか…)


俺の旅は危険が伴う、英傑を倒すのが目的の為、必然的に死が常に付き纏う。


(それは、彼女に直接聞いてみたらどうだ?)


(カーズ…)


どうやら、眠っていないようで会話に参加してきたカーズ。


(ふ、ウジウジ悩んでないでその方が手っ取り早いだろう。 それに、彼女はお前の夢を手助けしたいと言っていた。 お前と旅が出来て本望だろうさ)


(そう、だよな… ありがとなカーズ。 俺、もっと強くならないとな。 この力をうまく使えるように)


(馬鹿言うな。 お前は英傑をすでに1人倒しているんだぞ。 下手な訳ないだろう)


(…褒めてるのか? 珍しいな)


(…黙れ。 私はもう寝る。 せいぜい睡魔に油断しない事だな)


(…へいへい)


こうして夜が更けていく…



少し明るくなり、アリシアが起床する。


彼女が交代を促し俺も睡眠とり体感で3時間ほどだろうか。アリシアに起こされる。


そして、朝の支度を終え俺たちは早々に出発した。



数時間後、午後の日照りが燦々と降り注ぎ昼食をとるか悩んでいる中、目的の建物が見えた。


「あれは…」


この、大きな石造りの洋館。


かつて、アシュリーと俺がここで奴隷として生活していた奴隷館だ。


今は、制度が改正しており奴隷はいない。


故にこの奴隷館は無人の空き家だった。


(随分と寂しい場所になったな…)


「ここが、目的地なの?」


アリシアが奴隷館に注目して尋ねる。


「ああ、そうだ」


「てっきり、目的は近くの街なのかと思ったわ」


そういえば、近くにあったっけか。 懐かしいな…


その街では奴隷市を開いたり、ドブさらいなんかの雑用の仕事をしたっけ。


そこの牢獄に収監なんかもされたな。


「中に入るの?」


「ああ」


扉を開け中に入る。 道順はわかるので俺を先頭にスイスイと進む。


目的はアシュリーの部屋だ。


軋む木の板の廊下を歩き、アシュリーの部屋に到着する。


内部はタコ部屋のような様だ。この奴隷部屋では少なくても6人ほどで生活するため雑魚寝で寝る。


故に自分の生活スペースなどなく皆共同だ。


「この部屋…たくさんの人が住んでいたのよね」


「そうだよ。 俺もこんな状態だった」


「隼輔… 恨んでないの?」


アリシアは過去に俺が奴隷に転じていた事を知っていて尋ねたのだろう。


「…恨んでるよ。 正直憎くてたまらない。大事な、大事な初めての友達がこの館で殺されたんだ。そりゃそうだよ 」


「その友達の名前って、アシュリー?」


「言ったことあったけっか? ああ、そうだよ。 アシュリーは王都出身なんだけど訳あってここに流れ着いてきたんだ。 でも、それを苦にもしない元気一杯の女の子だったよ。 正直俺は彼女にたくさん励ましてもらった」


「そっか…いい子だったんだね」


「ああ、とってもな…」


「隼輔の夢って彼女の影響なのよね?」


「そうだ。 だから、俺は叶えてあげたいんだ。 そしたらきっと彼女は天国で笑ってくれるから…と、あった」


適当な戸棚を漁っていたらようやく物を見つけた。


「これは?」


「彼女が身につけていた、ヘアピンだよ。 こうやって日にごとに付け替えていたんだ」


俺はヘアピンをリュックに入れる。


「…変かもしれないけど、アシュリーの形見が欲しくてな。 せめて、想い出だけでもと思ってさ。…俺、アシュリーに何もしてあげてなかったから」


「ううん、変じゃないわよ。 大切な人なんだもんね。 彼女の遺品を隼輔が大事に持っていてくれるなら、彼女も本望なはずよ」


「…そうだよな。 ありがとアリシア」


「…ねえ、アシュリーって可愛かった?」


突然そんな事を聞くアリシアに少し驚く。


「え? …まあ、そうだな。 俺は可愛いと思ったよ」


「ふうん、…なんかモヤモヤするな」


「ん?」


「いえ、なんでも。 それよりも」


「彼女、墓標はあるの?」


「…ないと思う」


まだ奴隷の制度があった頃、扱いは相当ぞんざいだった。


死にゆく奴隷達への対応にも、そこら辺の土に埋めて処理をしていたはずだ。


アシュリーも恐らくそうだろう。


故にアシュリーの遺体がどこにあるのかは知らない。


ここに訪れたら一番にアシュリーに報告を済まそうとして、忘れていた。


「なら、お墓作ってあげないとね」


「ああ、そうだな」


俺たちは館を出て、近くの少し離れた丘にやってくる。


丘のてっぺんに着き、イマジンでドリルを形成して穴を掘る。


その穴に、部屋にあった諸々のアシュリーの私物を入れる。 彼女の愛用のヘアピンもその穴に入れた。


もちろん、一個だけは大切にリュックに保管する。


穴を埋めて奴隷館から持ってきた鉄材を十字の形にし、そこに差し込み簡単な墓標を作り終えた。


「死者へのお祈りは任せて。 エルフ式になるけど…」


「ううん、こうやって何かをした形が大事だと思うからきっと彼女も喜ぶよ」


すると、アリシアが目をつぶり両手を広げ何かを唱える。


エルフ語だろうか? 聞きなれない言語を流暢に呟く。 俺もアリシアの真似をして目を瞑る。



(…アシュリー、報告遅れてごめんな。 俺、君の夢を必ず叶えるから。 それが今の目標なんだ)


(今は、こうして仲間もいるから寂しくない。 だから、見守っててくれアシュリー)



ーーいつか、きっとそこに行くから。


「隼輔。 終わったわよ」


「ああ、ありがとう。 アリシア」


「報告、終わった?」


「バッチリだ」


お墓が荒らされないように後でユリーカに手紙を送っておこう。彼女なら手を貸してくれるはずだ。


「それじゃ、行くか」


「ええ、カメリアに出発ね。砂漠を見るのは初めてだからなんだか緊張するわね」


「はは、まあしっかり準備しているんだし、大丈夫だよ」


丘を下りて、街道沿いの道に戻る。


さあ、出発だ。



(ーーアシュリー、それじゃ行ってくるな)




「もし」


「!?」


急に横から声をかけられ、驚く。


「…何者だっ」


俺は直ちに戦闘態勢をとり、いつ発動してもいいようにイマジンの準備をする。


アリシアも警戒して、弓を構えている。


音もなく現れたそれは、鎧姿の戦士だった。


上半身は甲冑で覆われていて、下は程よい長さのスカートを履いている。


ニーソックスのような膝上まであるそれは金属で作られており素肌を守っている。


顔は…いわゆる鉄仮面だろうか。


顔全体覆われていて表情が読み取れない。 その仮面はまるで溶接の際に用いる保護ヘルメットのような見た目だ。


女、か…


まさか、2人もいて近くの気配に感じ取れないとは。


「黄色いジャケットに東の大陸の特有の顔つき…それにその包帯…」


確認するかのように俺をジロリと注視する鎧女に、俺は焦るかのように言葉をぶつける。


「だから、何者だよあんたは」


「伊東隼輔…だよね?」


「っ!?」


何故、俺の名前を…横ではアリシアも目を丸くするようにたじろいでいる。


「私の名前はダーリヤ…」


「それで、そのダーリヤさんが俺に何の用だよ?」


すると、彼女は仮面を取り素顔があらわになる。


振り払うかのように彼女の銀髪のショートカットがたなびく。


その様は何か、粒子のようにキラキラとした物が舞うかのように美しかった。


初めて彼女と目があう。人形のような可憐さと透明さを持つ彼女の端正な顔立ちに、俺は思わずドキッとしてしまう。


「…ぃ」


「え?」


か細い声で言う彼女に聞き返してしまう。


すると次はスッと聞こえる声で。


「お願い。…コールマールを救って」



そんな言葉を彼女は呟いた。



ーー次回、コールマール王国編。



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