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第二次 王都の戦い

「それじゃエマさん、みんな。 行ってくるよ」


今日は作戦当日。 人々が寝静まるこの深夜の時間、行動をするにはぴったしだ。


下層の住人もいまのこの現状では無闇に夜の街を彷徨こうとはしないだろう。


俺は準備を終えて集合している仲間たちに言葉を送る。


俺の仕事はできるだけ多くの兵士を引きつける事だ。 その隙を狙って他のメンバーが仲間を増やすために監獄と奴隷館を襲撃する。


故に俺の出発が一番早い。


革命軍の人数は30数名と前と比べれたら遥かに下回る数だ。


それだけに人員は割けない。


陽動部隊は俺だけしかいない為、こう皆が見送りに来ている。


「隼輔、お願いね。 あなたが頼りよ」


エマさんが俺の肩にポンと手を置く。 リーダー不在の今彼女がこの革命軍を指揮する立場だ。


「俺たちは必ず成し遂げてみせるからお前も頑張ってくれな 」


ブルタンも、もう片方の肩に手をかける。 彼も襲撃隊に加わっている。


「役目を果たしてみせます。…ではもう行きますね、あとはお願いします」


皆に一礼し振り返らずにその場を後にする。


今生の別れでは無いのだから別れは淡々としていた。


今度こそ必ず成功してみせる。 胸に秘めた想いは誰かに吐露せずとも以心伝心のように皆思っているに相違ないだろう。


不思議と緊張はしなかった。 枷のような重圧よりも湧き上がるものは熱くグツグツと煮えたぎる大鍋のような確かな自信だ。



後ろを振り返るとパブは暗く静けさが漂っていた。


思えばこのパブには大分世話になった。


俺たちを匿うことは、いわばいつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えているかのような感覚であっただろう。 それでもなおオーナーは俺たちを匿ってくれた。


本当に頭が下がる思いだ。


「隼輔!」


アリシアが追いかけてくる。 見ないと思って心配していたが何をしていたのだろうか?


「アリシア…」


「もう行くのね…?」


「そのつもりだよ。 アリシア…俺頑張るからさ。 アリシアも」


「分かってるわよ。 …お互い必ず生き残りましょう。 死んだら許さないからね!」


「分かってるよ。 …それじゃもう行くな」


「…うん」


これから先の俺のことを案じて彼女は暗く悲しげな顔をする。


俺は景気付けとばかしに彼女に笑顔を送る。


すると彼女もぎこちないながらもにこやかに返してくれた。



ーーよし、やってやるぜ。



完全な暗闇。設置されている街灯は破壊されておりこの街の治安を顕著に反映されているかのようだ。


所々、蛍のように火が移動していく様は兵士たちが見回りで辺りを警備しているのだろう。


程なくして下層の広間に辿り着く。


(カーズ、そろそろいいよな)


(いつでもいいぞ。 私の言った通りに先ずは行動しろ)


この日のためにイマジンの使い方をカーズに教授してもらっていた。


具体的には魔力についてだ。


実際、俺自体に魔力というものはない。 カーブに詳しく構造を教えてもらってもそもそも知識がない俺には理解を超えることが多々ある。


かいつまんで分かりやすく言うと、この力を使えるのは俺の身体に入っているカーズの魔力が源らしい。


故に魔力の上限はカーズが理解しているのでカーズに魔力の節約とその戦い方を習っていた。


「おい君、こんな時間にどうしたんだ?」


いつ始めようか? 大声でも出そうかと考えて突っ立ていると、たいまつ越しに兵士が声をかける。


「…ちょっと用事があって」


「何もこんな時間でなくてもいいだろう。 いまここは危ないからどこか建物の中にいなさい」


「何故危険なのですか?」


「そりゃ、犯罪者が蔓延るこの街だからだよ。 それに前の戦いは知ってるだろう? あの戦いから逃げてきた犯罪者が息を潜めているかもしれない。…特に左腕が異形の形をしている男。そいつには要注意するんだ」


「それって」


俺は包帯をとり、左腕を兵士に見せつけるように掲げる。


「こんな感じですか?」


「っ!? お前! 報告であった重要犯罪人… くっ! 来てくれ見つかったぞ!」


兵士が鈴を鳴らす。 するとどこからともなく警備の男たちが集まる。


「…よし。 戦闘開始だ」


「うおおー!」


俺を認識するや否や捕縛する為こちらに複数人で突撃する男たち。


「ーーイマジン」


もはやお馴染みとなった追尾レーザーで近づいてきた奴らを焼き払う。


名前でもつけようかな…


「ぐおお!」


吹き飛ばされる兵士たちをみて他の奴らはたじろぐがすぐさま次の作戦を立てる。


「魔法を放て!」


近距離がダメなら遠距離でと、一斉に魔法を放つ。 火、雷、水、風と様々だ。


どれも威力的には中級程度といったところか。


「無駄だ」


俺は正面を見据えすぐに形成を始める。


腕はグニャりと粘土のように形を作っていき不可思議な物体を形成する。 それは受け皿のような形をしたオブジェのようにみえる。


「な、なんだこれは」


驚く兵士たちは警戒し数歩後ずさる。


「…まあ見てろって」


形成した皿に魔法が衝突する、かのようにみえた。


魔法はまるで壁に反射するかのように跳ね返っていく。


やがて魔法を放った本人の元にそれらは勢いをつけて戻っていった。


「うわぁぁぁぁぁ!」


「ぎゃーー!」


「く! 取り乱すな。 もうすぐで上級兵士たちが来る! それまで持ちこたえろ!」


阿鼻叫喚となっている現場に俺は一切の反応をせず次のイマジンで何を想像するか思考する。


すると不意を突かれた形で俺に巨大な雷撃がこちらに方向めがけて飛んでくる。


「…っ!」


ギリギリのところで俺は反応し雷撃を反射する。稲妻が持ち主のところに戻っていき視線を見定め相手の方をみる。


放った相手はまるで予想していたかのようにヒラリとそれを躱す。


「なかなか派手にやってるねぇ」


「不意打ちとは卑怯だな。 ジャック」


カラカラと笑う男は兵士長の身分でありこの国の上級兵士に連ねているジャック。


その性格は高貴な見た目から離れて悪辣な男だ。


こう、ヤツと会うのはあの日以来になるな。



「はは、君にはこのくらいしないと勝てないからね」


まるでテストで満点をとったかのように得意げに笑うジャック。


「ホント、卑怯なヤツだな 」


「…ところで君ひとりなのかい?」


キョロキョロと周りを見渡すジャック。


「だったらなんだよ?」


「はは! 他の仲間には見捨てられたって腹かい! 惨めだねぇ」


「…なんとでも言え。 俺はリーダーの仇を取るだけだ」


「へえ、威勢がいい言葉ならいくらでもこぼしなよ。 もちろん、冷たい監獄の中でね!」



やれ!とジャックの掛け声と共に魔法と兵士の弓が重なり放出されるが俺は瞬時に打ち返す。


「だから、無駄だっつの!」


「んー、やっぱりこんなものじゃ無駄みたいだね」


「ああそうだ。 お前たち相手じゃ俺は倒せないよ。 王を呼べ」


「何馬鹿なこと言ってるんだい? 来るわけないだろう。 ふふ、余裕ぶるのも今のうちだよ。 …もう時期僕と同レベルの兵士たちが来る。 上級兵士というヤツだね。 それまでに果たして耐えられるかな?」


「耐える耐えないじゃなくて。 今終わらせてやるよ」


「へ?」


兵士以外に人がいないことを確認し腕を再度変換する。


さらに変換した腕のブツを腕から引きちぎり奴らに投げつける。


「なっ!」


「弾けろ」


ドォンと大きな衝撃音がうるさく耳をつんざく。


中規模な爆発だが街中ではぶっ放すには最適の規模であろう。


因みにちぎった腕は勝手に再生される。 この腕自体には全くの痛覚は感じない。 まるで違う生き物が住み着いている感覚だ。


やがて煙がたちきえ辺りがクリアになる。 大多数の兵士が黒煙を上げて倒れ伏していた。


(カーズ…アイツら、死んでいないよな?)


爆弾をつくりあげだ俺もまさかここまでの威力だとは思ってはいなかった。


死んで無いか心配になる。


(辛うじて生きている…な)


(ほっ)


「くっ…まさか、ここまで君のその力が出鱈目に強いとはね…」


「ジャック」


あの爆発の中でも彼はただひとり立ち上がっていた。


鎧はすでにボロボロで所々体の節々は焦げていて顔は苦痛で歪んでいる。


執念だろうか。それでも彼は立っていた。


「ほんと、思いもしなかったよ。 あの時有無を言わさず殺しとけばよかった」


「…お前が俺にやった事。 今までの所業に関しては絶対に許しはしない。 王を倒したら真っ先にお前と奴隷館の男は相応の罰を受けてもらう」


「はは! 罰、ね。 怖いなー! 裁くのはあっても裁かれるのは初めてだよ!」


「そう笑っていろ」


吐き捨てるかのように踵を返す。 満身創痍の有様の彼はもう与力なんて残ってないだろう。


「…最後に一つだけ聞かせてくれないかい?」


「…何だよ?」


「君はどうやってここまでの強さを会得した?」


「…さあな。 お前には教えねえよ」


「 けどな、この力は誰かを守るためにある力だ。 私利私欲のためには使わない それだけは答えてやるよ」


「誰かを守る力ねえ… ふふっそうかそうか。 いい言葉を聞かせてもらったよ」


「はよ寝ろ。 もう立ってるのも限界なんだろ」


「あ、見透かされてた? …はは、もう敵わないな…」


バタッと音を立てて派手に奴が倒れる。


(隼輔…殺さなくていいのか?)


( いいよ。 殺してもきっと何も残らない。 こいつにはちゃんとしかるべきところで罪を償ってもらう)


(甘いヤツだな)


(なんとでも言え。 俺はそういう人間だ)


空を見上げる。 この近辺にいる奴らは大分倒したはずだ。 きっと時間もそれなりに経っている事だろう。



ーー狼煙は上がっているか。


奴隷館や監獄の襲撃に成功したら狼煙をあげる取り決めをエマさんとしていた。



上がってないとすると…


いや、まだ結論を出すには早い。



そうこう考えていると、白金の鎧を纏った兵士たちがこちらに向かってくる。


上級兵士か。


「なんだこの有様は…! いたぞ! 奴だ」


「ま、俺は俺の仕事をやるだけだ。 頼んだぞみんな!」



あれから、いくばくか時間が経った。


正確な時間は分からないがこの兵士たちの束をみて、俺は長らくずっとここで戦っていんだなって実感する。



「まだか…」


敵は俺ひとりだと油断している兵士たちは、さっきからひっきりなしにこちらにやってきたが段々と足音が途切れてきている。


ーー悟られたか


不安が頭をよぎり何度も上空を見上げる。


焦燥感がピークになり襲撃部隊の加勢に入ろうかと迷っているとゆらゆらと小さい狼煙が左右に炊きあがっていた。


ーーこれは!


(成功したみたいだな)


カーズも心なしか明るい声色だ。


「よし! じゃあ、さっさと合流しちまおう! 中層にいくぞ」


俺は中層めがけて駆け出す。


早くみんなに会いたい…!


途中、羽虫のように湧き出る兵士たちと鉢合わせするが邪魔とばかしにイマジンで撃退する。



ーー着いた。


みんなは…


中層の広間にたどり着くが誰もいない。 集合場所はここであったはずだ。


「…まさか」


罠か? 嘘だろここまで来て…


途端に血の気が引いていく。 失敗、したのか。


「隼輔!」


名前を呼ばれ勢いよく振り返る。


こちらに向かって駆け寄る少女は笑顔で心境を体現するかのように、二つに結んだ金髪がゆらゆら揺れている。


「アリシア!」


「よかった。 生きてたのね」


「ああ、無事に、な。 それで襲撃は成功したのか? 狼煙を見てこっちに来たんだけど」


「ええ! 作戦は成功よ! いまみんなで上層に向かっているわ」


「なるほどな。 アリシアはここで待っててくれたってことか」


「ええ。 …恐らく今は大規模な戦闘を繰り広げているはずよ。 まずはエマさんのところに合流しましょう。いいわね?」


「加勢するんだな。 分かった。存分に暴れてやるよ」



先を急ぐと、眼前はまさに戦争といった有様で鎧を装着している兵士やローブを羽織っている魔法使いとは対照にこちらは奴隷やら囚人やら革命軍のメンバーが両者激突している。


前方を見据えるとエマさんを発見し、俺は声を荒げる。


「エマさん!」


「隼輔!無事だったのね」


エマさんも気づいたようでこちらに手を振る。


「この数凄いですね! こんなに味方になってくれたんですか。兵士たちと引けをとらないですね」


仲間になってくれたであろう共に戦ってくれている奴らは様々な人種や性別、年代こそバラバラだが、得意不得意で相手を選びながら戦って幅広く活躍し、時には助け合いながら兵士たちを苦戦させている。


「思いのほかこちらに協力してくれる人たちが沢山いたのよ。 それに隼輔のお陰で襲撃は容易だったわ。 ありがとね」


「みんなが力を合わせたからですよ! …それよりもこの後はどうします? このまま城に向かいますか?」


「そのつもりよ。 …でも、隼輔が最初に城に行ってほしいの」


「僕ですか?」


「ええ、あなたが突破口になって先に相手を撹乱させて頂戴」


「分かりました。 後からみんな来るんですよね?」


「勿論よ。 …この戦いは貴方が頼りなの。 危ない橋を一人で渡らせるのは申し訳ないけどね。 この戦闘もひと段落したら直ぐに貴方に続くわ」


「分かりましたでは直ぐに…」

「ちょっと待って! 私も行くわ!」


言い終わる前にアリシアが片手を上げ主張する。 一瞬エマさんは目を丸くするが。


「アリシア… ええ分かったわ。 あなたも行きなさい。 じゃあ二人とも、ここは私やグルタンが足止めしておくから後は任せたわよ」


快く了承してくれたようだ。 本音を言うと俺も一人は心細かったので正直ありがたい。


「エマさん、ご武運を祈ります。よし、じゃあ早速行こう」


「ええ!」


今だ激戦の最中、俺たちは死線を潜り抜け目的地に向かって一気に走り抜ける。



白亜の城は数分で到着した。


巨大の門を二人で正面から対峙する。


門の前には兵士が虫すら入る隙間がないほど密集している。


絶対に通すまいと強い意志を感じる。


「これは… だいぶ苦労しそうね。どうする隼輔?」


「考えがある。アリシア、下がっててくれ」


「隼輔?」


「こう多くちゃ時間がかかるからな。扉ごとぶっ壊す」


躊躇う暇はない。 ここは一気に侵入した方がいいと彼女も判断したのだろう。 俺の後ろに下がる。


「 …ええ」


「ーーいくぞ」


敵方が魔法の詠唱や弓を引こうとしているタイミングに俺は光線を放つ。


「 喰らいやがれえぇぇぇ!」


ズドーン!と大きな音をたて砲撃が発射される。


放出された極太レーザーは兵士たちを焼きつきし閉まっていた堅固で大きな扉が貫通する。綺麗な円で貫かれた扉はドロドロに熱を纏って溶けていた。


勿論死なないように加減はしていたはずだから、死んではないと思う。 …そう思いたい。



「進もう。 こうしている内に別のやつが来たら面倒だ」


「ええ、行きましょう」


貫かれた門の穴から飛び込む形で城内に侵入し、玄関ホールにたどり着く。


「凄いな…」



ーー外観も相当だったけど内部もなかなかだな。


ファンタジー系の作品で目にするそれと全く一緒で一種の感動すら覚える。



「なあ、アリシア。 王ってどこにいるんだ?」


「すぐに会いにいくつもりなの? 侵入もできたことだし、エマさん達を待ちましょうよ」


「 いや、ここで悠長に待ってたらそれこそ何か仕掛けてくるはずだよ。 だからこの隙を狙って一気に叩きに行くべきだ」


アリシアは反論しようと何かを言おうとするが一瞬考えるそぶりをする。


「はあ… まあ、隼輔ならそういうわよね。 分かってたけど」


「理解が早くて助かるよ」


「…恐らくだけど、この階段を登って行ったところよ。 私もよくは分からないけど一際豪華な装飾で施されてる扉とかがいかにも王様がいる場所なんじゃないかしら?」


「なるほどな。 よし、先を急ごう」


階段駆け上がる俺たちに対してこちらを排除しようと向かってくる兵士たち。


鬼気迫る勢いで襲ってくる彼らの様子から察して王のいる部屋に近づいているのだろう。


目標が迫っているからか、俺とアリシアは兵士たちを魔法やイマジンで余裕綽々とばかしに蹴散らす。


改めて、殆ど鎧袖一触で敵を倒せるこの能力は驚異に感じる。


(隼輔。 悪いが魔力が残りあと半分ほどしかない。 使い道を考えて行使するんだ)


(ああ、わかった)


イマジンは魔力の消費を激しく使うようでカーズほどの者ではなければすぐに魔力は枯渇するらしい。


想像力が大きなものほど魔力は大幅に減る。


先程門を焼き尽くした光線がそれだ。 そう何度もぶっ放すのは控えた方がいいだろう。


やがて、階段を登り終える。


その先には開けた場所があり、そこに二人で向かうと一人の男が立っていた。


「ようこそ。 王の城へ」


貴族のようなヒラヒラの礼装を着た男が一人。 見た目からしてそれなりの身分なのだろうが…


「お前は…」


「この国の大臣よ。 隼輔、こいつは強いわよ」


大臣か…。この国がこうなってしまった元凶の一人でもある。ここで見過ごすわけにはいかないだろう。


「まさか、貴様らゴミが再びこうも集まるとはな。 それもこの城の侵入を許すなんて…全く兵たちは不甲斐ないな」


「兵士が弱いんじゃねえよ。 俺たち革命軍が強すぎるんだ」


「減らず口を… まあ、いい。 ここを通すわけには行かん。 この先は王の御前。 お前の身分では王と対話すら不敬だ」


「あいにく、そいつに用があって俺たちは来たんだ。 通させてもらうぜ」


「…隼輔」


「なんだ?」


「ここは私に任せて先に行って」


「アリシア…」


「恐らくだけど先の戦闘でかなり魔力を使っているはずよね? だから、ここは私がやるわ。 残りの力で王をたおして」


(隼輔。 素直に従おう。 その方が望ましい)


アリシアは何かを決意したかのようにこちらをジッと見つめる。


…ダメだなんて、言えないよな。


「…アリシア、死ぬなよ。 無理だと思ったら逃げてくれ」


「私を誰だと思ってるの天才エルフのアリシアちゃんよ」


「ははっ! それもそうだったな。 …じゃあ、頼んだぞ」


「ええ、武運を祈るわ」


「むぅ。さっきから何をコソコソしている」


奴が不可思議に感じている隙に俺はザッと駆け出す。


「 ふん、逃がしはせぬぞ! 」


奴が即座に呪文の詠唱をし大きな火の玉が俺を襲う。


しかし、それを跳ね返すように違う火の玉がそれにぶつかる。


「あなたの相手はこっちよ」


「く、やはり貴様は魔道士か… 面倒だな」



大臣があちらに気を取られている間に俺は奥に向かって走る。決して邪魔はさせぬと続けてアリシアが間髪入れずに大臣に魔法を唱える。


「く、逃げるな! っ、うぉぉ!」


「だからあなたの相手は私っていってるでしょう!」


「くそ! 小娘の分際でワシを!」


二人が戦っている間をすり抜け、俺は王の間目指して全速力で走り去る。



ーーアリシア、頼んだぞ。




「ここだよな」


長い廊下を進み、一番奥までたどり着いた。


恐らくここだろう。 この奥に何かいる。 ビリビリとした空気を感じ確信する。


扉に手を触れる。


金細工で張り巡らせてある高級感がある重厚な扉。 ここが王の間の扉だろう。


「…」


渾身の力で蹴破ろうしたその時。


「待って!」


不意に呼び止められて後ろを振り返る。


警戒心を抱きながら相手をみると、そこにはドレスを着た少女がいた。


「あんたは…?」


「そんなことはどうでもいいのです。 私の質問に答えてください。…あなたは革命軍の方ですか?」



「ああ、そうだけど」


この際隠す必要もないだろう。正直に答える。


俺の問いを聞き複雑な顔をし、俯くする少女。


「王を、お父様を倒すのですか?」


顔を上げて震え声で質問を重ねる。


「お父様って、あんたまさか奴の子供か。 てことはこの国のお姫様か」


まあ、そうだろうなとは思ってたけど。 普通この城にこう年若い女の子なんかいないよな。 上品そうな身なりだし。


「質問に答えてください」


「…ああ、倒すよ」


彼女の目を見てきっぱりと答える。


「そうですか…」


やけに素直に受け止める姫に俺は疑問が浮かぶ。


「変だな? 止めないのか」


「わたしにはあなたを止める権利も力もありません」


「だからお願いです。父を、お父様を止めて下さい。 この国の未来を変えてください」


ペコりと彼女が一礼をする。 一国の国の王女が俺に頭を下げるなんて…


熱いものが込み上げてくる。 彼女もこの国の未来を案じているいる一人なのだろう。 きっと父のやり方に疑問を抱いてはずに違いない。


「…ああ、了解した。 それと、ここから先は危険だからどこか安全な所に行ってくれ。 君を守れる自信はない」


「…分かりました。 私は貴方を信じます。 会うのは初めてですが何か貴方には不思議な可能性を感じます」


「そう言ってくれると嬉しいよ。 …それじゃあ」


これ以上言葉はいらないだろう。 会話を終わらせる。



扉に向き直り腕を形成する。 後ろの足音が遠くなっていくのを確認した後一つ深呼吸をする。


「ふぅーっ」


イマジンで手を大槌に変え、思い切り扉に向かって振りかぶる。


扉は勢いをつけて奥に吹き飛んだ。


「よお、倒しに来たぜ。 あんたをな」


「随分な挨拶だな。 お前は英傑の俺に恐れを抱かんのか?」


吹っ飛んできた扉を物ともせずこちらをギロリと睨む王。


英傑の視線に体を射抜かれたような感覚に陥るが、俺は一切悟られぬように精一杯の言葉を返す。


「これから負けるやつに誰が怯えるって?」


「ふふっ… 面白いヤツだ。 俺にそんな言葉を吐けるのはおなじ英傑くらいだぞ? …貴様、名前は?」


さぞ愉快そうに笑う王。 これから本気の果し合いをするのにその面持ちは余裕がある。


「隼輔だ」


「隼輔よ。問おう。 何故俺と戦う?」


「…一つはこの国を変えるため、二つはリーダーの仇。最後は」


「大事な人を守るためだ」


大事な人というワードに王が僅かに反応するが態度は崩さず。


「…そうか。 さあ、問答はいいだろう。 そろそろ始めようか。 貴様の実力、計らせてもらおう」


「余裕ぶりやがって、…いくぞ!」



最後の戦いが始まる。


初の英傑との戦い。


実力差は歴然だが、俺にはイマジンの力やカーズの助言がある。



ーーそれに、叶えるべき夢だって。


だから負けるわけには絶対に行かない。



見ててくれアシュリー、フランクさん。





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