表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

再び狼煙は上がる


ーー嫌に静かな夜だ。


賑やかな喧騒のパブも今日は店じまいをしている。


それもそのはずこの三日間は昼夜問わずひっきりなしに下層に兵士が押し寄せ、先の革命に加わったものや怪しいものを片っ端から検挙し捕縛している。


そのパブの地下室では何人かが会議部屋に座り特に何をするでもなくぼーっと押し黙っている。


その静けさは悲痛の沈黙のそれと似ている。



ーー彼は死んだ。


革命軍のリーダーフランクは死んだのだ。


あのあと俺は無事に地下室に辿り着き、皆と合流した。


俺を含め残ったメンバーは僅か30名ほど。


戦死したものや捕縛されたもの、中には敗戦の恐怖から逃げていくものまで様々だ。


敗戦から72時間経つが、皆の表情は暗い。


これから何をすればいいのか、きっとみんなそれは分かってるんだ。


でも、どうしても一歩踏み出せない。


言葉を発せられない。 それは恐怖と不安が心の中を何度も繰り返し反芻していた。


この生活は一種の怯えに近い、ここがいつバレるかだって最早時間の問題だろう。


エマさんはリーダーの部屋に篭りっきりだしブルタンは訓練所で狂ったように架空の相手めがけて練習をしており、アリシアは俺と同様何も発せず上の空である。


(リーダー…)


フランクさんは死んだ。もう会えない。俺があの時一騎打ち関係なしに救援に入っていれば彼を助けられていたのだろうか。



今となってはそれも後悔しかない。


胸にぽっかりと空いた穴にはただただ虚しさや情けなさというような自責の念にかられる。



(頭は冷えたか?)


(カーズ…)


こうしてカーズと話すのも久しぶりだ。 この三日間カーズを呼びかけても反応が一切なかったからだ。


(少し、時間をあけておいたほうがいいと思ってな)


(俺は…また助けられなかった。 大事な仲間を)


(悔しいか?)


(…そんなの答えるまでもないよ。悔しいさ。 こんな結果になってさ。 俺にはもう… )


(では、諦めるのか?)


(それは…)


(死ぬ間際のヤツは何を言っていた? 思い出せ、お前に託したんだ。奴の想いを、死んでいったヤツらの想いを。 お前はそれを乗り越えなければならない。 それが生き残ったものの義務だ)


(カーズ…)


(それにお前の夢、ここで潰えるほどのものなのか?)


(…)


(立ち上がるんだ。 このような非生産的な事をしても無意味だ。 お前は戦わなければ行けない。 それが使命だ)


(…ああ、そうだよな。 ここでクヨクヨしてもしょうがないよな)



(分かった、俺闘うよ。 カーズ、サポートしてくれるか?)


(無論だ)


(ありがとな… 励ましてくれて)


(…勘違いするな。 お前がこうでは私の夢も水泡と化すからな。 あくまで奮起させただけのことよ)


(ははっ、そうかよ)


俺は立ち上がる。 リーダー達の意思を俺が叶えるんだ。


そうだ。 この現状を打破しなきゃな。


その為にはまずみんなの所に行こう。


先ずは隣にいる。 アリシアに声をかけることにした。


「アリシア」


「なに?」


「ちょっと来てくれないか? 話したい事がある」


「…ええ」


会議室をから少し離れた場所に移動する。


「何? 話って」


「単刀直入に言うよ。 もう一度立ち上がらないか?」


「…」


「俺はリーダーの想いを無下にはしたくない。一緒にもう一度闘うんだ。…それにこのままここで燻っているようじゃダメだと思う 」


「…ふぅ」


アリシアはため息を一つ虚空を見上げる。


やがて決心したように彼女は口を開き。


「ま、そう言うと思ったわよ。 貴方なら」


「アリシア…」


「いいわよ、やりましょう。弔い合戦といかず二度目の革命。 成功させるように 」


「アリシア、ありがとう」


「礼ならいらないわよ。 ただ、私も…」


「ん?」


「何でもないわ。 それより、この話をしたのは私だけ? 他の人は?」


「アリシアが最初だよ。他の人はこれからだ」


「分かったわ。 私からも言ってみる。 隼輔はエマさんやグルタンをお願い」


「ああ 」


アリシアが頷き去って行く、と俺は彼女を呼び止める。


「アリシア」


「何よ?」


「本当にいいのか? 協力してくれるのは助かるけど、お前には故郷があって帰る場所があるんだ。 いいんだぞ。 国に戻っても」


「…はぁ、怒るわよ。 隼輔」


呆れた様子でこちらに詰め寄るアリシア。


彼女の鮮やかなエメラルドの瞳は俺の考えを見透かしているようだった。


「これは私が考えて選択した上ででた結論よ。 だから、一緒に闘うの。それにこのままハイお別れってなっても後味が悪いしね」


「そっか。 ありがとなアリシア」


「あ、貴方に感謝される筋合はないわよっ」


「話はそれだけ? じゃあ、今度こそ行くね」


よし、先ずは一人目だな。



次に俺は訓練所に向かった。


俺はその自慢の戦斧を組手用の人形に攻撃を繰り返している男に話しかける。


「グルタン」


「ああ? …隼輔。 どうした?」


「グルタン。 俺はこれからまた戦おうと思う。 一緒についてきてくれないか?」


彼には遠回りに言う必要もないだろう。 俺は率直に思いをぶつける。


「お前の目…」


グルタンと目が合う。 ジッとこちらをみてフッと笑みをこぼす。


「いい目だな。 覚悟した男の目だ。そっか。俺の力が必要って事だよな。 いいぜ。 このままじゃ終われねえよな」


「グルタン…」


「へへっ! リーダーをヤッたアイツらには一矢報いてやると思ってたんだ」


「一矢どころじゃなく、次は成功させてみせるよ」


「ははは! 頼り甲斐があるじゃねえか! で、俺はどうすればいい?」


「アリシアが他のみんなに声をかけている。 一緒についてやってくれないか?」


「アリシアが、な。 分かったぜ。 お前はどうするんだ?」


「俺はエマさんの所に行くよ。 彼女の力は必要だ」


「姉御のところ… ああ、了解した。 ま、頑張れよ」


グルタンと別れ、フランクさんの部屋に歩みを進める。



ーーあれから彼女とは会っていない。


緊張と同時に一つの思いが頭をよぎる。



命を絶っていたりしていないだろうか。


いや、まさかな。


エマさんがそんな。



部屋に近づくにつれ動機が早くなる。 嫌な感覚だ。


そうこうしていると部屋に着く。


「…エマさん。僕です隼輔です」


ノックをし名乗る。 しかし返事はなかった。


「…入りますね」


言い終わるや否や扉を開ける。


扉に鍵はかけていないようですんなりと開いた。



部屋に入ると彼女はいた。 フランクさんが愛用していた椅子に腰掛け俯いている。 その手には何か紙のような物を持っていた。


ーーよかった。


悪い予感がしていたがどうやら杞憂のようで安堵のため息をつく。


「エマさん」


「…どうしたの?」


「もう一度戦いませんか」


「唐突ね。何よ、来ていきなり」


「回りくどいことはあまり好きではないので」


「…ふふっ貴方。フランクみたいなこと言うのね」


軽く微笑むエマさんは表情をすぐに切り替え物憂げな顔をする。


「…この三日、少し考え事をしていたのよ」


「考え事…」


「あの時、フランクが生きていたら革命を継続するのか。 それとも…」


「そんなの…リーダーなら当然」


「ええ、分かってるわよ。 彼ならまた次に身を投じるでしょうね。 彼ならそうする。 きっと」


「…それに、嬉しいことに」


「…?」


「こうして、フランクの意思がまだ消えていなかったってことが確認できたしね」


「エマさん」


「私も貴方と同じよ。 この紙を見て」


手渡されたものをジッと見る。


「これは…」


「作戦図よ。 次の、ね」


この三日間彼女は次の戦のために作戦を練っていたのか。


「でも、怖かったのよ」


「怖い?」


「この戦いを続けようとしても、死んでいった仲間たちの想いを受け取って再起を図る人間は私だけなんじゃないのかなって」


「知っていると思うけど、今下層は阿鼻叫喚の有様。 私たちも見つかればどうなるやら… だからこの部屋に来る人間を、私と同じ心意気を持つ同志を待っていたの」


「エマさん…」


「勿論、私も戦うわ。 いえ、戦わせて頂戴」


ジッと俺を見据える彼女の目はとても硬い意思が宿っているようにみえた。


「はい! 一緒に戦いましょう。 次は必ず成功させます。 みんなの想いを無駄にはしません」


フツフツと湧き上がる感情はきっと仲間がいる安心からくるものだろう。 心強い仲間たちがこうも一緒に居てくれる。


よかった。


革命の火はまだ消えていなかった。


フランクさん。 見ててください。


ーー必ず



エマさんと一緒に会議室に向かう。


会議室にはすでにアリシアやグルタン。 他の仲間たちが静かに待っていた。


どうやら、俺たちを待っていたようだ。


「お帰り、隼輔」


「ああ。 それでどうだ? そっちのほうは」


「あらかた声を掛けたけどやっぱりいい返事をしてくれるのは少ないわね」


ため息をつくアリシア。


「姉御も参加してくれんですね! 頼もしい限りです!」


「ふふっありがとう。 貴方もいると思ってたわ」


「と、みんなこれを見て。 作戦を考えたの」


テーブルの上に作戦図を広げる。 円を囲むように皆が集まる。


その作戦内容とはこうだ。下層で兵士を引きつける陽動部隊を中心に3部隊に別れて行動する。


一つは説明した通り陽動部隊。


二つ目は


「牢獄を襲撃…ですか」


「ええ、あそこは先の闘いで囚われている仲間がいるわ。 それにその前に捕縛されている仲間もいる。 ここに奇襲をかけて仲間を増やすの」


「残りの部隊も同じよう、奴隷館を襲う」


そのワードに俺はピクリと反応する。


「この街の奴隷館はこの国一の規模が大きい場所。 襲撃は容易じゃないけど、奴隷たちは

必ずこちらの味方になってくれると思う 」


「…でも、この作戦って陽動部隊があまりにも危険ではないですか?」


アリシアが意見をする。


「そう、そこが鍵よ。 兵士を大量に引きつけられて、かつ戦闘に強い人材がこれに向いている。 陽動部隊が失敗すればこの作戦は全てが終わる」


エマさんがチラリとこちらに視線を送る。


成る程な。


「…俺の出番ってわけですか」


「察しが早くて助かるわ。 隼輔には陽動部隊を担当して欲しいの。 いえ、これは貴方じゃなくちゃ出来ないことだわ。 そのイマジンの力をみんなの為に使って欲しいの」


「分かりました。 これは俺にしか出来ないこと、ですよね。 できる限り敵方を引きつけます。 でも、一つお願いがあります」


「ええ、何?」



「その陽動部隊。 俺一人でやらせて下さい」


「っ! な、何をいってるのよ! そんなのダメに決まってるじゃない! しにたいの!?」


途端、アリシアが反対の意を唱える。


「落ち着きなさいアリシア。 …隼輔。 それはなんで?」


「理由はあります。 一つは僕たちの数は非常に少ないことです。 この部隊に人数を割くより襲撃部隊に人員を当てた方がいいと思うからです。 あとそれと」


「このイマジンの力をもてる限り全力で行使します。 恐らく周囲の状況は俺も理解できないくらい、現場の被害は大きい。だからここは俺一人でやらせて下さい」


皆に正しく向き直り頭を下げる。


「隼輔…」


アリシアは不安のようで声色にも態度にも如実に伝わる。



ーー頼むからその泣きそうな顔はしないでくれ。



「死ぬ気…?」


エマさんも反対のようだ。 そりゃそうだ。


けど、これは俺にしかできないことだと思う。


いや、俺がやらなくちゃいけない事なんだ。


だから強引にでもこれは押し通す。


「まさか、必ず生きて帰ります」


「姉御、隼輔がここまで言ってるんだ。 承諾してやりましょうや」


「グルタン…」


「なんとかできるんだろう? な、隼輔」


こちらに笑顔でサムズアップするグルタン。俺も同様に返し。


「…ああ。 やってみせる。 いや、必ず期待に応えます」


「…分かったわ。 隼輔お願いね」


少し間を置いた後どうやらエマさんは納得してくれたようだ。


隣のアリシアをみると口をへの字に結んでいた。まだ納得はしていなさそうだ。


「それじゃあ、襲撃隊の話に移るわね。 グルタンとアリシア達はは牢獄を私は奴隷館に奇襲をかけるわ」


こうして話し合いは続け。 夜はふけていく。


作戦は二日後。


急だが下層で兵士がうろついている今、タイミングを待っていてもここを発見されては意味がない。 だから、早い内にと話が纏まった。


みんな、この戦いが最後なのはきっと分かっている。


ーー敗北それすなわち死。


俺がやることはできるだけ多くの敵の相手をすること。 魔力が尽きる前に皆が成功してくれるのを祈るばかりだ。



ーーそれにグスタフ王。


フランクさんの仇は必ずとる。


首を洗って待ってろよ!


小さな希望の灯火は同じ志を持つ種火が集まりあい、やがて大火となる。


まだ希望の火は消えてなかった。





場所変わってここは城の中。


城の丁度中央に辺る、国王の間でグスタフ王は玉座に腰掛けて酒を煽っていた。


それは勢いよく酒を飲む俗物のような飲み方ではなく気品を持ち合わせた上品な様式であった。


アルコールには強いらしく彼は酔いを知らない。


その側には大臣がいる。


大臣には何故だか王が美酒を心から楽しんでいるようには見えなかった。 女王の死から常に側で支えている彼にはその様子が分かる。


「…如何されました王よ」


「あの男はまだ見つからぬのか」


彼がいうあの男とは、先の闘いで謎の力を見せつけた青年である。



王にはそれが唯一気がかりだった。


「はっ、捜索はしているのですが未だ発見には至らず。 もしや国外に逃げている可能性も」


「遅い」


ピシャリと怒気を孕み言い放つ王。


ある程度の辛抱強さを持つ王だがこの問題に関しては速やかに決着をつけたかった。



「俺をあまり待たせるな」


「失礼致しました! 人数を倍に動員致します…」


あの左腕を自在に変身させる力。


英傑の自分でさえ初めてみるその能力は正に国の脅威でしかない。


他の英傑からの刺客だろうか。


ルーブリックか? アップゲッタか? まさかテレオスではないだろうな?


「やつは必ず殺さなければならん。 やつのあの力、あれは…」


王はしばらく熟考するがはたと何者かがこちらに向かってくる音に気づく。


「…それよりも席を外せ大臣よ」


「は? 何故?」


「この足音、ユリーカに相違ない。 退出しろ」


「はっ! 畏まりました」


「例の男もそうだが、革命に関わったものや疑わしいものは引き続き片っ端から捕らえろ。 しばらく数がたまったらまとめて処刑に送る」


「ええ、承りました。…それではこれで」


「ああ」




「入れユリーカ。 待っていたのだろう」


「はい、失礼致します」


「して、何用だ?」


「はい、先日の一件の事で」


「それはこの前話したはずだが?」


「いいえ、肝心なことは聞いてはいません。 なんでも疑わしいと思われているものまで独房送りだと」


「それがどうした?」


「何故?お父様はそれほど疑心にかられておられに! これでは天国のお母様お兄様に申し訳が立ちません」


「お前に俺の、王の気持ちはわからぬ」


「ですが!」


「去れ」


「お父様!」


「去れと言っている! 」


「…」


萎縮した姫は静かに去っていった。 それは親としての言葉ではなく王の言葉として。


「……俺は常にこの国を案じている。 決して

猜疑心など…」


「キャサリン…お前なら、お前ならどうしていた?…」


王は無意識の内に最愛の妻の名を呼んでいた。





悲嘆に暮れトボトボと王女は寝室に入る。


「お父様は変わってしまわれた。 国民は国の宝…昔のお父様はそういっていた筈よ… なのにどうして…」


ドサリとベッドに倒れるようにもたれる彼女。



「だれか…だれでもいいです…おとうさまを…

この国を救ってください…」



すすり泣く彼女をよそに夜の帳は星空が煌めいている。


それはまるで宇宙のように美しく人工物では決して創り出せない、この世のものとは思えないほどの輝きだ。



ーー決戦の日は近い。


この国を変えるべく立ち上がるもの。


国の現状を保護し争いを鎮めるもの。


想いはぶつかり再び戦いが始まる。


あと3話ほどで一章が終わります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ