王都の戦い
日が僅かに登る頃、普段通りならパブは閉店し静寂に包まれているが今日は群衆が熱気を持ってひしめき合っていた。
ーー時刻は朝5時。
早朝の時間にもかかわらず革命軍のメンバーがこうも集まったのは今日が作戦を実行する日、革命の当日だからだ。
一同揃っている中、リーダーのフランクさんが周囲の目立つ位置に立ち言葉を発する。
「よし、揃っているな」
辺りを見渡し、確認をする。 すると、彼は大きく息を吸い込み。
「お前らっ! ついにこの日がやって来た。 この国を変え、人々に安寧と笑顔が満ちあふれた世界にするため、俺たちは今日戦う! …死力を尽くせぇ!」
リーダーが鼓舞し一同の歓声が部屋中に響き渡る。
「作戦は前に言った通りだ。 強襲部隊はエマと陽動部隊は俺が引き受ける。 組み分けも先に伝えた通りに動いてくれ」
「エマ、任せたぞ」
「ええ、任されたわ。 お互い生きて帰りましょ」
「…当然だ」
「それじゃ、隼輔。 私は陽動組だからもう行くわね」
隣にいたアリシアが少し離れた集団に目配せをする。
彼女と俺は別々の部隊だ。
「ああ、分かった。 気をつけてな」
「勿論。 貴方もね」
「俺たちは陽動部隊だもんな。 ま、死なないよう頑張ろうぜ」
グルタンが呑気にこぼす。 彼もリーダーやアリシアと一緒だ。
「必ず成功させなきゃだものね。 大丈夫。 私たちにはリーダーがついてる」
「だよな! きっと成功するさ」
「よし、準備はいいか?…行くぞ! 陽動部隊は集合だ」
リーダーが号令をかけ招集する。 アリシアとグルタンも加わりリーダー達はパブを出て中層に続く道を列をなして歩いていく。
その様子を通行人は皆一様にギョッとした視線を向ける。
そりゃ、みんな武装しているからな。
「…私たちも行くわよ」
「はい」
俺たち強襲組は王都中に張り巡らされた下水道を拠点に一気に上層に向かう。
無論、隠密作戦だ。 俺たちの数は70人ほど。 陽動部隊は150は軽く超えているだろう。
エマさんに続きパブから歩いて数十分、下層の地下水路の入り口にたどり着く。
「ここからだと、どのくらいで上につくんですか?」
ふとした疑問をエマさんにぶつける。
「急いでも1時間はかかるわね。 けど、見張りはこの道にはいないはずよ。 私たちの目的はあくまでも奇襲。 陽動部隊が惹きつけている間に先に上層に向かうわ。タイミングが大事よ」
「タイミング…分かりました」
やがて、水路に入る俺たち。 道は暗く数人が持つランプを頼りに道を進んでいく。
入り組んだ迷路になっているこの地下水路も事前に見取り図を作成していて、おかげ様で特に迷うことなくスイスイと先に進める。
「それにしても、匂いがすごいですね」
「そりゃ下水だからね」
用水路は市民の生活様式を担っている重要な場所だ。 しかしかくも汚水のため匂いは強烈だ。 顔を布で覆っているがそれでもツンと鼻腔に伝わる。
「…中層にきたわね」
30分ほど歩き、程なくして中層に辿り着いたみたいだ。
特に何か問題もなく行軍できているため、淡々と俺たちは静かに地下水道を歩いている。
「今頃、リーダー達は戦っているのですかね?」
「でしょうね。 だから私たちも早くに辿り着かなきゃね」
エマさんが上を見上げる。 暗くジメジメとした空間だ。 辺りは静かで水の音が流れる音が聞こえるだけ。
けど、地上ではリーダー達が戦いを繰り広げているに違いない。 自然と俺たちは早歩きで上へと進んでいく。
やがて、俺たちは上層に位置する場所にたどり着いた。
「ついたわね。 …よし、ここから地上に出たら戦闘よ。 みんな気を引き締めて」
「…覚悟はできてます」
「そうだったわね。 ふふっ、隼輔くん。 頼りにしてるわよ」
「任せて下さい! 蹴散らしてやりますよ」
「ふふ、…よし、行くわよ! 私に続いてっ」
エマさんが魔法で放ち、地上と地下水道の境目である蓋を吹き飛ばし勢いよく地上に入る。 俺たちもすぐにそれに続く。
明かりがさす。 早朝に行動したものの、もう辺りは朝の太陽が昇って来たようだ。
ここから、陽動部隊の救援に向かう。 果たして、どうなっているのやら。
「…」
暗闇から地上の明るさに視覚がぼやける。
若干の時間が経ちやがて視界がクリアになり周囲を確認する。
ーー辺りは血の海の惨状で、周りは味方や兵士が朽ち果てている。
「…なによこれ」
エマさんが驚きの色が混じった声をこぼす。
「上層に、すでにたどり着いているってことかしら…」
「何かあったみたいですね…」
「…進みましょう」
奥に進むと、剣と剣が交わる音や魔法の音、怒声やら悲鳴やらが一気に飛び交う修羅の間に変わる。
「…兵士の数が多すぎる。 まさか」
辺りを見渡すエマさん。 確かに兵士の数が想定の範囲より断然超えていた。
「見破られていた…ってことですかね」
「内通者…いや、そんなこと考えている余裕はないわね。 みんな、行くわよ! 」
「おおーーーーーー!!!!!!!!」
エマさんに続いて、俺たちは陽動部隊の救援に入る。
ーーリーダーはどこだ? アリシアは? グルタンは?
無事だといいが。
辺りの惨状を見渡すと、皆必死に命の掛け合いをしておりそれどころではない。
「死ね!」
敵をみつけたとばかりに即座に兵士が俺に斬りかかる。
「くっ」
装備していた剣でそれを受け止め。 攻撃を返すように相手に切っ先をぶつける。
「せや!」
「ぐわ!」
反撃された兵士は切り伏せ相手は崩れ落ちる。
よかった。これもリーダーとの特訓の成果だ。
エマさんの方をみると、囲まれているようだ。
魔法の詠唱には時間がかかる、そこを狙われたのだろう。
ーーマズイな、この距離では助けるのには時間がかかる。
腕の包帯を取り、大砲に変換させる。
「イマジン」
熱戦を放出し、奴らにぶつける。 追尾機能を加えたから狙いは確実だ。
吹き飛ぶやつらを尻目に俺はエマさんの元に駆け寄る。
「エマさんっ、怪我は…?」
「ええ、大丈夫よ。 助かったわ」
「リーダーが見かけなくて、それにアリシアも」
「恐らく、奥の方で戦っていると思うわ」
「じょあ、すぐに助けに行きましょう」
「…隼輔」
「…はい?」
「恐らくだけど、この襲撃すでに察知されていたものよ」
「っ!?」
「待ち伏せされていたんだわ。 …やられたわ。 この混戦の様… だいぶ、兵士の数が多すぎてこちらはジリ貧になってきている。 勝負はこちらのほうが不利ね」
「でも!」
「勿論リーダーが求めるのなら私は全力で戦うわ。 今はただの予想でしかない。 …そうね、リーダーのもとに行きましょう。 なにがあったか聞かなきゃ」
「…はいっ!」
もはや、強襲部隊の体はなし得てなく、様々に戦闘を繰り広げている。
俺たちは戦線を掻い潜り時にはエマさんの魔法や俺の攻撃で兵士をなぎ倒しながら奥へ進む。
幾ばく経ち城の近くにまで訪れる。すると爆発音が聞こえる。
「この音って」
「敵もしれないけど、アリシアが戦っているかもしれないわね」
俺たち革命軍で魔法を使えるのはエマさんとアリシアさんしかいない。
だから必然的にアリシアと分かるが敵も魔法を使える者が多く存在している。 敵の可能性の方が高いだろう。
走り、音のする方へと行くと少女が一人息をつかせていた。
「…アリシア!」
アリシアだ。 爆撃魔法を使って兵士たちを倒している。 近くにはグルタンが斧を使って兵士を翻弄している。
「…隼輔!」
気づいたようでパァっと表情を明るくさせる。
二人でアリシアの近くに駆け寄る。
「怪我はしてないか?」
「ええ、大丈夫よ。 そちらは無事?」
「無事と言われれば無事だが、なにが起こっているやら」
「…待ち伏せされていたのよ」
「やっぱり」
エマさんが苦い顔でいい捨てる。
「中層にきた時は小規模な人数しかいなかったから油断していたわ… 強襲部隊と合流しようと上層に訪れたら兵が大量に集まっていてね。 そこからずっと今の状況よ」
「リーダーは?」
「城の前よ、 恐らくそこにいるわ。 リーダーについている人数が少ないの、もしかしたらマズイことになっているかも」
「分かった。 すぐ助けに行くよ」
「そうね。 行きましょう……っ、伏せて!」
と、目の前に降りかかる炎の玉が俺たちを襲う。 攻撃に気づいたエマさんが魔法障壁を召喚し防御に成功する。
「この服装… 魔法学校に人間ねっ」
黒いローブをまとった若い男女。 こいつらがそうなのか。
「応援に来たわけね。 …隼輔、ここは私たちに任せて先に行って。 リーダーの支えになってあげて」
エマさんが敵を見据えて発する。
「けど」
3人で一気に片をつけたいと思った俺はまごつく。
「グズグズしている暇はないわ行って! それにあなたのイマジンは敵には脅威となるわ。 だから行って!」
エマさんに檄を飛ばされ俺は彼女の言葉通りに行動することにし、二人に背を向ける。
「っ分かりました! エマさん、アリシア後で落ち合おう!」
「勿論よ! 」
振り返らずに城の方に進む。 魔法と魔法が衝突した音が辺りに大きく響く。
ーー死屍累々の現場を乗り越えようやく城にたどり着いた。 門の前をジッと見ると。
いた、リーダーだ。
戦っている。 しかも何人も相手にしながらだ。
「リーダー!」
「隼輔! 無事だったか!?」
「はい、なんとか。 リーダーは大丈夫ですか?」
「今のところはな。 けど、こっちの数が少なすぎる。 今ここにいるのは俺たち含め。6人だけだ」
「…隼輔。 ここは力を使ってくれないか? なんとかここで突破口を開く」
「分かりました。…離れて下さい!」
腕を敵に向け撃つ。無数のレーザーが兵士を襲う。
無数の悲鳴とともに兵士らは宙を舞った。
「よし、このまま中に入るぞ」
奴らがたじろいでいる隙にリーダーが城の内部に侵入しよう門に突撃する。 俺たちもそれに続く。
「それはならん」
前方に声が聞こえた。 それは大きな声でもなく普通の声色だ。けどしっかりと耳に響いた。
中に入らすまいと密集していた兵士たちが途端にモーゼの海のように縦に道をつくる。
その道を悠々と馬を跨り歩く男がいた。
「ちっ、ここでいきなり大ボスの登場か…」
忌々しそうにリーダーが呟く。
黒い甲冑に筋骨隆々な体格、鋭い瞳に威厳のある顔は…
グスタフ4世その人だった。
「…嘘だろ」
(まさか、早々に来るとはな)
カーズも驚きのようだ。
「まさか、お前ら虫けらがここまで戦えるなんて想像つかなんだ。 随分楽しそうにしてたじゃないか」
リーダーは前方をきつく睨み、王に剣を向ける。
「お前と交わす言葉などない」
「お前が大将か。 ほう…いいだろう。 来い、遊んでやる」
王が兵士たちに視線を送る。 余計なことはするなってことか。
「こうして一騎打ちは久しぶりだ。 楽しませてくれよ」
「隼輔。 手は出すなよ」
「…はい」
相対する二人に俺たちは円を囲むように壁を作る。 お互い見守るしかないってことか。
王が馬から降りゆっくりな動作で剣を抜刀する。
それが始まりの合図だった。
先に動いたのはリーダーで、俊敏な動きで一太刀を浴びせる。 対して王はただ呆然と立っていた。
ーーなんか変だな?
普通は受け身の姿勢をとるはず。
切っ先が王の首元を狙う。 大胆な笑みをだきヤツは笑っている。
首に剣が当たる。捉えたかと思った。
ガキっとリーダーの剣が反り返りる。 まるで鋼鉄のように硬いものに当たったような。
ーーなにが起こった?
確実に王を斬りつけた筈だ。 体から血が噴き出すなりなんらかのアクションはあってもいいはず。
「無駄だ」
王は涼しい顔を一つリーダーに浴びせる。 そこには確実な余裕が垣間見えた。
「やっぱり、正攻法じゃ無理か」
(カーズ、なにが起こってるんだ…)
(奴の能力だ)
(能力?)
(ああ、奴は体を鉱物のように硬質化させたり逆に液状化させ体を軟化させたりできる。 奴のその力を人はそれをー絶対防御ーと言う)
(なんだよそれ…)
そんなの、どうやって攻撃を浴びせたらいいんだよ。
(しかし、それは魔力があってのこと。 この力は魔力の消費が激しい。 故に長期戦は不利になる)
(だったら時間さえ立てば勝てるってことか?)
(忘れたのか? 奴は英傑。 聖遺物を持っている。 魔力は無尽蔵にあるぞ)
(そんなの倒せようがないじゃねえか)
(ハッキリ言って奴にあいつを倒するのは無理だろうな。 しかし、一騎打ちを受託したんだ。 何か考えがあるのだろう)
(カーズ、…王の聖遺物ってどれだ?)
(王冠をかぶっているだろう? それだ)
(王冠…)
王の頭には金で全身をあしらわれた王冠が載っている。 真ん中には透明な純度のある宝石が埋め込んでいる。
(これが、聖遺物…)
「それじゃあ、これはどうかな?」
リーダーがポケットから何かを取り出し奴に放り投げる。
すると、爆発が奴に襲いかかる。
爆弾か。
しかし、王は体を飴のように軟化させ爆発の衝撃を柔らかい体で包み込んだ。
「もう一度言う。 無駄だ」
「だろうなぁ」
「それだけか? ならばこちらから行くぞ」
王が動き、漆黒の剣がリーダーに襲いかかる。
「くっ!」
リーダーは素早く反応し、王の剣撃を受け止める。
「ほお、非力ではないようだな。 よく鍛えている」
「そりゃどう…も!」
交わる剣をフランクさんが返す。
「流石英傑だな。 一筋縄どころか。 全く通用しねえ」
「当然だ。 掃き溜めの不燃物と一緒にされてはかなわん」
「して、どうする。 このまま死ぬか? それとも奥の手でもあるのか?」
「っ…そのまさかだよ!」
リーダーが距離を取り小瓶を取り出す。 何かをしようとしている。それだけは分かるけど。
(あれはまさか…)
(なんだよカーズ知ってるのか)
(あの道具は…)
リーダーが小瓶開け、中の透明な液体を飲む。
「くっっ…あああぁぁ!」
悲鳴とも近い咆哮とともに彼の程よく引き締まっている筋肉には無数の筋が現れる。 表情をみるとリーダーの顔は荒い息を繰り返していた。
「ほお、肉体増強材か。 それでこの俺が倒せるとでも」
「く、はぁっ、やってみなきゃわからねえよ…」
(カーズ、この薬って…)
(肉体増強材。あれは少々危険な代物だ。 自身の魔力を筋力に多分に抽出するもので効果は絶大だがいかんせん使用者の負担は大きい。 長くはもたんぞ)
(そんな…)
固唾を飲んで見守る。 俺たちにはそれしか出来なかった。 ただただ祈るばかりだ。
すると動き出したのはリーダー。
ーー空を切るような音を皮切りに王に近寄る。
「ふん…無駄な足掻きを」
王は体を硬質化させ対応する。
剣と鎧がぶつかり合う。リーダーの渾身の一撃は確実に鎧にダメージを与えているようにみえる。
「くっらいやがれええ!」
「…っ」
そのまま肉薄するが如く、食らいついたら離さないサメの如く王の体に全体重を押し付けて切っ先を縦に移動する。
「…あくまで俺に剣撃を浴びせるか。 なら、こちらはそうしよう」
王は鋼のような体をジェル状に変え、リーダーの剣と腕は王の体の内部に包み込まれる。
「く…!」
入り込んだ腕を脱出しようと暴れさせる。 しかし底なし沼のようにますます絡め取られるだけだ。
「今度はこちらの攻撃と行こうか」
まさに余裕とぼかしに剣をリーダーに向け…
「っ、リーダー!」
俺は危機的状況を察し駆け出す。
「来るな!!!」
「なっ!」
「これは一騎打ちだ 」
「でも!」
「隼輔… 後は任せたぞ。 お前なら…」
言葉は遮られた。
刹那、王の剣は躊躇いもなくリーダーの喉を貫いた。
「ごぼっ…はっこひゅ…」
剣を抜き、口から空気が漏れる音がする。 噴水のように血がドバドバと辺りを舞った。
「集団を率いたその才覚は紛れもなくお前の力だ。 優秀な男と認めてやる。 …ただそれだけだ」
息をつかせる間に2撃目。 リーダーの心臓を貫いた。
「ッッッッ」
リーダーはカッと目を見開き、俺に目線をよこす。
「フランクさん…」
パクパクと何かを言っている。 しかし喉を貫かれゴボゴボと口から血が溢れ出しており分からない。
何かを言った後、彼は笑みを俺に向け。
静かに目を閉じた。
「ふん…」
王は体を元に戻し、リーダーは解放されドサリと地面に崩れ落ちる。
取り乱した勢いで俺はすぐさまに駆け寄る。
「リーダーァァァァ!!」
他の面々も絶叫に近いそれと同時にフランクさんのもとに集まる。
触ると体が硬く冷たい。一目でわかる。
リーダーは果てていた。
「貴様ァァァァ!!!!」
俺は王に飛びかかり脇目も振らずに剣をヤツに振りかぶる。
「無粋な男だ」
俺の攻撃を一蹴かのように躱す、そして
「死ね」
「がっ!」
冷静な判断ができない俺は右肩を切られる。
血がブシュっと湧き出す。
「ぐ、が、チクショウ! お前は許さねえ! ーイマジン」
「その左腕…何をする気だ」
なるべく威力が高いやつ…! アイツを一瞬で吹き飛ばす力を!
少しのタメと同時に光が漏れ大きな光線が身構える王に向けて発せられる。
「…っ!」
光は王に直撃した。
「…ほう、こんな能力を持っているとはな。さては頭目の隠し球といったところか。 …しかし」
体を軟化させた王は攻撃を免れたようだ。 王は後ろを振り返る。
「この攻撃… 恐ろしき男よ」
後ろは一瞬で荒地に変わり建物や障害物はなく寂しい地面に変わっていた。 兵士たちも慄いている。
「殺す! お前は殺す…」
再度、奴に腕を向ける。
「…何を見ているお前達。 これは一騎打ちではない戦いに加われ」
はっ!と兵士たちは意識を戻し、王を前に壁を作るように集まる。
「邪魔なんだよぉ! お前らは!」
(隼輔)
カーズが落ち着いた声色で俺に話しかける。
「なんだよ! こんな時に」
憤りのアベレージはすでに頂点に達している。カーズとの会話ということも忘れて声を出す始末に。
(引け、お前には無理だ)
「そんなのやってみなきゃわからねえだろうが!」
(もう一度言う。 無理だ。…死にたいのか? こんな大人数を相手にしたら魔力が持たないぞ)
「だったら刺しちがえてでも王だけは倒してやるよ」
(駄目だ逃げろ。 一度機会を建て直すんだ)
「ふざけるな! リーダーは死んだんだぞ! 今ここでっ」
(ふざけているのはお前だろうが!)
「っ」
感情が高ぶる俺に同様カーズも強く言い放つ。
(いいか? この男は死に際何を言っていた?)
「…」
(後は任せた…その意味お前にはわかるか? お前は任されたんだよ、彼の意思を。
…それとも、奴の思いを引き継がずそのままここで犬死を望むか?)
「…でも」
(お前がここで死んだらそれは同時に私の死でもある。 それはお前が叶えるべき夢も潰えるという事だ。頼む隼輔、考え直せ)
(……ちくしょうっ)
カーズの言葉に冷静になる。
(そうだ、それでいい)
(納得はしてないけどなっ)
俺は奴らに攻撃を加えようとした左腕を煙玉に変え放出する。 無論逃げるタメだ。
突然の大きな煙に対応ができない兵士たちは咳き込み混乱している。
その様子を尻目に俺は逃げる。 他の仲間たち俺の意図に察してか後に続く。
「逃すな!追え!」
振り返ると奴らがこちらに鬼気迫る勢いで迫ってくる。
チラリと王と視線があう。 ヤツは無表情でこちらを見ていた。
俺はきつく睨みつける。 するとヤツは微かに笑った。
必死に逃げる最中、魔法やら弓矢の飛び道具で襲われ、一緒に逃げていた仲間達とは散り散りになり一人になってしまった。
それでも俺はまだ戦いが続けられているであろう場所に向かう。
「隼輔!」
エマさんとアリシアだ。
「何があったの!? すごく大きな音がしたけど…って怪我をしているじゃない! 大丈夫なのっ?」
狼狽して様子で俺を見つめるアリシア。
「大丈夫、かすり傷みたいなもんだよ。…エマさん、リーダーが王と戦いました」
「…それでどうなったの」
エマさんも不安そうな瞳を俺に向ける。
「リーダーは…」
「死にました」
「そんなっ、嘘でしょ!?」
「フランク…」
二人は驚愕とばかしに目を見開く。
…俺だってこんな事信じたくないよ。
「…今は逃げましょう。 体裁を整えるんです」
「…ええ、そうね」
エマさんに言うと、彼女は冷静な顔つきになる。 …僅かにその手は震えていた。
「なんで、なんでよ! そんな事より今はフランクさんの敵討ちでしょうが! 私は戦うわ」
納得しないアリシアは戦闘の続行を申し立てる。
「…アリシア、駄目だ」
諭すように俺は彼女を見据える。
「なんで駄目なのよ! あなたリーダーのことはどうでもいいの!?」
「そんなわけないだろうが!!!!!!」
ビリビリと怒声に似た声色で強く発する。
「っ!」
「…死に際、リーダーに言われたんだよ。 後は任せたって。 何が言いたいか分かるか? フランクさんは託してくれたんだ。 リーダーは俺たちに再起の。 …だから、ここで死ぬわけにはいかねえ。 今は逃げるんだ」
「…アリシア。 ここは引きましょう」
エマさんも俺の意見に同意のようで。 アリシアの肩をそっと掴む。
「…分かったわよ」
納得はしてない様子であるが賛同はしてくれたようだ。
「…ありがとう」
「そしたら早く、行動しなくちゃね。…3人に分かれて他の人たちにもこの事を伝えましょう。 それで、生き延びていたらあの地下で落合いましょう。 あそこは恐らく兵士たちにはまだ知られてない筈よ」
「分かりました」
「ええ」
「それじゃ、生きてまた会いましょう」
エマさんの言葉を最後に即座、3人で別れて駆け出す。
俺は下層にいくすがら戦っている奴らを説得する。当然アリシアと同じ反応をするものが多数いたが半端強引に説き伏せ、一緒に逃げる。
中にはこれから今後の恐怖からか俺たちの輪から外れ、散り散りに逃げていくものもいた。
ーー生き残るんだ。
生きて生きて必ずリーダーの。フランクさんの想いを…
ヤツにぶつけてやるんだ。
そう願いながら俺は下層に向かった。




