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決戦の日は近く

「よし、これで訓練は終わりだ! 飯にするぞ」


「はい!」


フランクさんに訓練をつけてもらってはや二週間、だいぶ力がついた気がする。


「それにしても、隼輔は飲み込みが早いな。 驚きだよ」


「フランクさんの教え方が上手いんですよ」


「はは! 嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」


満更でもなく笑うフランクさんに俺も笑みをこぼす。


俺の戦闘技術をあげるトレーニングは順調に事が進んでいた。


イマジンの力を使わない訓練のため、単純な組み手や体力作りを中心にこなしていたがフランクさんの教え方は紛れもなく分かりやすく、自分でも力がついたと実感させられる。


フランクさんと飯を食べるため一度訓練所を出る。すると、地下部屋の中心部に位置する。 会議場には料理が並べられていた。


上のパブの人たちは俺ら革命軍に協力的で食事は彼らの世話になっている。


金がない俺とアリシアはここでしばらく厄介になっている。 地下室は仮眠部屋もあり衣食住揃っているためフランクさんに打診して特別に住ませてもらっている。


「あ、隼輔。 お疲れ様」


俺とフランクさんにアリシアが気づいたようで声をかける。 誰かと雑談に興じていたようだ。


「よ! お疲れさん。 精が出るな」


アリシアの横にいるのは先日、一悶着あった例の男だ。


「おう、お疲れ様。 今日は俺たちが最後みたいだな」


「そりゃリーダーの訓練は厳しいからなぁ。 俺たちゃはお前よりかは楽だよ」


グルタンは豪快に笑う。 革命軍に加入した後日、彼は俺らに謝罪をした。


なんでも酔っ払ったはずみであんなことをしてしまったらしく大変申し訳なさそうに来た。


俺はともかくアリシアが許したのでこの件は無事解決した。 意外と気さくでいい奴だしな。 酔うとタチが悪いが。


勿論、彼も革命軍に参加している。


「よし、揃ったことだし食べるぞ!」


フランクさんが音頭を取り皆一様に食事を始める。 ちなみにフランクさんはこの革命軍のリーダーだ。 みんなに慕われていてリーダーの素質が存分に伺える。


「どうだ隼輔、この生活には慣れたか?」


グルタンがパンをかじりながら話しかける。


「2週間もいたらそりゃあな。 不自由はしてないよ」


「そうね。 リーダーには感謝してるわ」


「よせやい。 感謝してもらうためにお前らをここに置いてるわけではないからな。 共に戦う同士、だからだよ」


「リーダーイケメン〜」


フランクさんの脇の女性がワインを片手に囃し立てる。


「おい、エマ! 茶化すな」


「ごめんごめん〜」


ケラケラと笑うこの女性はエマさん。 彼女は革命軍の副リーダーで参謀に属している。


魔法の心得があり、アリシアの訓練は彼女につけてもらっている。


エマさんはフランクさんとの付き合いが長く部下には姉御と慕われている。


その一幕を見て俺たちは笑う。 いい仲間だなと素直に思った。



一同楽しく食事に興じている中、フランクさんが厳しい顔つきで口を開く。


「…聞いてくれ。 食事が終わったら大事な話がある。 人を集めておけ。 できれば革命軍全員だ」


「なによ? 改まった顔をして」


キョトンとしたエマさんがフランクさんに問う。


「リーダーがあんな顔をするのってよっぽどだぜ」


「そうだよなぁ」


「気になるわね」


優しく眼帯を撫でながら意を決したようにフランクさんは言った。


「…いよいよ本覚的に動くぞ。 この国を変えるための、な」


フランクさんの発言に一同表情がキツく引き締まる。


ーーついに始まるのか。


「詳しくは皆が揃ってからだ。 それまでに人を集めておいてほしい。 頼むぞ」


声を上げて了解の意を揃える。 食事も終えて俺たちはメンバーを集めるため動き出す。


やがてチェーンメールのように言伝が広まり地下室は満員となった。




「よし、だいたい揃ったみたいだな」


革命軍の数はだいたい250人くらいはいる。 今集まっているのはざっと200人くらいだ。 1時間でこれだけ揃えられたのだから上出来だろう。 あとのメンバーには追って伝えるだろうし。


人が密集しているため地下室に熱気がこもる。 ぶっちゃけ200人はキャパオーバーだ。


「お前らに話すのは他でもない。…我ら革命軍は近いうち王都を襲撃する」


周囲から歓声や驚きの声が上がる。 様々な反応の色が周りに交わる。


「三日後だ。 三日後の明朝、我らは攻撃を仕掛ける。 作戦の内容はこうだ」


フランクさんの作戦は二部隊に分け、一部隊は中層から上層に向かい王の居城を目指す。 もう片方は地下水道から上層に駆け上がり奇襲をかけるというものだ。 いわば一つは陽動部隊になり、一つは強襲部隊に分けられる。


「当然、陽動部隊の方が危険で死傷率は多いだろう。 この陽動部隊は俺がつく。 強襲部隊はエマが率いてくれ」


「ええ、任せて」


「強襲部隊と合流を果たしたら一気に城を落とすぞ! この作戦は失敗は許されない。 機会は一度きりだ。 皆も当日までは準備は怠らないでくれ。

…お前ら生きてこの国を変えようじゃねえか!」


おおっー!と意気揚々に周囲のボルテージは頂点に達する。


「いい返事だ! 詳しいことを聞きたいなら後で俺のとこに来てくれ。 部隊の配列は後日追って伝える。 希望があれば聞こう。 …それじゃ解散だ!」


そう言い、フランクさんは去っていった。 皆は高揚を抑え切らないようですぐに解散とはいかずガヤガヤとその場で話に興じていた。


「いよいよ、始まるのね」


隣のアリシアが俺に声をかける。


「そうだな。 なんだかドキドキしてきたよ」


「緊張してるのね、 …私もよ。 でも、次はない。だから全力で戦わなくちゃね」


「そうだな。 特訓の成果を見せる時だ」


「私はエマさんと用事があるから出かけるけど、隼輔はどうする?」


「俺はちょっとリーダーに話したいことがあるからフランクさんのとこに行ってくるよ」


「分かったわ。 それじゃあ隼輔」


「ああ」


アリシアと別れ、フランクさんの後を追う。


地下室の最奥はリーダーの部屋になっている。 恐らくそこにいるだろう。


部屋につき、ノックをする。



「誰だ?」


「俺です、隼輔です。 少し話したいことが」


「隼輔か。入ってくれ」


フランクさんに促され部屋に入る。 フランクさんは作戦の内容を表した戦略図だろうか? それを睨むように見ている。


「…その紙は?」


「ん? ああ、ちょっとな。 それで話ってなんだ?」


「はい、俺を陽動部隊につけて欲しいんです」


「ほお、なぜ?」


「リーダーに力をつけてもらって戦闘の力は格段に向上したと思います。 加えて俺にはイマジンがあります。 この力があれば時間稼ぎには十分捗るかと」


「そうか。 …だが、お前は強襲部隊についてほしい」


「っ、なんでですか」


思わず反論してしまう。 てっきり陽動部隊に付けてもらえるだろうと思ったからだ。


「理由は勿論ある。 お前の力を存分に発揮する為になるべく力を温存してほしいからだ。 もう一つは初っ端からお前の力を敵に知られてしまうのは好ましくない」


「…分かりました」


「なんだ、随分聞き分けがいいな。反論してくるかと思ったぞ」


「リーダーが言うんだったら間違いないかなって」


確かにその意見には合点がいく。 特に反論もないし、素直に従うのがいいだろう。


「そうか。 まあ、お互い頑張ろうぜ。 必ず俺が成功に導いてやるよ」


「あはは、頼もしい限りですよ!」



「…」


「…? ええと」


すると、フランクさんは押し黙り複雑な表情をする。何だろうか? 憂いがあるような…


「…俺にもな。ちょうどお前くらいになる息子がいたんだよ」


「リーダー…」


「女王様が殺害されたことは前に言ったよな? その影響で現場付近の人間はほぼ全て処刑されちまった。 その中に俺の息子もいてな」


「俺はその時ギルドの依頼でモンスターを討伐していてその場にいなかった。 だから帰ってきてから気づいたんだ。 息子が、アダムが死んだってさ」


「そんな事が…」


自分の息子が死ぬって、どんな気持ちなのだろうか。 俺には想像もつかない。けどきっと、悔しいしやるせない思いなのだろう。


続けてフランクさんは眼帯を撫でながら口をゆっくり開く。


「この目はその時にできたものだ。 急いで処刑場に訪れたらアダムが血だらけで磔にされていてな。 全身が槍で貫かれて穴だらけだったよ。それが許せなくて俺は兵士に飛び交った。 それが元でできた傷さ」


「…、酷い、話ですね」


「隼輔、お前年は?」


「20歳です」


「そうか、同い年か。生きてればアダムも…」


「あの、奥さんは?」


「嫁は病気で死んじまったよ。 息子が生まれて直ぐに」


「フランクさん…」


「そう複雑そうな顔すんなって、悪いな暗い話をしちまって。 …だから俺はこの国を世直しすると決意したんだ。 平和な世界をってな」


「…俺、必ず成功してみせます。 この国を変えるよう俺頑張るんで見ててください!」


「…ああ、期待してるよ。 だが」


「お前だけじゃない。 みんなで、だ」


「…はい!」


リーダーと笑い合う。 期待に添えるようしっかり活躍しなくちゃな。


勿論、みんなで!




ーーその頃


煌びやかなこの部屋は大理石でできた柱や光のような眩しいシャンデリア、巨大で優美な絵画など趣向が凝らせており豪華さが伺える。


ーーここは王の間。


広いその空間の玉座にはこの国の頂点に君臨する男。 グスタフ王が座っている。


その付近には侍女を侍らせており、彼女たちの肌を撫で回しながら差し出される果物に口をつける。


すると扉から声が聞こえる。


「国王様」


「何様だ?」


「火急の要件が入りました」


「入れ」


大臣が王の間に入る。 その身なりは大臣という肩書きに十分な装いだ。


この男は今や王の右腕の地位を築いており、この国No.2の立ち位置となっている。 悪政で評判が高いこの国の殆どの政策は彼の諫言によるものだ。


「重大な情報が入ってまいりました。…人払いを」


「ほう… そこまでの、か。 そういうことだ。お前らは散れ」


侍女たちは去り、王と大臣二人きりになる。 辺りに静けさが漂う。


「さあ、要件を聞こうか」


「は、革命軍の動向についてです。 下層に放った刺客の情報だと三日後の明朝にここに襲撃をかけるそうです」


「…ほお、それは面白いな」


「如何致します?」


「泳がしておけ。 奴らにこの俺を倒せるとは思えん。 ただし当日は兵を配置させておけ」


「は、仰せのままに」


「思いの外苦労するようなら俺も出よう」


「は? しかし…我々で十分かと」


「なに、久々にこの力を使おうと思ってな。 愚かな羽虫には勿体ないが」


「はっ!しかと心得ました」


「話はそれだけか?」


「はい、これだけです」


「そうか、ところで例の計画は上手くいっているのか?」


「は! 順調でございます」


「そうかそうか。 大臣よ、期待しているぞ。俺を失望させるなよ」


「はっ、王の命はこの国の総意でございます。 決して期待は裏切りませんとも。 では、私はこれで失礼致します」


「ああ」



「お父様…」


王と大臣の内密の私事は終わり、大臣は去っていく。 すると入れ替わりで若い女性が扉を開ける。


「ユリーカか。 何用だ?」


「失礼します」


入ってきた女性は王の唯一の血縁となった。 娘、ユリーカ。


「大臣とは何をお話していたのですか?」


「お前に話すことではない。 何だ?そのために来たのか」


「あの計画の話ですか?」


「…」


「私は反対です! 罪もない人を殺すなんて」



計画の内容とは下層の人間を根絶やしにする。いわば虐殺作戦だった。


腐った土台は早々に排除しなければならない。 それが王の考えだった。


「…お前は人に優しすぎる。 優しすぎるのが問題なんだ。 そうやって何が残った? 何も残らなかったではないか。 そればかりか俺はキャサリンとトリスタンを亡くし……奴らゴミには何もかもを奪い、屠るだけだ 」


キャサリンとはすでに故人の女王のことでトリスタンも同様、息子のことだ。


「でも!」


「今日はやけにおしゃべりだな。 …これ以上会話する気は無い。 戻れ」


王は鋭い視線で王女を貫く。 娘はその眼光に怖気ついた。


「…うぅ」


「…ユリーカ、分かってくれ。 これは予防なんだ。 安全はあくまで武力をもって勝ち取るのだよ。…俺はお前まで失いたくない」


王は優しい声色で王女を諭す。


「お父様…」


「さあ、行ってくれ。 今日はもう遅い。早く

床につくんだ」


「…わかりましたわ。 失礼致します」


すごすごと王女は扉を閉め、部屋に戻っていく。


「ふぅ…」


一人になり、ため息をつく王。


「俺は…間違ったことをしてはいない。 決して、決して」


王は何かに悔いるように呟いた。


ーー扉の裏にもたれて耳を傾けていた王女の影を知らずに。


「お父様…」




それぞれの思いが交わり、やがて決戦の日が近づく。


どんな結末が訪れるのか…それは神のみぞ知る答えだ。


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