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下層

ーー夜になった。


派手なラッパの音色とけたたましい太鼓の音を皮切りにどうやら式典が始まったようだ。


最前列には並べなかったものの良い位置につけたと思う。


が、いかんせん人が多すぎる。 人がごった返しで時折、見物人とぶつかる。


将棋倒しにならないかヒヤヒヤしちまうよ。


すると王国の兵隊たちが行進を始める。 足並みが乱れなく颯爽と揃えられており強く勇ましく見える。


その後には華やかな音楽隊や踊り子が楽器を奏で踊りを舞い派手なパレードに様変わりする。


続いては衛兵たちとは違い優美な白銀の甲冑を身に待とう兵士たちが自信に満ちた顔つきで行進する。 エリート集団なのだろうか?


そういえば、あの兵士長もこんな鎧を着ていた気がする。


続けて後方には5メートルほどの大きな山車が現れる。前方には金ピカの獅子がド派手に拵えられている。


次第に人々の歓声が頂点を迎える。俺も注目するように山車を見上げる、


ーーその上に奴がいた。


(…隼輔。 奴だ。 奴がこの国の国王。お前が倒すべき相手だ)


ザルツラント現国王ーグスタフ4世ーがそこにいた。


(こいつが…)


威風堂々とした立ち振る舞いで民衆に向かって手を振る国王。大柄の体躯に全身漆黒の鎧が似合い威厳ある顔つきにその鷲のような鋭い目つきが特徴的だった。


(なんだ? 萎縮しているのか?)


(違うと言いたいけど、少しな。 英傑の風格が伝わってくるよ。 けど倒さなきゃいけないんだもんなアイツを)


(その意気だ。 さて、…目的も果たしたことだしずらかるぞ)


(ああ)


パレードをよそに俺たちは集団から離れ路地に入る。 当然人気はない。


(ここから下層はどうやって行くんだ?)


(大通りに上層に行ける広間があっただろう? そこを南に行くと階段があるから降っていけ)


(成る程な。 上層の反対か)


シンプルな作りだな。分かりやすいと言うか。


「ちょっと君」


下層に向かって歩いていると声をかけられた。 何だろうか?


「こんな人気がないところで何をしているんだい?」


松明を待っている人物はどうやら兵士のようだ。 普通の兵士というより銀色の甲冑を纏っているから偉い立場の兵士なのだろうか?


「あ、えっと宿に帰る最中です」


「そうか。ここらは変な輩も多いから気をつけて帰るんだよ」


「はい、気をつけます」


「あ、後もう1つ。…ん?」


踵を返していると、兵士に呼び止められる。 松明越しに彼と目が合う。




「……嘘だろ」


最悪だ。 最悪のタイミングだ。


「…へえ、こんな事もあるんだねぇ」


兵士は忘れたくても忘れられない相手だった。


俺が奴隷になった諸悪の根源。



あの兵士長だった。


「脱獄したと聞いていたけど、てっきりの垂れ死んだのかと思っていたよ。 …隼輔くん」


「ジャック…」


「ははっ!召集をかけられてわざわざ王都に来た甲斐があったよ」


奴が笑う。 この笑顔の裏には邪悪な意図が混じっていることを俺は知っている。



(…知り合いか?)


(ああ、こいつのせいで俺は奴隷になったからな)


(そういう事か… ヤルか?)


(そうするしかないだろな)


奴に向かって左腕を向ける。


「ん? 何だい僕とやりあうって言うのか?

…いいだろう。 ほんとは牢獄にでもぶちこむ所だが、ここで斬り伏せてあげるよ」


ジャキンと腰に携えていた剣を抜刀するジャック。


「よく言うぜ。 お前の罪が露見するから、ここで俺を殺した方がホントは都合いいんだろうが」


「その捉え方でも問題ないよ。 どうせ君はここで死ぬんだから」


「今は式典の最中だからね。 助けは呼んでも来ないよ。 というかここには君の味方はいないよ」


「御託はどうでもいい。 さっさと来いよ」


「ふーん、そう少しは楽しませてくれよ…な!」


言い終わると同時に駆け出すジャック。ハヤブサのように素早い一太刀を俺に浴びせようと斬りかかる。


「ーーイマジン」


俺はそれに直ぐに対応するが如く盾を想像する。


「なっ!?」


左腕からいきなり盾が飛び出してきて驚くジャックは剣を引く。


「何だその力はっ 魔法の類か?」


「言うわけないだろ? 手の内を明かす馬鹿がどこにいる?」


「…それならこれはどうだい? 中級雷魔法」


奴の手から電撃が現れ、俺に向けて放たれる!


「イマジンっ」


腕を避雷針に変形させる。 雷は吸い込まれるかのように電撃はなくなった。


「なっ、そんな馬鹿な!?」


「おいおい、それだけか? じゃあ、次は俺の番だな」


先ほどの避雷針をジャックに向け、吸収した電撃をジャックに向けて放つ。


「なっ!? くっがぁ!」


驚愕の表情と共に雷撃を浴びるジャック。 内心してやったりだ。


「…どうした? これだけか?」


「…くそ! 何故この俺がお前みたいなカスに!」


ジャックは立ち上がり懐から何か鈴のようなものを出し鳴らす。


「おーい! 敵だ! 敵が出たぞ! 誰かー!」


どうやら、仲間を呼ぶようだ。 鈴は案外煩い音色でこの音なら近くのものはすぐ気付くだろう。


(…隼輔。 ここは引くぞ)


(何でだよ? 人数が多少多くても俺はやれるぞ)


(そういう事ではない。 ここは敵の本拠地だぞ? 被害をあまり多くはするな。 目立つ真似はまだ控えろ)


(…分かったよ)


俺は奴に背を向けて走る。


「おい、逃げるな!」


「心配すんなよ。 また会いに来てやるから!」


後ろに足音が多数聞こえてくる。 もう援軍が来たのか、早いな。






ーー大分走っただろうか、ここはどこだ?


中層の外れまで来たのか?


走り続けて肩で息をしている状態だ。俺は走り疲れて、隅っこの角にもたれかかるように座る。


「っ! おい! いたぞ」


「…くそ、まだいるのかよ」



そう、思いのほか奴らは執念深かった。


「よし、行き止まりのようだな! 一気に詰め込むぞ!」


「…っち!」


俺は腕をロープに変換させ上の屋根に絡ませて登る。


屋根を伝って逃げる。 俺はパルクールの要領で一足と超えて、また一足と飛んで行く。


(隼輔っ、ここは右の方角だ!)


「…おうっ」


カーズにナビをしてもらい屋根に向かって飛んでいる最中に、俺に向けてヒュッと何かが飛んで来る。


ーー矢だ。


「くそ、絶対に捕まらないからな! 捕まってたまるかよ!」



しかし、多数の矢の飛来により俺はバランスを崩し屋根から落ちる。


「くっ!」


着地を失敗し派手に崩れ落ちる。



周りから兵士の声が聞こえる。


マズイな。 足がジンジンと熱を帯びるかのように痛む。


ーー立てねえ


兵士たちが向かってくる。 10人は軽くいるのだろうか。 なんにせよ万事休すだ。



「…ここまでか」


俺は悟ったかのように俯く。



…ごめんカーズ。



ごめん、…アシュリー。



「中級爆裂魔法っ!」


と、その刹那俺の付近に爆発音のようなけたたましい音が弾ける。


どうやら兵士達に直撃したようだ。


「隼輔っ! こっち! こっちよ!」


声をする方に目を向けると少女がいた。


「アリシア…」


「いいから早く!」


なんとか立ち上がりよろめく兵士たちを抜け、俺はアリシアの方に駆け出す。


「なんでここに…」


「そんなのどうでもいいわよ。 追われてるのよね? 手を貸すわ」


「いいのか? 」


「いいも何も、恩を返すだけよ」


「…ありがとう。 助かる」


「それは逃げ切る時に言って頂戴! それであてはあるの?」


「下層に向かう」


「下層… 分かったわ。 それじゃこっちに方に行くわよ!」


アリシアに手を引かれ下層の道を進む。


途中、アリシアが魔法を放ち、現れる兵士たちを翻弄する。


魔法の腕は確かなようだ。


「それにしても数が多いわね…」


どこからともなく兵士達がウジャウジャと湧いてくる。 敵の本拠地なのだから当たり前なんだろけどそれにしても多すぎる。


「仕方ないか… 下がっててくれ」


なるべく被害を抑えたかったけど、こればっかりは致し方ないか。


(カーズ、いいよな?)


(…こればっかりは、な。 …いいだろう、めい一杯放て。 ただし、殺すなよ)


(勿論)


左腕を兵士たちに向ける。 腕を大筒の形に変え、奴らに向けて放つ。


無数の光の熱戦が奴らに向けて直撃する。勿論死なないように威力抑えている。


付近の兵士達は短い悲鳴とともに路上に倒れ伏してた。



ホーミング付きのビームを想像したから俺の眼に映る奴らはこれでなんとかまけるだろう。


ほんとチートみたいだなこの力、



「…なによこれ。 魔法の類なの?」


俺のイマジンをみてアリシアが驚愕の表情をする。 まあ、だろうな。


「俺にも色々あるんだよ。 よし、これでまけそうだな。 行こうっ」


「ええっ」



アリシアに道をナビゲートしてもらいながら必死に走る。


もうどれくらい走ったのか分からないくらいだ。


夜に紛れるからのように俺たちは建物の隅に隠れる。


周囲を見渡す。 街灯の明かりが所々朽ち果て辺りは暗く建物もボロな作りのものが多い。


…どうやらいつのまにか下層に入っていたようだ。


建物から顔を出す、追ってを確認するとこちらに向かって足跡の音はない。


どうやらまいたようだ。


俺たちは適当な壁にもたれるよう身を委ねる。 疲れた…


「ここまで来ればもう安全ね」


「その…ありがとな。 助かったよ」


アリシアのお陰で難を逃れたと言っても過言ではない。 囲まれた時はもう終わりかと思ったしな。


「いいわよ別に。 前に言ってたでしょ? 困ってる時はお互い様って」


気さくに笑う彼女。 なんだかその笑顔に安心してしまう。


「それにしてもここが下層か」


周りを見渡す、なんだか空気がどんよりとしているような気がする。 夜の暗さとは違った暗さだ。



「隼輔、貴方は下層に来るのは初めてなの?」


「実はな… なんというか上の街とはすごい差だな」


中、上層の人々とは違い、ここらの人間の服装は清潔とは言い難い格好だ。 中には物騒な格好をした男たちが通り過ぎる。


と、近くに俯いて座り込んでいる老人がいた。 何かブツブツと戯言のように呟いている。


何かあったのかと思い話しかけようと近づこうとするが、アリシアにグイッと袖を掴まれる。


「…やめといたほうがいいわよ」


「? 何でだ?」


「腕を見てみなさい」


言われ男の腕を見る。 注射痕だろうか穴だらけだった。


「薬よ。 可笑しくなってるんだわ。 近づかない方が賢明よ」


「……」


「そんな顔しないで。 ここでは日常茶飯事なのよ。 薬にでも頼らないとやってられないような社会なの。ここは」


「…酷いな」


「そうね。 でもこれが真実なの。 みんな生きていくために必死なのよ」


と、憐憫な視線を老人に向けているとまたも袖を引っ張られる。



ーー相手は子供だった。


俺と視線が合うや否や無言で掌をこちらに差し出してくる。



物乞い、だよな。 こんな子供が…


「…」


サッと彼の手に1ゴールド差し出す。 すると直ぐに子供は去っていった。


「…ここは子供だろうが老人だろうがみんな貧しいものは平等なの。物乞いに転じる子もいればスリや強盗なんてする子もいるわ」


「…そうか。 上の奴らはこの現状を知っているのか?」


「そりゃ知ってるわよ。 けど助けようとは歯牙にもかけてないわね。 自業自得、らしいわよ」


「そんな!」


好きで彼らもこんな生活をしているわけではないだろう!


福祉の観点から見てもこれは異常すぎる。国が彼らに救済を与えなければ現状はこのままだろう。


「そんな国なのよ、ここは。 …そう納得するしかないわ」


「…分かった。 因みに宿とかはあるのか?」


「あるわよ。 一泊2ゴールド。 安いでしょ? …お金を盗られる心配があるけどね」


「よし、まずは宿に行くよ。 もう深夜だし」


「アリシアはこれからどうするんだ?」


「あなたを助けて私もお尋ね者になったかもしれないから、中層には戻りたくはないわね」


「あっ、ごめん…」


「いいのよ。 私が好きでやったことだし気にしないで。 しばらくはあなたと行動させてもらうわ。 いいわよね?」


「勿論だ。 よろしくな」


手を差し出す。 友好の印、ハンドシェイクという奴だ。


「ええ、よろしく」


彼女も応じ、握手を交わす。 手袋越しでも彼女の華奢な手の感触が伝わってきた。


「そういえば、あなた下層の事まだ何も知らないのよね?」


「そうだな。 ある程度、人から聞いたことしか」


「そしたらあそこに大きなパブがあるの。 あそこで情報を集めるのはどうかしら? 」


「でも、先に宿…」


「そんなの滑り込みでいいわよ。 どうせ宿泊客なんて日雇い労働者だけだからね。 ここを観光する輩なんでまずいないわよ」


「そう言うなら、先に飲み屋に行くよ」


「ええ、そうしましょう。 …私もここは半日しか歩いたことがないからあまり知らないのよね」


彼女とパブの方に向かう。 なかなかの大きさだ。


古さを感じるがシックな作りで趣を感じる。 ぶっちゃけ周りの建物と比べれば大分清潔に感じる。


扉を開け、アリシアと中に入る。 すると周囲から騒がしい喧騒が溢れてきた。



ーーすごいな、ほぼ満席じゃないか。


男たちが酒を飲み交わし下衆な猥談に興じていたり、踊りを披露している踊り子に歓声を上げている奴ら。


それに喧嘩だろうか?


殴り合いをしている男たちに賭け試合をしているヤツラとさまざまな楽しみ方をしている。


なかなか物騒だな。



俺たちは適当なカウンター席に座る。


「ここには来たことあるのか?」


「昼間に一度、ね。 夜がこんな有様なのは

知らなかったけどね…」


溜息をつく、アリシア。 この雰囲気はあまり好きではないようだ、


「はーい! 注文はお決まりですかぁ?」


給仕だろうか? ピョコンとした猫耳が特徴的な少女が俺たちの注文を取りに来た。


獣人族もいるのか。


「あ、えっとどうしようかな…」


「蜂蜜酒を2つお願い 」


メニュー表がなく、しどろもどろしている俺に救援を出してくれたのかアリシアが代わりに注文してくれる。


「はーい、かしこまりましたっ! ちょっと待っててくださいね〜」


元気よく去っていく店員さん。


「ありがとう。 助かったよ」


「気にしないで。 こういうとこはあまりメニューを置いていないのよ。 初めてなのだからアタフタするのは当然だわ。 それより勝手に頼んだけど大丈夫?」


「蜂蜜酒は飲んだことないけど、お酒は一通り飲めるよ。 …キツイのは厳しいけどな」


「それなら大丈夫。 頼んだのは飲みやすいお酒だから。 私これ好きなの」


「そっか、なら楽しみだ」



「おい、お前ら。 何者だ?」


品物を待っていると男に話しかけられる。 威圧的な口調が鼻についた。


「旅のものよ」


アリシアが淡々と答える。


「あぁ? 旅人だあ?」


ジロリと俺たちを凝視する男。


「どうせ俺たち下層の人間を笑い者に来た腹だろう! てめえら上の人間はいつもそうだ」


なんだよそれ。決めつけも大概にしてくれ。



「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんなつもりはない」


「嘘こけぇ! あー、腹が立って来たぜ。 一発ぶん殴らせろ」


言い終わると同時に男が俺の顔を殴りつける。 拳が迫ってくるのを瞬間的に避ける。


逸れて顔面にはヒットしなかったが頭にあたり俺は椅子から落ちて尻餅をつく。


「…ぐっ」


「隼輔! …お前っ」


アリシアが俺のもとに駆け寄り、男を睨む。


「…おいおいよく見たらお前エルフかよ。 綺麗な顔だと思ったぜ」


下卑た笑みをしながらアリシアに男は近づく。


「…なによ」


「ここじゃあ何だからあっちの方に行こうや。 へへっ…いいことしようぜ」


いやらしい手つきでアリシアの手に触れる。


「ちょっと触らないでよ!」


「へへっ、いやよ嫌よも好きの内ってな」


「この…」


アリシアが魔法の詠唱を唱えるようとしたその時、 男が吹っ飛んだ。



ーー比喩ではなくほんとに飛んだ。


男は勢いよく天井にぶつかり死んだカエルのような格好のまま気を失う。


「ふう…」


「俊輔!」


ヤツがアリシアに気を取られている間に俺は起き上がり、イマジンで創った鉄の棒で吹っ飛ばした。


思いのほか威力があったようで少し驚いたけど。



野郎が倒れ伏した途端、周囲が一気にざわつく。


ーー何ださっきのは? 何したんだ!?


ーーうわあ、あいつ泡吹いてるよ…


ーー何者なんだ奴は!?


周りが俺たちに注目するなか、一人の男がこちらに寄ってくる。


歳は30半ばくらいだろうか。 白い眼帯が特徴的だ。


「よお、俺のツレが失礼した。 すまないな」


「俺はどうでもいいから、彼女に謝れ」


「お嬢さん名前は?」


「…アリシアよ」


「アリシア。すまないな」


「いいわよ。 もう済んだことだし」


「…それであんた達は何者なんだ? ああみえて奴は多少の腕っ節はある。 一撃で沈められるとは」


「だから旅のものだって言ってるだろ」


「…俺にはそうはみえないが」


「お待たせいたしましたー! こちら蜂蜜酒です!」


日常茶飯事なのか店員さんは騒動を全く気にしないそぶりでカウンターに注文の蜂蜜酒を置く。


「そうだ。 謝罪ついでにこちらの代金は俺が支払おう。 罪滅ぼしだ」


「まあ、それでいいならいいけど…」


辺りを見ると俺たちからの注目はもう外れ他の人間は仲間達と想い想いの時間を楽しんでいる。


俺とアリシアは再び席に座る。 気絶している男は眼帯の男の指示で他のやつに運ばれ行った。


「よし、それじゃあ俺も同席しよう」


「いや、しなくていいよ…」


「待って隼輔」


拒否をしようとしたらアリシアが異議を唱える。


「なんだよ?」


「ここに来た私たちの目的はなに?」


「…あ、情報を集めること」


さっきの事で忘れてた。いけね。


「丁度いいじゃない。 この人に聞きましょう」


「そうだな。 どうせこれから人に聞こうとしたんだし都合いいか」


「? 何の話だ?」


「こっちの話だ。 それよりここについて聞きたい」


「下層のことか? ああ、いいぞ。 何でも聞いてくれ」


「それじゃあ、まずは…下層の人間はどうやって暮らしてるんだ?」


「生活か… その人様々にとしか言えんな。 恐らく見たと思うが荒くれや物乞い、闇商人や日雇い労働者などここはそういう輩が多いからな。 1つ言えるのはここでは決して楽に暮らせるとは思わない事だ」


「それじゃ、あんたはどんなんだ?」


「俺か? 俺はギルドに属してはいるが事情があってな、今は下層に暮らしている」


「ギルド…」


アリシアが呟く。 そういえばギルドで冒険者の登録が出来なかったんだよな。


ギルドは所謂、冒険者の集会所みたいなものでモンスター退治や素材の採取なんかの依頼をギルドが冒険者宛に仕事を受注する場所だ。 報酬の相場は依頼主次第だからピンキリなんだけどな。


当然、この国のギルドは人族しか加入できない。


「ん? ギルドがどうかしたのか」


「ここのギルドは人族しか登録できないのね。 この前ギルドに行ったら断られたのよ」


「ああだろうなぁ。 この国は今人族第一主義だからなぁ。気の毒に」


「なにか、理由でもあるのか?」


世話になったあの行商人、ポルトさんからは王の息子が死んでから変わったと聞いていたけど。


「…簡単な話さ。 皇太子さまが亜人種に殺されたんだよ」


「え?」


ここでいう亜人種とはエルフ族や獣人族のことだ。


「皇太子さまのことは知ってるか?」


「ああ、少しだけだけど…」


「丁度、他国の式典に参加しようとした時だったか、皇太子さま一行が乗ってる馬車が盗賊に襲撃されたんだよ。 で、結果的に死んだわけ」


「…死に方が悲惨でなぁ。 なんでも遊び半分に痛めつけられてから体の節々が切り取られていたり、殴打痕が至るほどにあったらしいぜ。 極め付けに死体は畑の肥溜めの中だ」


「…ひどい。 そんなの人がやることじゃないわ」


「俺もそう思うよ。 …皇太子さまはまさに賢人と言えるお方でな。 民のことを常に大事に考える人だったよ」


「それが原因ってことか…」


「あともう一つ。 これは外部の人間はあまり知らないことだが」


「王の妃、女王様だな。 女王様の死も関係してるな」


「女王様は貧しい奴らを支援し仕事や食事を与えたり慈善活動を積極的に努めたお方だった。皇太子さまが亡くなった時に王を懸命に支えたのは女王様なんだ」


「それで、どうなったんだよ?」


「…殺されたんだよ。 ここの奴らに 」


「え!?」


女王様も殺された、だと?


どうやらアリシアも知らなかったようで、俺と同じ反応をとる。


「下層の奴ら一人一人に不備がないか伺いを立てる方でな。 それが死の要因だった。 喉をざっくりと切られちまった」


「誰がやったのかは俺は知らん。 犯人は未だに分かってないのさ。 けど、この事で王は悲嘆に暮れて復讐に燃えてしまった」


「そんなことが…」


「それがこの国のこうなった所以だよ。 差別や身分制度を作り上げたのはこの事が理由。 加えて今は腹心の大臣が王を支えているからな。 奴隷制度や過度な税収なんかは大臣の立案だ」


「…」


妻や子供に先立たれたのか… しかも殺されたって。 なんだか王に同情したくなる。


けど、それとこれと話は別だ。 自国の民を

苦しませる理由にはならない。


「驚いたか? そりゃそうだろうな。 …で、ワザワザ下層に来たんだ。 何か目的があるんだろ? 観光目的ではあるまいし」


「あんた達は…」


「あん?」


「あんた達はこの国をどう思っているんだ?」


考えるそぶりもなしに男は間髪入れずに答える。


「一言で言ってやろうか。 クソッタレだよ。 この現状を目の当たりにしたら嫌でもそう思っちまう」


「…俺は」


「俺は、数日前奴隷だった。逃げてきたんだ」


「ほう…」


「訳あって、売られて奴隷になったんだ。 そこでは大切な友達がいた。 でも俺は彼女を守れなかった、彼女は死んだんだ。 けど今俺はここにいる。 俺は彼女の夢を叶えたいんだ。 平和な世界をつくるって」


「隼輔…」


アリシアが小さく溢す。悲しい顔をしていた。


ーー 誰にも打ち明けなかった話だ。 けど、何故かいま無性に話したくなった。


「…隼輔と言ったか」


「本気か?」


俺をジッと目据える男。 真剣な表情に俺は身が引き締まる。


「…本気だ。 死んだアシュリーの為にも俺は実現してみせる」


「その目は嘘ではないようだな。 男の目をしている。 …いいだろう、来てくれ」


「行くってどこへ?」


「なに、行けばわかるさ」


アリシアと頷き、隻眼の男に後について行くことにする。



たどり着いたのはトイレ。


「ここがなんだよ? トイレじゃないか」


「まあ、見てろって」


男は個室に入り、便器の奥の壁を押す。


すると壁が外れ空洞ができた。


「秘密扉というやつだ。 入ってくれ」


人が一人ギリギリ入れそうな空洞に入り、匍匐前進のようにズルズルと横ばいに進んでいく。


すると、明かりが見え地面に足がつく。


明かりの先は広々とした光景が広がっていた。 目の前には椅子とテーブルがいくつか配置されていたり武器が至る所、無造作に置いてある。


「ここは?」


隻眼の男は咳払いを一つ。



「ようこそ。 革命軍へ、歓迎するぜ」


「革命軍?」


「そうだ。 ここはこの国を変えるために集まった同志達のための場所だ。 不満なのはお前らだけではないってことだよ。…あんたの言葉に思うとこがあってな」


「俺たちをここに招いたのは…」


「当然、革命軍に参加してもらうためだ。 お前の気概は相当なもののようだしな。 お嬢さんは分からんがあんたも同じだろ?」


「私は…」


アリシアがこちらに目配せをする。 俺の返答を待っているようだった。


「俺、入るよ。 ここに」


「隼輔…」


「同じ志を持つ奴らが集まっているってことだろ。 なら、入らないわけにはいかないよな」


「そういうと思ったよ。 嬢ちゃんは?」


「はぁ…私も入るわよ。 どうせ、ここでハイそうですかと帰れるわけないしね」


「そりゃあな。 悪いけど始末しなけりゃならんな」


さも当然のように言うな。


「…じゃあ、改めて。 歓迎するぜ、これから宜しくな」


男が手を差し出し、お互いに握手をする。力強い手だった。


「と、言い忘れてた。 俺の名前はフランクだ」


「フランクさんだな。 これから宜しく」



「で、早速だけどあんたのその力。 教えてもらえないか?」


「あ、私も気になってた」


二人がおれの左腕に注目する。 まあ、気になるのも無理はないか。


「ああ、…これか」


「魔法の類ではないようね…」


「…あー、えっとそうだな…」


(カーズ、どうすればいい?)


カーズに打ち明けるべきか相談することにする。


(能力のことは説明しても構わないぞ。 だがその力はどこで身につけたかについては話すな。秘密とでも言っておけ。 全てを話すことはできぬ。 勿論私のこともな)


(ああ)


「 …そうだな。一つだけいうと俺のこの左腕は何にでも姿を変えることができる。 剣や盾、それこそ大砲なんかにもだ」


「そんな力聞いたことないわ。 余計気になるわね…」


「ほう、それは面白いな! 先ほどの一件からお前は戦力になると確信した。 で、嬢ちゃんの腕前はどれくらいだ」


「中級の魔法なら大体使えるわよ。 弓も多少の心得は」


「精霊魔法は? エルフは得意なんだろ?」


「ごめんなさい… それはできないの」


「そうか。十分すぎるよ。 じゃあ隼輔。 いきなりだが俺と手合わせしてくれないか?」


「いいけどなんでまた?」


唐突だな。


「お前のその力、直で試してみたいと思ってな」


「いいけど、どこでやるんだ?」


「あそこに見えるところは訓練所になってる。 そこでしよう」


「分かった」



ひらけた場所で二人向き合う。広さも十分だ。 存分に戦えるだろう。


「よし、隼輔。 お前から来ていいぞ」


「じゃあ、遠慮なく…イマジン」


相対するフランクさんは剣を持っている。俺もイマジンで剣に変換し、彼に斬りかかる。


「やっ!」


キン!と剣と剣がぶつかりあい、鍔迫り合いになる。


「っ…」


俺は追い討ちをかけるようにさらにイマジンで剣の能力に付加をかける。


「くっ!」


やがてフランクさんが持つ剣はミシミシと音をたてる。


「ば、ばかなっ」


やがて剣はヒビが生じ、刃が砕けた。


「…俺の負けだ。 すごいなその力は」


「すごい威力の剣を想像したんだ。 まさか粉々にするとは思ってなかったけどな」


「出鱈目な力ね… ほんと不思議」




「…よし、次はその能力はなしだ。 お前本来の力でこい」


「イマジンなしで?」


「ああ、そうだ」


フランクさんが別の武器を取りだし、俺にも剣を手渡す。今度は力を使うのはナシか。


「次は俺から行くぞ。 受け止めろ」


「…っ!」


ガツンとくる衝撃に耐えようと剣で受け止める。 想像以上の威力の一太刀で腕が震える。


「どうした? 能力を使わなかったらそんなものか!?」


「…くそ!」


肉薄から脱しようと体をそらし切っ先をブンと大振りに振りかぶる。 それが命取りだった。


「そこだ!」


隙を見たフランクさんが俺の攻撃をひらりとかわし勢いよく剣を縦に振りかぶる。 剣はグルグルと飛び、上に刺さった。


ーー負けた、か。


「参りました…」


「やはりな。お前はその力に頼りすぎている 」


悔しいけど、反論ができないな。 それに関しては俺も思うとこがあった。


この力がなかったらモンスターを倒すのはおろか牢獄から抜け出すことさえ叶わなかったしな。


「まあ、案ずるな。 そのための訓練所だ。 俺が力をつけてやる」


「フランクさん…」


「今日から仲間だからな。当たり前のことをするだけだ。 それにその力もきっと魔力があってのことだろう。 なくなったら己の力で生き残るしかない。そのための特訓だ」


「分かりました。 今日から宜しくお願いします!」


「ああ。 俺のしごきはキツイぞ? 耐えられるか楽しみだ」


ガハハと豪快に笑う。


「当然お嬢ちゃんの力もつけてやるよ。 俺は魔法の心得はないから別のものが付き合ってくれると思うがな」


「それはありがたい話ね。 ありがたく受けさせてもらうわ」


こうして俺たちはこの国を変えるために立ち向かう革命軍に参入した。 この先、どうなるかは分からない。


けど、必ず変えてやる。



イマジンの力だってある。 だけど今は、俺自身の力をつけるために強くならなきゃな。






推敲してるときに気づきました。


ーーなげえ。

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