僕と彼女は
遙かなる時空の中で僕は彼女に出会った。その出会いは偶然か必然か。そんなの今更よく分からない。だが、彼女は今ここにはいない。
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時は大正。僕の名は倉科圭。今の歳は‥20代前半ぐらいだ。
「何をしているの、圭。」
彼女の名前を僕は知らない。
「あぁ、人を見てた。」
「そういうの好きだね。」
彼女は、ただじっと壁にもたれている僕の隣に寄り添っているだけだ。
「そろそろ、将さんところに行く」
「そっか、じゃあ私も挨拶がてら行こうかな。」
僕たちは、何も話さずただ無言で父親の友人のところへ行く。
将さんは道場の師範で僕は小さい頃から剣を習っていた。だが今の時代、刀ではなく銃を使うようになったためあまり意味はない。
「こんにちは、将さん」
「圭か。そっちの嬢ちゃんは久しいな。」
「お久しぶりです、将さん。」
「おう。そうだ嬢ちゃん。久しぶりに竜と遊んできてくれないか」
「はい、分かりました。」
竜は将さんの弟。たが、20歳も歳が離れているため、まだ10か11歳くらいだ。将さんは30歳くらい。将さんは、親父とは20歳も離れている。教師と生徒で出会ったと言っていた。
「助かるよ。」
「それじゃあ、竜くんこちらにおいで。」
彼女は将さんの後ろにいる竜に手招きをした。
「そうだ、圭。久しぶりにやらないか、あれ。」
僕は剣をとった。
「いいですよ」
「やる気だな。」
「久しぶりですから。」
僕たちは剣をふるう。もちろん木刀だ。
試合中に、将さんはあれこれ聞いてきた。
「圭、あの嬢ちゃんの名前まだ教えてくれないのか?」
「教えるも何も、知りませんので。」
「聞かないのか?」
「聞いても教えてくれません。」
一度ここで将さんは剣を止めた。
「なぜ止めるんです?」
「いや、少し忘れていたことがあってな。」
僕は聞き返した。
「そういえば、あの嬢ちゃん。毎週2.3日しか会えないんだったな。」
「はい、毎週どの曜日にくるか分かりません。」
そう、彼女はいつ来るのか分からない。毎回ひょっこり現れては夕方には帰る。2日連続の日もあるが、4日間来ない日もある。いつも、同じところで同じ時間に僕はいるのだから。
「しっかし、あの嬢ちゃんかなりの曲者だぞ。俺が一回足もとすくわれたからな。」
「そうですか。」と僕は興味なさそうに答える。
将さんが負けることはまずない。それを勝ったとなると、かなりの達人だろう。そういえば、将さんが言いたいことってなんだったのだろう。
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「圭」
「圭兄ー」
後ろで声がした。
「おお、帰ってきたみたいだぞ。」
「そうですね。」
彼女と竜は手を繋いで、帰ってきた。
「圭兄、お久しぶりです。」
「あぁ、そうだな。」
「相変わらず、愛想ないなぁ圭は。」
彼女は笑う。僕がなにかしたわけでもないのに。
「悪いか?」
「悪くは、ないけど。少しは笑ってもー、ね?」
そうやって、僕の顔に彼女の手が触れる。
「口をこうやって、笑うんだよ。」
無理矢理、笑わせられる。
「圭兄、変な顔ですね。」
竜は必死に笑いをこらえている。それに対して、将さんは真顔。というか、考え事をしているような顔。
「圭、さっき言い忘れていたことがある。少し、いいか?」
すぐに、話題を変えれらた。僕は返事をし、将さんについて行く。
連れてこられたのは、将さんの部屋。
「なぁ、お前。婚約者はいるか?」
「いませんが、なにか」
「あぁ、いや、その、えーとな。」
なかなか言い出さない。それを僕は待ち続けた。
「俺っ、お見合いがあるんだが、お前が代わりに行ってくれないかっ!」
慌てて言う将さんに俺の顔はどう見えているのだろうか。
「実はな」
勝手に将さんは語りだした。
「お見合いの話が来たとき、いつものことでテキトーに年齢を書いたんだよ。そしたら、是非って」
一応、話を聞くと将さんは最初から断るつもりだったそうだが、位が高い人とのお見合いで断れなくなったらしい。
「何歳にしたんです?」
「えっとな、お前と同い年くらい。こんなこと頼めるのはお前しかいないんだよ。」
将さんがこんなにもダメな人だとは思わなかった。
「分かりました、」
「早いな、助かる。」
ここで断るのも面倒だ。
「今度から、気をつけてくださいよ。」
「ああ」と将さんは苦笑いをした。
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「えっ?圭、お見合いするの⁈」
どうせ隠す必要がないと思い、僕は彼女に話した。
「お見合いって‥」
「だから、明日は来ないでくれ。」
「え」と彼女は一瞬動きが止まった。
「あ、うん。分かった。」
どうしてか彼女の顔はどんどん暗くなってきた。
「もう、日が暮れそうだから帰るね」
明るい声だが顔の表情はさっきのまま。彼女はそのまま歩き出した。
たが、ふと何かを思い出したようでこちらを見て「お見合い、うまくいくといいね。」と言われた。
僕が驚く暇もないくらい、走り去って行った。