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VERTEX−ヴァーテクス−  作者: 塩そると
BLACK BEGINS
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三人の力

「――はああぁっ!!」


 最初に攻撃を開始したのは、両手に雷光を灯すルテウスだ。機械の巨体目掛け、雷の線を束にした弾を掌から連射した。青白い火花を散らしながら高速直進するそれらは黄緑の機体に着弾し、雷の爆風を発生させる。


 ……しかし、この程度では大したダメージにはなっていない。微かな焦げ跡を残しただけに過ぎない。その後も何発か雷弾を撃って当てていくが、意味を為しているようには感じない。


「くそっ……殆ど効いてないのか!?」


 期待外れの結果に、心の底に焦りと苛立ちが芽生えてくる。


「慌てんじゃねえぞ!」


 小気味よく地を駆ける音が立つ。ルテウスの右方、炎の大剣を構えて疾走するサンディコス。それなりに重量のある剣を持とうがスピードに鈍りがなく、走行の軌道に朱い残光を描く。


「見せてやるぜ! オレの剣『ヴァーミリオン』の威力!!」


 懐まで辿りつき、身を低くし、バネのように力を解放する。その動作は、人間にしては高水準の跳躍力を実現する!! 彼の身体は無機質な巨体の中心の高さまで浮上し、


「燃やし斬ってやるぞ!! バーンクラッシュ!!!」


 自らの体重を燃える大剣に乗せ、強引に叩き付けるように斬る! 重厚な金属と金属が激しくぶつかり合い、鈍い衝撃音を響かせる。しかし……。


「ん? 待てよオイ……こいつ……固えぞやたら!!」


 衝撃は自分の手にも鈍く伝わる。切断もできず弾かれるように退り、着地するサンディコス。その時、黄緑色の太い腕が無機質な敵意をもって彼に向けられた!! まずいと思ったサンディコスはその場から駆け、離れようとする。その時、機械の頭部から電子的な音声が鳴った。


『ケチラシマス……ケチラシマス』


 すると機械の腕先から、再び危険な雷鳴が迸り始めた。

(またコレかよ! 逃げ切れるか……?)


 唸るような電撃音が徐々に強くなり、球体が構成される。ルテウスが遠方から雷撃を再び繰り出すも、その勢いは止まらない。


「ダメだ、やっぱり効いてない……!」 


 サンディコスを狙う球体が拡大していく。完全に照準が身体に合わさり、彼の動きに連動する。


「ヤ……ヤベえっ!」


 あの電撃弾が再び襲いかからんとしている。目を見開いて焦りながら必死で駆け抜ける。そんな時、横からアトルムの低い声が集中を排除した耳にうっすら伝わった。


「……剣を収めろ……!」


 小刻みに草を踏む音が右方から聴こえてきた事に、サンディコスは(ヴァー)による炎の剣を瞬時に消した。それと同時に、機械の腕先から雷で作られし球体が砲弾じみて射出された!!


 無数の小さな稲妻を纏う雷球体は、風を切り開いて直進し的確にサンディコスへと向かう。 しかし標的の横から、アトルムが地面スレスレの低い角度で素早くサンディコスへ向けて跳躍し、空中で彼を咄嗟に脇に抱えて球体を回避させた!


 本来の標的を抱えたアトルムの背後を雷球体が高速で通過し、どこにも着弾しなかったそれは勢いを失い霧散した。地面に着地し、二人の身体が離れる。


「た、助かったぜアトルム……今のは危なかったな、流石に」


「……負けるな」


 そう言い残し、今度はアトルムが巨大な機械に向かって疾走を始める。彼の右手には漆黒の剣、左手には長い柄の先端に重い長方体の塊が付いた黒き槌が握られている。


『ヴァー……ヤミ……タオシマス』


 黄緑の腕はアトルムへと向けられる。もう一度雷の球体が腕先に浮かぶが、今回のサイズは今までの半分程度となっている。何故なら、今浮かべた球体は全部で8つもあるのだから。質よりも量で勝負を仕掛けてくるつもりだ。


「僕も援護するよ!」


 後方、ルテウスは雷による攻撃はあの機械には通り難いのではないかという推測を立てた。彼が使える魔法の属性は他にもある。試してみればいいだけだ。


≪水を司る玄武よ……我と共に万物を押し流さん……『コマンドAQUA』!!≫


「よし、これに賭けてみよう……!」


 刹那的に彼が両手に纏わせた魔力は、蛇じみて蒼く渦を巻く水流であった。手を合わせ、僅かに隙間を開ける。大蛇のような激流が、横に大きく湾曲しつつ……機械の背後を狙う!!


 それと同時に、機械の腕先から8つの雷球体が放たれた。一つ一つは小さくとも、避け切る難易度は高くなっている。アトルムは実際、あの未知の相手に確実に勝てるという確信を持てていない。

 だがそれでも、彼は機械に向かって走り続けるのを止めない。ルテウスの魔法が見えた今、チャンスがあるかもしれないと思ったからだ。 走りながら雷球体の小さな隙間を見出し……通り抜けた!! 微かながら顔に静電気が走ったが、こんなものは無視だ。


 これに対しまたもや機械は雷球体のエネルギーを溜め始める。だが、ルテウスが放った激流が機械の背面を叩きつけ水飛沫を拡散させる。その衝撃は機械には完全に受け止める事ができず、体勢を崩しよろけてしまう。同時に中途半端な規模であさっての向きに雷球体が飛んでいった。


「よし! 成功だね!」


「やるじゃねえか!」


 この機に乗じ、サンディコスは再び燃える剣を出して機械へと走っていった!


「行くぞ、闇……!」


 アトルムは自らが味方につける闇に呼びかける。両手に持った武器が黒い靄を濃くする。機械との距離が縮まり、アトルムは跳躍した。彼が今乗ったのは、機械の傾いた太い脚部。乗ると同時に、胴に剣で一撃加える。


『ガイテキ……ガイテキ……』


 その後も体勢を直そうとする機械の背面へと素早く飛び移り、堅い表面を切りつつ上へと跳び、白い蒸気を漏らす通気口に注意しつつ機体を登る。機械は自らに乗った外敵を排除しようと太く短い腕を動かすが、背の敵を攻撃できそうにないようだ。アトルムは下を向く。


「脚を狙え……!」


「ああ! 見せてやるよ!!」

 次いで懐へ潜り込むサンディコス。彼はアトルムの指示通り、機体の左脚に狙いを定めた。腰を落とし、力を腕に込める。そして勢いよく跳ね、体重を乗せた一撃を全身全霊で叩きつける――!!

「バーン……クラッシュ!!!」

 金属を打つ重厚な快音の拡散……そこまで決定打になったわけではない。だが、体勢を崩している機械に対する追撃としては上出来だった。また身体を傾かせたのだから。


「でかした……!」


 傾いた背中を利用し、機械の丸い頭部にまで辿り着いたアトルム。彼は機械に跳び乗る寸前に、弱点となる箇所に目星を付けた。人間の主な急所は、頭、胸、股間等がある。とはいえこれは機械であり人間と同じではない。

 だが、あの機械は不自然に胴が細く頭が大きい奇妙な形状だ。それ故頭が重要な部位ではないかという単純な考えだ。彼は機械の背と肩を足場にし、漆黒の槌を大きく振りかぶる!


「――粉砕(プルヴェラティ)……!」


 打撃に特化した黒き塊が、機械の後頭部に打ち付けられる! 打ち付けられたと同時に高濃度の闇が押し付けられる! それも一度だけでなく幾度も! 容赦などない衝撃が機械の頭部を確実に揺さぶっていく!


『……ガガッ……イジョウハッセイ……コア……ダイダメージ……イジョウ……』


「再び押し流せ、水よ!!」


「くらいやがれっ!!」


 ますます傾く機械の身体。それに向けて再びルテウスが蛇じみた激流を背に放つ!! そして、サンディコスも脚の後方を攻撃!! 機械の後方にダメージが蓄積されていき……!





 ――足が滑り、巨体が転倒する。一切制御のない地面との衝突が強い音と衝撃を生む。


「おわっ!?」


 サンディコスが衝撃に怯みつつ退くも、すぐ前を向く。アトルムは機械が転倒する事を理解し、機械が倒れこむ中で丁度良い高度から飛び降りた。

 黄緑色の機体は、必死に巨体を起こそうと奮闘する。だが、上体が微かに動くだけだ。


『ガーガガガガ……マダ……ガガガ……ガガガガガ……ジッセンムケデハ、ナ……』


「まだ動きそうだよ、アトルム……!」


 耳障りなノイズ音を吐く機械を前に、もう一度アトルムは槌を構え、頭部に勢い良く振り下ろした。微かにヒビが入る。


「お前に……俺達は殺せない。死ぬわけにはいかない」


『ガガ……gggggggggggggggg』


 もう一度打ち付ける。もう一度打ち付ける。ヒビ割れが大きくなる。更に打ち付ける。頭部の鋼鉄がついに明確に割れる。その中では、空洞に透明な水晶体が浮遊していた。これは人間でいう脳かと判断するアトルム。


「これで終わりだ。――闇に溶けろ」


 その水晶体は、振り下ろされた槌のたった一撃で簡単に砕け散った。核を失った巨大な黄緑色の無機質な物体は、何故か一瞬の内に塵となり消滅した。

 この草原には余りにも場違いな存在が消え、場の秩序は一気に回復する事となった。一拍起き、溌剌とした歓喜の声と、穏やかな安堵の溜め息が静寂の中に漏れた。

上手く描写出来たか少々不安です。

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