魔王ゼロスタート
短編書いてみたかったので書きました。
……どうしてこうなった。
血みどろになって倒れ伏す俺の目の前で一人の少女が鋭い剣によって、その華奢な体を貫かれている。
何故だ。何でこうなってしまったんだ。
少女の胸を刺した剣を持つのは、少女と同じく十五才くらいの、まだまだ若い男だ。
少年といってもいい彼はしかし、その相貌を憎悪によって歪めていた。
やめろ……やめてくれ。
お前が憎いのは俺だろ。なら、俺はもう間もなく死ぬんだから……だから、もうやめてくれ。
少年が持つ剣で斬られた俺はもうすぐ命を落とす。その事は別にいい。
こんなことになるんじゃないかと覚悟はしていた。
―――俺があの少年の父親を殺害した時から。
俺はもう死ぬんだ。だから、―――を殺さないでくれ。
「ヤッ……メッ……ロ」
今すぐ少女に駆け寄って治療しなければならない。でも、どうやら俺はもう駄目みたいだ。目が霞んで、もう、意識が………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?
どうしてだ? どうして死んだはずなのに意識があるんだ。
『目覚めなさい』
誰だ。この声は何なんだ。目覚めろだと、何を言っている。俺はもう、死んだんだ。目なんてあけられるわけ……
「……あいた」
どういう事だ。何で俺は目を開けて意識をハッキリとさせているんだ。
『起きましたね。なら、私とお話しをしましょう』
お話。俺にできる話なんて対してないけどな。……というか、お前は誰なんだ。それにここは何処だ。
『私は女神。女神イサリスです。そして、ここは、私の神域です』
「なに! 女神イサリスだと」
俺はその言葉に驚いた。その名が神の名前ということはもちろん。
あの男が言っていた名だということに。
『そうです。勇者カイトを貴方の世界――エインに送ったのは私です』
「はっ、はは、はははは」
俺は狂ったように笑い続ける。
それから、少しして、俺の笑いは止まる。
「勇者を送った……ね」
勇者を送った。……つまりコイツが余計な事をしなければ、
「アイツは、あの子は死ななかったってことじゃねーか!!」
俺は神に対して激昂する。
わかっている。全ては俺が悪いってことも、神が勇者達を送らなければアイツに会えなかったって事も……でも、こっちに来なければアイツだけは幸せになれたんだ。
『ごめんなさい。私も今回の事については悪いことをしたと思っているのです……まさか』
神は本当に申し訳なさそうに謝ってくる。
『まさか貴方がこんなにも変わるとは思っていなかったのです――魔王ゼロ』
―――かつて、俺は魔王と呼ばれていた。
何故そんな呼び方をされるようになったのかは覚えていない。でも、それでも俺は王だった。強靭な肉体に溢れんばかりの魔力。圧倒的な実力をもって、俺は魔族の王となっていた。
俺は、獣人、人間、エルフの精鋭相手でも負けることなく血祭りにしていった。
それから、何年か月日がたったとき俺は二人の勇者と名乗る者と出会った。
その、勇者はまだ少年少女の兄妹で二人とも整った顔をしていた。
もちろん。子供相手に負けるはずがないと、俺は嘗めてかかった。ところがどっこい。少年と少女は今まで戦ってきたもの達とは一線を画す実力を持っていた。
しかし、そこは魔王たる俺だ。俺は勇者二人相手にも勝利した。
だが、そこで俺はおかしくなってしまった。
俺は勇者はの二人と仲良くなってしまったのだ。
勇者は少年の方が兄の瀬戸川海人という名で、妹の方が瀬戸川真波という名前だった。
俺は二人と話していく内に今まで感じたことのない、感情というものが芽生えていた。
今まではただただ、無関心に生き物を殺戮してきた俺はその時初めて生というものを実感した。
海人と真波と仲良くなった俺は他の魔族達に人間達の国を襲うのは止めにしようと言って実行させた。
それからは、納得いかないという魔族達を力ずくで納得させてから、海人達の喪とに向かう日々をおくっていた。
それが一年続いたとき、俺たちの関係は当初とは様変わりしていた。
カイトとは親友に……マナミとは恋仲になっていた。
その時の俺は本当に幸せだった。
――それが、失われたのは更に10年経ってからだった。
人間が魔族に対して襲撃してきたのだ。
その頃にはマナミと結婚し子供まで授かっていた俺は魔族側に、そして、俺が把握していなかった魔族によって最愛の妻を失ったカイトは人間側にいた。
「マナミ、本当にいいんだな」
「……うん、――お兄ちゃんを殺してあげて」
そう言うマナミの顔はとても悲しそうだった。
カイトは魔族に対する憎しみで人が変わってしまっていた。それは親友のオレに対しても向けられる程、魔族という種族に恨みをもっていた。
人間は大人しくなった魔族に対して好機だと見て挑んで来たのだろうが、それは、甘かった。魔族と人間、押していたのは魔族側だった。
そして、人間の最高戦力のカイトと魔族の王の俺が戦うのは必然の事だった。
両者が他を圧倒する激闘を繰り広げて―――そして、俺はカイトを殺した。
勇者の死によって、人間達は撤退していった。
「そして、それから五年経ったときマナミは死んだ」
『ハイ。それは私も天界にて見ておりました』
俺は神に、どうして俺が変わったかを説明していた。何でも神なら説明をしなくてもみることができるそうだが、直接俺の口から聞きたいと言われたのだ。
『勇者カイトを討ったとき、勇者マナミを亡くした時、貴方は本当につらそうでした……私もその時はあのゼロがこんなに変わるのかと驚いたものです』
神は俺に向けて慈愛の笑みを浮かべる。
神が魔王に対してこの態度はいかがなんだろうか?
『何ですかその顔は。本当に驚いたんですよ。あのゼロが家庭をもっていたんですから』
その時、俺も神の言葉を聞いたとき、俺の脳裏に死の間際の光景がよみがえる。
「そ、そうだ。あの子はどうなったんだ! 俺とマ―――」
『彼女はお亡くなりになりました』
神に遮られた俺は、その先の言葉を紡げなかった。
死んだ。あの子が死んだ。
ぐらりと地面が無くなって底に落ちていくような錯覚をおぼえる。
『はい。勇者カイトの息子、勇者クウトによってです』
そうだ。カイトの息子が俺の所にアイツの形見である聖剣を手にやって来たんだ。
俺に復讐を果たすために。
息子のクウトはまだまだ未熟だったけど、俺は攻撃を加えることができなかった。
むしろカイトを殺した罰なんだと、自分の死を受け入れた。でも、そこで悲劇がおきてしまった。
「そうか。俺がカイトの子だからと、殺さなかったからあの子が」
俺がぬるくなったのがいけなかったのだろうか、俺の全身を憎しみが支配していく。
『ゼロ! 憎しみに囚われてはダメです!』
神が必死に俺を止めてくる。
でも、どうしろって言うんだ。マナミ達が俺を変えてくれたんだ。誰もいなくなった今となっては俺が生きる理由がなくなった。
「ハハ、ていうか、俺は死んでるんだったな」
なら、もう、消してくれ。そうすればもうつらくない。
『いいのですか。今ならまだ間に合うかもしれないのに』
「なに! どういう事だ!」
何に間に合うっていうんだよ。
『私が死した魂を無為に神域に連れてくるわけがないでしょう。私が貴方を連れてきたのは貴女にチャンスを与えるため』
「チャンス……それは何だ」
難度も高鳴る胸を右手で押さえる。神がくれるチャンス。もしかしたら、あの子を救えるのかもしれないと、淡い期待を抱く。
『貴方を過去に戻すのです。それは貴方が魔王と呼ばれるよりも早くです』
「過去に戻すだと」
つまり。それは、やりようによってはカイトを殺さなくてすむようになって、あの子がカイトの息子に殺される事もなくなる。
みんなが幸せになれるのだ。
『もちろん。大変な事がいっぱいあるとは思います。……それでも』
「行くよ」
俺は神に即答する。迷うまでもないことだ。
『人を救うためにいく。本当に変わりましたね』
神は嬉しそうに笑ってから光の扉を作る。
『さぁ、行きなさい。ここから貴方は本当に過去に行くことができるようになります』
カイト、マナミ、待っていろ。
俺が絶対に救うから、たとえ、この身にどんな危険が降りかかろうとも。
俺はゼロからやり直してやる。
俺は扉を潜っていく――――。
パッと思いついて、直ぐに書いた話なのですが、気が向いたらやり直ししている所も書きたいですね。