オカルト日和
ここは中学校の理科室である。草木も眠る午前二時。最近は夜更かし小僧どもが増えたんで携帯だとかパソコンだとか、あとスマホ?とか親が取り上げるらしいけど。まあ、そんなこた知ったこっちゃない。夜更かししたい奴がすりゃいいのよ。真夜中には真夜中の楽しみっつうもんがあるんだもんね。
「で?一体、何すんの?こんなとこで」
「う~ん、別にたださ、今日はオカルトの日なんだって。だから、なんか怖い話とかさ。いいかなぁって」
「オカルトって怖い話なんだっけ?確か、映画の「エクス死スト」とか悪魔祓いとかのことじゃなかったけ?」
「あ~まあ、なんでもいいよ。暇つぶし出し。それに今月中にここなくなるしさ」
「ああ、そうね。俺らそれでばらばらになっちまうんだっけか」
「まあ、だから、百物語とか」
「幽霊話とか?」
五つの黒い影が一つの実験台を囲んでゆらゆら揺れていた。
「じゃあ、あたし西階段の話しちゃう」
おお、いいねぇと他の影が同意した。
「えっとね、社会科教室の隣にある西階段の三階。午前零時ちょどに登り切ると十三段になるの」
「ああ、それは聞いたことあるぞ、俺」
「うん、僕も」
「続きあんの?」
まあ、おちつきなさいなと影はもったいぶっていう。
「そう、続きがあるの。一度でもその十三段目を踏むと……」
「踏むと?」
影たちは頭を寄せ合う。
「なんと、悪魔に憑りつかれる!」
他の影たちはなんだよぉっとかつまんねぇとか愚痴をたれた。
「だってさあ、悪魔だよ。怖いじゃん」
「そうか?あんなの別にクリスチャンくらいだろ。マジで効果あるの」
「そうだよ。僕たち仏教徒なら、悪魔より陰陽師だよ」
「う~ん、そう言われちゃうと話が終わっちゃうよね。だって、十三階段と死刑と悪魔ってセットだし。たしかにあたしたちクリスチャンじゃないけどぉ……でも、クリスマスもバレンタインも祝っちゃってるから悪魔に憑かれちゃうのはやばくない?」
ふっと一つの影が何かを思い出したように言った。
「そういえば、一人いたぞ。十三階段踏んだやつ」
まじでっと驚きと好奇心の声があがる。
「たしか、そいつ平凡な一生を終えたって」
はい、そこ大事!と影が叫ぶ。
「そいつの願いごとがね。お金に困らない、平凡な人生で、八十歳まで生きるていう願いだったわけ」
「平凡ね」
「平凡って言ったらどんな人生なんだ?」
全員が首をひねった。
「まあ、そいつにとってその三つが叶ったらよかったわけだから、めでたし、めでたしなんだけど……」
まだ続くのか?と他の影たちがまた頭を寄せ合う。
「これって悪魔と契約したわけだから、魂は悪魔のものなのよね。だから、そいつは幽霊になれず、あっというまに周りの人間からもわすれられちゃったの」
影たちはひーっと悲鳴を上げた。
「それこえぇ。マジ?葬式とかしてもらえなかったのか?」
「そうなの。ご遺体だけ行政処分!」
「うひゃあああ。それいやだぁ。永大供養のほうがまだましじゃん。無縁ちゃんにさえなれなかったのかよ」
「そりゃ、幽霊になれなかったんだから……行政的にどうしたわけよ……」
「んっとねぇ、焼却して……で?これ何?って話になって……灰だろってことで……」
また、影たちは頭を寄せ合う。
「ゴミと一緒に埋め立て処分!!」
ぎゃーっと全員が笑うように叫ぶ。
「最悪、ありえねぇ」
「うぉお、こわっ!!」
「ひっさぁーん!」
「どう?結構来たでしょ?」
うんうんと影たちはうなずく。
「じゃあ、僕は……」
と一つの影が話をしようとしたときだった。
ガラッ!!
「誰だ!!そこにいるのは!!」
ぱっと部屋の中が一気に明るくなった。どうやら、警備員が駆け付けたようだ。
「な、なんだこりゃ……」
人の騒ぐ声に飛び込んでみれば、そこには誰もいない。ただ、入口そばの実験台の上にありえないものがあった。それは―
―ホルマリンづけの動物の奇形が五体。
円陣を組んで、すべての顔が警備員を睨んでいた―
【終わり】
今日は何の日で、「オカルトの日」というのを見つけたのでホラーにしてみました。