そして僕は犯罪者になった
二〇一五年に満十八歳に選挙権が認められ、数年後、満十八歳にて成人とするという法改正が行われた。丁度、その年僕は十八歳になった。酒もたばこも十八禁も、もう存在しない。内心、とても喜んでいた。
「そっか、あたし早生まれだから、まだ未成年なんだよね」
とため息をつく僕の彼女。その意味を僕は深く考えず、誰もいない自分の家に彼女を連れ込んだ。キスしたり、少し触ったりするエッチなことは付き合いだして三か月ごろから、日常的になっていた。僕は彼女に君がほしいとねだった。
成人したら、関係を持っていいと彼女の許可は得ていた。だから、両親不在のその日に彼女を家に招いたのだ。彼女は困ったような顔をしていたけれど、僕の誘いは断らなかった。
「あのね、ほんとはすごく怖いの。だから、やめてっていったら、やめてくれる?」
「もちろん」
僕は舞い上がりすぎて、その言葉の意味をちゃんと理解していなかったのだ。そしてはじめてのセックスに夢中になった。その結果があんなとんでもないことになるなんて、思いもせずに。
彼女と関係をもってから数日間、彼女との連絡はとれないし、学校にも姿を見せなかった。代わりに僕の所へきたのは男女二人組の刑事だった。
彼らの言い分はこうだった。
「あなたには強姦罪もしくは準強姦罪の容疑がかかっています。今は被害者の証言だけですので、容疑者というより参考人ですから、これは任意同行となります。拒否しても罪にはなりません」
僕はパニックになりながら、親に聞かないといけませんと答えたが、刑事はその必要はないと答える。
「あなたは成人ですから、ご自分の判断で御同行いただくか、拒否なさるか、今、判断してください」
僕は拒否した。そして、そのうちの日に彼女にメールを送った。どういうことだと。
『合意の上だったじゃないか。君だって多少はいやいやっていいながら、僕を受け入れてくれたじゃないか。いったいどうなってるんだよ』
そうメールを打った。理由が知りたかった。なぜ、自分の彼女に強姦で訴えられるなんてことになるんだと僕には合点がいかなかった。僕は苛立ちをおぼえ、ラインも送った。
『どうしたの?』
『何が気にくわなかったの?』
『ちゃんと言ってくれないとわからないよ』
すべて既読スルーになった。そして送ったメールにも、一切返事はなかった。
それから数日後、もう一度あの二人の刑事がやってきた。女性の刑事は逮捕状を僕に突きつけて言う。
「今度は被疑者として同行していただきます。拒否される場合は、公務執行妨害の余罪がつくことを説明しておきます。それから、黙秘権があることは御存じですね」
僕はうなずき、両側を刑事に挟まれた形で車の後部座席に座った。パトカーではなかったし、手錠もされていないから、きっと事情をきかれるだけだ。単なる痴話げんかだとわかれば、すぐに解放されると信じていた。けれど、取調室に入ってから彼らは彼らは僕の携帯の提出を求め、なかば強引に書類に名前をかかされた。
「君は強姦罪の容疑者です。これが証拠です」
そういって見せられたのは、僕が彼女に送ったメールだった。A4にプリントアウトされた文面には、ピンクの蛍光ペンでなぞられた部分があった。
「君はいやがる彼女の意志を無視して行為にいたったことを告白しています。これは立派な強姦です。これから、最大で48時間、君は拘留されます。弁護士を呼びたければ、手続きができます。ご家族にはすでに強姦罪の容疑であなたを拘留することをお伝えしています」
淡々と女は言った。それから、と彼女が付け加える。
「ご両親は、あなたはすでに成人だから、自分でどうにかするでしょうと。忙しいのでしばらくは連絡を入れないでほしいといわれました」
僕はショックで帰す言葉を失った。それから、君が強姦したんですねとことあるごとに刑事は僕のメールが記載された紙をとんとんと指で叩く。
最初、僕は違うと言った。彼女は同意したと言った。そのたびに、彼女が嫌がっていることを認識していながら行為に及んだことを、メールで告白していると指摘された。
「だから、それは……あるでしょ、女の人なら多少いやだっていうぐらいのことは」
僕は冷やかな刑事の目にぶつかり、彼女の側にたっている男の刑事に視線を向けて助けを求めた。しかし、彼の目もまた冷たかった。
そういうやり取りを繰り返し、ついに僕の口から言ってはならない言葉が零れ落ちた。
「ボクガヤリマシタ」
それは逮捕されてから、十二時間後のことだった。そして、僕は手錠をかけられ、腰ひもを結ばれて検察へと送られたのである。
こうして僕は強姦罪という名を冠した犯罪者となった。
法的なことは拾い読みして集めた情報なので間違いがあるかとおもわれます。
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