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アイル  作者: はるの そらと
4章
32/42

31 ヘラ

   ◇


 その頃、フィンシュテットでは御三家当主たちが、動き出していた。

「いきなり魔力を消失する者が続出しているとはどういうことだ!」

 アイルのときは、一種の例外だと思った当主たちは、この事態に慌てた。確かに近年魔力の弱体化の報告が上がってはいたが、消失まではなかった。ドーリスに前回のアイルのときを含め、原因を追究させているが、やはり原因は不明のまま。

 そもそも魔力の存在自体まだ解明されていないことの方が多い。

「目先の利益に目が眩んで、その危険性を顧みなかった。まあ、自業自得じゃないですか?」

 ゼアが、そんな当主たちを皮肉った。

 解決案とまではいかなくても、何とか食い止める方法はないか、さまざまな策を出し実行に移したが、どれも効果はなかった。

「ウィンディーズ家の呪いだ……」

 誰かが言いだした一言が、根も葉もない噂となり、瞬く間にフィンシュテットに広まった。この一か月の間に、ヴィンダーしかいなかったフィンシュテットには、魔力を消失したヴィンダー、つまりノーマーも入り混じった世界になった。

「これは、一体どういう事なんだ」

 ぽつりと呟かれた一言を聞き、とある男の口角が上がった。


   ◇


 時は、満ちた。木の根が腐れば、どんな大木も簡単に折れる。

 窓のない地下の部屋。蝋燭が怪しく揺らめく場所で、三人の男女が顔を見合わせていた。

「こうも簡単にいくものなんですね」

 つまらなさそうにそう言うのは、ほかならぬドーリスだった。

「まさか、ノーマーがこの方法を知っていたとは……。彼らは何もできない者たちだと思っていましたが、貴女の貴族ごっこも役に立ちますね」

「貴族ごっことは失礼ね」

 だが、そう言われた本人はあまり気に留めてない様子だった。

「まあ、あちらでの生活はこちらでは味わえないもの。――美味を覚えてしまったら、それを堪能するのが当然でしょ?」

 そういう女は、アルビーネだ。

「貴方と協定を結んでよかったと思うわ」

 おかげでもっと楽しめそう、と笑って言う先には御三家当主の一人、ベルント・フュリュスターンがいた。

「別に儂は、この世界を平和に導きたいだけさ」

 導く者として――。


 それからしばらくして、こんな噂が流れだした。

 ――人に魔力を与えた、始祖イア。その教えに沿った者のみ魔力を失わない、と。


   ◇


 マグレーティは、ここ十年ぶりに平和な日々が戻ってきた。

「制圧」も闘技も売買もない。

 ヴィンダーたちが、完全に姿を消してすでに一か月が経とうとしていた。

 アルバ様が現れたと皆が言う中、アイルはあまり手放しで喜べなかった。ルーナが連れさらわれたあのとき、一体誰がアルビーネに交渉を持ちかけたのか。もしも、アイルの魔力消失の原因が、自身に流れる血ではなく、故意に行われたものだったら。

 一体、何が起きているんだ。

 だが、それを知りたくても知る方法がない。魔法のかかった境界線を見つめながら、アイルはその先にある故郷に思いを馳せた。


   ◇


 人に魔力を与えたヴィンダーの始祖は、イアと呼ばれ、ヴィンダーたちから神のように慕われている。伝承の人物であるが、人なのかさえも定かではない。そして、始祖イアが家系を持ったという文献もない。だが、今フィンシュテットを脅かしている正体不明の事柄は、イアがヴィンダーの増え過ぎによる世界の秩序の乱れを憂い、起こしていると言う者が現れた。

「我々は、巨大になりすぎた。この力は、与えられたものだということを忘れている」

 魔法を使い、声を拡張して広場で訴えるのはアルビーネとドーリスだった。

 突然の魔力消失という、原因不明の出来事に混乱が生じているためか、耳を傾ける者も多い。マントを羽織り、赤い蔦の冠を被る二人は、どことなく世俗と離れた存在、まるで物語の始祖のようだった。

「このままでは、ヴィンダーは滅び、ヒトという種もいなくなるだろう」

 毎日のように演説を繰り返すドーリスとアルビーネの言葉に賛同する者も増えてきた頃、とある人物も加わったことにより、フィンシュテット中が注目することになった。

「導く者が現れる前に、我々は滅ぶべきではない」

 そう語る人物は、御三家当主の一人、ベルント・フュリュスターンだった。

 御三家当主が加わったことにより、認知度はもちろんアルビーネやドーリスの語る言葉を信じる者も増えた。

「どうか、御導きをっ」

 マントを羽織り、赤い蔦冠を被るドーリス、アルビーネ、ベルントの三人に祈りを捧げる者も少なくない。

 彼らは語る。

 これは、始祖イアの憂いから起きている現象。だったらイアの意志に沿えばいい。

「このベルント・フュリュスターン、始祖イアともっとも深く関係があったと言われる一御三家の者として、皆を導こう」

 ベルントの言葉に歓声が上がった。

 こうして数多くのヴィンダーたちは、ベルントを始めアルビーネ、ドーリスの三人を御三家とは違う新たな統率者として、慕い始めるようになった。

 蔦の冠からタレイアと呼ばれるようになった三人を、神のように敬いその言葉に従い、盲信する者は日に日に増えていった。

「さあ、今日も始めようか」

 フィンシュテット内だというのに、マントを羽織り現れたベルントたちは、笑みをたたえながら集まったヴィンダーに語る。我々に与えられた、魔力という不思議な力の恩恵を。

 そんな様子を、影からこっそり見つめる影があった。


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