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枯葉の唄

作者: 朱辻

   枯葉の唄

 

 わたしは陽を浴びて、生きてきました。太陽に向かって体を開き、緑の細胞を働かせて、あなたを生かすために生きてきました。輝く太陽をひたすら睨みつけ、目をそらさなかった。

 命を削り終え、赤くなり一陣の風で散り落ちるまで何の後悔もなかった。

 くるりくるりと散りゆく姿に足をとめ、美しいと言ってくれるのもうれしかった。

 これで、わたしはおしまい?

 わたしは地に落ちた。裸になってしまったあなたは口を閉ざしていた。

 どこを向いているの?

 眠っているの?

 寂しいの?

 わたしは不安でたまらなかった。なぜ今まで不安でなかったのが不思議だった。

 赤い体は張りがなくなり茶色になり薄くなった。わたしが生きていたのはあなたとつながっていたからだと知った。

 不安でなかったのは、言葉はなくとも、繋がっていたからだと知った。

 枝と幹だけになったあなたは寂しくない?

 そう語りかけてももう声も聞こえない。

 わたしはあなたの役に立てなくて、寂しい。

 木枯らしが吹きだした。

 わたしの(かいな)に抱かれて、小虫たちが休んでいる。食べ物がなくてわたしの体をかじるの。

 それが少しうれしい。

 体はボロボロで、あなたに語りかける声が出なくなってしまった。

 寒くて小虫たちが生き絶えてしまうともっと寂しくなった。

 サクリと土の中で水が凍った。

 わたしは小さな悲鳴をあげた。

 誰か、とわたしは叫んだ。土の下で。

 膨張して、屑れた。体は霜の外套(コート)をはおった。とても綺麗な白いレース、それだけで心が躍った。




 春になればあなたに会える。微笑(ほほえ)みみたいな花弁がかよわいわたしにキスをした。


 あなたと寄り添って、融けて、あなたのチカラになるの。そう思えばちっとも、こわくないわ。


 わたしはこの季節が好き。目を閉じていつでもあなたに会える。

 それでも寂しくて、わたしは涙をこぼす。

 たくさん、たくさん。

 寂しい、こわい、冷たい。

 そばにいないと、信じられなくて、疑って、でも、大丈夫。

 涙が雪になるまで待つから。

 息がダイヤモンドダストになってキラキラ光る。わたしの悪態も、嘘みたいにキラキラ光るの。

 間違えないで、心は、愛しているの。

 そばにいてほしいの。

 


 あなたは枯葉(わたし)を食べるの。

 いまでもわたしは助けられる。わたしの体は食べられて、細かく砕かれて、わたしは土に還る。わたしの気持ちはあなたの中にはいって、あなたの目を覚ます。

 わたしが、花を咲かせるの。

 これで、あなたに全開の笑顔を向けられる。

 傷つけることもなく、優しい笑顔を向けられる。

 もし、花を手折(たお)られても、いいの。

 わたしは冬のつらさも知っているから。春が残酷なのもわかる。

 やさしさが棘になって降り、身動きが取れなくなることも。

 だから、わたしたちは冬、出会った。

 空気が冷えて痛くても、声は凍ってキラキラ光る。怒鳴り声も猫なで声も凍って、光る。

 

 だから、あなたとは冬出会った。


 あなたの輪郭も、あなたの言葉も、あなたのあたたかさも、気づけたわ。あなたのまなざしも、あなたの言葉も、あなたの冷たさも気づけたわ。

 すべて凍って、春になるまで土の下で眠って、また春に花を咲かせる。きっと、春にはじめて逢ったなら、すれ違っただけだった。


 


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