プロローグ
私はつまらない人間です。
どうか私のことは放っておいてください。
見ないでください。
聞かないでください。
話しかけないでください。
あなたたちにとって得になることは何一つありません。
お願いします。
放っておいてください。
お願いします。
お願いします。
おねがいします。
オネガイシマス。
「西園寺さん?聞いてる?」
「えっ」
現実へと意識を戻すと、クラスメイトの女の子が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
しまった。今は昼休み中だった。
「ご、ごめんなさい!聞いてませんでした!何でしょうか!?」
「大丈夫?気分悪いなら保健室行く?」
「いいえ!大丈夫です!少しぼーっとしてただけですから!」
「そう?それならいいんだけど」
いつの間にか数名のクラスメイトも私を囲むように集まっていた。皆、不安そうな顔で私を見ている。
やめて、見ないで、近寄らないで。
「それでね、うちの学校は絶対どこかのクラブに入らないといけないの。西園寺さんは前の学校で何のクラブに入ってたの?」
「特に何も……」
「そうなんだー。ねえねえ、じゃあ美術部なんてどう?」
「美術部?」
「美術部なんて弱小部駄目よ。西園寺さん、うちの吹奏楽部に入らない?コンクールで入賞したこともあるんだよ」
「何言ってんのよ。西園寺さんは絶対演劇部に入るべきよ。こんなに綺麗なんだもの」
「いや、そんな」
綺麗?きれい?誰が?
皆、目が腐っているのか。
「謙遜しちゃって。長い髪!白い肌!つぶらな瞳!正にヒロインになる為に産まれてきたような容姿じゃない!是非うちの演劇部に!!」
「いや、科学部に」
「放送部よ」
「運動はするの?バレー部は?」
「私、落研なんだけど」
「オカルト」
おいおい、どれだけクラブがあるんだよ。もう勘弁してよ。
「あっ予鈴だ」
私の胃がキリキリと痛み始めたのとほぼ同時に昼休み終了の予鈴が鳴る。
ありがとう予鈴さん、助かったよ。
周りにいたクラスメイト達は、それぞれ自分の席に戻り次の授業の準備をし始めた。
「じゃあね、西園寺さん。放課後時間あったら見学に来てね」
「うん、機会があったら」
私は精一杯の引きつった笑顔を顔面に貼り付けていた。
私の心情とは裏腹に、空は澄み渡っている。
子守唄のような古典の授業を聞き流しながら、私は自分の身に何が起こったのかを出来るだけ冷静に振り返っていた。
状況が一変したのは3日前。
そう、この橘学園に転校してきてからだった。