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伝説に偽りは無いのです。

 王宮で一泊し、朝になって出発した私達は、一路古代竜達の喧嘩場所まで歩いています。

 クロちゃんに乗って一っ飛びという方が早いですが、古来より世直しの旅は歩いていくもの、と相場が決まっているので、それを遵守することにしました。

 観光がてら露店で食べ歩きをしたかった訳じゃありませんよ!

 私とクロちゃんの手には、何故か串焼きみたいな物がありますが気にしたら負けです。

 首都を抜ける頃には無くなっていたので、きっと蜃気楼でも見たのでしょうね。


 

 ――街道を半日程進んでいると、緑が濃くなってきました。

 エクレアさん曰く、目的地迄約半分を消化したそうです。

 途中、野獣や魔獣に襲われることも無かったのが少し物足りなかったです。

 イベントが何も起きないのでは、フラグの立ちようがありません。

 折角歩いているのに、このままではハイキングで終了しそうな勢いですね。

 仕方ないので観光、コホン、休憩の為、付近にあるというノイマの町で一泊することに決めました。

 時間的にも夕方ですし、夜ご飯には持ってこいですよ。


 

 そのノイマ町は、厳戒態勢なのか、中々頑丈そうな木製の門が完全に閉ざされていました。

 古代竜が来たら、一踏みで壊されそうなのに、無駄なことをしていると思うのは私だけでしょうか?

 私とクロちゃんは身分証明を持っていないので、エクレアさんが率先して門番さんに話掛けています。

 エクレアさんは王宮で待っていないで、私達と一緒に来たのです。

 損な性格だと思いますが、こんな時にとても役に立ってくれているので、今では付いてきてくれて良かったと感じています。

 近衛隊長の肩書きは色んなところで便利ですね。



「ようこそ、ノイマの町へ」



 警備の人にそう声を掛けられて、私達は脇にある小さな出入り口から町の中に通されます。

 全体的に木製の建物が目立ち、これぞエルフという感じの住処では無いでしょうか。

 しかし、あまり活気がありません。首都の道端ではそこそこ人影が見れたのですが、この町では殆ど露店や人物を見かけることが出来ないのです。

 古代竜は、クロちゃんを見ても判るようにとても可愛いので、そこまで恐れなくても良いような気もします。

 きっとエルフさんは人見知りが多いのですかね。

 そんな風に町並を見物しながら、エクレアさんの後を付いていくと、立派な構えをした宿に着きました。

 この町では一番大きな宿らしく、癒しの森亭と看板が書かれています。

 迷わずここに来れたのは、エクレアさんが門番さんに聞いておいてくれたらしいのです。

 エクレアさんの株が急上昇してますよ!

 早速、入り口のドアを開けて中に入ると、



「いらっしゃいませ」



 見目麗しい女将さんと思われる片が、カウンター越しに私達に呼び掛けてきました。

 エルフは全体的に美形が多いので、見ていて和むものがありますね。

 私達はカウンターに近付き、


 

「こんばんわ。3名ですが空いてますか?」



 エクレアさんが代表して確認しました。



「はい、今は古代竜様達の争いで、観光客が少ないですから好きな部屋が選べますよ。今日は珍しく静かですけど、森からの悲鳴も断続に聞こえてきますし、早くなんとかならないかと祈るばかりです」



 ふむふむ、思っていた以上に深刻そうですね。

 これは、古代竜達にお仕置きの必要性も出てきました。  


 

 その後、ツインと、シングルルームを一部屋ずつ取り、荷物を置いて、宿の食事スペースに集合することに決めました。

 外で買い食いも出来そうにないですし、この宿なら美味しそうなものが食べれそうなので、素直に此処にすることにします。

 ちなみに部屋割りは、私とクロちゃん、エクレアさんで別れます。

 一部屋でも良かったのですが、エクレアさんが遠慮した為にこうなりました。

 もう少し気を抜いてくれると嬉しいのですが、まだまだ時間がかかりそうですね。


 

 私達が示し合わせて食事スペースに来ても、夕暮れにも係わらずお客さんはまばらで、本当に観光客が居ないのが判ります。

 経営者は大変な思いをしているに違いないですね。 

 ですが、心配してても、お腹は膨れません。

 私達は手近な丸いテーブルに座って何を頼むか考えることにしました。

 ――それを見計らったかのように、私達のテーブルまでウェイトレスさんがメニューを取りにきます。

 勿論私の頼むメニューは、シェフのお勧め! です。

 この定番の頼み方で失敗したことがありませんからね。

 クロちゃんとエクレアさんも好きなメニューを注文したみたいですよ。



 そして、お客が少ないこともあり、あまり待つ事も無く、続々と料理が運ばれてきます。

 初めに届いたのが……新鮮な森の幸が入ったドリアでした。

 これはクロちゃんのですね。

 クロちゃんは私の目を見て、どうしたら良いか迷っているみたいです。


 

「冷めたら不味くなりますし、お先にどうぞですよ」

「うん、それじゃ頂くね」



 私は笑顔で頷き、クロちゃんが食べやすいように促しました。

 クロちゃんはそんな私に躊躇いながらも、木の匙で掬って食べ始めます。

 頬が崩れてるのを見ると、とても美味しかったみたいですね。 

 そして、次に運ばれてきたのが、くるみのパンと、クリームシチューでした。

 私も以前食べたことのある、ガロの肉が入っているように見えます。

 これは……エクレアさんのモノでした。

 エクレアさんも、私の顔を伺うようにしてきます。



「エクレアさんも、どうぞですよ!」

「いえ、ユイ様より先になんて……」

「気にしないで下さいな。最後に出てくるということは、それだけ手間を掛けた代物に決まっています。果報は寝て待て、という私の故郷の諺もあるのですよ。出てきてすぐ食べないのは料理人さんに失礼です」

「はぁ……それでは……」



 エクレアさんは恐縮していましたが、私の説得で口元にクリームシチューを運び初めました。食した瞬間に顔を綻ばせていたので、これも美味しかったのでしょうね。

 さて、そうなると残されたのは私のモノとなります。

 ここまで待たせたのです。どんな凄いのが出てくるのかワクワクしますね。

 私が待ってる間に、クロちゃん達の食事は進んでいきます。

 そして、食べ終わるかと思えた瞬間、遂に私の料理が運ばれてきました。



「お待たせしました。アルカリゴンのワイン蒸し、ガーリックソース掛けになります。どうぞお召し上がり下さい」



 ウェイトレスさんは私の前にメニューを置いた後、そう料理名を告げて去っていきました。

 ……これが、料理長お勧めなのでしょうか。

 私にはどう見てもカタツムリ親分の丸焼きに見えます。

 ヨーロッパの方ではエスカルゴが人気あると聞いたことがありますが、私的にこのカタツムリの見た目が許せないのです。



「おお、アルカリゴンですか、貴重な珍味ですよこれは」



 エクレアさんの反応を見るに、味は悪くないみたいですね。


  

「主、早く食べなよ。食いしん坊なんだから待てないでしょ?」

「そうなのです、いや、そうじゃないのですが、見た目が……」



 クロちゃんに勧められても、どうしても食指が動かないです。

 うーん。流石にチェンジしてくれと言うのは、モノを大事にする日本人だった私には、出来そうもありません。

 かといって、一食抜く勇気も……

 なんでこうなるのでしょう? これはアレですか、天使だけに神から試練を与えられてるのですかね。



「そんなに変ですかね。アイヤールでは有名な食材なんですよ?」

「ふむふむ――」 



 この国に住んでるエクレアさんが言うぐらいの名物となれば、食べずに帰る訳にもいきませんね。

 しかし、これは……迷います。

 食わず嫌いは良くないですし、郷に入れば郷に従えとも言いますからね。

 ……もうあれです、これはサザエと思うことにしましょう。

 サザエのつぼ焼きは美味しいのです。

 甲羅もありますし、調理するときに触覚ぐらいは切ってくれてるに違いないです。

 見た目は、普通の――

 何故でしょう? 自分を誤魔化してる間に、食欲が急降下してるのですが。

 そう迷っている間に、遂に2人は食べ終わったようで、私が手を付けるのを眺めています。

 そんなにプレッシャーを与えないで欲しいのですけど。

 ……もう、これで不味かったらお家に帰りますからね!

 覚悟を決めた私は、フォークとナイフを持ち、アルカリゴンとやらを一口大に切り取りました。

 後は、口の中に入れるだけとなります。

 ふぅ……軽く深呼吸をして、勢いをつけます。

 此処で少しでも躊躇したら食べることは無理そうなので、時間との勝負なのです。

「はむっ」遂に舌の上に、乗せました。

 今のところは、得に変な味ではありません。

 どちらかと言えばっ――あれ?

 噛んでみても、サザエみたいな食感がして、これはこれで美味しい様な気がします。

 微かに香るワインの匂いとガーリックの香ばしい感じが良いじゃないですか。

 生まれて初めて、シェフのお勧め! で失敗したかと暗い気持ちになりかけましたが、大成功でした。

 伝説の言葉に偽りは無いのですよ。

 お陰で、アイヤールに来た良い思い出が出来ましたね。

 喧嘩の仲裁もやる気急上昇です。

 

作者は食べたことありませんが、エスカルゴ、美味しいらしいです。



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