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おやつは美味しいのです。

 女王様は青い目に涙を浮べてエクレアさんを見ています。

 私と一緒の色なので、親近感がとても沸きました。

 エクレアさんは緑色なので、仲間外れですね。

 そのエクレアさんはストレスを解消出来たのか、とてもすっきりした表情を浮べていました。

 私の行いで、エクレアさんが幸福になれたかと思うと、感無量なモノがありますね。



「モンブラン様。早くお立ち下さい」



 エクレアさんの発言がとても自国の女王に向けてのモノとは思えません。

 きっと私という可愛いヒロインが居る事で場の雰囲気が流されないように必死なのでしょう。

 私がヒロインなので、ヒーローはクロちゃんにプレゼントです。

 かっこよく、悪い敵を葬ってくれることでしょう。



「ふんだ。いいもん、立つもん」



 女王様は、ぶつくさ文句を言ってますが、それでも普通に立ち上がるようです。

 口調も子供っぽくなっています。これが本来の話し方なのかもしれませんね。

 無理はよく無いと思います。



「さて、そろそろ、おやつの時間だと思うのですが……」



 この悪い空気を払拭する為に、私が気を利かせて言ってみました。

 別に私が食べたいからではありませんよ!



「主、食いしん坊」

「気付かずに申し訳ありません。すぐ用意させて頂きます」



 クロちゃんが皮肉るのと同時に、エクレアさんが慌てたように扉を開けて出ていきました。 

 催促では無かったのですが……

 しかし、貰える時に頂く方がお得なので、そこは、この流れに従うことにします。

 残されたのは私とクロちゃん、それに美味しそうな名前の女王様です。



「失礼致しました。ユイ様、クロロスフィア様、折角おいで下されたのに、みっともない処をお見せしました」

「いえいえ、何も気にして無いですよ。クロちゃんはギャグが出来て喜んでたぐらいですし」


 

 ペコリと頭を下げる女王様に、私は右手の平を左右に振って否定します。

 エクレアさんの耳が動く芸も見れたので、良い土産話が出来たようなものです。



「主、さっきのは忘れてよね。僕のトラウマに追加されたんだから……」



 そんなに気にする程でしょうか?

 どちらかというと私の方がショックなのですが。



「はいはい、クロちゃんは我が侭ですね。女王様と話してるからって、嫉妬しなくてもいいんですよ?」

「別にしてないよ!」

「あはは、ユイ様とクロロスフィア様はとても仲良しなのですね」

「勿論です!」

「一応……そうかな」


 

 クロちゃんは渋々という感じですけど、顔が緩んでいます。

 きっと女王様に言われて嬉しいのでしょう。素直じゃないです。

 そうこうしてる間に、エクレアさんが戻って来ました。

 手には――何も持っていません。

 これは、期待させて落とすという高等テクニックでしょうか……

 エクレアさんは、私の落胆している表情を見て、安心して下さいとばかりに微笑みました。



「ユイ様、今から我が国自慢の料理人によるおやつが運ばれてきます。それまで、どうぞモンブラン様と御歓談下さい」



 おお、エクレアさんの評価がうなぎのぼりしています。

 私が女の子なので、鯉のぼりに縁が無かったのでバランスが良いです。



「エクレアさんありがとうです。甘いモノを食べてる時は皆自然と笑顔になるものです。

お話しする時には持ってこいですよ」

「主、綺麗にまとめようとしても、無駄だから……」


 

 クロちゃんが何か呟いてますけど、私には聞こえませんね。



「さて、女王様。先程、私に見惚れてたようですが、私の美貌にくびったけなのですね!」

「主、自信過剰」


 

 おやつの心配もなくなったことですし、此処は疑問を解決しておくことにします。

 当然、今回もクロちゃんの戯言はスルーです。



「とんでもありません!」



 しかし、女王様にすぐ否定されました。

 微かにショックを受けます。



「では、理由はなんでしょうか?」


 

 私の質問の仕方が冷たくなるのは当然だと思います。


 

「あ……失礼しました。実は……ユイ様の背中に透明な翼のようなものが見えているのです。ひょっとしてユイ様とリリム神は、何か関係でもおありなのでしょうか?」



 そういうことですか、この世界で私の翼が見えるのはクロちゃん以外初めてです。

 女王様は特別な目を持っているのでしょうね。

 となると、隠しておいても意味がないかもしれません。



「女王様は中々やるようですね。実は、リリム神とは私の先輩に当たるモノなのです。いつも面倒事ばかり押し付けてくれるロクデナシなんですよ」

「へ!」



 どうやら私の話は想像の斜め上を行っていたようで、再び女王様が驚いた顔のまま石造のように固まりました。

 しかし、私も対処法を悟りました。

 エクレアさんに……

 っと、そのエクレアさんも固まっているじゃないですか。

 役立たずです。



「クロちゃん、どうしましょう?」

「そうだね。このまま放置でいいんじゃないかな」



 クロちゃんの意見は尤もかもしれません。

 特に私達は急いでいませんしね。


 

 その間に、本物のメイドさんがおやつを運んできてくれました。

 トレーには沢山の果物、そして、クッキーみたいなものが並び、紅茶と一緒に丸いテーブルの上に配置してくれます。

 メイドさんは、女王様とエクレアさんに怪訝な表情を浮かべましたが、空気を読んだのか、そのまま一礼して去っていきました。流石プロです。

 早速、立ったままの二人を放置して、私とクロちゃんはテーブルの上のモノを食べ始めます。



「クロちゃん、どれからいきましょうか?」

「そだね、この果物はこの地方独特のモノだろうから、試してみようよ」



 クロちゃんの示した果物は、1つの枝に沢山の丸い形をした赤い実が付随していました。

 色が紫や緑なら葡萄ソックリです。



「それじゃ、試してみましょう」


 

 私は、それを2房とり、クロちゃんと私の分を小皿に分けて、1つをクロちゃんに差し出します。



「主ありがと」

「いえいえ」



 早速、2人で食べ始めると予想外に甘酸っぱく、まるでプラムのような味でした。

 しかし、十分美味しいですし、これは我が家の庭で栽培してもいいですね。



「はっ!」


 

 その時、やっとエクレアさんが動きだしたようです。

 女王様より早いというのは凄いと関心します。


 

「ユイ様って! 神族なのですか!」



 驚くエクレアさんに、口の中に果物を入れたままの私は、「ふぁい」と返事しました。

 実際は天使ですが、大差ないと思います。

 それに、エクレアさんは秘密をばらすことはしないでしょう。

 神に逆らったらどうなるか良く判っている筈ですしね。



「だから、クロロスフィア様が従っているのですね!」

「いえ、違いますよ」



 そのエクレアさんの推測には断固反対しておきます。

 何故なら、



「クロちゃんは友達だからですよ」

「…………」



 クロちゃんが何時もならツッコム場面ですが、赤い顔をして俯いています。

 それを誤魔化すようにプラムもどきを食べているのがとても可愛いです。



「失礼しました。もしかして、ユイ様って凄く強かったりします?」

「私はか弱い女の子です。こんな美少女がそんな訳ありませんよ」

「主、嘘は良くない。エクレア、これだけは言っておく、主を怒らすな。

この国なら、10秒もしないで灰に出来ると思う」


  

 ……私が可憐な乙女設定をしてるのに、クロちゃんに邪魔されました。

 とても酷いです。 


 

「ええええええ!」



 エクレアさんが絶叫しています。騒音で訴えられるレベルですよ。



「エクレアさん。クロちゃんのは冗談です。世間体ってものがあって、古代黒竜より強いということにしとかないと、みっともないらしいのです」

「そ、そうですよね……」

「主がそうしたいなら、それでいい」


 

 もう一押しで、エクレアさんも信用しそうだったのに、クロちゃんの最後の一言で顔が引き攣っています。

 こうなったら諦めるしかないですね。



「エクレアさん、私のことは内緒にしてくださいね。じゃないと……」


 

 ジトーって感じで目で脅しとくことにします。

 正直、この世界のどんな敵が襲って来ようとも負ける気はしないですが、非常にメンドクサイから嫌なのです。



「判りました。この命に代えまして他言等致しません……」

「それが懸命だよ」



 うんうん、判ってくれてよかったです。クロちゃんの哀れむような目はあれですかね。

 最近、近眼になったのでしょう。

 さて、そろそろ復活してもらいましょうか、女王様に会いに来たのに、これでは意味がありませんし。



「それでは、エクレアさん、女王様にさっきのお願いします」

「はい、かしこまりました!」



 私が女王様をれっつごーと指差すと、エクレアさんもすぐ承知してくれたようで、再びスリッパで女王様の頭を「スパコーン」と殴りました。

 相変わらず良い音がします。



「いっ、いたーーーい、はっ! ユイ様、お許し下さい」


 

 女王様は再び復活しました。

 今度はしゃがみませんでしたが、がくがく震えて半泣きしています。

 エクレアさんやり過ぎですよ。



「許すもなにもありません。エクレアさんの攻撃が痛かったのですね。可哀想です」

「あ、はい、それもそうなんですが、神族の方に無礼を働いたとあっては、この国が滅ぼされても文句は言えません……それと、私に様なんて恐れ多い。どうぞモンブランとお呼び捨て下さいませ」



 天使、まるで悪魔みたいですね。

 きっとリリム先輩の行いが悪いからこういう誤解を招くのでしょう。

 本当に、気をつけないといけませんね。



「判りました。モンブランですから、モンちゃんと呼びますね。私はユイですから。ユイちゃんと気軽に呼んで下さい」

「そ、そんな……滅相もありません」

「私はエクレアさんとモンちゃんを友達と思ってますので別にかまいませんよ。さぁどうぞ!」



 私は期待するように、ジッと見つめます。 



「…………」



 少しの間沈黙があり、その視線に耐えきれなくなったのか、



「ユ、ユイちゃん」



 モンちゃんがやっと呼んでくれました。


 

「はい」



 思わず笑顔がこぼれ出てしまいました。

 この世界に来て、初の名前で呼んでくれるお友達です。

 ちょっとばかり嬉しいですね。

 モンちゃんはそれでやっと肩から力を抜きました。


 

 その後は、自然? と仲良くなり、会合はつつがなく進みました。

 内容は最初に聞いてた通り、赤、緑の古代竜の喧嘩を何とかする方法についてでした。

 私の実力を知った今となっては、もう心配事は無いようなものでしょう。

 唯一気がかりは、エクレアさんがユイちゃんと呼んでくれなかったことですね。

 理由はクロちゃんが主なので、「私がそんな気軽に呼ぶ訳にはいきません」とのことだそうです。

 全く硬いですね。

 それはエクレアさんぽいですが、ちょっと残念です。

 でも、この王宮には友達作りにきたので、今回の訪問は成功したようなものです。

 エルフさんの寿命はとても長いので、ずっと付き合いが出来てとても頼もしい限りです。




うん、モンちゃん。不遇ですね。



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