笑いで寝た子を起こすのです。
「……10秒……20秒……女王九段1回目の考慮時間です。残り1分です」
「……10秒……20秒……女王九段2回目の考慮時間です。残りありません」
余りに女王様が動かないので、将棋の秒読みをして遊んでみました。
と言っても未だに反応は無いのですが……
仕方ありませんね。こういう時の為に居るのです。
「エクレアさん。女王様が固まっています。エクレアさんの素敵ギャグで女王様を活性化させてくださいな」
「え、ええええ、ユイ様それは無茶です。私がそんなこと出来る訳ありませんよ!」
「いいえ、エクレアさんは出来る娘です。期待していますよ!」
慌てるエクレアさんに、親指を突き出して、イイ顔を浮べてみました。
「エクレア、主に何を言っても無駄だ。さっさとやれ」
「そんな、クロロスフィア様まで……」
エクレアさんが項垂れています。ですが、これも前フリに違いありません。
「さぁ!」「さぁ!」
「さぁ、さぁ!」「さぁ、さぁ!」
クロちゃんと華麗なハーモニーで催促します。
「はぅ、判りました。やります、やりますから! 急かさないでください」
エクレアさんが少し涙目になってるのは気のせいでしょうか?
横のクロちゃんを見ると、少しホッとした顔をしています。
どうしたのでしょう?
そう考えていると、エクレアさんがコホンと一つ咳払いをしたので、そちらに注目します。
「それでは、い、いきますよ。私の耳を良く見ていてください!」
言われたように私とクロちゃんは注視しました。
それを確認すると、エクレアんさんが一つ頷きます。
「では!」
エクレアさんはそう言って、鼻を指でつまみました。
「……………」
何も起きません、と思った瞬間、エクレアさんの長い耳がピクピク動いています。
「「おお!」」
本当に動くとは、エルフ耳凄いですね。
ですが、これはかくし芸なのでは?
「………………」
案の定、女王様は少しも反応がありません。
エクレアさんは駄目な娘みたいですね。
「すごかったですよ。エクレアさん」
「エクレア、頑張った」
私達の慰める声を聞いた、エクレアさんは、
「だから、したくなかったんですよ!」
と言って、そのまま顔を抑えて絨毯に崩れ落ちてしまいました。
この程度では、お笑い芸人になれないですよね。
しかし、困りました。期待のホープがこの様では先に進めません。
ならば、うちの4番打者を投入するしかないですね。
「クロちゃん! 出番ですよ。さぁ素敵ギャグをかましてやるのです!」
「えええ! 僕もやるの? エクレアが人柱になって助かったと思ってたのに」
酷いこと考えてたのですね。
「人柱とは何ですか、あの耳の芸は凄いですよ。大きくなるかと期待してたのに、ただ動いただけなんですから!」
「確かに微妙だったよね……」
あれ? エクレアさんが更に小さくなり三角座りなんてしています。微かに嗚咽が聞こえるのは次のステップの為に何か考えているのでしょうか?
「ほら、微妙と判るのです。クロちゃんならやれますよ! さくっとやっちゃってください」
「もぉ、僕はそういうの苦手なんだよ。主が自分でやればいいじゃないか!」
「あらあら、クロちゃんは私のお願いを聞いてくれないのですか?」
オネダリモードで少し首を傾げてみました。
「……主それずるいよ! ああ、もう判った、やるよ! やればいいんでしょ。エクレアのせいだ!」
クロちゃんに言われたエクレアさんはビクっと肩を震わせました。
エクレアさんは私は悪くないですみたいなことをボソボソ呟いています。
「さて、クロちゃんレッツらゴーですよ!」
「はぁ……」
クロちゃんは溜息をつくと顎に手を当てて思案し始めました。
…………暫くすると、何か閃いたらしく顔を上げます。
「じゃ行くよ!」
「はい、期待してますよ!」
クロちゃんは覚悟を決めた表情を浮かべ、颯爽と仁王立ちします。
格好いいですね!
「るー、るるるーーるるるーるんるん♪ るー、るるるーーるるるーるんるん♪」
クロちゃんはどこかで聞いた事のある曲を歌いながら踊りはじめました。
そして、徐に右手で天井を指し、左手は正面に向けます。
「私は、愛と勇気の魔法少女、マジカルユイ! アナタは私にくびったけ!」
最後に、キメっとばかりに、左手をピースサインのようにして、顔の前を横切らせました。
「…………」
なっ! やられました。
まさか、家で練習していた魔法少女の変身ポーズを見られていたとは……
クロちゃん酷いです。天使の秘密を暴くなんて。
しかし、クロちゃんにもダメージがあったらしく、エクレアさん同様に絨毯の上に三角座りを始めてしまいました。
「主がやってるから、大丈夫と思ったのに、すごい恥だったよ……」
とか落ち込んだようにぶつぶつ呟いています。
私のこのやるせない気持ちはどこにぶつけたらいいのでしょうか?
良く考えてみたら、諸悪の原因はこの固まってる女王様なのですよね。
そう思うと、腹が立ってきました。
「エクレアさん。すたんどあっぷぷりーずです!」
「うう、なんですか、ユイ様……」
エクレアさんはまだ暗いままですが、私の言葉に従い立ち上がってくれます。
「エクレアさん。女王様なんとかしてください!」
「え、又私にギャグをしろと……」
再び涙目になっています。私の方が涙を流したいぐらいなのですが……
「いいえ、私が許しますので、何をしてもいいから立ち直らせてください」
「ほ、本当ですか!」
あれれ? エクレアさんが妙に乗り気になりました。
少し驚きますね。
「勿論です。諸悪の原因は女王様ですからね」
「ですよね! 判りました。私に任せて下さい!」
エクレアさんがふふふと黒いモノを噴出しているように見えます。
ストレスですかね。大変ですねー中間管理職は。
そう考えているとエクレアさんが行動を開始します。
「お前が悪いんじゃ!」
叫び声と同時に、どこからか取り出したスリッパで女王様の頭をスパコーンと殴りました。
「あ、え? 痛ーーい! エクレア何するのよ!」
女王様が頭を抑えてしゃがみ込みます。
やっと復活したみたいです。
女王様、このシーン一言しかないですね
名前も決まってるのに酷い扱いです。