やっとご飯なのです。
あれから2日後のお昼、サモラの町に到着しました。
規模はそれ程大きくなく、町というよりも日本の山村みたいな雰囲気です。
町の周りには壁の代わりに、形ばかりの柵が張られています。
危険な場所なら、より厚く、より高い壁になるのが常識です。この辺りは平和なのでしょう。暮らすにはもってこいかもしれません。
一応衛兵らしい人が一人居て、暇そうに入り口を守っているのが見えました。
久々に人が暮らす場所。美味しいモノがあることに期待しましょう♪
入り口を過ぎたところで、ブラフさん達と別れます。
約束は町迄でしたし、この後は問題無いでしょう。
どうせ、私は無料働きです、気張っても仕方ありません。
そうそう、お馬さんは悪役さん達に返してあげました。預金を獲得するには、積極的な営業が必要だと思ったからです。
さて、懐は潤っています。となるとやることは一つでしょう! レッツご飯です。
道中に貰った食事は――非常食の硬いお肉と黒いパン。
森の果実の方が何倍も美味しかったです……もう待てません! 早く人の手が加わったモノが食べたいです!
町の賑やかな方に向かって歩いていくと、いくつかの商店、それに冒険者ギルドという大きな看板の建物を見ることが出来ました。天使凄いですね……字まで読めるのですから。
ちなみに、関係ないのでスルーすることにしました。冒険者になって凶悪なモンスターと戦う? まるで興味がありません。
お金はありますし、仕事なんてしませんよ? 目指せ優雅なセレブです。
そして、10分程物見遊山で歩いていると、私の目指す建物がありました。
比較的大きな2階建ての建物から、香ばしい匂いが外まで漂ってきます。
食事と休憩オウランのお店と看板がありました。
「さぁ行きましょう!」
気合を込めて中に入ります。お昼時の為店内の木製のテーブルには沢山の料理、そして人で混雑していました。それらの料理に心が躍ります。
「いらっしゃーい」
調理場の中にいた、恰幅の良いオヤジさんが挨拶してくれました。
結構渋い声で見た目と違いカッコイイです。
「おっ、見かけない顔だな。とりあえず好きなところに座ってくれ」
そう言われて店内を見回すと、丁度カウンター席みたいな場所が空いていました。
、そこに腰掛けることにします。涎をたらしそうなのは内緒です。
「で、何にする?」
オヤジさんの質問に困ります。私には食べ物の知識が無いのですから……
そこで伝説のワードを試してみることにします。
「いつもので♪」
「あいよ、いつものな!」
オヤジさんが小気味良い返事を返してくれました。思惑通りじゃないですか!
さすが伝説のワードです。
そう思っていると、オヤジさんはそのまま困った顔で私を見ます。
私はイイ笑顔を浮かべて頷きました。
「……………」
「ええとな……お嬢ちゃん。いつものって何?」
むむむ、通用してなかったのは意外です――ならば奥の手、
「いつもの大盛りで!」
お腹も減っています。大盛りでも大丈夫でしょう。
「あいよ。大盛りで――じゃなくてな。今日はじめて来たのに、いつものもないだろうと言ってるんだ!」
……これも駄目ですか……手強いですね。
ならば、最後の切り札です、
「オヤジさんのおススメでお願いします」
「……はじめからそう言えばいいだろうに」
オヤジさんが疲れた顔してます。
きっと忙しかったのでしょうね。休憩も必要ですよね
「コホン」オヤジさんは咳払いをして仕切り直すようにします。
決して私のせいじゃないですからね!
「今日は、ガロ肉のステーキとキノコのシチューだな。新鮮なガロ肉が手に入ったばかりだから美味いぞー。代金は二つで1C500Bだ」
ふむふむ、料理名は良く判りませんが、『いつもの』に次ぐ名言、『おススメ』に間違いはありません。
「それでお願いします!」
日本円にすると1500円相当、リッチなランチになりました。韻も踏んでて素敵ですね。
カウンターにお金を出し、親父さんの調理を眺めます。
その結果、ガロの肉というのは、赤みの肉というのが判ります。
ここで元の生物を想像するのはNGです。天使にも知らない方が良いこともあるのです。
食べれなくなったら一生の不覚になりまから。過去のトラウマが少し甦りそうになりました。
10分ぐらいして、私の前にデンッとガロ肉が載ったボリューム一杯の木のお皿と、木のお椀に入った白いシチューが出されます。一緒に木の匙にナイフとフォークも受け取りました。
はぅ……顔が緩んでしまいます。
こちらの世界に来て苦節10数日、ついにですよ!
とりあえず、メインは後回しにして湯気を立てているシチューから……
匙で一掬いし、口に含みます。
その瞬間、濃厚なミルク? のような味と匂いが口と鼻に広がります。
欲を言えば少しスパイスが弱いですが充分美味じゃないでしょうか?
中に入っていた良く判らないキノコも歯ごたえが良く、シチューに絡まると味を深めていました。
さて、ついにきましたコンチクショーです。視線を横のガロ肉に移します。
ふふふ。ふふふふ、ふふふふふふふ。危うく黒いオーラを出しそうになりました。
周りの人が数メートル程逃げたのはどうしてでしょう? まぁ食後の運動がしたかったのでしょうね。
ナイフでガロ肉を一口大に切り、フォークに刺します。
肉汁がそれだけで零れ出てたまりません。
いざ、実食! という何処かの映像みたいな気分です。
は~むぅ。素早く口に含みました。
すぐに広がるソースの味、噛めば噛むほど肉汁が染み出て幸せな気分になります。
もうこの世界に用はありません!
とか思っていませんよ?
こんな美味しい食べ物があるのに勿体無いです。
もし不味かったら? エヘッどうなったのでしょうね♪
そのまま、はむ、はむ、美味しいよぉーと食べていると、親父さんに声を掛けられました。
「お嬢ちゃん、本当に美味そうに食べるなぁ。見てるこっちまで伝わってくるわ」
口の中のガロ肉を飲み込んでからオヤジさんを見ます。
濡れている手を布巾で拭いている最中でした。
「本当に美味しいんです。もうこれは商売で出せる程ですよ!」
「ええと……ここは食事処だし……それが仕事なんだがな……まぁ、美味しいと言ってくれてるんだから、それでいいか」
何故でしょう? 最上級の誉め言葉のつもりが、失敗した感一杯です。
「それで、お嬢ちゃんどっからきたんだ? この辺りでは見ない顔だよな」
「ええと、ブレラの森からですよ」
嘘は言ってませんよね?
「え! あの大樹海? 迷ったら最後、生きて戻った者は居ないといわれるあの森か?」
すごい驚いてます。別にそれほど危険はなかったですけどね。
魔物とかも睨んだ瞬間去っていきますし、まるでジャングル大○の気分だったのですが。
白いライ○ン可愛いですよね
「ええ、そこでエルフに育てられたのです」
「へぇー。それは珍しいなぁ。なんでまたわざわざ出てきたんだ?」
当然の質問かもしれません。かといって、ご飯が食べたいからというのも品が無い気もします。
ならば!
「社会勉強をしておいでと、育ての親のエルフに言われたのです」
「なるほどなぁ。そかそか、頑張るんだぞ」
すごい、真面目な顔で頷かれました。少し心が痛みます。
ご飯を食べ終わると、当初の目的がなくなりました。
とりあえず、この2階で宿も経営しているそうなので、此処に2泊程泊めてもらうことにします。
いままでがサバイバルな生活だったので、屋根のある部屋はとても嬉しいですね。
さて、これからどうしますかねぇ?
今回はこの天使、サドっぽくないですね。
とか作者は思ってたりします。