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魔王使い  作者: 六三
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第8話

 翌朝俺とまおうは、朝飯を食べる終わるとチェルク城へ向かっていた。


「森には行かないの?」

 チェルク城へと向かうと言った時、まおうはそう俺に聞いてきた。

 昨日、「明日も森に来よう」と言った事を、言っているのだろう。


「もちろん森には行くが、その前にチェルク城で聞きたい事があるんだ」


「そうなんだ。それってどれくらいで終わるの?」


 まおうははやく森へ行って、うさぎと遊びたいらしい。


「うさぎと遊びたいなら、一人で先に森に行くか? でも、もし俺以外の冒険者に会ったらすぐに逃げるんだぞ。もしかしたらお前を倒そうとしてくるかもしれないし、お前を倒せるほど強いかも知れないんだからな。おまえの足なら逃げるのは簡単だろう」


「ええ!? 他の冒険者って僕を倒そうとするの? 僕は怖くないよって言ってもダメかな?」


「ああ。難しいだろうな。いくら怖くないと言っても、嘘をついていると思われるかも知れないし」


「むーん。僕は嘘をついたりしないのにー。でも、じゃあ、僕が住んでいたお城に来たのがサイエスでよかったね。他の冒険者なら僕倒されてたのかな?」


「ま……。俺より強くて、まおうを倒せるくらいだったらそうかもな」


「そっかー。よかった!」


 まおうは嬉しそうにしているが、実際、俺もまおうを最初の一撃で倒せていたら倒してただろうな……。

 俺の一撃がまおうの足を傷つける事しか出来なくて、それでまおうが泣き叫んだから、俺もまおうの話を聞く気になったんだし。

 まあ、まおうを倒せなくて良かったよ。


 結局まおうは、他の冒険者と一人出会うのは怖いからと、チェルク城まで着いて来る事になった。


「すみませーん。御依頼を受けたサイエスです!」


 城門の前でそう叫ぶと、門番が門を開けてくれたが、俺とまおうが門をくぐると、門番はまおうの姿を見て、腰をぬかしていた。

 まぁ、そうだろう。


 城の中にある屋敷の前まで来ると、例の初老の執事が俺達を出迎えた。


「これはこれ……は、サイエス様、ようこそお越し下さいました」


 執事は、まおうの姿を見ると一瞬言葉に詰まったが、それでも何とか平静を保って言葉を続けた。

 なかなか立派な執事だ。


「今日は、こちらにお勤めの兵士の方や使用人に少しお聞きしたい事があって来たんです」


「兵士や使用人でございますか? それはまたどの様な事で御座いましょう」


「実は……。御依頼を行う為ゴブリンが現れるという森に向かったのですが、一向にゴブリンの姿が見えず……。もちろん、ゴブリンの探し方など私も心得ているんですが、それでも見つからないのです」


 我ながら言い訳がましいが、ゴブリンを見つけられないなど冒険者として恥だ。

 無能な冒険者と思われてはたまったものじゃない。

 だが、執事は言い訳がましく口を開いた俺に、にこやかに笑いかけた。


「いえいえ。とんでも御座いません。とにかく主人にお会い下さい」


 そう言って、執事は俺を城主(正確には息子に城を譲っているので元城主だが)のギャストン氏の元へと案内した。

 さすがに城主の館だけあって、扉もまおうがなんなくくぐれるくらいには広いし、天井も高いので、まおうは腰をかがめる事無く廊下を歩いている。


 城の兵士や使用人達も、まおうを見てギョッ! とした表情はするが、取りあえずは逃げ出すこともなかった。

 まぁ俺がまおうを連れているのは前もって分かっている訳だから、今更まおうを見て逃げ出す事もないか。


「ギャストン様。サイエス様とそのお連れの魔王様を御案内致しました」


 執事は、ギャストン氏の部屋の前まで来ると、室内にいるギャストン氏にそう声をかけ扉を開けてくれた。

 俺とまおうが部屋に入ると、ギャストン氏は呆然とまおうを見上げていたが、しばらくすると我に返って口を開いた。


「おお。これは失礼致しました。大変ご立派な魔王に、思わず見とれてしまいました」


 立派な魔王って言うのもへんな言葉だなと思ったが、まぁここはスルーしておこう。

 一応褒めてくれているみたいだし。


「実は今日は、少しこの城で働いている方達にお聞きしたい事があってきました」


 俺の言葉にギャストン氏は、執事に飲み物を持ってくるように合図をし、さらに俺にソファに座るように手で進めながら口を開いた。

「ほう。それはまたどの様な事ですかな?」


 俺は薦められるままソファに座ったが、まおうはさすがに座れないので、申し訳ないが立ったままだ。

 まぁそこらへんはまおうも分かってくれている様で大人しくしてくれている。


「申し上げ難いのですが……。昨日ゴブリンが発生するという森に行ったのですが、肝心のゴブリンの姿をまったく見つけられなくて……。もちろん通常ゴブリンを見つけられないなどという事はありません。ですが実際見つけられないのです」


 そして俺が「それでなのですが」と、ゴブリンの目撃者からの話を聞きたいと言葉を続けようとすると、ギャストン氏が俺の言葉を遮った。


「いえいえ。それはサイエス様の所為ではありますまい。それどころかもしかするとゴブリンどもは逃げ出したのではないですか?」


「逃げ出す?」


 ゴブリンは知能があまり高くない為、相手の技量を戦わずに見抜くなんて事は出来ない。


 戦った上で敵わないと判断すればゴブリンも逃げ出すが、前もって相手と自分の強さを洞察して、戦う前に敵わなさそうだから逃げ出すなんて聞いた事が無い。

 そのゴブリンが、姿を見せず悪臭の痕跡すら残さず逃げさっただって?


「いえ。そう言って頂けるのは嬉しいのですが、知能の低いゴブリンが危機を感じて逃げるという話は、あまり聞いた事がありません」


 だがギャストン氏は、笑いながら首を振った。


 ちょうど執事が持ってきた、ぶどう酒の水割りに一口つけてから口を開く。


「もちろん、通常はそうでしょう。しかしあなたにはその恐ろしげ……。いえいえ、立派な魔王がいらっしゃる。魔王の姿を遠目にでも見れば、いくら低脳のゴブリンと言えども逃げ出しても不思議はありますまい」


 いや。まおうは森の手前で待たせて居たんだが……。

 そう考え込んでいると、まおうも俺と同じ事を考えたのか「あれ? 僕は……」と口を開いた。


 俺は慌ててその言葉を遮った。

「あ! すみません。まおうにも何か飲み物を持ってきてあげてもらえますか?」


「これは失礼いたしました。同じものでよろしいでしょうか?」


「いえ。お手数ですが、なにかアルコール以外のものでお願いします」


 まおうに酒を飲ませたことは無いが、万一酔っ払って暴れられれでもしたら大変だ。

 極薄いぶどう酒の水割りでもここは避けるべきだろう。


 まおうは俺と執事とのやり取りに、首を傾げていたが、俺がまおうを一瞥し首を振ると察したらしく口を閉じた。


 ギャストン氏にはまおうを連れて行くと言っていたんだから、本当の事を言う訳にはいかないだろう。


 だが、そうするとなぜゴブリンの姿が見えない?

 まぁそれでも本当の事を言えない以上、ここは話をあわせるしかないか。


「そう言っていただけると助かります。しかし、一応念の為、しばらく調査したいのです。それでゴブリンを目撃したと言う人の話を聞きたいのですが……」


 だがギャストン氏は俺の言葉に再度首を振る。

「その必要はありますまい。サイエス様も仰ったではありませんか。ゴブリンを見つけられない事などないと。ならばゴブリンは居ないのです。ゴブリンは逃げ去ったと考えて良いでしょう」


 ギャストン氏は有無を言わせぬ様に言い切った。そしてさらに言葉を続ける。

「もちろん、ゴブリンが居なくなったのはサイエス様のおかげです。当然約束通りの報酬は支払わせて頂きます」


 報酬が貰えるのは良いのだが、俺は何か釈然としないものを感じた。

 実際俺は何もやってないんだがな……。


 だがギャストン氏は構わず話を先に進める。

 ギャストン氏が執事に合図を送ると執事が一旦下がり、そしてお盆に金貨が入っていると思われる皮袋と、一枚の紙片を載せて戻ってきた。

 そして俺の前にまず皮袋を置いた。


「お確かめ下さい。基本報酬の税引き後の金額である105Gと追加報酬分の100G。合わせて205Gで御座います」


 まだ釈然としないものを感じたままだったが、とにかく金貨の枚数を数える事にした。

 そして間違いなく205Gあるのを確認すると、執事が次に差し出した「受け取り」にサインをする。

 これで、俺は205G間違いなく受け取ったと「おれ自身が証明」した事になる。


 そして依頼主は、俺がサインした受け取りと、所得税とギルドへの依頼斡旋手数料のお金とを持ってギルドに行き依頼は完了となる。


 たとえその後、もし205G無かったと俺がいくら叫ぼうが「お前は受け取りにサインしたじゃないか」と言われ、たとえ裁判をしても絶対に勝てない。


 依頼人の前で金を数えるのは下品だとも思われるが、ここら辺をきっちりしておかないと、いい加減な奴と見くびられると「冒険者のしおり」にも書かれている。


 金を数えず受け取るのは、よほど名が知られ「俺に対して報酬を誤魔化すなんて事をすればどうなるか分かってるんだろうな?」と言えるだけの名声と実力を兼ね備えてからだ。


 それだけの力がない奴が金を数えずにサインするのは、身の程知らずか、それともただの馬鹿か。どちらにしろ良いもんじゃない。


 その後、ギャストン氏は「今回はまことにすばやい達成で、大変嬉しく思います」と礼を言って、さらに俺の手を強く握り、本当に嬉しそうだった。

 ここまで喜んでくれるのは嬉しいのだが……。


 そして執事が持ってきてくれたまおうの飲み物を、まおうが飲み終わると俺達は城を後にした。


 そしてまおうとの約束通り森へ行き、まおうがうさぎと遊んでいる間、俺は木陰で寝そべりながらずっと考えていた。


 やはり、どう考えてもおかしい。

 確かにゴブリンの姿は見えないし、俺も報酬を貰えた。

 何の問題も無いように思えるが、しかし実は大有りだ。


 そのゴブリンが居なくなった、いや、逃げ出した理由と思われるゴブリンがまおうの姿を見た、と言う事は、実際には起こってはいないのだから。


まおうがこっちの世界で動きが速くなっているのは、元の世界よりこちらの世界の方が重力が軽いからという設定なのですが、よくよく考えるとその場合、まおうの世界よりこっちの世界の方が「空気が薄い」という事になるんですかね?


重力が小さい。気体にも当然重さはあるので、重力が軽いと気圧が下がる。1立方メートル辺りの酸素量が減る。

すると、まおうは長時間激しい動きをすると酸欠になる?

今後活かされるかどうか分かりませんが、一応裏設定ですね。


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