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魔王使い  作者: 六三
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第4話

「思ったより、閑散としてるな……」


 それがベイテ村に入った俺の感想だった。

「魔物発生分布地図」で「魔物発生地域」外に指定されている村ならもう少し旅人も多くよさそうなもんだ。


「旅人はあまり来ないんですか?」


 俺とまおうを空き家に案内してくれている村長に聞いてみた。

 村に入れて貰えたとは言え、さすがに好きに出歩いても良い、とはならなかった。

 まおうが俺の言う事を聞くというなら、できるだけ、まおうは出歩かさせない様に、と言われてしまった。

 まぁ仕方が無いか。

 そして泊まるところも、どこの宿も俺達を泊まらせたがらず、村の空き家に泊まらせてもらう事になったのだ。


「以前はここも多くの旅人が立ち寄る賑やかな村じゃったんじゃが……、この村のすぐ東にあるデスティニ王国が、旅人を誘致する為に子供向けの遊戯施設から、大人の為の歓楽街までそろえた一大歓楽村を建設したんじゃ……」


 村長の表情は深刻そうだ。

 まぁ村にとって旅人の数が減るのは大問題だろう。

 宿や飯屋なんてものは旅人が来てくれない事には成り立たない。


 デスティニ王国と言えば、ネズミを紋章とする王国だ。

 はるか昔、神の使者としてネズミが王国に使わされ、王国に莫大な利益をもたらした事が由来らしい。


 ちなみにこのベイテ村があるユニバース帝国は、世界は我が物とでも主張しているのか、世界を表す球体を紋章としている。


 東のデスティニ王国と西のユニバース帝国はあまり仲が良くないとは聞いていたが、まさかこんな事でまで争っていたとは。


「でも、そんな観光目当ての旅人ばかりじゃないんでしょ? 商人とかはどうなんです? 商人はそんな遊戯施設なんて目もくれないんじゃ。それともさすがに仕事でも夜は遊びたいって言う事ですか?」


 だが村長は、ため息を付きさらに深刻そうに口を開いた。


「いや。デスティニ王国は遊戯施設を作るだけでは飽き足らず、関税率を15%から10%に引き下げおったんじゃよ……」


「関税率を!」


「うむ……」


 わずか5%と侮ってはならない。

 100Gで商品を買いその金額に対して関税を15%払えば115G、それを150Gで売ると利益は35G。

 だが、その商品を運んだり実際に売る人件費が1G掛かるとすると利益は34G。


 だが、関税率が5%下がれば、利益は39G。


 34Gと39Gでは、実に、約15%の利益率アップだ。

 商人にとってはこの差はあまりにも大きい。


 もちろんこれは単純計算であり、実際利益率は商品によって違うし、数カ国を旅する商人もいる。

 だが、利益率が下がれば下がるほど、関税率が実際の数値以上の意味を持って来ることに変わりない。


 デスティニ王国! まさかそこまでするとは!


「それは大変ですね……」


 実際俺に直接的には関係の無い話だが、さすがにこれには同情した。

 一国をあげて旅人誘致に乗り出されては、こんな一村落が太刀打ちできる訳が無い。


 だが俺の同情の言葉に、村長は落ち込むどころか、怒ったような表情で口を開いた。


「じゃが! それももうここまでじゃ! 我が村も帝国の本格的な支援を受けて、再開発する事が決定したのじゃ!」


「おお!」


 やはりデスティニ王国と仲の悪いユニバース帝国は、指を咥えて黙って見ては居なかったか。


「それでどうするんです?」


「こちらも遊戯施設や歓楽街を建設し対抗するんじゃ!」


 おいおい。二番煎じかよ。


「それに関税率も9%にするんじゃ!」


 なんか微妙だな……。

 商人にとっては1%の違いでも大きな違いかも知れないが……。

 なんか対策が中途半端な気もするが、大丈夫なのか?


 まぁ、村長がそれで良いと思って意気込んでるんだし、俺がとやかく言う話じゃないか。

 とっとと俺達が泊まる空き家に案内して貰うことにした。


 ちなみに、まおうは俺と村長の話はまったく理解できていないらしく、退屈そうに辺りをキョロキョロト見渡していた。

 だが、まおうの事をもの珍しく見ていた村民は、キョロキョロとしているまおうと目があると、慌てて目を逸らしたり、家の中で、窓からまおうを見ていた者は慌てて窓を閉めた。


 仕方が無い反応なのだが、村民達の反応にまおうはむくれて、ことさら足を踏締め、ドシンドシンと歩くものだから、「うわーーん!」と子供が泣き出してしまった。


「え? あ。ちがうよ。ちがうよ」


 まおうは子供を泣かせてしまったと、慌ててその子供をあやそうと近寄る。

 だが当然、火に油を注ぐ事にしかならない。


 子供は「うぎゃーー!」と叫び逃げ去ってしまった。


 まおう……。

 俺はうな垂れるまおうの背を見て、空き家に着いたら、また慰めてやろうと心に誓った。


 しばらく歩くと、ある一軒家を村長が指差した。


「ここじゃよ」


 まぁ……ボロ家だな。

 だが、まおうを住ませようと言うのだから、当たり前と言えば、当たり前か。

 というより、ボロの方が都合が良いかな?


「この家って取り壊し予定なんですか?」


「うむ……。まぁそうじゃの」


 村長は歯切れ悪るそうに答えた。

 廃屋に押し込もうとしている事を指摘されたと思って、気まずいのだろう。


「いえいえ。気にしないで下さい。じゃあ、ちょっとくらい壊しても大丈夫ですよね?」


「ああ、それは構わんがどうしようと言うんじゃ?」


「入り口を広げないと、まおうが入り難そうなので」


 俺はそう言いながら、まおうに振り返りかえった。

 かなり身を縮こませれば何とか入れるかも知れないが、廃屋同然ならいっそのこと入り口を広げても構わないだろう。

 扉を壊したところで、俺達を泥棒しようなんて奴が居るとも思えないし。


 俺の言葉に、村長はまおうを一瞬見た後、慌てて目を逸らした。


「あ、うむ。そういう事なら、好きにして良いが……」


 村長は、まおうの事に考えが及ばなかった事に、気まずそうにしている。

 もしかしたら、まおうは家には居れずに、外に待たせておくとでも思ったのかもしれない。


「じゃあ、好きにさせてもらいますね。案内ありがとうございました」


 俺は村長に頭を下げ、まおうを促してその廃屋の入り口へと向かった。


「お前が入りやすいくらいに、広げてくれ」


「うん」


 まおうは、バキッバキ! と入り口を押し広げ自分が通れるくらいまで押し広げた。


 そして俺達は中に入ったが、やはりまおうには天井が低いので、まおうは屈みながら進まなくてはならない。


 しかも、床は何とか穴が開かずにすんでいるが、ミシミシと音を立てて危なっかしい。

 この家は一応2階建ての様だが、2階を使うのは諦めたほうが良いだろう。少なくともまおうは。

 まぁ、俺とまおうが少しの間使うだけなら、1階部分だけで十分だし。


 俺とまおうは1階部分の中で一番広い部屋を見つけると、そこに荷物を降ろした。


「じゃあ、まおうは適当に片付けておいてくれ、俺は何か食べる物を買ってくる」


 まさかまおうを連れて、飯屋に行くわけにもいかないしたな。


「うん。わかった! でも、片付けるって何すれば良いの?」


 まおうは身を屈めながら首を傾げた。


「いらなさそうなものを使わない部屋に運んで、軽く埃を掃いといてくれ」


「うん。わかった」


「じゃあ、行って来るな」


 俺はそう言い残して家を出た。

 そして飯屋の看板を見つけると中に入り、

「肉料理をたっぷり。お持ち帰りで」

 と注文をした。


 家へと向かう途中に子供に泣かれてしまったまおうを慰める為にまおうが好きな肉料理を大量に頼んだのだ。

 と言っても、肉しか食べられないのだが。


 しかし、食費がかさむな……。

 森やなんかで自分で動物を捕らえられれば良いんだが、実際それを職業としている猟師じゃないと難しい。


 まおうのスピードがあれば動物を捕まえるのは簡単だが、まおうには食べる為に動物を捕まえるという事は出来ないし。

 まあ、それは何とか考えるか。


 俺が注文した料理が出来るのを待っている間店を見渡すと、店内は閑散とし、あまり客は入っていない。

 日はかなり傾いてきているというのに、2,3人しか客が居ないのは問題だろう。


 やはり、デスティニ王国の一大歓楽村の所為か?

 まぁ今はその話はいいか。もっと別な話が聞きたいんだ。

 俺は店員に聞いてみる事にした。


「この村ってギルドはあるの?」


 あまり小さい村ならばギルドが無い可能性もある。

 この村は以前は賑わっていたと言う事なので、多分心配ないだろうが一応聞いてみた。

 それに、以前はあったが村が閑散としてきたので閉鎖した。という事も有り得なくも無い。


「ギルド? ああ、あるよ」


 良かった。ギルドが無いとなると仕事が出来ないからな。

 もっとも俺はギルドはあるか? と聞いているが、実際村々にギルドがあるんじゃなくて、ギルドの出張所があるんだが。

 ギルドの本部は大抵、各国の首都や大きな町にある。

 そして村々に出張所を構えるのだ。

 村によってはギルド(の出張所)が、2つ、3つ有る所もある。


 店員の答えに満足したが、今日はもう時間が遅い。

 ギルドには明日行くことにして、俺は出来上がってきた料理を手にまおうが待つ家へと急いだ。


「まおう、待ったか!?」


 俺が家に戻り、まおうが片付けているはずの部屋に入ると、まおうはこちらを背にして、床に這い蹲るように身を屈めていた。


「なにやってるんだ?」


 するとまおうは振り返り、まるで「み~た~な~」という様に笑った。

 初めてまおうと会った者だったら、慌てて逃げ出すだろうが、俺はすでに慣れているし、それにもましてまおうの内面を知っている。

 平然と問いかけた。


「何か隠してるのか?」


 するとまおうは身をくねらした。


「えー。どうしようかなー」


「良いから見せろ」

 まおうがこう言う時は、本当は見せたがっているのは、もう分かっている。


 まおうは「しょうがないなー」と言いながらも、嬉しそうにそれを見せてくれた。


「ネズミか……」


「ネズミって言うんだ? 可愛いねー」


 動きの速いネズミでも、まおうに掛かれば捕まえるのはわけない。

 まおうは、ネズミを手の上で遊ばせながら、子供に泣かれた事など無かったかの様に笑っている。

 慰める必要は無かったか?


「この家に居る間は良いけど、村を出る時は逃がすんだぞ」


「えーー!」


「ダメだ! ダメだ!」


 まおうの言うとおりにしていては、旅がすぐに移動動物園の様になってしまう。

 ここは釘を刺しておくべきだろう。


 とりあえず、メシにして、旅の疲れもあるので今日はもう寝る事にした。

 まおうが捕まえたネズミは、ちょうど水槽があったのでそこに入れて、木の板で蓋をしておいた。


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