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魔王使い  作者: 六三
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第29話

 これは……。さすがにちょっと考えが甘かったか?

 それが谷を塞いでいるという大岩のところ案内され、それを見た感想だった。


 その大岩は直径10メートルはあろうかと言う巨大な物で、いくらまおうでもそう簡単には砕けそうに無かったのだ。


「どうです? どうにかなりそうですか?」


 大岩と対面し内心途方に暮れていた俺に、魔王から微かに期待を含んだ声がかけられた。確かに自信ありげに連れてきてもらったし期待されるのも当然か。こうなったらとにかく後には引けない。取り合えずやるだけやってみよう。


「まおうあの岩に火炎をぶつけてみてくれないか?」


「うん。分かった!」

 と、まおうは、俺の言葉に素直に頷いてくれ、手から火炎を打ち出し大岩に立て続けにぶつけた。魔王の手から放たれた火の玉は次々に大岩へとぶつかり、ぶつかった瞬間、バンッという音をたて四散しる。だがそれは硬い岩肌を焼け爛れさせたものの、岩が砕けたかというと表情を僅かに削っただけだった。


 駄目か……。


 俺は失敗だと落胆したが、しかし意外にも粘液状の身体を持つ魔王は、その身体をブルブルと震わせ感嘆の声を上げたのだ。


「なるほど。炎で岩の表面を焼く事で脆くさせるという事ですね。この場所に子供達が崖の上に運んだ岩を落とせば、効率よく大岩を砕く事が出来そうです」


「そっそうなんですよ!」


 そうだったのか。熱を加えると岩が脆くなるとは知らなかった。しかしこの魔王は良くそんな事を知っていたな。そういえば、土地が肥えている事は私には分かるとか言っていたし、もしかしたら土や岩の状態を感知する能力を持っているのかも。


 だがそうと分かればこっちのものだ。


「よし! じゃあ、焼いた場所に崖の上から落とす岩をぶつけ易い様に、俺達も崖の上に行ってそこから大岩に向けて炎で焼こう」


「うん。分かった!」


「じゃあ、まおう肩車して!」


 おい。サフィス……。さっきちょっと役になったかと思ったらそれか。まあ当のまおうが喜んで肩車してやってるんだから俺が文句を言っても仕方ないんだが。


 だがすると魔王と一緒についてきた数人の村の子供達が、指を咥えまさに絵に描いた様な羨ましげな表情で、まおうに肩車されているサフィスを見上げた。


「どうした? お前も肩車して欲しいのか?」


 俺が子供達に声をかけると、子供達はびっくりした表情となり首を振った。だが多分村に住む自分と同じ子供か魔王としか喋った事が無くて、人見知りしているだけだろう。


 俺はまおうに肩車されているサフィスを見上げ、声をかけた。


「おーい。サフィス降りろ!」


「えー。どうしてよ?」


 サフィスはまおうの肩の上で口を尖らせ、不満そうに声を上げた。


「変わりに子供達を肩車させてやるんだよ」


 子供達と言われてはサフィスも文句は言えず、渋々といった感じでまおうから降り、まおうは子供を1人ずつ背負ってやった。


「落ちない様にちゃんと捕まって気をつけてね」


 まおうが肩に乗る子供の足を手で押さえてやりながらそう言うと、子供達は「うん」と素直に頷いて、まおうの大きな頭にしがみ付いた。さすがあの魔王と物心付いた時から暮らしているだけあって、外見で怖がったりとかはなさそうだ。まおうと仲良くしてくれたら、まおうも喜ぶだろう。


 崖の上に着くと、子供達が運んできたらしい俺の身長くらいありそうな大きな岩が、何個か置いてあった。結構でかい岩を頑張って運んだんだな。いくら子供でも数十人も居れば頑張ればこれくらいの事は出来るという事か。たいしたもんだ。


「まおう。じゃあこっから頼む」


 崖から大岩を見下ろしながらまおうに言うと、まおうは大岩目掛け火炎を連射する。またもや火炎は音をたて大岩にぶつかり大岩を焼く。そして十分大岩を焼いた後、子供達が崖の上まで運んであった岩をみんなで押して、その焼いた場所目掛けて落とした。


 ゴガァンッ!!


 岩はうまく大岩の焼いた部分に直撃し砕けたが、俺には大岩の方は僅かばかりしか割れていない様に見えた。労力に対してあまりにも成果が少なすぎる。だが魔王と子供達は歓喜の声を上げる。


「おお。一度落としただけでこれほど割れるとは!」

「いつもの倍以上割れてるよね!」


 おいおい。これでいつもよりずっと割れているって? どれだけ地道な作業をしてたんだよ。こんなペースじゃ1年以上はかかるぞ。しかし、まあ当事者達が喜んでいるのに水をさす事もないか。


「これを次々と繰り返せば良いんですか?」


「いえ。下に割れた岩の破片があっては次に落とす岩の邪魔になります。一度破片を取り除かないと」


「なるほど……」


 とはいうものの、地道過ぎるぞ。岩を落として下を片付けてまた落としてってやってるのか。うーん。だが郷に入っては郷に従えだ。


「じゃあ、下に降りて岩の破片を取り除くか」

 と俺達はまた崖の下へと向かう。


 こうしてあまりの面倒くささに、心が萎えそうになりながらも、俺達はまた崖の下へと降り、俺は岩の破片を取り除くべくそれを手に取った。だがそのとたん、

「うわっちぃ!」

 と取り落としてしまったのだ。


「ちょっ。むちゃくちゃ熱いぞ」


「そりゃそうだよ。炎で焼いたんだもん」

「まったくおっちょこちょいね」


 まおうとサフィスが呆れた様子で俺に視線を向けてくる。くそ! あまりの面倒くささに思考が停止していたぜ。


「サフィス。魔法で岩と破片を冷やしてくれ」


 俺が大岩を指差しながらそう言うと、サフィスは、

「はーい」

 と返事をし杖を大岩に向けて魔法を放つ。


「ブリザード《吹雪》!!」


 サフィスの魔法で焼けていた大岩とその破片はたちまち冷えていく。よしよし、これで触れるぞ。と思っていると、またも魔王がブルブルと身体を震わせ感嘆の声を上げる。


「おお。さらに岩が脆くなりました。これならばもっと大きく削れそうです」


「え? そうなんですか?」


「はい。間違いなくさっきよりもさらに崩れやすくなっているはずです」


 そうか……。熱くしたり冷ましたりすると岩って崩れやすくなるんだ。知らなかったな。だが、そうと分かればこっちのものだ。


「よし! とっとと片付けよう。そして今度は、焼くのと冷やすのを何度か繰り返してから岩を落とすんだ」


「はーい」

「りょうかーーい」


 こうして俺達は急いで破片を片付け、また崖の上に登った。また登るのかと思うと足が重くなりそうだが、作業がはかどるかも知れないと思うと、みんなの足取りは軽かった。そして上につくと早速指示をだす。


「まおうが十分岩を焼いたら、今度はまたサフィスは魔法で冷やして、さらにそれを繰り返してくれ。多分繰り返す方が岩が崩れやすくなると思う」


「うん。分かった!」

「はーい」


 俺の言葉に素直に頷いた2人は、それぞれ手と杖を大岩に向け火炎と魔法を放つ。


「えい! えい! えい!」

「ブリザード! ブリザード! ブリザード!」


 まおうが連続で火炎を放ち、その後にサフィスが立て続けに魔法を放つ。


 俺と魔王と子供達はその間に崖から落とす岩の準備を行う。そしてまおうとサフィスの加熱と冷却が十分と思われたので、岩を落とす。


「いくぞー! せーのー!」


 掛け声と共に岩は大岩目掛けて落ち、そして……。

 グシャッ!!

 と音をたて、なんと落とした岩は砕けず大岩にめり込んでしまったのだ。どうやら大岩の10分の1は一気に砕けたか。


「やったー!!」

「すげー割れた!」


 子供達は歓声を上げたが、俺は思わず首を捻った。魔王に視線を向けると魔王も子供達の様には素直に喜んでいないみたいだ。やっぱり、めり込んでしまったのはあんまり良くないか?


「どうしましょう?」

 俺が魔王に問いかけると、魔王は少し考えている様でネチャリと首を捻りしばらくしてから口を開いた。



「岩が大岩にめり込んでしまっているのは良いとは言えませんが、今、大岩がかなり脆くなっているのは確かですし、もう一つ同じところに落としてみましょう。それで大岩がさらに砕けて一緒に下に落ちるかも知れません。同じところに落とせば、岩が2つともめり込むなんて事も無いでしょう」


「分かりました」


 俺達はさらに岩を崖下に向けて落とすと、その岩はさっき落とした岩の真上に落ち、その衝撃で大岩がさらに砕ける。そして落とした岩はごろりと転がり落ち、始めに落とした岩も続けて転がり落ちた。


「よし!」


 今度こそは俺も素直に喜びの声をあげ、魔王を見ると、魔王もネチャネチャと頷いている。


 崖の上に準備している岩も尽きかけているし、下の岩の破片も片付けないといけないし、今日はここまでだが、この分だと1ヶ月もかからず破片を含めて大岩は綺麗に片付けられそうだ。


「いけそうですね」


「あなた方のおかげです。本当にありがとう御座います」


 俺が魔王に声をかけると魔王は丁寧にお辞儀した。しかしお辞儀とかっていう作法はこっちの来てから覚えたのか? それとも魔王の世界にもお辞儀があったのか? ふと疑問に思ったがまあどうでもいいか。


「これで大岩の方は時間の問題です。後は、川の水を引き込む事ですね」


「はい。ですがそれは難しくないはずです。元々川はこちらに流れていたのですから、少し水を呼び込めばすぐに流れは出来るでしょう」


「なるほど」


 この分だと、水を引いてここに畑を作るって言うのは上手くいきそうだな。だが魔王と子供達がここで暮らすにはまだ問題がある。この事については魔王や子供達はさすがに気付いていないっていうか、そもそも知らない事なんだろう。


 こうなったら乗りかかった船だ。俺が何とかするしかないな。そう思った俺は早速それに取り掛かる事にしたのだった。


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