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魔王使い  作者: 六三
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第2話

 俺と魔王は玉座へと上る階段に座り、魔王から事情を聞いていた。


 魔王が言うには、自分は元は違い世界に住んでいたと言うことだった。

 そして森を散歩しているといきなり深い霧が立ち込め、気が付くとこの村の近くの森に居たと言う。


 はじめはあまりの事に呆然としていたが、どの様な時でも異世界の住人でも腹はすく。

 幸いにも森なので、食べる物には事欠かないと、甘い香りに誘われ、これならば食べられそうと、近くの木に実っていた果物を一かじりしたところ、この世界の植物は体が受け付けなかったらしく、食べられたものじゃない。


 だが腹がすくのは止められない。


 なにか食べられる物は無いかと森を彷徨っていると、先ほどの果物とはまた別の、食欲をそそる匂いがしてきた。


 魔王は懸命にその匂いを頼りに、匂いのする方向へと進むと、果たしてそこには自分の背丈の半分よりちょっと大きいくらいの生き物が、火で何かを焼いているのに出くわしたのだ。


 その生き物はなにやら叫んでいるが何を叫んでいるのか全然意味が分からない。

 だが幸いにも魔法が使える魔王は、言語翻訳の魔法を自分に掛け、そしてその者に話しかけた。

 「これはなに?」


 だが、その者は行き成り魔王に剣で切りかかってきた。どうやら俺と同じ様な冒険者だったらしい。

 だがソードキルの様な名剣ではない、その冒険者の剣では魔王には刃が立たず、その剣はあえなくぽきりと折れてしまった。


 そして魔王は、捕まえたおびえる冒険者から色々な事を聞きだし、どうやら焼いた肉ならば食えそうだという事。さらに自分はこの世界ではかなり強いらしいと言う事が分かったのだ。


 そしてこの古城に住み着き、生きる為に仕方が無く村人に毎日調理した肉を持って来させていたと言う事だった。


「だが、それくらい自分で動物を捕まえて調理したらいいんじゃないか?」


「だって、生き物を殺すなんて出来ないよ。そりゃ……食べておいてって言うかもしれないけど、調理されたのを食べるのと、殺すのは違うよ!」


 そうですか……。


「ん? そう言えば、植物は食べられないんだよな? どうして野菜や牧草なんて持ってこさせてたんだ? そう言えば仲間を増やしているみたいな事も聞いたが」


 すると魔王はもじもじと体をくねらせた。

 ゴツゴツとした皮膚の3メートルを超える巨体でそんなポーズされてもはっきり言って気持ち悪いだけだった。


「えーとねー。どうしようかなー。教えようかなー」


 魔王は体をくねらせ続けるが、とても見るに堪えない。


「……良いからはやく言え」


「仕方ないなー」


 魔王はそう言いながらも、なにやら嬉しそうに謁見の間に隣接した部屋に向かった。

 実ははじめから見せたかったんじゃないのか?


 魔王の後ろに続いてその部屋へと向かい。魔王が扉の前で「開けてみて」と言うので、俺は扉を開けた。


 俺はその光景に我が目を疑った。

 そしてそのあまりの光景に、その場に膝を付いた。


 ……まさか。

 まさか、こんな所に……。動物ふれあい広場が有るとは。


 その部屋には大量のうさぎが飼われていたのだ。


「可愛いでしょ。森で見つけたんだ!」


 魔王はそう言うと跪く俺の脇を通り部屋に入ると、一匹のうさぎを抱きかかえた。

 他のうさぎ達も魔王に懐いているらしく、その足元をぐるぐると回っている。


 抱きかかえられたうさぎは、3メートルを超える魔王に頬ずりされながら、嬉しそうに目を細め、足元を回っていたうさぎ達も「僕も、僕も」とでも言うように、魔王の足に寄りかかっている。


 はははは……。

 あまりの光景に俺は乾いた笑い声を上げた。


 まぁ確かに可愛いか。

 魔王にとっては、一人ぼっちで寂しい心を癒す大事な家族なのだろう。


 俺は大量のうさぎの中で一際小さい、ふわふわそうな一匹を抱きかかえた。まだ生まれたばかりなのかもしれない。


 そのふわふわの毛の固まりは俺の手の中で大人しく丸まっている。

 もしかして知らない人に抱きかかえられて怖くて固まってるのか?


「この子に名前あるのか? なんて名前だ?」


「ギガバラン」


「……ギガ?」


「ギガバラン」


「そ……そうかー。お前はギガバランって言うのかー」


 俺は、手の中で大人しく丸まる子うさぎを撫でた。

 魔王の世界でのネーミングセンスは、きっとこっちの世界とは違うのだろう。


 どうやら森で見つけたうさぎを何匹か飼っていたら、この部屋の中でさらに繁殖して増えて行ったらしい。


 しかし無害そうな奴だし、俺ももうこいつを倒す気はないが、いつかはギルドの依頼を受けた別の冒険者に退治されてしまうかも知れないな……。


「さっきは村人とは関係ないと言ったが、実は村人に依頼されてお前を倒しに来たんだ。いつまでもここに住んでちゃ危ないぞ」


「え? やっぱり、村の人達怒ってるの?」


「そりゃまぁそうだろう」


「でも、はじめに会った人の感じでは僕を見たらみんな脅えるみたいだし、食べる物を貰うにもああするしか……」


 うーん。

 悪い奴じゃないし、どうやらこっちの世界とむこうの世界では、寿命とかもまた違うのかも知れないが、さっきからこいつの喋っている感じでは、もしかしてまだ子供じゃないのか?

 戦い方が単調だったのも子供な所為かもしれないな。

 いや、生き物を殺すのが嫌だとか言ってたから、もしかして手加減されてたか?

 もし本当にそうだったら、なんかムカつくので聞かないで置くが……。


 子供が異世界で一人ぼっちになって、しかも魔王だなんて呼ばれているのも可哀想だな……。

 まぁ村人に食料を持ってこさせているんだから、自業自得な面もあるが、それでも他のところの魔王と違って、特に害はなさそうなんだが……。


 ん? 他のところの魔王?


「もしかして、お前の仲間が他にも居るかも知れないぞ!」


「え? 本当!?」


「ああ。お前はずっとこの古城に居たから知らないかも知れないが、この世界にはお前みたいな魔王と呼ばれる奴がここ以外にも沢山居るんだ。そいつらがもしかしたらお前の仲間かも知れないぞ」


「本当!!」


「ああ。全員が全員とは言わないが、その内の何人かはそうかも知れない」


 俺がそう言うと、魔王は喜び、その喜びをうさぎ達と分かち合うように、次々とうさぎを抱きかかえた。


「よし。じゃあ出発するから準備しろ! 他の魔王に会いに行くぞ!」


 面倒だが乗りかかった船だ。それに俺はなにやらこいつを気に入ってしまった。

 仲間の元へ連れて行くぐらいしてやろうじゃないか。


「うん。分かった!」


 魔王は元気良くそう答えると出発の準備を始めた。

 だが準備を終えた魔王に俺はダメだしをした。


「いくらなんでもそれは無理だ」


「えー。だって置いてけないよ!」


 3メートルを超える魔王が、うさぎが大量に入ったカゴを手に立っている姿と言うのも中々シュールなものだ。


「森に放せないのか?」


「ダメだよ。一度飼われた動物は、野生では生きられないんだ!」


 ……そうですね。

 異世界に住んでたはずなのに、どうしてここら辺の感覚はこっちの同じなんだ?

 まあ、何か考えないと行けないか。


「よし。分かった森に放さず、ちゃんと飼って貰えれば良いんだな。とりあえず村まで行こう」


「うん!」


 こうして、俺と魔王は古城をでて村へと向かった。


「そういえば、お前名前はなんていうんだ? 俺はサイエスって言うんだ」


「僕はねー。ぴろろろろ~ぴろ~。だよ」


「ぴろ?」


「ぴろろろろ~ぴろ~。だって」


「……お前の名前は「まおう」な」


「えーー!」


 まおうは抗議の声を上げたが、俺は絶対、ぴろろ、なんて呼ばん。

 まったくこいつの世界のネーミングセンスはどうなっているんだ。


 俺とまおうが村に着くと、みなまおうの姿に目を見開いて驚いていた。

 そして慌てて逃げ出すが、しばらくすると戻ってきて恐る恐る、俺達の様を伺っている。


 先頭を進む俺の後ろに、まおうが大きなカゴを手に着いて来るのだ。どこから見ても、まおうが俺に付き従っている様に見えるのだろう。


「あの若い冒険者はどうやって、あんな恐ろしげな魔王を従えているのか」


 あちこちでそう言う疑問の声が聞こえてきたが、俺はその疑問に無視してギルドへと向かった。


「倒したわけじゃないけど、これでも良いですよね?」


 斡旋人のオヤジは俺の後ろに立つまおうを唖然として見上げた。

 ちなみに喋って居るのはギルドの建物の中ではなく、外だ。まおうが建物の扉を潜れなかったのだ。


「まぁ……。だが魔王を倒さず従えて来たなんて前例が無いからな……。俺にはどうにも」


 オヤジはそう言って俺の申し出に「うん」とは言わなかった。

 とはいうものの、明らかにオヤジはまおうにびびっている様だ。何とか喋れたのも職業意識のおかげだろう。中々立派なオヤジだ。


「じゃあ、どうすれば良いですか?」


「……依頼人に直接聞くしかないな」


「依頼人って、村の村長さんとかですか?」


「ああ。そうだ」


 だったら話ははやい。どうせ村長にはこの後会いに行くつもりだったのだ。


 俺はオヤジに「じゃあ、村長と話して来ます」と言い残し、まおうと共にその場を後にした。


 そして教えられた村長の家へと辿り着き村長を呼び出すと、村長は腰を抜かして驚いた。

 まぁそりゃあ、そうか。


「だっ誰が魔王をつれて来いって言ったか! それとも魔王に脅されて村から依頼されたと喋ったか! 村は関係ないと言えと契約書に書いてあったはずじゃろ!」


「いえいえ。勘違いなさらないで下さい。魔王を倒す事は出来ませんでしたが、ある秘術で魔王を従える事が出来たんです」


「本当か?」


「ええ。本当です」


 そして俺が後ろに立つまおうに「なあ?」と話しかけると、まおうはコクリと頷いた。

 ちなみにややこしい事になるから、まおうには喋るなと言ってある。


 このやり取りに村長もやっと俺の言う事を信じたようだ。


「それで、倒した訳では無いですが一応依頼達成と言う事で良いのか聞きに来たんです」


 村長は金を払うのが惜しくなったのかしばらく口ごもっていたが、俺が「だめならここに魔王を置いていきますね」と言うと慌てて「分かった。分かった」と頷いた。


 俺も満足げに頷いたが、足に何かが当たるのを感じた。

 どうやらまおうが、コツンと俺の足にうさぎが入ったカゴをぶつけたのだ。

 うさぎの事はどうなってるの? と言う事だろう。勿論俺もうさぎの事を忘れていた訳じゃない。

 俺はその話を村長に切り出した。


「それで、魔王を従える秘術についてなんですが、実はある生き物に魔王の力を封じ込めたのです」


「ある生き物?」


「はい。これがその生き物です」


 俺はそう言うと、まおうにうさぎの入ったカゴを村長の前に置かせた。


「……うさぎ?」


「そうです。うさぎです。この中の一匹に魔王の力を封じ込めたのですが、とっさの事でどのうさぎに封印したか分からなくなってしまいまして」


 村長はうさぎの入ったカゴを覗き込んでいたが、顔を上げて怪訝そうな表情になった。俺が何を言いたいのか分からないのだろう。


「つきましてはこのうさぎ達をこの村で飼って欲しいのです」


「どうして飼う必要があるんじゃ?」


「ですから、魔王の力を封じ込めているので、うさぎが死んでしまっては封印が解かれ魔王の力が復活してしまうのです。魔王の力が復活しては、僕が今、村から遠くに連れて行っても、魔王はまたこの村に戻ってきてしまうでしょう」


「それは責任をもって、あんたに飼って貰う事は出来んのか?」


「旅の冒険者に、こんな大量のうさぎを飼うのは無理でしょう」


「しかし……うさぎにも寿命はあろう」


「それは大丈夫です。子うさぎが出来ればちゃんとその子うさぎに封印は受け継がれますから」


「う……うむ」


 村長はやむなく頷き、こうしてうさぎ達は村で大事に飼われる事となった。


 なにせ、どのうさぎに封印されているか分からず、一匹たりとも死なせるわけにも行かず、子うさぎを産ませないわけにも行かず、生まれてきた子うさぎも全部大事に育てねば成らないのだ。

 その後うさぎはどんどん増えていき、そうしてこの村は、後に「うさぎ村」と呼ばれる事になるのだが、それはまた別の話だ。


 ギルドに戻った俺は、村長に承諾して貰ったと、魔王討伐の賞金を受取った。


 こうして旅の旅費を稼いで村を出た俺とまおうは、まおうの仲間を探す魔王巡りの旅に出たのだった。


 そして魔王を従えた(様にみえる)俺は、「魔王使い」と呼ばれる事になったのだ。


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