第24話
俺は今椅子に座り数枚の経歴書を机に並べながらどの娘を採用しようかと悩んでいた。
やっぱり今後何かと冒険を続けていくなら魔法使いを仲間に加えたほうが良いと考えたのだ。
しかも買い手市場であり、まさに選り取り見取りという状態だった。
こういう事になったのには事情がある。
次の魔王が居る村へと向かっていた俺とまおうだったが、その途中にあるバルトレという栄えた町に立ち寄った。
「大勢の人だね」
「そういえば、まおうはこんなに沢山の人が居るのを見た事ないんだったか?」
「うん!」
まあまおうは、この世界に来てすぐにアベル村の古城に住みだし、その後俺と村々を旅していただけだしな。
当たり前といえば当たり前か。
しかしこれも当たり前と言えば当たり前だが、俺達とすれ違う人々はまおうをジロジロと見て、中には慌てて逃げ出す人までいる。
実は町に入る時、町の門を守る兵士と一悶着合ったのだが、そこにギルドの人がやってきて俺がまおうを従えている冒険者なのだと兵士達に説明してくれたのだ。
ギルドには俺の経歴が通達されていて、当然この町のギルドにも連絡があったのだ。
ありがたい話だが、ギルドに登録し仕事をして報酬を貰う時に手数料を払っているのもこういう時の為だ。
町に入った俺は改めてギルドへと向かったのだが、まおうは目立つ目立つ。町の人々の注目を集める事になってしまったのだった。
ギルドに着くとそこは大きな町のギルドだけあって、多くの先客が居た。
だがその冒険者達はまおうの出現に驚いたばかりか、なんといきなりまおうに攻撃を仕掛けてきたのだ。
もっともその冒険者達の戦士が繰り出した剣はまおうの硬い皮膚に歯が立たずポッキリと折れてしまい、魔法使いが放ったライトアロー《光の矢》は、まおうの持ち前のスピードの前にあっさりと避けられてしまった。
そしてまおうがその高速をいかしてそいつらの後ろに回ると、突然目の前からまおうが消え、そして後ろに現れた事に驚き、そいつらは驚き飛び退いて尻餅を着くという醜態を晒した。
さらに、とても叶わないと思った奴らは、慌てて立ち上がると尻尾を巻いて逃げ出してしまったのだ。
「まおう手加減してやれよ」
「えー。してるよー」
俺とまおうは、逃げていく奴らの背を見送りながら笑っていたが、どうやら今の冒険者達はなんとここら辺ではかなり名の通った奴らだったらしい。
それをあっさりとあしらったまおうを従えている(様に見える)俺は一躍この町での最有力冒険者となったのだ。
そして、自分と組んでくれ! という冒険者達が殺到したのだ。
冒険者は当然強い奴と組みたがるがさらに名が売れている事も重要だ。
名が売れれば売れるほど仕事も取り易くなる。
そうなれば仕事を選べる様になって来て、得意な仕事ばかりを選んで受ける事も出来るようになり、当然得意な仕事ならばそつなくこなせる。
そしてそつなく仕事をこなして行けばさらに名も売れるって物で、これが流れに乗るというやつなのだが、そうなるまでが大変なのだ。
名が売れるまではどんな仕事でも受けないとやっていけないし、不得意な仕事で命を落とす奴や、一気に名声を得ようと手に負えない依頼を受けて命を落とす者もいる。
そしてこの町で名の知れた冒険者達を軽くあしらった俺とまおうは、一瞬で町中に力を示しさらにその冒険者達を上回る名を得た事になる。
勿論こんな事は滅多にあるもんじゃない。町中で冒険者同士の対決など認められておらず本来なら乱闘という事で役人に捕まりかねない。
今回は向こうがまおうの事を敵と勘違いし行き成り攻撃を仕掛けてきた事、こっちが相手を無傷であしらいそして襲われたと被害届を出さなかった事で特に乱闘に関しては不問になされたのだ。って言ってもどっちにしろ俺達に非はないのだが。
まあこの様にして名の売れた俺達と冒険者達が組みたがるのも無理はない。
というわけで魔法使いを仲間にした方が良いかも? と考えていた俺は渡りに船とギルドの一室を借りて面接会場とし、どの冒険者と組むかを検討しているのだ。
もっとも俺も、たまたままおうと出合ってさらに偶然美味しい仕事にありついてた御蔭で今のところ金はたんまり持っているが、そうでなかったら受けられる依頼はすべて受けて必死にこなしている段階なんだろうな……。
そういう意味では、本来だったら実は今応募してきている冒険者達より俺の方がよっぽど駆け出しも良いところか。まおうには感謝しないとな。
応募者は数十人に達し全員と面接する訳には行かず、俺は提出された経歴書を元にふるいにかけた。
経歴書にある経歴と職種、そして得意な攻撃方法などを参考に選別する。
今回俺が仲間にしたいのは魔法使いなので、それ以外の職種の奴はばっさりと外す。
そして魔法使いだけに絞った経歴書の束からまた得意魔法の欄を見て、どの程度のレベルかを判断し、腕が立ちそうな奴らだけに絞った。
依頼によっては冒険者同士で戦う事もある。
それを考えれば得意魔法を公開するのは危険な為、得意魔法欄を空白にする奴も多いが、そうなると当然採用され難くなる。
今回どうしても俺と組みたいという奴が多かったらしく、大抵の者が得意魔法欄を埋めてきた。
こうして俺は面接する人数をやっと数名にまで絞る事が出来たのだが、するとまおうが口を出してきた。
「でも、どうして女の人ばかりなの?」
「何を人聞きの悪い事を言ってるんだ。ちゃんと能力的に優れた人を選んでるだろ?」
まおうは男の魔法使い経歴書を俺の前に差し出した。
「でも、この人も同じくらいと思うよ」
「まおう。その人が優れているというならともかく、どうして同じくらいなのに男を選ばなくちゃいけないんだ?」
「そういうものなの?」
「そういうもんだ。何せ長い間旅をするんだからな。一緒に居て楽しい人の方が良いだろ?」
「うん。でも僕は男の人でも女の人でも、優しい人ならどっちでも良いよ」
「俺は女の人の方が楽しいんだよ。それに経歴書じゃ性格まで分からないだろ? 性格が分からないなら他のところで選ぶしかないじゃないか」
「うーん」
まおうは納得しかねる様子だが、まあここらへんは考え方の違いだ。
それにまおうだって男の人でも構わないって言ってるんであって、女の人が嫌と言っている訳じゃないんだから、まあ良いだろう。
こうして、俺は経歴書から選んだ数人の女魔法使いを面接する事になったのだ。