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魔王使い  作者: 六三
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第21話

 朝、目が覚めるといまだに雨は降っていた。

 まったくいつまで続くんだ?

 さすがに多少雨足は弱まっているが、それでも屋敷を出て先に進むのは無理だろう。


 食堂へ向かうと、果たしてクレア夫人達が食事を取っている。

 夫人は俺と目があうと一瞬目を逸らした後、また視線を俺に戻して軽く会釈した。

 俺も会釈をし返す。


 ベイツ氏についた使用人達は冷ややかな視線を夫人とマティアス氏、そしてエレーナ嬢に投げかけていた。

 一旦は断っておきながら、よく食べに来れるものだ。っと言ったところだろう。


 食事の後俺は部屋へと向かったが、まおうは屋根裏部屋でエレーナ嬢と遊ぶらしいので部屋の前で分かれた。


 しかしやる事も無いので部屋に居ても暇すぎる。

 何をして遊んでいるのかな? と俺も屋根裏部屋へと顔を出す事にした。


 屋根裏部屋へと上る階段から部屋の中を覗くと、エレーナ嬢がまおうになにやら紙切れを見せている。


「何をやってるんだ?」

 と聞いてみると、エレーナ嬢のお父さんのオドレイ氏との手紙らしい。

 オドレイ氏と夫人とマティアス氏とは仲が悪かったらしいが、エレーナ嬢とは手紙のやり取りをしていたのだ。


 もっともその手紙とくれば宛名こそ「我が娘エレーナへ」とあるが、内容は夫人と息子への不満ばかり、とても心温まるとは言いがたい。

 それに対しエレーナ嬢はなだめる内容の手紙をオドレイ氏に送り、必死に家族の仲を取り持つ様にがんばっていたという。


 オドレイ氏もそんなエレーナ嬢だけは可愛かったらしく、それゆえ手紙のやり取りも続いていたんだろう。


 その後エレーナ嬢とまおうと俺とでしばらく遊んだが、やっぱり遊ぶことに対する体力は子供には敵わない。

 まだ遊ぶという二人を置いて、俺は屋根裏部屋を後にした。


 部屋へ戻る途中、偶然ベイツ氏と顔を合わせ、今回の事件について改めて話をした。


「オドレイ氏を殺害したところでやったのは夫人ではなく、マティアス氏でしょうね。それでも夫人も捕まるんですか?」


「おそらく向こうは全員で口裏を合わせてきます。そうなれば共犯という事になります。良くても犯人隠避です」


「なるほど。しかしどうして家族なのそんなに憎しみ合ってしまったんでしょうね」


「以前にもお話しましたが、旦那様は奥様の不義を疑い、2人のお子様についても自分の子供ではないと疑っておりました。その為ご家族に冷たい態度を取り、それがご家族にも伝わったのでしょう」


 ベイツ氏はそう言って大きくため息をついた。


「そうですか……」

 と俺もため息をつく。



 その後ベイツ氏と別れて部屋に着いた俺は、ベッドに身体を投げ出した。

 とは家、特にやる事も無い。


 俺は寝転がりながら今までの事を反芻し思い出していた。

 単に雨宿りの心算で立ち寄った屋敷でえらい事に巻き込まれたもんだ。

 屋敷の主人の殺人事件に巻き込まれるなんて。


 誰がオドレイ氏を殺したんだろう? やっぱり夫人かその息子のマティアス氏が怪しいか。

 エレーナ嬢は論外だし。


 そしてベイツ氏は動機が無い。

 まさかオドレイ氏すら忘れているほど昔に、ベイツ氏からの恨みを買っていた。とか、捨てられた愛人との間の実の息子で、自分達母子を捨てたオドレイ氏を恨んでいたんだ!

 なんていう都合の良い話でもないだろうし。


 やっぱり遺産相続を巡っての確執でマティアス氏がやったのかな……。

 マティアス氏は頭に血が上ると何をしでかすか分からないところがありそうだし、それにオドレイ氏は後ろから刺されていた。

 後ろから刺されるのは顔見知りの犯行って言うしな。


 オドレイ氏の遺言で全財産がベイツ氏にわたり、自分達は無一文で放り出されるとなると父親とはいえ憎くなるのかもしれない。

 普通の家庭ならともかく、財産のある大金持ちだからな……。


 もっともオドレイ氏は夫人との間の子供を自分の子供と考えていなかったらしいし、夫人と子供達を無一文で放り出すのに呵責は無かったんだろうけど。


 しかしそれでもエレーナ嬢は可哀想だな……。

 あんなに一生懸命家族の仲を取り持とうとしていたのに。


 だがふとある事に気付いた。


 俺はベッドから飛び起きると部屋を出て通りかかった使用人にオドレイ氏の書斎の場所を聞きだし、そこへと向かう。

 この手の屋敷に書斎はつき物だし、大農場を経営していたというオドレイ氏ならば必ず「あの手の本」が有る筈だ。


 書斎に着くと「あの手の本」を苦労して探し出した。


 その分厚い本を手にした俺は、ここからさらに目当ての内容を探し出す苦労を思いため息を付いた。

 しかしその心配は無用だった。


 あるページにオドレイ氏が付けたと思われる折り目があり、そこを開くと果たして俺が探している内容のページだったのだ。


 やっぱりオドレイ氏もこの事をちゃんと調べていたんだ……。


 その内容をよく読むと俺の疑問は氷解した。


 犯人もこの内容を知っていたなら十分殺人の動機になるはずだ。

 だがどうやってオドレイ氏を殺した?


 本を元通りに戻し書斎にある椅子に座った俺は、改めて今回の事を始めからたどり状況を整理する。


 便箋とペンを拝借し、時系列に状況を並べて考える。

 この作業は深夜まで続き、部屋に戻ると俺がオドレイ氏の書斎に居た事を知らないまおうが心配そうに待ち構えていた。


「サイエス! ご飯も食べずにこんなに遅くまで何やってたの!」


「すまん。ちょっとオドレイ氏の書斎で調べ物をしていたんだ」


「調べ物?」


「ああ。それより夫人やベイツ氏はもう寝たのか?」


「うん。寝たよ。もう何時だと思ってるの?」

 まおうは怒った様に言った。


「すまん。じゃあ、俺達も寝るか」


 こうして俺とまおうはベッドに横になったが、俺は明日の対決を思い、なかなか寝付けなかった。


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