表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王使い  作者: 六三
20/33

第19話

 俺達が目を覚ますと日はとっくに昇り昼前になっていた。

 とは言っても晴れ渡っている訳ではなく相変わらずの大雨なのだが。


 部屋の扉の隙間から屋敷の様子を伺うと使用人達も仕事どころではなく、あちこちで額を寄せ合う様に集まり小声で話し合っている。


 何を話しているかまでは聞こえないが、きっと今後の事だろう。朝起きてみると自分達の主人が亡くなっていたんだから当然か。


 そこの俺の腹が「ぐぅ~~」となった。


 朝飯も食べずに昼まで寝ていたしな……。


 だが屋敷の使用人に食べ物を用意して欲しいと頼める雰囲気でもないな。

 なにせ屋敷の主人が亡くなったんだから。


 とはいえ勝手に厨房へ行って食べ物を取って来る訳にも行かないだろう。


「ちょっとベイツさんの所へ行って来る」

 とまおうに言い置いて部屋を後にし、ベイツ氏の部屋へと向かう。


 するとその途中、

「黙れ! 私は騙されないぞ!」

 と怒鳴り声が聞こえた。


 その声がするほうへと向かうとさらに罵声が聞こえた。どうやらベイツ氏の様なのだが……。


 さらに近づくとベイツ氏が金髪の男を罵っていた。多分使用人の一人だろう。


「いったいどうしたんです?」


 俺も魔物を相手にする冒険者の端くれだ、罵声に臆せずベイツ氏に話しかけると、ベイツ氏は声を荒げるのを止めこちらを向く。

 そして有能な執事らしく一瞬のうちに態度を切り替え落ち着いた口調で俺に言った。


「これはサイエス様。おはよう御座います」


 そしてまた金髪へと顔を向け、

「いいからお前は奥様の所へでも行け」

 と冷たく言い放った。


 男は、しぶしぶといった感じで肩を落として立ち去る。


「あの人がどうしたんですか?」


「例の奥様と関係を持っているという男ですよ。にもかかわらずこちら側につきたいと言って来たんです。ですがこちらの様子を探る為でしょう」


「こちら側って?」


 俺に言葉にベイツ氏は苦笑した。


「ああ。サイエス様はご存じなかったのですね。実は今この屋敷の使用人達は私と奥様のどちらがこの屋敷の主人かという事で二派に分かれているんです」


「どちらが主人かですって?」


「ええ。本来旦那様が亡くなったのなら奥様が屋敷の主人という事になるのでしょうが、なにぶんこの屋敷で旦那様の全財産が私に譲られる事になっているのを知らない者はおりません。ならばこの屋敷の主人も私なのだろうと……」


「なるほど……」


 すると使用人達がこそこそと話し合っていたのも、どちらに着くかと相談していたのかな?


 しかしそうなると……。俺はベイツ氏に近づくと耳元で囁いた。


「オドレイ氏の遺言書がマティアスさんに燃やされてしまった事は皆さん知っているんですか?」

「いえ、それはまだ言っていません。ですが使用人のみんなにも旦那様が私に全財産を残すと言っていたと証言して貰う心算です」


 証言か……。

 しかし裁判になったとしたら遺言書という「物」が無いのは致命的と思うが……。

 俺の心配をよそにベイツ氏はあまり不安に思っていなさそうだ。

 遺言書が有ったけど不満に思った息子が燃やしてしまったんだ! という主張が認められるはずと考えているという事か。


 そこへまた「ぐぅ~~」と俺の腹が鳴り、ベイツ氏が笑みを浮かべた。


「昼食を用意させましょう。こちらについた使用人には料理人も居ますから」


「それは良いですね。しかし使用人達はどう分かれているんです?」


 するとベイツ氏は使用人達について説明してくれた。


 クレア夫人側の使用人は、一番古株のギャバン、エレーナ嬢お付のレティシア、そして金髪の庭師カルドナだ。

 ギャバンは夫人を慕っているというより、自分より後から来たベイツ氏がオドレイ氏に可愛がられていたのが気に入らないらしい。

 レティシアはエレーナ嬢と仲が良く。カルドナはさっき見た通りだ。


 ベイツ氏側の使用人は、ベイツ氏よりも前から屋敷に居たがギャバンと違い不貞腐れずベイツ氏の事を認めているカウフマンとフラド、侍女のロニヤとノーラにアトニエル、そしてなんとマティアス氏お付のオードランもこちら側という。


 そして俺とまおうも、現状ベイツ氏側という事なんだろう。しかし……


「マティアスさんのお付の人がどうしてこちら側なんですか?」


 ベイツ氏はため息を付いた。


「マティアス様はなにぶんあの様なお方なので……」


 遺言書を突然燃やしてしまう様な乱暴者では、お付の人とも上手く行ってなかったという事か……。


「しかしそれにしても夫人よりベイツさんにつく使用人の方が多いのは、こう言ってはなんですが意外ですね」


 俺は率直な疑問をベイツ氏にぶつけた。多少問題があっても旦那様の奥様に従うのが普通と思ったからだ。


「実は奥様達は最近では屋敷に住んでいなかったのです」


「そうなんですか?」


「ええ。旦那様と奥様が不仲になってまもなく、奥様はここから少し離れた別宅に移っていたのです」


 なるほど……。普段屋敷に居ない奥様より身近に居たベイツ氏の方に親しみを感じたというわけか。


 納得して頷く俺にベイツ氏は笑いかけた。


「そんな事より、早く食堂に行きましょうみんなそこで食べています。お客様であるサイエス様には申し訳ありませんが、この様な時ですので使用人用の食堂でみんな簡単な物を食べているのです」


「いえいえ。気遣って頂かなくても大丈夫です。僕の方こそこんな時にお世話になってしまって申し訳ありません」


「それではお互い様という事で」

 ベイツ氏はそう言って笑い、その後一旦まおうを呼びに行ってから3人で食堂に向かった。


 食堂は例の遠い厨房の横にあり、入り口もそう広くは無く巨体のまおうが入るのには苦労した。


 ベイツ氏についた使用人は集まっていたが、夫人についた使用人達が居ない。


「彼らはどうしたんです?」


「それが……。この様な時なので普段と同じ食事は用意できないと言うと奥様がご立腹なされまして、お子様達と自分についた使用人達を引き連れ自室へと戻ってしまったのです」


 自分の夫が亡くなったというのに何をやってるんだか。

 しかしこの様子だと、やっぱりオドレイ氏を殺害したのは夫人達という事なのか?


 談笑しながらっていう雰囲気でもないので俺とまおうは出された食事を黙々と食べた。


 正直雨さえ止めば屋敷を出て先を急ぎたかったが、雨はまだまだ止みそうに気配は無い。


 食事の後はやる事も無いので部屋に戻って横になる。

 完全なタダ飯食らいだが、実際この状況で俺が力になれる事などまったく無い。


 だがまおうは屋敷の中を探検すると言って部屋を出て行った。

 まぁまおうはまだ子供だから、じっとしているのもつまらないんだろう。


「迷惑を掛けるなよ」

 と部屋をでるまおうの背に声をかけ、まおうが部屋から姿を消すとまた横になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一言感想など
お気軽にコメント頂ければ嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ