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魔王使い  作者: 六三
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第17話

 重苦しい雰囲気の中食事を続けていたが、場の空気を換える様にベイツ氏が提案をした。

「旦那様。サイエス様は冒険者と言う事ですから、色々とお話を伺ってみてはどうでしょうか? 面白い話を聞かせて頂けるかも知れませんよ」


「おお。それは良い考えじゃが、お客人はどうですかな?」


「僕はもちろん構いません。僕の話で良ければ喜んで」


 大雨の中部屋を提供して晩餐までご馳走になったのだ。それくらいはなんでもない。


 こうして俺は晩餐の後一休みしたら俺とまおうとそしてベイツ氏との3人で、オドレイ氏の寝室を訪ねる事になった。


 晩餐の場で話すことにならなかったのは、高齢のオドレイ氏はもう横になった方が良いと、ベイツ氏が提案した為だ。

 確かにオドレイ氏は時折ごほごほと咳き込んでいるし、無理をしない方が良いだろう。


 晩餐が終わると使用人達はすぐに屋敷から出され離れに移動する。

 オドレイ氏は用心深く寝る時は屋敷に使用人を居させないらしい。裏口から使用人がすべて出た後は、ベイツ氏が中から鍵をかける。


 だが使用人達の朝は早い。となるとそれまでにまた裏口の鍵を開けて使用人を屋敷に入れなければならないベイツ氏は、さらに早く起きなくてはならない事になる。毎日大変な事だ。


 一旦オドレイ氏を部屋まで送ってから使用人を屋敷から出して鍵をかけるという事だったが、オドレイ氏は自室のある2階へと上る階段の前で、

「わしの事は良いからお客人を部屋へ案内しなさい」

 と言ってくれて、オドレイ氏は手すりにつかまりながらも一人で階段を上がっていった。


 ベイツ氏は俺達の先に立って部屋へと向かう。食事の前に通された部屋とは別の寝室を用意してくれているらしい。だがベイツ氏はその途中口を開いた。


「すみません。先に使用人達を屋敷から出しても良いでしょうか?」


 俺には勝手が分からないし、泊めてもらっている身だ

「いいですよ」と答えた。


 屋敷の裏口まで来るとベイツ氏がここで待っていて欲しいと言い、俺達を残して厨房へと姿を消した。

 晩餐の片付けで使用人達は厨房に集まっているらしい。


 まだ終わっていないやり残しの仕事は明日に回すとの事。

 仕事を翌日に残すなんて面倒だと思うが、自分が寝る時は使用人は屋敷に残さないというオドレイ氏の方針からすれば仕方がない。

 ここから厨房まではかなり離れているらしく、俺達は結構待たされたがしばらくするとベイツ氏が10人ほどの使用人を引き連れてやってきた。


「お待たせいたしました」


 ベイツ氏はそう言って使用人達を裏口から外にだし、そして上着のポケットを探ったのだが……。ベイツ氏は目を瞑り大きくため息を付いた。


「申し訳御座いません。どうやら裏口の鍵を忘れてしまいました」


 万事抜かりのなさそうなベイツ氏にしては意外なへまをするものだ。っと言っても会ったばかりなのだが。


「いえ。構いませんよ。それで鍵はどこにあるんですか?」


「それが……。厨房にありまして。急いで取ってきますのでサイエス様達はここで待っていて頂けますか?」


「ええ。勿論良いですよ」


「では、お願いします。すぐに戻ります」


 ベイツ氏はそう言うと厨房へ向かって走り出したのだが……。やっぱり厨房は遠いらしく俺達はしばらく待たされた。


「大変お待たせいたしました」


 帰ってきたベイツ氏は急いで裏口に鍵をかけ、その後俺達を来客用の寝室まで案内してくれた。


 俺達の寝室は、裏口から少し引き返して角を曲がったところにあった。


 ベイツ氏は俺達を部屋に案内すると、

「少しお話をしてよろしいでしょうか?」

 と切り出した。


 特に不都合は無いので俺も

「はい」

 と頷く。


「話とは御主人様と奥様の事なのです。以前はとても仲の良い御夫婦だったのですが、最近急に……サイエス様には御不快でしたでしょう。大変申し訳ございません」


「いえ、ベイツさんの所為と言う訳では……。しかしどうして急に御夫婦仲が悪くなったんです?」


 ベイツ氏は少し言いよどんだが、決心した様に口を開く。


「サイエス様は、使用人の中に金髪碧眼の男が居たのに気付きましたでしょうか?」


 うーん。そう言えば居たような……。


「そして旦那様と奥様は黒髪に黒い瞳です。ですがマティアス様とエレーナ様は……」


 なるほど……。オドレイ氏は、夫人とその使用人との密会を疑っているという訳か。それならばあれだけ仲が悪いのも頷ける。


 実際夫人が使用人と不倫をしているかは兎も角、オドレイ氏はそう信じているんだからな。


「でも、どうして僕にわざわざこんな話を?」


 かなりプライベートな話だ。まったくの赤の他人の冒険者に聞かせる話ではないと思うのだが。


「いえ。ですから旦那様と奥様との諍いで、サイエス様が御不快に感じたのかと思いまして、その理由を話させて頂いたのです」


「なるほど」


 俺が頷くと、ベイツ氏は安心したのか口元をほころばせた。そして思い出した様に言った。


「そう言えば旦那様の農園で採れる果実から作った飲み物があるのです。お持ちいたしましょう」


「そんな物があるんですか?」


「ええ。皆さんに喜んで頂いております。少しお待ち下さい。急いで持ってまいります」


 ベイツ氏はそう言い残して部屋を出た。


 だがベイツ氏はなかなか帰ってこない。

 そうか……飲み物を取りに行ったという事は、また厨房まで行っているのか。あの厨房遠いからな……。


 だがベイツ氏は思ったより意外と早く帰ってきた。走ってきたのか肩で息をしていてる。


「急いでくれたみたいで申し訳ありません」


「いえいえ、お客様を待たせる訳にはまいりませんから」


 ベイツ氏はそう言いながらグラスに入った透明な飲み物を差し出してくれた。

 果実の飲み物と言う事でオレンジやブドウの飲み物を思い浮かべていたので色が透明と言うのは少し意外だった。

 一口飲むと確かに美味しい。しかも氷が入っていてすごく冷えている。


「すごく美味しいですね。でも氷なんてどうやって用意したんです?」


 するとベイツ氏は得意げに破顔した。


「御主人様はお客様の為、人を使って高い山の頂にある万年氷を運ばせて屋敷の厨房に蓄えておいでなのです」


 なるほど。さすが大金持ちと言ったところか。


 俺とまおうはベイツ氏が持ってきてくれた飲み物で喉を湿らせた後、3人でオドレイ氏の部屋へと向かった。


 廊下を歩いた後屋敷の階段を上り、オドレイ氏の寝室の前まで進む。そしてベイツ氏が軽く扉を叩く。


「旦那様。サイエス様と魔王様をお連れいたしました」


 しかし寝室からは返事が無い。ベイツ氏がさっきより少し強く扉を叩いた。


「旦那様? いらっしゃいますか?」


 やはり返事は無かった。俺は小声でベイツ氏に話しかけた。


「もう寝てるんじゃないですか? 我々は引き返した方がいいんじゃ……」


 だがベイツ氏は首を振った。


「せっかくサイエス様と魔王様にお越し頂いたのに無駄足を踏ませたとあっては旦那様も申し訳なくお思いになるでしょう」


 うーん。まぁそういうものかな? だがオドレイ氏の事をよく知るベイツ氏がいう事だ。そうなんだろう。


 ベイツ氏は俺から特に反論が無いのを確かめると、扉をゆっくりと開けた。寝室は明かりが点いたままだ。オドレイ氏はやっぱり待ちくたびれて寝てしまったのか。


 ベイツ氏は音を立てない様に寝室に入り、そして叫び声をあげた。


「サッサイエス様! 旦那様が!」


 ベイツ氏の叫びに俺は急いで駆け寄る。そして息を飲んだ。


 そこには背中からナイフで一突きにされ、血を流し床に倒れるオドレイ氏の姿があった。


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